世話焼き助手とお司書さんの話
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帝國図書館第壱特務司書地味で物静かな元引きこもりの23歳
薬の調合が得意な錬金術師
お人好しで頑張り屋さん
瓶底のような眼鏡をかけている
おっぱいがとても大きい
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昼下がりのひととき
彼曰く、それは一目惚れであったらしい。
過去に一度死を迎えたはずの彼は、自身をアルケミストだという女の不思議な力によって、再びこの世に転生した。女は国定図書館専属の錬金術師。通称、特務司書であった。
司書と初めて出会い、彼女の名を聞いた瞬間、びりりと全身に激しい電流が走ったのだと、彼は仲間の文豪たちに熱く語っている。偶然にも髪型がお互い三つ編みでよく似ていることも「まるで仲良しの夫婦みたいでっしゃろ」と自慢気に話す。司書が文学をあまり知らない身であるにも関わらず、彼の本の題名に惹かれて、最初の招魂相手に選んだことを知れば「これはもう運命の出会いに違いない」とまで豪語した。更には、新たに転生された文豪には必ず「わしの可愛い嫁はんやから手ぇ出さんといてな!」と毎回余計な釘を刺す始末だ。そんな彼は彼女と出会った日からずっと、司書の後を飼い犬のように付きまとい、甲斐甲斐しく世話を焼いている。彼は自称、特務司書の専属助手であるらしい。
一方、謎のべた惚れをされている司書本人はと言うと、何故やたらと彼──織田作之助に好かれているのか、全く理解出来ずに、頭を抱えていた。私のような地味な女の何を気に入ったのか、こんな引きこもり喪女を好むなんて趣味がおかしい、早く目を覚ましてほしい、と控えめに非難している。彼に何故かやたらと好かれている現状に困惑してはいるようだが、実際のところ満更嫌でもない様子だ。でなければ、彼をずっと助手にしておく理由はないし、潜書する度に彼を第一会派の筆頭に選んだりはしないだろう。
これはそんな司書と文豪の、ある昼下がりの出来事である。
「おっしょはあん、頼まれてた資料持って来たでえ。他にもわしにお手伝い出来ることは……って、あれ」
たった数分、司書室を離れていた間に、その部屋の主は机に突っ伏して安らかな寝息を立てていた。常に掛けている瓶底みたいな眼鏡も外されて、机の端に転がっている。
彼女も疲れているのだ、仕方がない。錬金術師としての日課研究に加え、潜書で疲れた文豪たちの腹を満たす為に自ら食堂へ立ち、傷付いた彼らの補修までやってくれる。まだ若いのに、司書になって1週間程度の新人だと言うのに、彼女は本当によく頑張っている。少しぐらい居眠りをしても、許されて良い筈だ。
織田は眠る彼女を起こさぬように、持ち込んだ資料をそっと机に置き、そろり、彼女のすぐ隣へ忍び寄った。いつもは分厚いレンズの向こうに隠されている彼女の素顔を、近くでじっくり見てみたい。そんな恋する男の純粋な好奇心である。
──彼は驚き、息を呑んだ。
その整った目鼻、長い睫毛、ふっくらとして桜に色付いた唇、まさに美人と呼ぶに相応しい顔立ち。元々眼鏡をしていても、可愛い娘だと思っていたが。
「か、……っ」
つい、生前に深く愛した女の名を呼びかけそうになって、慌てて口を噤む。違う、何を考えている、彼女は別人だ、ただの他人の空似に違いない、しかし、それでも、どれだけ自身に違う違うと言い聞かせても、彼は不思議な縁を感じずには居られなかった。
「……咲枝はん」
しっかりと、初めて出会った日に教わった、彼女の名を呼ぶ。眠るその耳にちゃんと彼の声は聞こえたのか、口元がほんの少し緩んだように見えた。
「生まれ変わりとか、運命の再会とか、そういうもんをうっかり信じてみたくなるわ」
そんな小さな呟きをこぼしながら、彼は机に寄り掛かり、まるで自身に呆れるように、はあ、と溜息。彼女の寝顔を眺めながら、よしよしとその艶のある黒髪を撫でた。
「……なんて。わしはあんたという人を気に入ってるんやから、ここまで尽くしとるんよ、変に勘違いせんでな。どんな顔してても、気持ちが変わったりはしませんわ。浪速の男の一途さを舐めてもらっては困ります」
その言葉はどこか自分に強く言い聞かせるようでもあったが、でも、と織田は言葉を区切り。
「もっと好きにはなってしもうたけどなあ」
小声でけっけっけと笑った。
「やっぱり寝顔も可愛らしいわー」なんて、どうせ寝ている彼女に聞こえはしないのだからと、言いたい放題である。
(……どうしよう)
だから、まさか、彼女が彼に名を呼ばれた時には既にぼんやり起きていた、なんて全く気付いてなどいない。
驚いてそのまま狸寝入りをしてしまったのだが、どうしても自身の体がみるみる熱を、特に頬へ集まっていくのを感じる。バレるのは時間の問題だ。
(でも、ここで目を開けたら、彼に私の目を見られてしまう……それに、さっきの言葉は……?)
「しっかし、ほんま撫で心地のええ髪の毛やなー、ツヤツヤのサラサラやん」
(というか、いつまで頭撫でている気なんでしょう……!? うれしいですけど、しあわせですけど、どうしよう、どうしよう、どうしよう! わああ〜っ)
内心大混乱な司書の事など露知らず、織田は楽しげに独り言を続けながら、彼女の頭も撫で続けている。だが、その繊細な手付きは、混乱する彼女の心を少しずつ落ち着かせ、再びゆっくりと心地の良い眠りへ誘う。
しかし、優しい手は突然離れ、彼の気配も遠退くのを感じた。「また暫くしたら起こしに来ますんで」そんな声が聞こえる。
(あ……やだ、待って、いかないで。……ひとりぼっちに、しないで)
司書は寝惚けながらも咄嗟に手を伸ばしてしまい、その手は、立ち去ろうと背を向けた彼の上着の端を、きゅっと掴んだ。
「作、……さん」
「えっ、お司書はん、起きて……」
「……すぅ」
「……寝惚けてただけかい」
そしてそのまま、また完全に眠りの向こうへ落っこちてしまったようだ。
「なんや、もう、意外と寂しんぼな子やね。初めて会った時は、ひとりの方が楽、助手なんていらない〜、とか言っとった癖に」
軽く悪態をつきながらも、くつくつと喉を鳴らして笑う。織田は自身の服を掴む彼女の手を取ると、その華奢な手を握ったまま、もう片手でよしよし彼女の頭を撫でる作業を再開した。
「まったく、しゃあないなあ、おっしょはんだけ特別大サービスやで。あと10分もしたら起きや」
それまではどうかゆっくり、束の間の休息を。今度こそ、彼女を大切に愛するのだ──と、織田は心の奥底で密かに誓うのだった。
さて10分後、ようやく目覚めた司書はこの状況に再び驚き混乱して、彼女らしからぬ珍しい叫び声を上げる羽目となる。それはもう、図書館中に響く程だったとか。
当然そんなこと想像もしていない織田は「手ぇ疲れたわー」等と愚痴りながらも、とても幸福そうであった。
2016.11.06公開
2018.04.01加筆修正
初めて書いたおだししょでした。