つわものもとめて三千里
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「この辺りには私が作った狩猟小屋があちこちにある。安全のために寝床は毎日変えた方がいい」
一悶着終え、今日の寝床と食べ物を確保するために森の中を歩く一行。アシリパが安全のために、と寝床を変えることを提案し、全員それに従った。
「アシリパさんの狩猟の知識は誰に教わったんだ?」「父だ。わたしには男の兄弟がいなかったから父の狩に連れ回された。わたしも家で編み物をするより山の方が好きだ」「うんうん、活動的な女の子は僕も好きだ」
そうだったのか、とアシリパの知識量の豊富さも腑に落ちた。
ぐぅ~~~~~
「こんな状況でも腹は減るな」
ギュルルン
「生きてるんだから当たり前だ。小屋に着いたら食事の支度だ」
ぐ、ぐぅぅぅ
「……」「熊が怖い刀次は腹の音も情けねぇな」「ウルセェ」
軽く冗談を言い合いながら歩いていると、いつのまにか小屋に到着していた。小屋はクチャという名前で、短期間の滞在用にトドマツなどの植物を用いて作られており、大人が3~4人はいる広さであった。
「ほぉ~意外と大きいし広いんだな」
興味深そうに小屋の周りをくるくると歩いて観察する刀次をアシリパが呼び戻す。
「おーい、刀次。食事の支度をするぞ」「はぁいよ」
今晩の食事の食材は、仕掛けた罠にかかったリス三匹だった。
リスといえば可愛らしい見た目から愛玩動物を想像するのか、刀次はなんとなく複雑な気持ちになった。
「罠で取れたリスを食べよう」「丸焼きにするのか?」「いや、チタタプにする」
「「チタタプ?」」
聞きなれない調理法に、思わず聞き返してしまった。
それは杉元も同じ気持ちだったようで、二人の言葉が綺麗に重なった。
「…」「……」バツの悪そうな顔で顔を合わせる二人をよそに、アシリパはチタタプとはどういうものかを説明してくれた。
「刃物で叩いてひきにくにするアイヌの料理だ」
まず、皮を剥ぐ。リスの皮は切れ目を入れて引っ張れば服を脱がすように簡単に剥ける。内臓は内容物をしごき出して綺麗に洗い、胆のうは苦いのでとりのぞく。
可食部の少ないリスには最適な料理だと刀次は思った。食べたいと聞かれるとそうでもなかったが。
「脳みそも丸ごとチタタプにするけど、これだけでもうまい珍味だ。杉元、脳みそ食っていいぞ」「え?アシリパさんそれ生で食うのか?」「よかったな杉元」
刀次は杉元に同情するかのような、哀れむような目で見つめ、頑張れよ、と言うように肩に手を置いた。
アシリパは二人の態度が気に入らなかったのか、少し不機嫌そうになった。
「どう言う意味だ?二人とも。私たちの食べ方に文句でもあるのか?」「あ…いやそういうつもりじゃない、だって俺そういうの食べなれてないし」「俺も文句を言うようなつもりじゃなかった」
ここぞと言うように協力し合う二人にアシリパは呆れたように小さくため息をついた。
「じゃあ脳みそ食べろ」
二人の表情が悲しみに包まれた。
ジィッ…とアシリパさんが見つめる中、まずは杉元から、と脳みそを手に持たされる。
なんとも言えない表情で脳みそを口に運び、咀嚼した。
ペチャッペチャッ
どんな食感が想像のつかない音を立てて悲しさとも感じられる表情で完食した。
「うまいか?」「うん」
絞り出したような返事に聞こえたことは、なかったことにしよう。 と刀次は思った。
「刀次も特別に食べていいぞ」「お言葉に甘えて~」
自分なら耐えられるはずだと半ば自己暗示のように心の中で繰り返しながら表情に出さずに脳みそを手に取った。
「う、」形容しがたい触感に、思わず声が漏れた。
そのまま早く済ませてしまおうと一気に口に入れ、咀嚼した。
噛んだ瞬間に口の中に生臭さが広がり、思わずえづく。
「ぅ"ぇっ…、」「ぅ"ぇっ…????」「あっ、美味しいデェス……」
えづいた瞬間のアシリパの威圧感に冷や汗を垂らしながらも美味しいの言葉を絞り出した。
この晩、刀次は眠れなかったらしい。
「リスは小さいから骨抜きが面倒なので、丸ごと頭からチタタプにする。そうすることで食べづらい部分を余すことなくいただくことができる」「なるほどそういうことか」「食べ物への感謝と無駄のなさから生まれた料理か」
アシリパはチタタプはどういった食材に向いているだとか、なぜ丸ごとなのかといった理由の教えてくれた。
「疲れたから交代しろ杉元。チタタプは我々が刻むものという意味だ。交代しながら叩くから我々なんだ」「そうなのか、勉強になるな」
そういうとアシリパは杉元にタシロ(山刀)を手渡した。
どうやらこの料理を作るにあたって特別な決まりがあるらしく、チタタプと言いながら叩かなければならないらしい。
「チタタプチタタプ、チタタプチタタプ」「チタタプは新鮮な獲物しか使われない。生で食べるものだから」
トテトテ、と音を立てながら少しずつ肉が、骨が、内臓が挽肉状になっていく。
「おい、刀次交代しろ」「んぁいよ」
しばらく杉元が叩くと、次は刀次へとタシロが手渡された。
前二人がやっていたのを真似て、トテトテと肉を叩く。
「チタタプチタタプ、ちてたぷ………チタタプ」「プッ」「笑うな」
刀次は意外と抜けてるんだな、とアシリパににっこりされてしまった。
本来ならチタタプは生で食べるものらしいが、ありがたいことに今回は特別にとつみれ汁にしてくれるらしい。
「お上品なシサム(和人)の杉元と刀次が食べやすいように全部丸めてオハウ(出汁)に入れてやる。本当は食べきれない時にオハウにする」「肉のつみれ汁か、かたじけない」「わざわざ俺らの味覚に合わせてもらってありがたい限りだ」
アシリパがオハウに丸めたチタタプと、ブクサキナ(ニリンソウ)という山菜を入れる。この山菜は、肉の旨味を倍にすると言われているらしい。
立ち上るいい香りに思わずよだれが垂れそうになった。
「血も骨も全て使ってチタタプにしたから塩味も出汁も染み出してる」「うまそうだ」
こんな状態からなのか、本当なのかはわからないが香りだけでも今までで一番の逸品に感じられた。
「「いただきます」」
バグっ はふっ
煮詰められて出汁の染み込んだつみれ団子を頬張った。
熱々だったが、それすらも美味しく感じられた。
「ん…!!うまい…ッ!!」「……グスッ」「どうした?刀次。口に合わなかったか?」「まさか…!!最高にうまいよ…こんなにうまい飯はいつぶりに食っただろうかと感動しちまった…」「なんだそれ」
こうやって輪になり、顔を合わせて食事をすることなんてもうないだろうと思っていた刀次には、あまりにも美味しすぎる食事だった。恥ずかしさも忘れてほろほろと大粒の涙を流した。
「なーに泣いてんだよなさけねぇな」「うっせ…あ、アシリパさん、残りのチタタプはサスケに分けてやってもいいかな?」「もちろんだ」
ピュオーッ
一度小屋の外に出て、サスケを呼ぶために指笛を吹く。待ってましたと言うようにどこからともなく現れ、チタタプを頬張った。
「よしよし」
小屋に戻ると、なにやらアシリパがニコニコしながらヒンナとしきりに言っていた。
「ヒンナってどう言う意味だ?」「うまいってことらしいぜ」「ふぅ~ん………ヒンナ」
夜の静かな森の中に、ヒンナヒンナとこだました。
「夕方に川岸で見つけました。発見がもう少し遅れて入れば低体温症で死んでいたでしょう。この怪我でよく岸まで這い上がったものです」「何者かに襲われたのか?尾形上等兵は単独行動をしていたのか?」「わかりません…今はただかいふくをまつしか…」
一行は、これからさらに大きく危険な渦に飲まれていくことになる。
一悶着終え、今日の寝床と食べ物を確保するために森の中を歩く一行。アシリパが安全のために、と寝床を変えることを提案し、全員それに従った。
「アシリパさんの狩猟の知識は誰に教わったんだ?」「父だ。わたしには男の兄弟がいなかったから父の狩に連れ回された。わたしも家で編み物をするより山の方が好きだ」「うんうん、活動的な女の子は僕も好きだ」
そうだったのか、とアシリパの知識量の豊富さも腑に落ちた。
ぐぅ~~~~~
「こんな状況でも腹は減るな」
ギュルルン
「生きてるんだから当たり前だ。小屋に着いたら食事の支度だ」
ぐ、ぐぅぅぅ
「……」「熊が怖い刀次は腹の音も情けねぇな」「ウルセェ」
軽く冗談を言い合いながら歩いていると、いつのまにか小屋に到着していた。小屋はクチャという名前で、短期間の滞在用にトドマツなどの植物を用いて作られており、大人が3~4人はいる広さであった。
「ほぉ~意外と大きいし広いんだな」
興味深そうに小屋の周りをくるくると歩いて観察する刀次をアシリパが呼び戻す。
「おーい、刀次。食事の支度をするぞ」「はぁいよ」
今晩の食事の食材は、仕掛けた罠にかかったリス三匹だった。
リスといえば可愛らしい見た目から愛玩動物を想像するのか、刀次はなんとなく複雑な気持ちになった。
「罠で取れたリスを食べよう」「丸焼きにするのか?」「いや、チタタプにする」
「「チタタプ?」」
聞きなれない調理法に、思わず聞き返してしまった。
それは杉元も同じ気持ちだったようで、二人の言葉が綺麗に重なった。
「…」「……」バツの悪そうな顔で顔を合わせる二人をよそに、アシリパはチタタプとはどういうものかを説明してくれた。
「刃物で叩いてひきにくにするアイヌの料理だ」
まず、皮を剥ぐ。リスの皮は切れ目を入れて引っ張れば服を脱がすように簡単に剥ける。内臓は内容物をしごき出して綺麗に洗い、胆のうは苦いのでとりのぞく。
可食部の少ないリスには最適な料理だと刀次は思った。食べたいと聞かれるとそうでもなかったが。
「脳みそも丸ごとチタタプにするけど、これだけでもうまい珍味だ。杉元、脳みそ食っていいぞ」「え?アシリパさんそれ生で食うのか?」「よかったな杉元」
刀次は杉元に同情するかのような、哀れむような目で見つめ、頑張れよ、と言うように肩に手を置いた。
アシリパは二人の態度が気に入らなかったのか、少し不機嫌そうになった。
「どう言う意味だ?二人とも。私たちの食べ方に文句でもあるのか?」「あ…いやそういうつもりじゃない、だって俺そういうの食べなれてないし」「俺も文句を言うようなつもりじゃなかった」
ここぞと言うように協力し合う二人にアシリパは呆れたように小さくため息をついた。
「じゃあ脳みそ食べろ」
二人の表情が悲しみに包まれた。
ジィッ…とアシリパさんが見つめる中、まずは杉元から、と脳みそを手に持たされる。
なんとも言えない表情で脳みそを口に運び、咀嚼した。
ペチャッペチャッ
どんな食感が想像のつかない音を立てて悲しさとも感じられる表情で完食した。
「うまいか?」「うん」
絞り出したような返事に聞こえたことは、なかったことにしよう。 と刀次は思った。
「刀次も特別に食べていいぞ」「お言葉に甘えて~」
自分なら耐えられるはずだと半ば自己暗示のように心の中で繰り返しながら表情に出さずに脳みそを手に取った。
「う、」形容しがたい触感に、思わず声が漏れた。
そのまま早く済ませてしまおうと一気に口に入れ、咀嚼した。
噛んだ瞬間に口の中に生臭さが広がり、思わずえづく。
「ぅ"ぇっ…、」「ぅ"ぇっ…????」「あっ、美味しいデェス……」
えづいた瞬間のアシリパの威圧感に冷や汗を垂らしながらも美味しいの言葉を絞り出した。
この晩、刀次は眠れなかったらしい。
「リスは小さいから骨抜きが面倒なので、丸ごと頭からチタタプにする。そうすることで食べづらい部分を余すことなくいただくことができる」「なるほどそういうことか」「食べ物への感謝と無駄のなさから生まれた料理か」
アシリパはチタタプはどういった食材に向いているだとか、なぜ丸ごとなのかといった理由の教えてくれた。
「疲れたから交代しろ杉元。チタタプは我々が刻むものという意味だ。交代しながら叩くから我々なんだ」「そうなのか、勉強になるな」
そういうとアシリパは杉元にタシロ(山刀)を手渡した。
どうやらこの料理を作るにあたって特別な決まりがあるらしく、チタタプと言いながら叩かなければならないらしい。
「チタタプチタタプ、チタタプチタタプ」「チタタプは新鮮な獲物しか使われない。生で食べるものだから」
トテトテ、と音を立てながら少しずつ肉が、骨が、内臓が挽肉状になっていく。
「おい、刀次交代しろ」「んぁいよ」
しばらく杉元が叩くと、次は刀次へとタシロが手渡された。
前二人がやっていたのを真似て、トテトテと肉を叩く。
「チタタプチタタプ、ちてたぷ………チタタプ」「プッ」「笑うな」
刀次は意外と抜けてるんだな、とアシリパににっこりされてしまった。
本来ならチタタプは生で食べるものらしいが、ありがたいことに今回は特別にとつみれ汁にしてくれるらしい。
「お上品なシサム(和人)の杉元と刀次が食べやすいように全部丸めてオハウ(出汁)に入れてやる。本当は食べきれない時にオハウにする」「肉のつみれ汁か、かたじけない」「わざわざ俺らの味覚に合わせてもらってありがたい限りだ」
アシリパがオハウに丸めたチタタプと、ブクサキナ(ニリンソウ)という山菜を入れる。この山菜は、肉の旨味を倍にすると言われているらしい。
立ち上るいい香りに思わずよだれが垂れそうになった。
「血も骨も全て使ってチタタプにしたから塩味も出汁も染み出してる」「うまそうだ」
こんな状態からなのか、本当なのかはわからないが香りだけでも今までで一番の逸品に感じられた。
「「いただきます」」
バグっ はふっ
煮詰められて出汁の染み込んだつみれ団子を頬張った。
熱々だったが、それすらも美味しく感じられた。
「ん…!!うまい…ッ!!」「……グスッ」「どうした?刀次。口に合わなかったか?」「まさか…!!最高にうまいよ…こんなにうまい飯はいつぶりに食っただろうかと感動しちまった…」「なんだそれ」
こうやって輪になり、顔を合わせて食事をすることなんてもうないだろうと思っていた刀次には、あまりにも美味しすぎる食事だった。恥ずかしさも忘れてほろほろと大粒の涙を流した。
「なーに泣いてんだよなさけねぇな」「うっせ…あ、アシリパさん、残りのチタタプはサスケに分けてやってもいいかな?」「もちろんだ」
ピュオーッ
一度小屋の外に出て、サスケを呼ぶために指笛を吹く。待ってましたと言うようにどこからともなく現れ、チタタプを頬張った。
「よしよし」
小屋に戻ると、なにやらアシリパがニコニコしながらヒンナとしきりに言っていた。
「ヒンナってどう言う意味だ?」「うまいってことらしいぜ」「ふぅ~ん………ヒンナ」
夜の静かな森の中に、ヒンナヒンナとこだました。
「夕方に川岸で見つけました。発見がもう少し遅れて入れば低体温症で死んでいたでしょう。この怪我でよく岸まで這い上がったものです」「何者かに襲われたのか?尾形上等兵は単独行動をしていたのか?」「わかりません…今はただかいふくをまつしか…」
一行は、これからさらに大きく危険な渦に飲まれていくことになる。