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鬼舞辻無惨とコジコジのクロスオーバー

咳き込む音と共に目が覚める。毎晩そうだ。無駄に広い屋敷からは人の寝息すら聞こえない。病に伏せる自分に愛想を尽かして、みんな出ていってしまったのだろうか。額から吹き出す汗が拭き取られていない事に気付き、どうしようもない気持ちに襲われる。溜息をつき、まだ立てる事を確認して、汗を拭う布を探しに行く。ついでに、各部屋を回り、人が居るか探した。

母上の部屋、誰も居ない。
使用人の姉妹の部屋、誰も居ない。
乳母の部屋、誰も居ない。
居ない、居ない、居ない

本当に誰もいなくなってしまったようだ。
その事実に涙さえ零れなかった。


***


布巾を見つけて部屋に戻ると、手毬を転がす音が自分の部屋から聞こえた。おかしい。各部屋を回って人が居ないことを確認したのに。くすくすと笑う声も聞こえる。
簾越しに様子を見る。童が遊んでいるように見えた。おかしい。この家に童が来たことなんて1度も無いのに。迷い込んでしまったのだろうか。簾をめくろうか迷っていたら、向こうがこちらの様子に気付いた。
「君はだあれ?」
健康な童の、憎たらしく明るい声。病の事などこれっぽっちも分からない程に。黙ったまま簾をめくる。
童にしては何ともひょうきんな童であった。猫のようなしっぽ、赤くて丸い耳、見た事の無い服と丸い顔、顔に対して小さ過ぎる手足、そして何より、そいつは宙に浮いていた。
「……貴様こそ誰だ。ここは私の家だ。」
「じゃあこれを言わなきゃね。お邪魔します。」
ひょうきんな童はぺこりとお辞儀をした。
「用が済んだらさっさと帰れ。私は眠い…ゲホッゴホッ」
咳き込んでその場で膝をついてしまった。もう立てないだろう。這って布団まで辿り着くと身体の力を抜いた。
「風邪をひいているの?」
童は質問してきた。見て分からないのか?
「……生まれた時から患っている病だ。近くに寄ると移るぞ。さっさと出てけ。」
「そうなんだね、移るんだね。でも移ることを教えてくれるなんて、君は優しいね。」
妙な事を言う童だ。自分の発言に優しい所などひとつもなかったように思える。
「わかったなら出ていってくれないか?」
「うん、そうするよ。でも困ったなあ、帰り方が分からないや。」
この宙に浮く童は迷子の様だ。問うてみればどこから来たのかも忘れてしまったと言った。みなしごを追い出す程、自分の心は鬼ではない。
「……なるほど、わかった。なら私が寝るまでここに居ろ。名は何という?」
「コジコジだよ。君は?」
「鬼舞辻無惨だ。」
今宵は嫌味な程に美しい名月であった。
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