更新、コメ返、補足はここ

ラクガキ 〜病棟編〜

2024/10/13 21:36
 外来が終わったらしい。先生がデスクトップに向かう後ろ姿を見つけて、千鶴は声をかける。


「斎藤先生。田中さん、お腹と腕に皮疹が出てて痒みも強くて…」

「ビラノアと軟膏を出しておく、今日は上がり次第内服してくれ」

「分かりました」


 それは淡々とした答えで、こちらを見もしなかったし、斎藤先生はすぐに席を立ってしまった。
 けれど、特に嫌な気はしなかった。



  追いかけて行けば、必ず患者さんのところにいるから



 ナースステーションでパソコンを充電に差してから、件の患者がいる部屋へと早足で向かう。


「眼も見せて下さい」


 相変わらず動きが速い。彼はもう手袋を履いて、患者さんと話をしていた。きっと身体の皮疹は見た後だ。
 斎藤先生は私をチラリとも見ずに、患者さんに話しかけつづける。


「熱はありますか?」

「どうだったかな…」

「先生、6度7分です」


 こういう時、言った方が良いのかには迷う。カルテにはもう書いているから、患者さんと話をしたかっただけかもしれない。


「薬を一旦止めます。皮疹がなくなったら、また少しずつ再開します」

「え、先生、私はいつ帰れるんですか…?」

「2、3ヶ月と思って下さい」

「3ヶ月…」


 驚き呆然とした患者さん。昨日一昨日も同じ会話で同じ反応をしていたのだけれど、と思って苦笑いをする。

 先生が会釈をして退室するのに付いていく。


「全剤止めますか?」

「止める。指示を出しておく」

「分かりました」


 それからは途中になっていた患者のケアに戻る。






ーーーこれは結核病棟で勤務して、3年目の夏のことーーー





 午後14時。今日は平和だった。このまま何も起こらなければ、カルテ記録も定時には間に合う。


「雪村さん、緊急入院とれる? 外来から直接だから、もう下にいるんだけど」

「うっ…了解です」


 リーダー看護師からそう言われて断れるはずがない。たぶん、私が一番手隙きなのだ。


「大丈夫?」

「大丈夫です……でも、フリーの菊月さんに清拭頼めますか?」

「分かった、お願いしておくね」


 ホッと息を吐く。定時に帰るのは無理でも、時間内にケアは終わる。


「部屋どこですか?」

「自立だから1号室3ベット」

「番号分かりますか?」

「1868719、沖田総司、28歳、男」

「若いですね」

「若いね。ラッキーじゃん」

「ですね」


 リーダーとともに笑う。
 それは『要介助』じゃなく『退院先』の調整が不要で、看護業務が楽だから『ラッキー』なのは、ナースステーションでの暗黙の了解だ。


ルルルルル…


 リーダー用の内線電話が鳴る。その応答を聞いて、外来からの迎え依頼だと理解した。断りを入れて、迎えに向かう。


「28歳かぁ…」


 廊下を歩きながらポロリと溢す。リーダーもああは言ったが、懸念事項はある。



  変な人じゃなかったらいいな…



 結核菌を”排菌しているから入院”になったのだろうと思いたい。
 日本人の若い人で、自立してて、”教育目的で入院”なんて事態は、大概ラッキーじゃない。


 外来につづく重たいドアを開ける。


「お迎えに来ました」


 椅子に座った一組の親子が振り返る。この場にいる年齢的に、あの人が入院患者さんで間違いないだろう。
 まずN95マスクをきちんと付けている時点で安心した。



  え…っと…


 
 けれど、若い人を見上げて驚く。驚かれたから、驚いたのだけれど。


「沖田総司さんですか?」

「…そ、うだよ」

「結核病棟看護師の雪村千鶴です。担当になりますので、よろしくお願いします」

「…よろしく」


 ものすこく歯切れの悪い人だし、敬語でもない。



  普通の人じゃなかった…


 
 内心とてもとても残念に思いながら、ニコリと笑いかける。


「ご案内しますね。そちらの方はご家族様ですか?」

「そんなところ」

「…?」


  今日だけたまたま付き添ってくれているのか、何か複雑な事情があって家族同然なのかで、対応が大違いなのだけれど…



 そう思って首を傾げる。伝われ、この困惑。

 すると、答えてくれたのは、家族の方で。


「家族じゃねえが、荷物を持ってきたり世話はする」

「…分かりました。では、こちらにどうぞ」


 ラフな格好をしている方を、患者さんと判断したのだけれど。よく見ると、スーツの方も30代と思しき若い人だった。この人も敬語じゃない。



  リーダー、面倒くさい方の患者さんでした…



 笑顔を貼り付けたまま、病院のご案内をする。


「荷物を置いたら、先に面談室の方で書類のご記入をお願いします」

「ねぇ、個室ないの?」

「…結核入院の特殊性から、有料の個室はありません。個室はありますが重症患者さん優先としています」

「ふうん」


  個室が1日いくらか知ってます?
  入院期間知ってます?
  お金はありますか?

 
 色々思うところはあるが、これもよくある慣れた問答だ。
 廊下に出て、次は病棟の説明をしながら面談室に向かう。


「こちらでしばらくお待ちください。書類を」
「総司!」

「斎藤先生? 先生が主治医ですか?」


 物々しい様子で部屋に飛び込んできた、斎藤先生。滅多にみることがない表情が見られて、こちらもかなり驚いた。


「って、先生!マスク!!マスク忘れてます!!」

「しまっ…!」


 どれだけ慌てたら、斎藤先生がそれを忘れるのか。首にかかったそれを急いで頭にかける。



  あれ? 今、総司って…



「わあ、はじめ君だ」

「わあじゃない! なんであんた…!」

「そりゃあ、結核だからだよねぇ」

「そうじゃなくて…!」

「久しぶりだな、斎藤」

「土方さん!?」

「主治医はお前って、山南さんって聞いてるからな。総司をよろしく頼む」

「―――!?!?」


 そのやりとりをキョトンと見る。

 とりあえず、斎藤先生と彼らが知り合いということは理解した。たぶん山南先生もそうなのだろう。


「えっと、とりあえず…書類書いてもらってもいいですか?」



  私は早く帰りたい




***

 SSL短編界隈にあこがれて。試しに書いてみたら、1時間で設定がかけたので。

 続かない。

コメント

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  • ydkevqitf (非ログイン)2024/12/01 14:07

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