更新、コメ返、補足はここ

[本編補足]第三章 第4話 p8.5

2024/09/24 00:39
※不要と思い没になった部分

 
(変若水の効果説明後)

 

「お陰様で、感覚がなかった所も少し動くようにはなりました。とはいえ、一年以上経ってしまいました。これ以上の腕の回復は望めますか?」

「……」

「気を遣う必要はありません。貴方にこの秘薬について説明したのは、その理由からなのですから」

「…この薬で治る可能性があるってことですよね。さっきの鼠の傷みたいに」

「そういうことです」

「でも、狂人になって戻らない可能性もある……そして、それが改良によって確率として減ってきてはいた」

「ええ。ですが、再びこの薬の改良は行き詰っています」

「…私の血を発見したときみたいに、偶然改良の余地が見つかるかもしれません。時期尚早では?」

「それは私も考えました。ですが、困った事に三年、五年…と、のんびりと構えていて良い時世ではなくなってきています。私は今すぐに戦場に出られる体がほしい」

「…いいんですよ、そのまま一緒に出れば。山南さんは頭で考えて、私たちを手足として使えばいいんですよ。偉い人ってそういうもんでしょう」
 
「それができる性分ならば、とっくに諦められているんでしょうけどね。卑しくも諦められずに……『リハビリ』で良くなる可能性も、この薬で治る可能性も、どちらにも賭けた結果、今日まで来てしまいました」


 今日まで、どちらの可能性も、諦めてはいなかったと


「…その一年抱えていたものを、なぜ今日…?」

「近々、屯所移転が決まるからですよ。今は伊東さんには変若水のことを黙っていますが、彼はこの研究室のことは訝しんでいます。移転後も設置されるとなれば、その内容を知ろうとするでしょう。
 ですが、『変若水』の不死という効果が知られるのは避けたい」

「…幕府の密命として、隠しておくことは不可能でしょうか」

「幹部として会議に出席する立場にある彼が、密命とはいえ、隠し事をされていることに納得するとは思えません。近藤さんも圧されたら答えてしまう可能性がある。
 あくまで勤王派である彼に、佐幕派の手の内を明かすことは、私は賢明だと思いません」

「それでも……山南さんが今飲んで、その状況が何か変わりますか?」

「…場合によっては、私が失敗してこそ価値がでます」



  失敗…



「山南さんが狂人になってこそ、って意味ですか?」

「ええ。元々、近藤さんも土方君も、あまりこの薬には乗り気ではありません。なので私が死ねば、恐らく破棄するという方針になるでしょう」



  自分が狂人となり死んだ方が、価値のある結果……破棄することになる…?



「…山南さんは、これを棄てたいんですか?」

「…私がよい例です。使えない代物に期待を寄せて、燻(くすぶ)って、決断すべき時を見失う……これが本当に使えない代物ならば、最初から無い方が良いと思っています」



 燻っていたことを……それを試す決断ができなかった時間を、彼は後悔していた。



「…っ、ずっと…」



  ずっと決断できなかったのは、私のせいだろうか



 治ると信じて、信じさせて、頑張らせつづけた。彼の不安そうな顔に気づかないふりをした。

 それを言うのは卑怯だ。私は彼が否定してくれるのを、確信してしまっているから。


 山南は淡く微笑んだ。


「もし失敗したときの介錯は、沖田君に頼んであります。彼にしか話していませんので、この薬に関して何かある時は、彼を頼りなさい」

「はい…」 
 

 山南さんは決して私の考え方を否定しなかった。それでも、自分には自分の考え方があると。
 そして、薬が成功しても失敗しても、価値のあることだと……そう言い含める彼は、表も裏もなく優しい人だった。

コメント

[ ログインして送信 ]

名前
コメント内容
削除用パスワード ※空欄可