姓は「矢代」で固定
第1話 誘われて
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***
弥月side
千鶴ちゃんと八木さんちの子どもらと、夏野菜が終わった壬生の畑をひっくり返して、大根や株の種を蒔いたり、さつま芋や茄子の収穫をしたりした。
その帰りに土方さんとたまたま合流して、一緒に帰ってきた。西本願寺から、境内で大砲を使用していることについて「勘弁してほしい」と願い出があったらしく、壬生寺の土地の使用を住職に相談してきたそうだ。
屯所が見えてくると、寺の鐘の音よりも大きな、ドーンという轟音が空気を震わせていた。それが塀の外からでもよく聞こえる。
「まあ、確かにうるさいんだよね」
「そうか? 慣れれば気にならねぇだろ」
「最近慣れては来ましたけれど、お昼間に寝る隊士さん達にとっては、大変かもしれませんね」
「そうなの。ありがとう、分かってくれて」
夜勤の昼寝を邪魔されるとまあまあ腹が立つ。
門を入ろうとすると、内側の塀沿いになにやら大きな人だかりができていた。今しがた使っていたはずの大砲の周りにさえ人が居ない。
「何だ?」
「おかえりなさいませ、副長」
同じように遠くから様子を見ていたらしい、斎藤さんが私たちに気付いて近づいてきた。
「あそこは何をしてる?」
「侵入者です。一名」
「暴れてるのか?」
「いえ、最初は逃げ回っていましたが、今は大人しく」
「みんな楽しそうなのはなんで?」
一名にしては人だかりは大きく、妙に「俺も見たい!」的な見物人が多い。
「それが、頭が緑色らしく…」
「はあ…?」
土方さんの素っ頓狂な声の横で、弥月はそれは薩摩藩邸にいるという鬼の子どもではないかと、天霧の話を思い出した。
「しかもどうやら、元々は風間も共にいたようで…」
「――ッ、風間は?!」
「申し訳御座いません。そちらの姿は確認したものの、取り逃がしてしまい…」
二人が話しながら人垣に近づいていくのを、千鶴ちゃんとその場で見守る。私は彼女の護衛係だ。
土方さんが赴くと、モーゼの海渡りのごとく開かれる人だかり。地面に押さえつけられた男の頭が、こちらにも遠目に見えた。
思ったよりも子どもという雰囲気ではなさそうだが、たしかに髪色が半分は黒で、半分は緑だった。
「うわぁ、マジで緑だ」
「あれは生まれつきなんでしょうか?」
「染めてるでしょ。あのセンスはウェイ系か、誠の陰キャかどっちかと見た」
「緑に染められるんですか?」
「まあ傷んでバサバサになるけどね」
千鶴ちゃんが不思議そうに自分の髪の毛をつまんで、「金も?」と独り言を言うから笑ってしまう。おそろいを想像するとか可愛いか。
そして、もう一度、捕縛人をちらりと見る。土方さんが何か問いかけているから、今から尋問か拷問が始まるはずだと、千鶴ちゃんを促して井戸へと向かう。
「馬鹿だねー。屯所に入ってこようとするなんて」
あの鬼は私に用なのかもしれないけれど。薩摩に肩入れしている人を、私がわざわざ助ける義理はない。
新選組ナメんな。出直して来い
「弥月…?」
…?
遠くからわずかに聞こえた声。居るはずのない、よく知ってる人に呼ばれた気がして振り返る。
土方さん含め、みんなが私を見ていた。
そして、地面に倒れたままの緑の男も、こちらを見ていた。
え?
「弥月! おい、弥月だよな?!」
「…」
…え?
持っていた荷物の全てをそこに投げだす。ダダダッと走って、地面に落ちているその頭を両手で掴む。
そん、な、こと…
男は満面の笑顔で、泣きそうな目で笑っていた。
「弥月だよな!マジか!! 弥月だ! なあ?!」
「―――っ!?!?」
繰り返し呼ばれる、私の名前。
「梓、月…?」
「だよな!」
彼は確信を得て、パアッと花が咲いたように笑った。
梓月
梓月だ
梓月の声がする
ここにいる
何度瞬きしても彼が消えることはなくて、手に触れる人の重さと温もりが、彼がここにいることを教えてくれる。
「梓月?」
「そうだよ!」
「ホントに?」
「どう見てもそうだろ!」
「夢…」
「夢じゃねえ! いや、もう夢だったらそれはそれで助かったんだけどさ!現実らしい!」
「現実…江戸時代に…」
「そうなんだよ!良かった! そんなまさかなって思ったんだけど!見に来て良かった!」
「なん…」
なんでいるの
色々聞きたいことがあるのに。彼が大声でアハハハハハッと笑いつづけるから、それにつられて口元が緩む。
そして急に込み上げる幸福感とともに、壊れるんじゃないかと思うほどに胸が苦しくなって。どうすることもできずに吐き出すしか方法がなかった。
「―――ッゔぅ…んん゛ぅ!!」
「うわっ!泣くな! 泣くなって!」
なんでいるの
ぎゅっとその頭を抱える。
なんだこの馬鹿。泣くなとか無理に決まってる。梓月だって泣いてるじゃん
なぜ捕まってるのかとか、どうやって来たのかとか、緑のセンスはどうなのとか、もうどうでも良くて。
会いたかった
生きて また会えた
会いたかった
「弥月、縄ほどけって!先に! なあ、聞けって!」
梓月の苦しんでいる抗議の言葉は届かず、弥月は兄を抱きしめて大声を上げて泣いた。
***
弥月side
千鶴ちゃんと八木さんちの子どもらと、夏野菜が終わった壬生の畑をひっくり返して、大根や株の種を蒔いたり、さつま芋や茄子の収穫をしたりした。
その帰りに土方さんとたまたま合流して、一緒に帰ってきた。西本願寺から、境内で大砲を使用していることについて「勘弁してほしい」と願い出があったらしく、壬生寺の土地の使用を住職に相談してきたそうだ。
屯所が見えてくると、寺の鐘の音よりも大きな、ドーンという轟音が空気を震わせていた。それが塀の外からでもよく聞こえる。
「まあ、確かにうるさいんだよね」
「そうか? 慣れれば気にならねぇだろ」
「最近慣れては来ましたけれど、お昼間に寝る隊士さん達にとっては、大変かもしれませんね」
「そうなの。ありがとう、分かってくれて」
夜勤の昼寝を邪魔されるとまあまあ腹が立つ。
門を入ろうとすると、内側の塀沿いになにやら大きな人だかりができていた。今しがた使っていたはずの大砲の周りにさえ人が居ない。
「何だ?」
「おかえりなさいませ、副長」
同じように遠くから様子を見ていたらしい、斎藤さんが私たちに気付いて近づいてきた。
「あそこは何をしてる?」
「侵入者です。一名」
「暴れてるのか?」
「いえ、最初は逃げ回っていましたが、今は大人しく」
「みんな楽しそうなのはなんで?」
一名にしては人だかりは大きく、妙に「俺も見たい!」的な見物人が多い。
「それが、頭が緑色らしく…」
「はあ…?」
土方さんの素っ頓狂な声の横で、弥月はそれは薩摩藩邸にいるという鬼の子どもではないかと、天霧の話を思い出した。
「しかもどうやら、元々は風間も共にいたようで…」
「――ッ、風間は?!」
「申し訳御座いません。そちらの姿は確認したものの、取り逃がしてしまい…」
二人が話しながら人垣に近づいていくのを、千鶴ちゃんとその場で見守る。私は彼女の護衛係だ。
土方さんが赴くと、モーゼの海渡りのごとく開かれる人だかり。地面に押さえつけられた男の頭が、こちらにも遠目に見えた。
思ったよりも子どもという雰囲気ではなさそうだが、たしかに髪色が半分は黒で、半分は緑だった。
「うわぁ、マジで緑だ」
「あれは生まれつきなんでしょうか?」
「染めてるでしょ。あのセンスはウェイ系か、誠の陰キャかどっちかと見た」
「緑に染められるんですか?」
「まあ傷んでバサバサになるけどね」
千鶴ちゃんが不思議そうに自分の髪の毛をつまんで、「金も?」と独り言を言うから笑ってしまう。おそろいを想像するとか可愛いか。
そして、もう一度、捕縛人をちらりと見る。土方さんが何か問いかけているから、今から尋問か拷問が始まるはずだと、千鶴ちゃんを促して井戸へと向かう。
「馬鹿だねー。屯所に入ってこようとするなんて」
あの鬼は私に用なのかもしれないけれど。薩摩に肩入れしている人を、私がわざわざ助ける義理はない。
新選組ナメんな。出直して来い
「弥月…?」
…?
遠くからわずかに聞こえた声。居るはずのない、よく知ってる人に呼ばれた気がして振り返る。
土方さん含め、みんなが私を見ていた。
そして、地面に倒れたままの緑の男も、こちらを見ていた。
え?
「弥月! おい、弥月だよな?!」
「…」
…え?
持っていた荷物の全てをそこに投げだす。ダダダッと走って、地面に落ちているその頭を両手で掴む。
そん、な、こと…
男は満面の笑顔で、泣きそうな目で笑っていた。
「弥月だよな!マジか!! 弥月だ! なあ?!」
「―――っ!?!?」
繰り返し呼ばれる、私の名前。
「梓、月…?」
「だよな!」
彼は確信を得て、パアッと花が咲いたように笑った。
梓月
梓月だ
梓月の声がする
ここにいる
何度瞬きしても彼が消えることはなくて、手に触れる人の重さと温もりが、彼がここにいることを教えてくれる。
「梓月?」
「そうだよ!」
「ホントに?」
「どう見てもそうだろ!」
「夢…」
「夢じゃねえ! いや、もう夢だったらそれはそれで助かったんだけどさ!現実らしい!」
「現実…江戸時代に…」
「そうなんだよ!良かった! そんなまさかなって思ったんだけど!見に来て良かった!」
「なん…」
なんでいるの
色々聞きたいことがあるのに。彼が大声でアハハハハハッと笑いつづけるから、それにつられて口元が緩む。
そして急に込み上げる幸福感とともに、壊れるんじゃないかと思うほどに胸が苦しくなって。どうすることもできずに吐き出すしか方法がなかった。
「―――ッゔぅ…んん゛ぅ!!」
「うわっ!泣くな! 泣くなって!」
なんでいるの
ぎゅっとその頭を抱える。
なんだこの馬鹿。泣くなとか無理に決まってる。梓月だって泣いてるじゃん
なぜ捕まってるのかとか、どうやって来たのかとか、緑のセンスはどうなのとか、もうどうでも良くて。
会いたかった
生きて また会えた
会いたかった
「弥月、縄ほどけって!先に! なあ、聞けって!」
梓月の苦しんでいる抗議の言葉は届かず、弥月は兄を抱きしめて大声を上げて泣いた。
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