姓は「矢代」で固定
第5話 よりどころ
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***
二日後。
「総司、矢代、起きてるか。飯ができた」
「あ゛ーい…」
引きつづき八条村の、真っ昼間の空き家にて。
勘兵衛に罪状をつけるなら『横領』ということにはなるのだけれど、酌量の余地がある。奈良奉行所にもその旨を伝えると、彼や加担していたエタ村の人々の処遇については、『村預かり』という方針となった。要は奉行様の判決待ちで村の拘置所に入っている。
それでも未だに斎藤含め新選組一行が大和国に滞在中なのは、すごく浅い理由があった。
「総司、起きろ」
「…」
「沖田さん、食べましょ」
「…要らない」
沖田は隣で起き上がった弥月に揺すられるが、迷惑そうに布団に潜り込んで姿を隠す。
「食べなきゃ駄目ですって。吐きそうとかじゃないんでしょ?」
「…喉痛い。食べれない」
「んでも、水は取らなきゃ駄目ですってば」
「きもちわるい」
「取ってつけて…もー…」
案の定、風邪をひいた。しかも二人して。
「矢代、熱は」
「分かんないです。たぶんある」
斎藤さんのおでこが当たりにくるため、先手を打って自分の手を額に当てる。当然、これで熱は分からないのだから測っている風だ。
だってさ。指摘したら逆に、変に意識したみたいで恥ずかしくない…?
この前、つい自分も沖田さんにしておいてなんだが、ココに斎藤さんの顔面が来るのは耐えきれない。小っ恥ずかしくて、どんな顔をしていいか分からない。
その斎藤さんが持ってきたお膳には、お粥と梅干しが乗っていた。風邪をひいていても普通に食べたい私としては物足りないが、文句を言うほど太々しくはない。
喉が痛い沖田さんの分は梅干しではなく昆布の佃煮が乗っている。優しい。
「では、お先にいただきます」
弥月が匙を持って食べ始めたところで、トントンとまた誰かが戸を叩いた。
「斎藤組長、ありましたよ」
「ああ、早かったな。助かる」
入ってきた一番組隊士が籠の中にある何かを斎藤に見せると、彼はそれを見て笑んだ。
「矢代はそのままでも良いか?」
「ん? これ…!」
コロンとお膳の上に転がったものに、弥月はパアァっと顔を輝かせる。橙色の小さな丸い実。
「金柑だ」
「めっちゃ好き!」
「喉に良いと言う。熟れていればそれほど酸味はないはずだ」
「やった! ありがとうございます!」
「総司の分は火を通そう」
彼が布団の俵に向けてそう言うと、沖田さんはゴソゴソと顔を見せて「ありがとう」と言う。反応を見るにかなり好物らしい。
自業自得の風邪っぴき。蜂蜜は高価だからあまり贅沢を言えなかったのだけれど、こんな素敵なものを探してきてくれるとは。斎藤さんの高すぎるお母さん度に惚れ惚れする。
石田散薬だしてきた時はどうしようかと思ったけど…
軽装で大和国にたどり着いた荷のどこにそれを装備していたと言うのか。
沖田さんと二人で「石田散薬の効く怪我じゃないから」と言い包めて事なきを得たことは言うまでもない。
慶応二年二月二日
「あつ…」
弥月は吐息に混ぜるようにそう言って掛け布団を除ける。
暑ーいー…
ここ二日、常にうとうとし続けている状態である。この暑さはようやく熱が下がってくれるのだろうかと期待をして、まだ少し気怠い身体を圧して起き上がった。
明かり取りの窓から見える外はまだ暗い。ぼうっと部屋を眺めると、部屋の端には水の入った盥(たらい)があった。
…沖田さん一人、か
見張りは外。皆には他所のお宅に世話になるように指示をして、私達を隔離してもらっている。隣の家の人達が「いくらでもどうぞ」と家を空けてくれたそうで、悪名高き新選組様々だ。彼らは好待遇で村の人にもてなされていると云うから、帰れない原因としては救われる。
なら…まあ良いか…
ふうと息を吐き、襦袢の襟ごと前身衣を開く。
もう慣れてしまって普段は気にもならないサラシ。この時季は防寒にもとても有効なのだけれど、汗をかいた時はできればどうにかしたい。また身体が冷えてしまう。
「ちょっと待って」
「?」
「何してるの…か、を聞きたくはないけど、ちょっと待って」
起きていたらしい、沖田さんの声に止められる。
沖田さんの位置は私の後ろ。部屋の暗さと、もう一度室内の様子を確認して、私は彼が寝ている方向を振り返る。
「はい」
「…あのさ」
彼はなぜか言いかけて黙った。けれど、黙ったからこそ、まあなんとなく言いたいことは分かった。
「体拭くので、そっち向いててもらえると」
「…一言、声かけてくれる?」
「すみません」
寝てるかなと思ったし、身体の向きも配慮したのに怒られた。そう言う沖田さんが退室するならともかく、居るなら同じではないだろうか。
疑問に思いながらもあまり深くは考えず、サラシを解き、着物を羽織ったまま上半身を拭く。下帯は厠へ行った時に替えればいい。
けど、これをまた巻く、か…
いつも寝るときもサラシは巻いているから、問題はないのだけれど。この気怠い身体でキッチリぎゅうぎゅうに巻き付けるのは、まあまあ面倒くさい。外していると開放感で身体も楽だ。
…まあ、いいか
私は風邪っぴきの非戦闘員だ。この村にいる限り、危険もほぼ無いと考えて良いだろう。
弥月は着物を整えて、沖田へ声をかける。
「終わりです」
返事がない。宣言しろと言っておいて、なんて勝手な。
弥月が溜め息を吐きかけた時、沖田はグルリと布団の中で寝返りをうって、うつ伏せになる。
「…あのさ」
「はい」
「訊きたくはないんだけどさ…」
「はい」
「…」
歯切れ悪…
今度はなんだと言うのか。
「下……巻いた?」
「下帯なら巻いてますよ。急なセクハラどうしたんです」
「そうじゃなくて…」
「え、上のこと?」
「……」
一度胸部を見降ろす。冬の着物で裏地があるとはいえ、挟んでいた手ぬぐいの分程度には体型が変わっているし、立ちあがったら凹凸に違和感がある気がする。袴の位置的に襟も開きやすい。
ただ丹前を着て、布団をかぶっていれば問題ないはずだ。
「出動ないなら要らないかなって。寝てるだけなら、締め付けないほうが圧倒的に楽ですから。
分かります? 私的には大丈夫と思うんですけど…これ、どうですか?」
「…君、さ…」
それは途切れ途切れに。
「…本当に…恥じらいはどこに棄ててきたのさ…」
沖田は突っ伏して搾るような声で、床に向かって言った。
弥月はポカンとする。
へ?
つまりは、前身衣が肌けた時や、体型で他の隊士が気付くことを心配されていて。
一番組の頃の話をするならば、私は部屋で服を脱ぐことはなかった。布団の並びは私が部屋の最奥で、隣は沖田さんが定位置だった。その彼のお陰で女としての身の危険がなくて、心身助かってはいたのだけれど……そもそもの私の場所取りは突撃で、たまたまの結果だと思っていた。そういう気遣いを受けた記憶はない。
だから、この扱いは斬新だ。
「恥じらいって……でも普通、その辺にいる女性って、胸にサラシ巻いたりしてないんですよね?」
「…」
「てか、なんでそこ気付い…て…」
「……」
それはつまり。
「…想像した方が悪くないですか?」
「うるさい!」
彼が抱えていた枕を投げられる。
「人を変態みたいに言わないでくれる?! もし誰か入ってきたら困るだろうなと思ったんじゃない!」
「いや、言ってないですし…」
退室しなかったのは、彼なりの配慮だったらしい。そのせいで、音で状況が分かってしまったらしい。
「…ありがとうございます?」
「うるさい」
ちっとも煩くないと思うのだけれど。
わずかな気恥ずかしさは感じたものの、プイとまた向こう向きへと寝返りをうった彼の背へ、弥月は苦笑しながら「これ要りますよね」と枕を投げ返した。
二日後。
「総司、矢代、起きてるか。飯ができた」
「あ゛ーい…」
引きつづき八条村の、真っ昼間の空き家にて。
勘兵衛に罪状をつけるなら『横領』ということにはなるのだけれど、酌量の余地がある。奈良奉行所にもその旨を伝えると、彼や加担していたエタ村の人々の処遇については、『村預かり』という方針となった。要は奉行様の判決待ちで村の拘置所に入っている。
それでも未だに斎藤含め新選組一行が大和国に滞在中なのは、すごく浅い理由があった。
「総司、起きろ」
「…」
「沖田さん、食べましょ」
「…要らない」
沖田は隣で起き上がった弥月に揺すられるが、迷惑そうに布団に潜り込んで姿を隠す。
「食べなきゃ駄目ですって。吐きそうとかじゃないんでしょ?」
「…喉痛い。食べれない」
「んでも、水は取らなきゃ駄目ですってば」
「きもちわるい」
「取ってつけて…もー…」
案の定、風邪をひいた。しかも二人して。
「矢代、熱は」
「分かんないです。たぶんある」
斎藤さんのおでこが当たりにくるため、先手を打って自分の手を額に当てる。当然、これで熱は分からないのだから測っている風だ。
だってさ。指摘したら逆に、変に意識したみたいで恥ずかしくない…?
この前、つい自分も沖田さんにしておいてなんだが、ココに斎藤さんの顔面が来るのは耐えきれない。小っ恥ずかしくて、どんな顔をしていいか分からない。
その斎藤さんが持ってきたお膳には、お粥と梅干しが乗っていた。風邪をひいていても普通に食べたい私としては物足りないが、文句を言うほど太々しくはない。
喉が痛い沖田さんの分は梅干しではなく昆布の佃煮が乗っている。優しい。
「では、お先にいただきます」
弥月が匙を持って食べ始めたところで、トントンとまた誰かが戸を叩いた。
「斎藤組長、ありましたよ」
「ああ、早かったな。助かる」
入ってきた一番組隊士が籠の中にある何かを斎藤に見せると、彼はそれを見て笑んだ。
「矢代はそのままでも良いか?」
「ん? これ…!」
コロンとお膳の上に転がったものに、弥月はパアァっと顔を輝かせる。橙色の小さな丸い実。
「金柑だ」
「めっちゃ好き!」
「喉に良いと言う。熟れていればそれほど酸味はないはずだ」
「やった! ありがとうございます!」
「総司の分は火を通そう」
彼が布団の俵に向けてそう言うと、沖田さんはゴソゴソと顔を見せて「ありがとう」と言う。反応を見るにかなり好物らしい。
自業自得の風邪っぴき。蜂蜜は高価だからあまり贅沢を言えなかったのだけれど、こんな素敵なものを探してきてくれるとは。斎藤さんの高すぎるお母さん度に惚れ惚れする。
石田散薬だしてきた時はどうしようかと思ったけど…
軽装で大和国にたどり着いた荷のどこにそれを装備していたと言うのか。
沖田さんと二人で「石田散薬の効く怪我じゃないから」と言い包めて事なきを得たことは言うまでもない。
慶応二年二月二日
「あつ…」
弥月は吐息に混ぜるようにそう言って掛け布団を除ける。
暑ーいー…
ここ二日、常にうとうとし続けている状態である。この暑さはようやく熱が下がってくれるのだろうかと期待をして、まだ少し気怠い身体を圧して起き上がった。
明かり取りの窓から見える外はまだ暗い。ぼうっと部屋を眺めると、部屋の端には水の入った盥(たらい)があった。
…沖田さん一人、か
見張りは外。皆には他所のお宅に世話になるように指示をして、私達を隔離してもらっている。隣の家の人達が「いくらでもどうぞ」と家を空けてくれたそうで、悪名高き新選組様々だ。彼らは好待遇で村の人にもてなされていると云うから、帰れない原因としては救われる。
なら…まあ良いか…
ふうと息を吐き、襦袢の襟ごと前身衣を開く。
もう慣れてしまって普段は気にもならないサラシ。この時季は防寒にもとても有効なのだけれど、汗をかいた時はできればどうにかしたい。また身体が冷えてしまう。
「ちょっと待って」
「?」
「何してるの…か、を聞きたくはないけど、ちょっと待って」
起きていたらしい、沖田さんの声に止められる。
沖田さんの位置は私の後ろ。部屋の暗さと、もう一度室内の様子を確認して、私は彼が寝ている方向を振り返る。
「はい」
「…あのさ」
彼はなぜか言いかけて黙った。けれど、黙ったからこそ、まあなんとなく言いたいことは分かった。
「体拭くので、そっち向いててもらえると」
「…一言、声かけてくれる?」
「すみません」
寝てるかなと思ったし、身体の向きも配慮したのに怒られた。そう言う沖田さんが退室するならともかく、居るなら同じではないだろうか。
疑問に思いながらもあまり深くは考えず、サラシを解き、着物を羽織ったまま上半身を拭く。下帯は厠へ行った時に替えればいい。
けど、これをまた巻く、か…
いつも寝るときもサラシは巻いているから、問題はないのだけれど。この気怠い身体でキッチリぎゅうぎゅうに巻き付けるのは、まあまあ面倒くさい。外していると開放感で身体も楽だ。
…まあ、いいか
私は風邪っぴきの非戦闘員だ。この村にいる限り、危険もほぼ無いと考えて良いだろう。
弥月は着物を整えて、沖田へ声をかける。
「終わりです」
返事がない。宣言しろと言っておいて、なんて勝手な。
弥月が溜め息を吐きかけた時、沖田はグルリと布団の中で寝返りをうって、うつ伏せになる。
「…あのさ」
「はい」
「訊きたくはないんだけどさ…」
「はい」
「…」
歯切れ悪…
今度はなんだと言うのか。
「下……巻いた?」
「下帯なら巻いてますよ。急なセクハラどうしたんです」
「そうじゃなくて…」
「え、上のこと?」
「……」
一度胸部を見降ろす。冬の着物で裏地があるとはいえ、挟んでいた手ぬぐいの分程度には体型が変わっているし、立ちあがったら凹凸に違和感がある気がする。袴の位置的に襟も開きやすい。
ただ丹前を着て、布団をかぶっていれば問題ないはずだ。
「出動ないなら要らないかなって。寝てるだけなら、締め付けないほうが圧倒的に楽ですから。
分かります? 私的には大丈夫と思うんですけど…これ、どうですか?」
「…君、さ…」
それは途切れ途切れに。
「…本当に…恥じらいはどこに棄ててきたのさ…」
沖田は突っ伏して搾るような声で、床に向かって言った。
弥月はポカンとする。
へ?
つまりは、前身衣が肌けた時や、体型で他の隊士が気付くことを心配されていて。
一番組の頃の話をするならば、私は部屋で服を脱ぐことはなかった。布団の並びは私が部屋の最奥で、隣は沖田さんが定位置だった。その彼のお陰で女としての身の危険がなくて、心身助かってはいたのだけれど……そもそもの私の場所取りは突撃で、たまたまの結果だと思っていた。そういう気遣いを受けた記憶はない。
だから、この扱いは斬新だ。
「恥じらいって……でも普通、その辺にいる女性って、胸にサラシ巻いたりしてないんですよね?」
「…」
「てか、なんでそこ気付い…て…」
「……」
それはつまり。
「…想像した方が悪くないですか?」
「うるさい!」
彼が抱えていた枕を投げられる。
「人を変態みたいに言わないでくれる?! もし誰か入ってきたら困るだろうなと思ったんじゃない!」
「いや、言ってないですし…」
退室しなかったのは、彼なりの配慮だったらしい。そのせいで、音で状況が分かってしまったらしい。
「…ありがとうございます?」
「うるさい」
ちっとも煩くないと思うのだけれど。
わずかな気恥ずかしさは感じたものの、プイとまた向こう向きへと寝返りをうった彼の背へ、弥月は苦笑しながら「これ要りますよね」と枕を投げ返した。