姓は「矢代」で固定
第4話 わたしのお仕事
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慶応元年十二月二十二日
組長が出席する会議は、島田伍長が烝さんの代理で出席している。けれど、今日は近藤さんらの帰還に加え、年末の締めという理由で、治療室や勝手場の管理者として私と千鶴ちゃんも呼ばれて、並んで末席に座っていた。
最初に近藤局長から広島での話が始まり、今後の予定、組の運営方針の確認、隊士募集について、今年の会計報告、武器弾薬の整備について等々、粛々と会議が進んでいく。
会の進行は土方副長が行い、局長と参謀は適宜、議題に承諾していた。
「それでは、雪村さんを中心に祝の肴を用意して、年末までにすべき事は一先ず終わりということですね?」
伊東が組長全員への目配せすると、各々が小さく頷く。それを確認して土方は深く頷いた。
「そういうことだ。年が明けたら幕軍も動くだろう。仕切り直しだ。
他に報告、案件のあるやつは?」
「はい!」
高々と上げた手。
場の全員から受ける視線に、弥月はわずかに怖気づきながらも、笑顔を崩さずに口を開く。
「局長、餅つきがしたいです!」
「餅屋に行け」
「人数分の餅が高いので、せめて原料のもち米で買って、人件費浮かせしましょう!」
近藤さんではなく土方さんにぶった切られたが、そんなの想定済みだ。言いたいことは言い切ってやった。
弥月は土方の面倒臭そうな視線を受け止めず、局長の返事を待った。けれど、近藤の方もまた困り顔で、副長へと視線をやったため、仕方なく土方は「勘定方!」と荒々しい声を出す。
「ハッ、はい! たしかに参賀日用の餅については、些か苦慮しているところではあります!
予算としては先々月から計上していまして、今月初旬に餅つき屋にそれで注文をしています……が、なにぶん価格が高騰していまして……隊士全員分の量としては、些か少ない見積りとなっておりまして…」
「見せろ」
「はい!」
勘定方は捲った帳面を土方の元へ持っていく。一人当たりの量などを聞いて、彼は少し渋い顔をした。
そのやりとりを見て、近藤は眉を下げた。
「もち米なぁ…多摩にいればそれには困らんのだが…」
近藤さんが腕を組み、首を捻る。元お百姓さんとしては、そもそも米なんて買うものではないのだろう。
「俺は餅をつくこと自体は構わんと思うのだが、道具を借りるのにも金はかかるだろう?」
「はい、局長! お西さんか、八木さん所から借りてくれば良いと思います!」
去年と一昨年は八木家の餅つきを代行して、餅をもらっていた。私はそれに参加できなかったから、今年こそ餅つきをしたいのだ。勿論、お正月に食べられる量が増えるなら尚良し。
「道具を運ぶのは…」
「新八さんがしてくれると思います!」
「おい…」
「人任せ過ぎじゃない?」
「筋肉は使ってこそ価値があると思います!」
横から茶々を入れられるが、去年餅つきをしたであろう面子はことごとく笑っている。彼らは反対という雰囲気ではなくて、私も歯を見せて笑う。
みんな、お祭りすきだもんね
「それは奉公の仕事だろう」
しかし、ボソリと聞こえた冷たい声音。誰のものなのかは、探るまでもなかった。
武家の出ではない人が大勢いるこの場で…なんなら、喜んで餅をつく上役がいる場でそれを言うとは、空気が読めないにも程がある。
そんな一部の人の不満を覚ったのか、近藤局長はすぐには決議しかねた。しかし、弥月は目を三日月に細めたまま、まっすぐに彼だけを見る。
近藤さんは、絶対に私に傾く
「大掃除と違って、したくない人はしなくて良いと思ってます。みんなの食事に関わることですから、賛同してくれる組があればいいなって思って、ここで意見を出しただけなので」
「うむ……河合君、餅ではなく餅米でなら、同じ予算でも量の確保はしやすいだろうか?」
「はい。それなら費用の追加も検討しやすいかと…来月以降の運営費を先に使うことにはなりますが…」
「それは構わない。予算の内訳の見直しが必要であれば、また合議しよう。雪村君」
「…ハィ!」
近藤に名前を呼ばれて、驚いた千鶴の声が裏返る。
会議が始まって以来、千鶴は一度も口を開いていない。自分が関係のある帳簿の場面で、勘定方の報告に頷いているだけだった。
「餅の量と予算について、再度勘定方と検討を頼む。正月からみんなの腹が減ることが無いように」
「畏まりました!」
「祝の肴の準備もある中で申し訳ないが…人手が足りないようなら言ってくれ」
「ありがとうございます! お任せ下さい!」
千鶴はビシリと背筋を伸ばして硬い声で返事をする。席にある大半はいつも食事を共にしている慣れた人達だが、場の雰囲気はあまり良くなかった。
…そういえば、正月料理ってどうするつもりだったんだろう
普段の食事の用意に加えての、参賀日用の作り置き調理。去年までは当たり前にみんなで協力していたはずだけれど……会議がこの状況で、それを期待はできるのだろうか。
「私、おせち作るのもしますよ〜
百人規模の料理のつくりおきを、一人でどうしろって話だし」
「あっ、オレもする!」
「俺も手伝おう。隊士たちにも声をかけておく」
平助と斎藤さんが、私のユルユルとした声に続く。元々協力するつもりがあったのだろうけれど、意図を察してくれたらしい。
横を見ると、千鶴ちゃんが眉を下げて期待の籠もった眼差しで頷いたから、敢えてこの場で言っておいて正解だった。
「他に議題のあるやつは」
土方さんから「無ければ解散」と宣言がされた後、末席の私は早々に立ち上がって、議場を抜け出す。向かうはお米屋さんだ。もち米の確保。
のんびり場に残って、谷組長の負け惜しみを聞いてあげる義理なんてなかった。
***