姓は「矢代」で固定
第4話 わたしのお仕事
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慶応元年十二月十五日
「じゃーんけん」
弥月が突然に兄へ持ちかけた勝負。梓月は「は?」と言いながらも反射的に手を出して、妹に偶然勝った。
「じゃあ、私、手入れる側で」
「あー…ね」
兄は察して「はいはい」と渡された太刀を握る。勝っても負けても、どうせ妹に言われるがままなのだ。
今日の天気はギリギリ朝陽を拝めそうな薄曇り。弥月は冷える手をこすり合わせながら、陽が現れるのを待つ。
「寒いよな」
「うん、寒い」
「俺この前、足の指にしもやけできてさ。初めて見たんだよ、しもやけってやつ」
「分かる。NHKみんなの歌の…昭和の世界感だよね」
「マジで超痒くてさ。最初、水虫かと思って絶望したけど、しもやけも大概だったわ」
「濡れてたらヤバいから、雪降ってる日は足袋の替え持つのがオススメよ」
この時代の暖といえば、屋内で雨風を凌いで、火鉢を焚いて得られるほんのりとした部屋の暖かさ。重ね着をして自分の熱を逃さないようにしたり、焼いた石でわずかな時間を部分的に温めたりするのみ。暖房器具に慣れた身ではまあまあツラい。
そんな話をして迎えた明六つ。梓月はこれまでで一番大きく、三角に太刀を振り下ろした。そして弥月は銀の光にゆっくりと手を入れる。
また、森か…
銀色から変化して現れたものに、そう驚くこともない。前回と変わりない森林。
頭入れて、前回との違いや、場所の手がかりを探すが、植生で何かが分かるほどに詳しくない。
この向こうが平行世界か、時間や場所さえも異なる世界かで、この次に考えることが変わってくる。
ここどこ…
…ーーっ!?
「人!」
思わず叫んだ。
「人!?」
「人っぼい! おーーーい!!!」
向こうの反応がない。
「梓月、見える!?」
バッと三角から頭を出して、居た先を指差す。けれど、梓月は試しに頭を入れて見たものの、すぐに顰め面で出てきた。
「そもそも見えない。やっぱり銀色」
彼に場所を譲られて、私が再び頭入れると、やはり遠くに見える人っぽいもの。
大事なことだから、もう一度言うが「ッぽい」んだ。
「あんま乗り出すなよ。落ちるって」
「人間、っぽい」
「??? ぽいって、なんだよ?」
「…パッと見で人間って思ったけど、よく見たらそうでもない」
「……余計分かんねぇ」
少し離れた木の上にいる、猫背の人影。猿ではないと判断できるほどには、大きさや手足の長さが人間で。けれど、服かと思った身体の表面の黒色は、目を凝らして見ると、どうにも頭髪と地続きの毛のような気がする。
「それはゴリラとかじゃねぇのか?」
「…どっちかと言えば、人間に近い気がする」
限りなく、猿よりも人間に近い姿形。あれが人間じゃないとすれば、私が知っている生き物の中にアレはいない。
見てはいけない何かを見ている気がしてきた
「こっち見えてそうか?」
「全然。声も聞こえてないかも」
「これ」
梓月に渡された石。投げ入れるのだと察する。
「よっ」
勢いよく投げた石は、コンと手前の木の幹に当たった。すると、パッとこちらを向いた人っぽいもの。
人間、じゃない…?
こちらを注意深く観察しているが、やはり私が見えていないらしく、視線が合わず近寄っては来ない。そして身を屈める彼の動きは動物のようだった。
どれだけの時間、一枚の膜を隔てて睨み合っていただろうか。彼が立ち上がった瞬間、
「あっ」
三角が消えた。
***