姓は「矢代」で固定
第3話 長州訊問使
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慶応元年十一月末
「近藤さんから次の文が届いた」
食事が始まってすぐに、土方はそう言ったが、随分と気持ちの籠もらない声をしていた。朗報ではなさそうだと心の準備をする面々の中、真っ先に平助が飛びかからんとする勢いで叫ぶ。
「なんて!?」
「広島から以西へ、動く術がないそうだ」
予定通り訊問使一行が広島に到着したのが十六日のこと。近藤らの長州入国依頼を拒否されたと、数日後、屯所に連絡が届いていた。
土方は沖田へと視線をやる。
「近藤さんは話し合いの場に同席をしているが、戦闘になるような状況でもないらしい」
曰く、引き連れていった捕虜の長州藩士を引き渡すなど、手を変えて交渉には臨んでいるものの。広島藩士を折衷役に、長州藩士と幕臣が会談をするまでには至ったが、近藤らの要求は通らないまま押し問答になっていた。
訊問使たちは任を遂行できずに、広島に立ち往生している状態である。
それでも、監察方は前へ進む
弥月は黙々とご飯を食べ進める。
少なくとも近藤さんはここでは死なないはずだから、それほどに心配はしていない。教科書に名の残らない、私の同僚たちはどこにいるのか。
「山崎らは」
その名を聞いて視線を上げると、土方さんと目が合った。
「隊と共に居ても埒が明かないから、近藤さんらと別れて萩へ向かうそうだ。近藤さんらも町人に仕立てて送り込む話もあるそうだが、ひとまずは監察方だけで先に出すと」
「…」
弥月はコクンと頷く……分かっていたことだと。それでも心臓がドクドクと速く脈打つ。
この書簡を出したときは、まだ近藤さんらと一緒にいたのだろうけれど、烝さんの仕事はその先にある。
信じて待つ
黙ったままの弥月にヒヤリとした空気の中、沖田は必死に怒りを抑えた声を出す。
「そんなのバレたら…」
町人に扮していて敵方に見つかったら……想像したことの最後までを口にすることはできなかったのだと、全員が察した。
「近藤さん自身にその覚悟があるって話だ。伊東さんらが止めているらしい」
「伊東さんが…」
「訊問使として征伐の鏑矢となるならまだしも、局長の犬死は適従しかねるそうだ」
「牢獄に居た長州藩士を、出して連れて行くつったのも伊東さんだったな」
永倉の確認に、土方は「ああ」と頷く。
長州藩内にいる幕府恭順派に呼びかけさせるため、海路で牢人を送り込む算段だと。
近藤さんを潜入させるなんて作戦を言い出したのは、きっと幕臣の人だろう。局長本人や新選組隊士が言うはずがない。命じられたら馬鹿真面目に請け負うだろう近藤さんを、伊東さんは参謀として戒めている。
まだ、伊東さんは私達の味方
少なくとも局長を無事に連れ帰ってくれると、あの賢い人のことをも私は信じていた。
***
土方side
目を吊り上げて俺を見ている総司。それ以外の奴らは、ただただ心配する表情をしている……彼らは想像通りの反応だった。
けれど、皆が箸を止め緊張した面持ちで俺の話に耳を傾ける中、再び箸を動かした男がいた。矢代は総司と似たような顔をしていて、それでも膳と向き合い直した。
まるで俺がこれから言う事を知ってるかのように
『僕は織田信長とかの方が好きですし、全然この時代のことは詳しくないです』
緑の髪をした男は、竹刀を下ろして、俺達を畏れながら嘘を話した。
『佐幕も勤王も興味がなくて。僕は元気で長生きしたいですし、戦争なんか余所でやってくれって感じです。なんなら統治者は帝でも将軍でも誰でもいいです。
弥月がいるから新選組には頑張ってほしいとは思ってますけど……自分が一緒にとは思えないかなって』
勧誘にきた俺が、その返答を聞いて彼に関心を失ったというのに。近藤さんは『弟の背を守ってくれないか』と、食い下がった。
『正直に言うと、弥月には抜けてほしいと思ってます。弥月のことを差し引けば、新選組……いえ、この時代の先に、僕は興味がありません。部外者です』
『先、とは…?』
近藤が問いかけると、梓月は深く考えながらゆっくりと続ける。
『全て…が、終わった先、ですね。今、日本は外国の相手をしなきゃいけないのに、自国の事もままならないんですよね』
『お前は先のことを知ってるのか?』
『詳しくないです』
梓月のことは、弟の言うままに立場や住処を変える、意志薄弱で気弱そうな男だと思っていた。そういう意味で使える人材だと。
けれど、彼は畏れながらも険しい顔をして俺達を見た。本当は新選組に弥月を置いておきたくないと、家族を返してくれと、眼で語った。
「山崎らは」
顔をこちらへ向けた矢代と目が合った。
「隊と共に居ても埒が明かないから、近藤さんらと別れて萩へ向かうそうだ」
兄と同じ眼をしていた。
矢代は長州へと発った山崎を、心の底から心配していた…それは間違いない。
お前には何が見えている
山南さんが大怪我をした時、弥月の言う未来は『占いのようなものだ』と……知ったところで何を変えるものではないと、皆が納得した。
けれど、矢代が抱えているものの大きさを、俺達は誰一人理解できていなかったのだと、その兄が同じような話をするのを見て気付いた。
彼らの言う「歴史」や「時代」の知識に、今の新選組の導(しるべ)となるものがないとしても。結果として吉報も凶報ともなる情報は持っているはずだ。
それでも、身一つで俺らと居る
兄と同じ眼をしていた。
そこに、俺への不信感はない。
かつて、未来に帰りたいと泣きながら眠った子どもが、随分変わったものだと、少し可笑しな気持ちになった。