姓は「矢代」で固定
第3話 長州訊問使
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時間は少し遡り、松原さんの件で、私が屯所から離れていた期間の話である。
慶応元年十一月十五日
「こうか?!」
町医者の診療所前。
梓月が顕明連を振りあげると、現れた銀の三角。私より軌跡が大きいため、それもいつもより大きく仕上がっていた。
「おー!」
「できたね…」
誰でも良いわけ?
想定通りなのに、複雑な気持ちになる。自分のことを特殊能力持ちとか、主人公っぽいとか想ってた事がすごく恥ずかしい。
「見た目的には同じ感じよな?」
梓月の問いかけに、弥月は「だね」と応じる。襷掛けにした小袖をさらに捲り上げながら、いつもどおりに三角に手を入れた。
「ん?」
「どした?」
緑
「葉!」
葉が見える。木に生る葉っぱ。
「は?」
「葉っぱ!!」
「葉っぱ?」
画面いっぱいに映る樹葉の群れ。それを掴もうと入れた手を握るが、何にも触れない。距離的には届いているように見えるのに感触もない。
通じてない!? 見えるだけ…!?
バッと自分の足元を見回す。
「石! 梓月!」
「石!?」
「なんでもいい! 捨てて構わない硬いもの!」
「捨てて…って、あった!これ!」
「ナイス!」
手渡された小さな石を、投げ入れる。
ガサッ
「ーーっ!」
石に当たった葉が揺れた。
「どう?」
「葉っぱ動いた!」
「ってことは、物理的に向こう側に行ったってことか」
「うん!」
問題は向こう側が、『どこ』かと云うことだ。今、この画面からは枝と葉っぱしか見えない。
何か試したいことは…と首を巡らせると、棒立ちのままの梓月と目が合う。
「葉っぱ以外に何が見えてんだ?」
「え?」
「え? いや、俺には何も。銀色にしか見えてないんだけど…」
は?
梓月と画面へ顔を往復させて、意味が分からず、画面を指さす。
「葉っぱ…」
「見えないんだって」
梓月は眉根を寄せて、首を横に振る。
とても嫌な予感がした。
なんで?
再びジッと画面を見る。向こうは風すらないのか、変わらず静止画のような樹葉しか映っていない。
弥月が混乱しながらも、何かできることは…と考えている内に、陽は少しずつ高くなる。
仕方ない
手を入れて無事だったのだから、前回と同じように頭を入れても問題ないはずだ。わずかに躊躇いながら「えいやっ」と頭を差し込む。
!!
画面よりも視角が広がり、ぐるりと上下左右を見渡せる。
「木!地面! 葉っぱ!空!」
ある
ここ以外の世界が向こうにある
「人は!?」
「ない!ってか、森?」
生き物らしい生き物の姿がない。地面にある湿気た枯れ葉と、泥がないまぜになっている様子から、虫程度の生物はすぐに見つかるような気はするけれど。遠くまで目を凝らしても、密に木が生えた薄暗い森だ。
「掴め…ないか…」
目の前にある樹葉。
今の私はとても怪異的な状況で。目の前の枝葉の存在を無視して、その中に頭を突っ込んでいるようだ。
そして、フッと視界に元の街並みが映る。
切れ…ッ?!
時間の経過とともに三角が消えたことを理解して、一瞬、自分の首が千切れたのではないかと思ってゾッとした。慌てて自分の身体に触れると、私は無事、五体満足でこちらに戻ってきていた。
弥月は、挙げていた手をゆっくりと下ろす。
向こう側に「行った」の判定は何?
物理的に影響を与えたことで、三角の向こうの世界があること、見えた先に行けることを証明した。それは大きな大きな進歩だ。けれど、三角に差し込んでも「こちら側」にある物は、まるで霊のような、物理的な影響がない。
そして、チャンネルを合わせるリモコンが梓月なのかと思ったが、そう一筋縄では終わらないらしい。
梓月が作ったら、三千世界が見えた?
でも、梓月には見えない?
難しい顔で、来月に試す事を考え始めた弥月へ、梓月が「あのさ」と躊躇いがちに声をかける。
「もしかしてなんだけど……前の時、砂っぽいものは、弥月には見えてなかったとかある?」
「砂…?」
「俺が手を入れた時、銀色だったのが砂になったんだよ」
「…は?」
曰く、銀色と同じようなもので、意味のあるものとして認識していなかったらしい。だから、それを「昔のテレビのザーザー」と表現したのだと。
「砂だったの?」
「砂嵐の中って感じだった。それしか見えなくて、何かあったかって聞かれても困るんだけどさ」
「砂嵐…」
森と砂嵐
どちらも自然のものではあるが、共通点が見えない。
また考え直し…か
毎月微々たる進捗で苦しい気持ちにもなるが、梓月が来たことで確実に進めてはいる。
「終わりよな?」
「うん」
「作戦会議する? 俺、今から飯作るつもりなんだけど」
「じゃあ今度でいい。また来るから梓月も考えといて」
「了解。あ、でもさ」
弥月は帰路へと身体の向きを変えようとしていて、首だけで振り返る。
「気になってたんだけど、山南さんって切腹してないの?」
「…なんでそう思ったの?」
「前川邸にあるんだよ、山南さんが切腹したって部屋。その話したら沖田さんが変な顔してたから」
「…へー…」
幕末について知っている事を訊けば、梓月は色々教えてくれそうな気もするのだけれど、この先について、怖くてあまり話題に出していない。うっかり沖田さんの死亡年月日とか知っちゃったら、流石に居たたまれない。当たる易者さんになってしまう。
そして山南さんについては、対面を果たしてしまったので、諸事情で死人扱いなのだと説明をしている。
知らないよね、不老不死の万能薬なんて
兄のことを信頼していない訳ではないが、超極秘事項だ。鬼が絡んでいそうとはいえ、軽々しく話していいとは思えない。
「沖田さんは何て?」
「秘密って」
「じゃあそういう事」
無難な答えだと、弥月は自分を褒める。
「あとさ、弥月はマガイモノって知ってる?」
「…知らない」
しまった
「マガイモノって何?」
反射的に即答して、知らない人の応答としては不正解だったと取り繕う。
「鬼のできそこないみたいなものがいるって、風間さんが説明してくれたんだけど。それが未来に居るかって訊かれてさ。
でも、そもそも鬼なんて知らなかったもんな? 令和にいた頃、弥月は知ってた?」
「知らなかった」
かーざーーまーーー!!!
風間は梓月を同族と思っているから、悪気はないのかもしれないけれど、情勢に関わることについての口が軽すぎる。私はそれのせいで一ッ月監禁されていた事もあるというのに。
梓月が「だよなー」とそれ以上追及せず納得してくれたから良かった。山南さんのことも、まさか沖田さんに訊くなんて…何故ややこしい人を選んでくるのか。お願いだから、危険なところに自ら飛び込んで行かないでほしい。
「山崎さんからは連絡あった?」
「…待って、梓月。私の知らない情報で、結構もうお腹いっぱいなんだけど……山崎さんともあれから喋ったの?」
「喋ったって言うほどでも。ちょっと出張だから居ないって」
「…そう」
頭を抱えたくなる。
屯所に手合わせに来た日は、ちゃんと見張っていたというのに、みんなが私の知らないところで梓月の回りをウロウロしている。
「良い人らだな、新選組って」
「…でしょ」
不意に褒められて、誇らしく、嬉しくなって弥月は笑顔で応える。
そのとき、梓月が少し困った顔をした気がしたのだけれど、彼は「んじゃ、また」と言って建物に入っていく。
聞かないで居てくれてるんだよね…
私は兄の優しさに甘えているのだと知った。