姓は「矢代」で固定
第3話 長州訊問使
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***
「次の作戦おねがいします」
二日後、羅刹隊の宿舎に集まっていた面々の前で、弥月は「お手上げ」と両手を上げた。皆が口をへの字に変えた中で、沖田が事も無げに言う。
「押し付けてくれば良かったんじゃないの?」
「考えましたけどね。長い目で見たら結果的には同じなんじゃないかって。でも、今回の目的が達成されるかと言えば微妙かなって」
問いかけを含んで松原さんを見ると、彼は肯定も否定もせずに「申し訳ありません」と頭を下げる。
「だから、代案お願してもいいですか? 土方さん」
「…俺はお前が渡して来るもんだと思ってたからな。脅してでも」
「土方さんの頭の中の私、極悪人ですね」
「やれるつもりで出掛けてったんだろ」
つまり、手段問わず終わらせてくると思われていたらしいけれど、もう少し配慮のできる人間だと自分では思う。
んー…
「時間どれだけ掛けてもいいなら、向こうが根負けするのを待ちますけど。日がな一日ふらふらしてて良い訳ですから」
「働け」
「って話になるじゃないですか」
弥月はパタパタと手を振って、土方へ『言われなくても分かってる』と示す。
この三日、文字通り街を徘徊してお気楽に過ごしていたが、途中、巡察している組を見かけたりすると、給料泥棒すぎてちょっと気が引けた。
「米にしたら食うんじゃねえか」
「俵何個運び込むつもりですか」
具体的にいくら預かったかは言わないが、巾着を見せるとその重みは伝わる。
「庭の埋蔵金にして掘らせろ」
「超非現実的…」
「子どもに宝の地図とか言って渡すのはどう?」
「…楽しそうで良い案だとは思います。けど、私とのやり取りの後にそんな都合の良すぎる事が起きても、あんまり意味が無いような気もします」
お金が手に渡ればそれでいいと云うのなら、家の中に放り入れてくる。流石に突き返してくる蛮勇はないだろう。
「…宝くじって概念、ここにあります?」
「富くじの事でしたら、禁止されていますよ」
山南さんから『富くじ』あるいは『御免富』などと呼ばれる賭け事の説明をしてもらったが、限りなく宝くじの事だった。幕府から禁止令が出ているらしい。
弥月が「じゃあ駄目だ」と呟くと、酒井は「もし」と。
「所謂、非認可の『隠富』というものもありますので。監察方の川島君が詳しいとは思いますが…」
「…大丈夫です。そこまで足つっこむ気も、つっこませる気も無いので」
勘定方だった酒井さんが隊士の金周りに詳しいのはまだ分かるけれど、川島の守備範囲も把握しているのはどういう事だろうか。単純に古参同士で、実は仲が良いとかであってほしい。
もういっそ、断られて来たらいいんじゃないの
女にとっては『松原は生きてる』のだ。あの様子だと、再会したとて、彼女は二度とその名を口にすることはないだろうと私は思う。
ただ、土方さんがその前例を良しとしない。
この三人だから自重するし、指示も通るし、『例外』や『個別の事案』というものを理解する。けれど、今後羅刹化が進行した時や、人数が増えた場合を想定しているのだろう。そもそもが統御できなくなる前提の存在なのだ。
羅刹に基本的人権があるかどうか
私にも無いのに、有るはずがない
「弥月君、少し…」
「はい?」
明らかに会議が煮詰まったところで、山南さんが立ち上がりちょいちょいと私を手招いた。部屋の隅で「耳を」と口元に手をあてて、小さな声で囁く。
あからさまに内緒話をする二人を横目に、酒井は「お湯が沸きましたね」と腰を上げ、松原は「先日、矢代君にいただいた落雁が」と同じく勝手場へと下りる。
「……そうですね……ええ。はい……たぶん………いえ、多少の予算さえあれば…」
準備はできるけど…
山南さんの提案を突っぱねはしないが、私は『厳しい』という表情で返した。
「でも、そんなに上手くはいかないんじゃ…」
「不可能でしょうか?」
「…工程が複雑すぎるのと、不確定要素が多すぎて、想定通りになるとは思えないんですけど」
「なるほど、用心深いですね。弥月君に首尾よく動いていただかないと試せもしないので、まずは心持ちを伺いたいのですが、反対ですか?」
「……」
…また反対しにくい聞き方を
新たな作戦が成功を前提としているのではなく、ただ試すだけなら無理ではない。手段が大きく変わったが、目的や結果という点では同じだ。私も同じ発想だったから反対する理由がない。
「オススメも説得もしませんよ」
「遂行はしていただけると。流石、心強いですね」
褒めたら、私のやる気が出ると思っているのか。
山南さんは爽やかにニコリと笑ってくれるが、今更だ。今、彼は私の事をよく動く駒程度にしか思っていない。
「土方君にはもう少し詰めてから提案しようかと」
「そうですね、あの頑固さんが概要だけで納得してくれるとは思えませんから。一旦解散で……松原さんはまだ大丈夫ですか?」
「こうして皆で動いていることで、すでに功を奏してるようだと私は考えています。独りで蟠(わだかま)っていた時よりも、彼はずっと良い表情をしている」
山南さんはフッと優しい眼をした。その顔は好きだ。
ハッキリと「大丈夫」と言える訳では無いが、その兆しがあるのだろう。
「じゃあ、今日は一旦解散…」
言いかけて振り返ると、お茶を淹れている酒井さんと目が合う。一瞬、彼の眉が下がり、悲しい顔をした。
「ごめんなさい、嘘です」
「えっ!あっ!? すみません、お気になさらず!!」
「お茶しましょ。お茶」
弥月が苦笑いしながらまた元の位置に座ると、一巡目に淹れてもらったお茶をフーフーと冷ましていた沖田は首を傾げる。
「何も決まってないのに解散?」
「他に良い案が今出なさそうなのと、山南さんの提案は要確認事項が多すぎるから保留で。一日時間ください」
「結構、呑気だね」
「会議はまず根回しですよ、沖田君」
実際そうとはいえ、根回しされてる身としては、言われると少し居心地が悪い。
けど…呑気って思ったってことは、沖田さんも知ってるんだ
なぜ彼が今日ここに居るのか大して気に留めていなかったが、羅刹化が早まっている件を承知しているということは、土方さんが彼に話したのだろう。
なんやかんや、土方さんも沖田さん頼るよね
”禄でもない弟分”のような言い方をよくするが、結局はこうなのだ。
それに、斎藤さんじゃなくて沖田さんを頼った理由は、なんとなく分かる。沖田さんは無関心のフリをしているだけで、周りをよく見ている。いつも軽口ばかりだけれど、相談事には真面目に話を聞くし、重いものを肩代わりしようとせず、程よい距離感で支えてくれる。
近藤さん、私が思ってたよりはきっと上手くやっていけそう
訊問使が発つ前日、江戸への手紙を飛脚問屋に出してきてほしいと、近藤さんに頼まれた。そこに書かれている沖田さんへの願い…近藤さんの夢。
それを「総司には言わないでほしいんだが」と教えてもらったとき、我が事のように嬉しい気持ちになったのに、あまりに儚い夢と気づいてからは、私は考える度に泣きそうになる。
けど、それを夢じゃなくて、現実にしていこうとする沖田さんが目の前にいる
一人で遠くを見ているのは嫌だった。目の前の人を大事にしたいと思った。
「そういえば、沖田さん。今日の梓月はどうでした?」
「そうだね、君よりは鍛え甲斐がありそう。走って逃げないし」
「来てたのか」
「はい。本人は道場破りの気持ちだったみたいですけど、木っ端微塵にされてて清々しかったです」
弥月がクスクスと笑うと、松原さんがフッと「私にも心当たりが」と笑った。
「経験上、その流れだと入隊志願してきますよ」
「止める。全力で止める」
「希望するなら入れたらいいだろ」
「反対。こんな人権ないとこ駄目」
「私もお手合わせ願いたいですねぇ」
「山南さんは一回顔合わせちゃってますから、良いんじゃないですか?」
それから、久しぶりに誰々と手合わせしたいだの、場所をどうするかだの、羅刹化はありかなしかだの……皆がお茶を飲み干すまで議論はつづいた。
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「次の作戦おねがいします」
二日後、羅刹隊の宿舎に集まっていた面々の前で、弥月は「お手上げ」と両手を上げた。皆が口をへの字に変えた中で、沖田が事も無げに言う。
「押し付けてくれば良かったんじゃないの?」
「考えましたけどね。長い目で見たら結果的には同じなんじゃないかって。でも、今回の目的が達成されるかと言えば微妙かなって」
問いかけを含んで松原さんを見ると、彼は肯定も否定もせずに「申し訳ありません」と頭を下げる。
「だから、代案お願してもいいですか? 土方さん」
「…俺はお前が渡して来るもんだと思ってたからな。脅してでも」
「土方さんの頭の中の私、極悪人ですね」
「やれるつもりで出掛けてったんだろ」
つまり、手段問わず終わらせてくると思われていたらしいけれど、もう少し配慮のできる人間だと自分では思う。
んー…
「時間どれだけ掛けてもいいなら、向こうが根負けするのを待ちますけど。日がな一日ふらふらしてて良い訳ですから」
「働け」
「って話になるじゃないですか」
弥月はパタパタと手を振って、土方へ『言われなくても分かってる』と示す。
この三日、文字通り街を徘徊してお気楽に過ごしていたが、途中、巡察している組を見かけたりすると、給料泥棒すぎてちょっと気が引けた。
「米にしたら食うんじゃねえか」
「俵何個運び込むつもりですか」
具体的にいくら預かったかは言わないが、巾着を見せるとその重みは伝わる。
「庭の埋蔵金にして掘らせろ」
「超非現実的…」
「子どもに宝の地図とか言って渡すのはどう?」
「…楽しそうで良い案だとは思います。けど、私とのやり取りの後にそんな都合の良すぎる事が起きても、あんまり意味が無いような気もします」
お金が手に渡ればそれでいいと云うのなら、家の中に放り入れてくる。流石に突き返してくる蛮勇はないだろう。
「…宝くじって概念、ここにあります?」
「富くじの事でしたら、禁止されていますよ」
山南さんから『富くじ』あるいは『御免富』などと呼ばれる賭け事の説明をしてもらったが、限りなく宝くじの事だった。幕府から禁止令が出ているらしい。
弥月が「じゃあ駄目だ」と呟くと、酒井は「もし」と。
「所謂、非認可の『隠富』というものもありますので。監察方の川島君が詳しいとは思いますが…」
「…大丈夫です。そこまで足つっこむ気も、つっこませる気も無いので」
勘定方だった酒井さんが隊士の金周りに詳しいのはまだ分かるけれど、川島の守備範囲も把握しているのはどういう事だろうか。単純に古参同士で、実は仲が良いとかであってほしい。
もういっそ、断られて来たらいいんじゃないの
女にとっては『松原は生きてる』のだ。あの様子だと、再会したとて、彼女は二度とその名を口にすることはないだろうと私は思う。
ただ、土方さんがその前例を良しとしない。
この三人だから自重するし、指示も通るし、『例外』や『個別の事案』というものを理解する。けれど、今後羅刹化が進行した時や、人数が増えた場合を想定しているのだろう。そもそもが統御できなくなる前提の存在なのだ。
羅刹に基本的人権があるかどうか
私にも無いのに、有るはずがない
「弥月君、少し…」
「はい?」
明らかに会議が煮詰まったところで、山南さんが立ち上がりちょいちょいと私を手招いた。部屋の隅で「耳を」と口元に手をあてて、小さな声で囁く。
あからさまに内緒話をする二人を横目に、酒井は「お湯が沸きましたね」と腰を上げ、松原は「先日、矢代君にいただいた落雁が」と同じく勝手場へと下りる。
「……そうですね……ええ。はい……たぶん………いえ、多少の予算さえあれば…」
準備はできるけど…
山南さんの提案を突っぱねはしないが、私は『厳しい』という表情で返した。
「でも、そんなに上手くはいかないんじゃ…」
「不可能でしょうか?」
「…工程が複雑すぎるのと、不確定要素が多すぎて、想定通りになるとは思えないんですけど」
「なるほど、用心深いですね。弥月君に首尾よく動いていただかないと試せもしないので、まずは心持ちを伺いたいのですが、反対ですか?」
「……」
…また反対しにくい聞き方を
新たな作戦が成功を前提としているのではなく、ただ試すだけなら無理ではない。手段が大きく変わったが、目的や結果という点では同じだ。私も同じ発想だったから反対する理由がない。
「オススメも説得もしませんよ」
「遂行はしていただけると。流石、心強いですね」
褒めたら、私のやる気が出ると思っているのか。
山南さんは爽やかにニコリと笑ってくれるが、今更だ。今、彼は私の事をよく動く駒程度にしか思っていない。
「土方君にはもう少し詰めてから提案しようかと」
「そうですね、あの頑固さんが概要だけで納得してくれるとは思えませんから。一旦解散で……松原さんはまだ大丈夫ですか?」
「こうして皆で動いていることで、すでに功を奏してるようだと私は考えています。独りで蟠(わだかま)っていた時よりも、彼はずっと良い表情をしている」
山南さんはフッと優しい眼をした。その顔は好きだ。
ハッキリと「大丈夫」と言える訳では無いが、その兆しがあるのだろう。
「じゃあ、今日は一旦解散…」
言いかけて振り返ると、お茶を淹れている酒井さんと目が合う。一瞬、彼の眉が下がり、悲しい顔をした。
「ごめんなさい、嘘です」
「えっ!あっ!? すみません、お気になさらず!!」
「お茶しましょ。お茶」
弥月が苦笑いしながらまた元の位置に座ると、一巡目に淹れてもらったお茶をフーフーと冷ましていた沖田は首を傾げる。
「何も決まってないのに解散?」
「他に良い案が今出なさそうなのと、山南さんの提案は要確認事項が多すぎるから保留で。一日時間ください」
「結構、呑気だね」
「会議はまず根回しですよ、沖田君」
実際そうとはいえ、根回しされてる身としては、言われると少し居心地が悪い。
けど…呑気って思ったってことは、沖田さんも知ってるんだ
なぜ彼が今日ここに居るのか大して気に留めていなかったが、羅刹化が早まっている件を承知しているということは、土方さんが彼に話したのだろう。
なんやかんや、土方さんも沖田さん頼るよね
”禄でもない弟分”のような言い方をよくするが、結局はこうなのだ。
それに、斎藤さんじゃなくて沖田さんを頼った理由は、なんとなく分かる。沖田さんは無関心のフリをしているだけで、周りをよく見ている。いつも軽口ばかりだけれど、相談事には真面目に話を聞くし、重いものを肩代わりしようとせず、程よい距離感で支えてくれる。
近藤さん、私が思ってたよりはきっと上手くやっていけそう
訊問使が発つ前日、江戸への手紙を飛脚問屋に出してきてほしいと、近藤さんに頼まれた。そこに書かれている沖田さんへの願い…近藤さんの夢。
それを「総司には言わないでほしいんだが」と教えてもらったとき、我が事のように嬉しい気持ちになったのに、あまりに儚い夢と気づいてからは、私は考える度に泣きそうになる。
けど、それを夢じゃなくて、現実にしていこうとする沖田さんが目の前にいる
一人で遠くを見ているのは嫌だった。目の前の人を大事にしたいと思った。
「そういえば、沖田さん。今日の梓月はどうでした?」
「そうだね、君よりは鍛え甲斐がありそう。走って逃げないし」
「来てたのか」
「はい。本人は道場破りの気持ちだったみたいですけど、木っ端微塵にされてて清々しかったです」
弥月がクスクスと笑うと、松原さんがフッと「私にも心当たりが」と笑った。
「経験上、その流れだと入隊志願してきますよ」
「止める。全力で止める」
「希望するなら入れたらいいだろ」
「反対。こんな人権ないとこ駄目」
「私もお手合わせ願いたいですねぇ」
「山南さんは一回顔合わせちゃってますから、良いんじゃないですか?」
それから、久しぶりに誰々と手合わせしたいだの、場所をどうするかだの、羅刹化はありかなしかだの……皆がお茶を飲み干すまで議論はつづいた。
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