姓は「矢代」で固定
第1話 誘われて
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松原side
呼ばれる声が聞こえて、私は意識を取り戻した。
けれど、薄闇にわずかに目を開けても、頭はハッキリとしない。それなのに腹は焼けるように痛いし、身体は重い。気分が悪く、息をするのも苦して。
これが 死か
一思いに逝けたら楽だと思っていたが、今のこの苦痛が自分には相応しい。そして、もう一度この意識を手放してしまえば、二度と目覚められないのだと悟った。
目を開けているのすら億劫で、再び瞼を閉じる。
申し訳ありません、局長、副長
「松原さん、お久しぶりですね」
居るはずのない人の声だった。
「…まさか総長が迎えにきてくださるとは…僥倖です。ありがとうございます」
「…ええ。迎えに来ましたよ」
その優しい声に、思いがけず懐かしい顔が見れるのならばと、再び目を開けて視線を傾ける。久しぶりに見た総長の顔は、悲しげに歪んでいた。
松原は思う。出会った頃の山南さんだ、と。
山南さんなら自分の過ちを頭ごなしに否定せず、話を聞き、正しく戒め、地獄でも伴に居てくれるだろうと。
懐かしい人達に会えるなら、死も悪いものでもないかもしれない
先に逝った友の姿を思い起こした。遺る人達のことも過ぎったが、頼もしい人達だから、心配することはないだろうと思う。
「貴方は自分を恥じて、死を選びました」
「…はい」
「残った生を、新選組のために使う気はありませんか?」
「…?」
迎えに来たのではないのだろうか
山南さんなら、生きなさいと言って下さるか…
「私も生き恥を晒すより、死人となること選びました。ただ、死人となる代わりにこの腕を取り戻し、近藤さんや土方君とともに、残りの生を誠の忠義に尽くそうと決意を新たにしました」
「…」
「松原さん、この薬を飲めば傷が治り、残った生命をまだ使うことができます。ただ、代わりに貴方は人ではなくなる……夜にしか生きられない、血をすする化け物になります」
「あなた、は…」
「まーたそんな言い方して」
場にそぐわない飄々とした声。
「沖田君」
「って。どこぞの誰かさんなら、そう言うでしょうね」
山南さんは振りかえって、彼と話をする。急にそれが現実のようにも聞こえた。
沖田、君…?
私以外にも山南さんが見えているというのなら、これは幻ではなく夢だったのかもしれない。それでもこの身体の苦しさは、間違いなく此岸(しがん)の縁に立っているのだろう。
「松原さん、もう一度言います。今の生を捨て、残りの全てを誠の旗に捧げる気はありませんか?」
「松原さん、夢じゃねぇんだ。あんたの最期の選択になる、よく考えてくれ」
「土方さん…?」
気配を消してはいたが、治療室にある二カ所の出入り口の、片側には土方、片側には沖田が控えていた。
「生き返ったって、状況は何も変わらない。むしろ、切腹する前より状況は悪くなる……それでも俺達と共に進んではくれないか」
生き返る…?
「総長…」
「…そう呼ばれるのも久しぶりですね。もし、新選組を大切に思っていただけるなら、私と共に夜の片隅に生きるのはどうでしょうか」
新選組
その戸を叩いた二年前の春。浪士組の噂を聞いて、その日は大阪で開いていた道場を門人に任せ、懐かしい顔を見に来た。
変わらぬ旧知の人達と、新たに出会った猛者。彼らの遥かに高い志。
仲間になれば苦労するだろうと考えるまでもなかったが、それでも世を憂い、正しい日本の在り方を語る男たちの姿……共に目指したいと思った。彼らを見て、自分のために身分を捨てたこの身を恥じた。狂瀾怒濤の時代に、この力を役に立てたいと思った。
この乱世に、自分たちが先頭で走っているのだと感じる日々。
尊い信念とともに育っていく、慕ってくれる隊士達。
仲間と作り上げた『新選組』が誇らしかった。
「まだ…」
息ができなかった。ヒュッと吸い込んだものを全て吐き出しても、伝えたい言葉を紡げなかった。
「すべき事が、あるでしょう、かっ…?」
「…それは御自分で見つけるしかありません」
無条件に救われる選択ではないのだと、総長は何一つ隠さなかった。
それでも総長は生きることを諦めなかった。大切なものがあったから。
私は