姓は「矢代」で固定
第1話 誘われて
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***
クソッ…なんで…!!
そんなつもりで話をしたんじゃない。
手を離すと湧き出る血を抑えながら、土方は医者を待つこの時間を、まるで永遠のように長く感じた。
土方side
松原さんの容体が良いから、今日で治療室から離れてもらうことにするのはどうかと、千鶴から相談があった。腹の傷はまだ痛むようだが、熱も下がり、食事も消化に良いものをきちんと食べられているという。
巡察はまだ早いとしても、彼の明日からの身の振り方について説明するため、近藤さんと治療室に赴いた。
見舞いに来ていたらしい室内にいた永倉へ、誰も入ってこさせないようにと、廊下で待機させると。松原も、土方らが来たのはただの見舞いではないと察して、布団を畳み、向かい合って正座をした。
「今回の件、調べは着いてる」
松原さんはそう言われる事を予想していたようだった。絶望した顔をしたが、驚いてはいなかった。
「…そうですか。流石、山崎君達だ」
「女とは話をつけてある。もう関わるな」
その言葉に、松原は身を縮めるようにしてわずかに震えた。
「…申し訳御座いません」
けれど、彼は静かに静かに、腹の傷を庇うことすらなく、近藤さんと俺へ手を付いた。
「松原君を失うのは隊にとって大きな痛手だ。無かったことにしてほしい」
「…はい」
松原は平伏したまま動かなかった。
隊務に出られない期間の減俸処分についても説明をしたが、松原は頭を下げたまま「はい」と返事はするものの、眉ひとつ動かさなかった。
形式的な処分は必要だが、罰がなくてもこの男が自ら悔い改めるだろうことは疑いようがなかった。
「雪村へ、引き続き傷を看るようには伝えるが、今日中に四番組の部屋に戻れ」
「…はい」
彼にも気持ちの整理の時間も必要だろうと、俺たちは部屋を出る。そして、話が聞こえていただろう新八の肩を去り際に叩いた。新八も納得したように小さく数度頷く。
近藤は彼の様子が気になって、もう一度振り返った。
「松原!」
!?
彼の枕元にあった大小。それはまるで景色のようで、そこにある事に何の疑いも違和感も、俺たちは感じていなかった。
松原さんのことは皆が好きだった。生来の穏やかな性格と、身につけている技量…そのズレが魅力的な人だった。
壬生狼仕組がまだ組織として成り立っていなかったあの頃。彼は前川邸にふらりと現れて、仲間にしてほしいと、虫も殺せないような顔で、大きな薙刀を携えて言った。
自ら前に出てくる人ではなかったが、陰日向に新選組を支えて続けてくれていた。
松原が逆手に握った刃からは血が滴り落ち、着物の染みが赤く広がっていった。
近藤さんが手首をつかんで小太刀を放させる。俺が無理矢理に押し倒して着物を開くと、縫い糸とは別で、掻っ切られた腹の傷から血が溢れていた。
「馬鹿か!」
思わず叫んだ。
「誰が腹切れなんて言った!!」
そこにあった布で上から押さえる。すぐに布はじっとりと鮮やかな赤色に染まっていく。
松原は苦痛に顔を歪め、涙を滲ませていたが、まっすぐに俺を見た。
「斬るべきだと…私が思いました」
「勝手に決めんな!」
「松原……俺は君に生きていてほしいと思ったんだ。それは伝わらなかったか…」
近藤は彼の右手を押さえたまま、唸るように声を絞り出した。
「――っ、申し訳ありません、局長。それでも…」
たかが女に一回振られたくらいで
そう思ったが口には出さなかった。人との関係を『たかが』と思えないから、この男は皆に好かれていた。
「駄目だ。死ぬんじゃねぇ」
「…死なせて、下さい」
松原は泣いた。
「あの人に…死ねと願われて、私はその覚悟をしたのに……生き恥を晒すわけには行きません」
「言っただろう?! 女には話をつけてある!」
「それでは…それでは申し訳が立ちません…!」
「お前は…ッ」
真面目過ぎる男だった。
医者を呼んでくると出て行った永倉が呼んだのか、騒ぎが聞こえたのか、バタバタと何人か隊士が駆け込んで来る。
「雪村を呼べ!」
「山崎さんは」
「いねぇんだよ畜生!!」
「土方さん、近藤さん…」
「松原君、言い訳は後で聞く。俺達は君に四番組に戻るようにと言ったんだ。君の勝手は許さない」
近藤がくぐもった声でそう言うと、松原は顔を歪めフッと息を溢して「ひどい御人だ」と、空いていた左腕で顔を隠した。
クソッ…なんで…!!
そんなつもりで話をしたんじゃない。
手を離すと湧き出る血を抑えながら、土方は医者を待つこの時間を、まるで永遠のように長く感じた。
土方side
松原さんの容体が良いから、今日で治療室から離れてもらうことにするのはどうかと、千鶴から相談があった。腹の傷はまだ痛むようだが、熱も下がり、食事も消化に良いものをきちんと食べられているという。
巡察はまだ早いとしても、彼の明日からの身の振り方について説明するため、近藤さんと治療室に赴いた。
見舞いに来ていたらしい室内にいた永倉へ、誰も入ってこさせないようにと、廊下で待機させると。松原も、土方らが来たのはただの見舞いではないと察して、布団を畳み、向かい合って正座をした。
「今回の件、調べは着いてる」
松原さんはそう言われる事を予想していたようだった。絶望した顔をしたが、驚いてはいなかった。
「…そうですか。流石、山崎君達だ」
「女とは話をつけてある。もう関わるな」
その言葉に、松原は身を縮めるようにしてわずかに震えた。
「…申し訳御座いません」
けれど、彼は静かに静かに、腹の傷を庇うことすらなく、近藤さんと俺へ手を付いた。
「松原君を失うのは隊にとって大きな痛手だ。無かったことにしてほしい」
「…はい」
松原は平伏したまま動かなかった。
隊務に出られない期間の減俸処分についても説明をしたが、松原は頭を下げたまま「はい」と返事はするものの、眉ひとつ動かさなかった。
形式的な処分は必要だが、罰がなくてもこの男が自ら悔い改めるだろうことは疑いようがなかった。
「雪村へ、引き続き傷を看るようには伝えるが、今日中に四番組の部屋に戻れ」
「…はい」
彼にも気持ちの整理の時間も必要だろうと、俺たちは部屋を出る。そして、話が聞こえていただろう新八の肩を去り際に叩いた。新八も納得したように小さく数度頷く。
近藤は彼の様子が気になって、もう一度振り返った。
「松原!」
!?
彼の枕元にあった大小。それはまるで景色のようで、そこにある事に何の疑いも違和感も、俺たちは感じていなかった。
松原さんのことは皆が好きだった。生来の穏やかな性格と、身につけている技量…そのズレが魅力的な人だった。
壬生狼仕組がまだ組織として成り立っていなかったあの頃。彼は前川邸にふらりと現れて、仲間にしてほしいと、虫も殺せないような顔で、大きな薙刀を携えて言った。
自ら前に出てくる人ではなかったが、陰日向に新選組を支えて続けてくれていた。
松原が逆手に握った刃からは血が滴り落ち、着物の染みが赤く広がっていった。
近藤さんが手首をつかんで小太刀を放させる。俺が無理矢理に押し倒して着物を開くと、縫い糸とは別で、掻っ切られた腹の傷から血が溢れていた。
「馬鹿か!」
思わず叫んだ。
「誰が腹切れなんて言った!!」
そこにあった布で上から押さえる。すぐに布はじっとりと鮮やかな赤色に染まっていく。
松原は苦痛に顔を歪め、涙を滲ませていたが、まっすぐに俺を見た。
「斬るべきだと…私が思いました」
「勝手に決めんな!」
「松原……俺は君に生きていてほしいと思ったんだ。それは伝わらなかったか…」
近藤は彼の右手を押さえたまま、唸るように声を絞り出した。
「――っ、申し訳ありません、局長。それでも…」
たかが女に一回振られたくらいで
そう思ったが口には出さなかった。人との関係を『たかが』と思えないから、この男は皆に好かれていた。
「駄目だ。死ぬんじゃねぇ」
「…死なせて、下さい」
松原は泣いた。
「あの人に…死ねと願われて、私はその覚悟をしたのに……生き恥を晒すわけには行きません」
「言っただろう?! 女には話をつけてある!」
「それでは…それでは申し訳が立ちません…!」
「お前は…ッ」
真面目過ぎる男だった。
医者を呼んでくると出て行った永倉が呼んだのか、騒ぎが聞こえたのか、バタバタと何人か隊士が駆け込んで来る。
「雪村を呼べ!」
「山崎さんは」
「いねぇんだよ畜生!!」
「土方さん、近藤さん…」
「松原君、言い訳は後で聞く。俺達は君に四番組に戻るようにと言ったんだ。君の勝手は許さない」
近藤がくぐもった声でそう言うと、松原は顔を歪めフッと息を溢して「ひどい御人だ」と、空いていた左腕で顔を隠した。