姓は「矢代」で固定
第1話 誘われて
混沌夢主用・名前のみ変更可能
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***
「こちら兄です」
「弥月の兄です。矢代梓月です」
その緑の男と広間に一緒に来るように言われて、梓月と手を繋いで行くと、私の事情を知る人たちが部屋に勢揃いしていた。山南さんまで居る。
「その…梓月君も150年後から来たという事で良いのだろうか?」
近藤がわずかに困惑した表情で問いかけると、梓月は「ハイッ」とカチカチに緊張した声で返事をする。そして小さい声で「この人達、どのくらい怖い?」と訊くので、弥月は笑って「普通にしゃべって大丈夫」と答える。
梓月と皆が同じ空間にいることに、弥月はとてもとても不思議を感じていた。それでも、兄を見ては陽だまりにいるような顔をする彼女へ、みんなが説明を求めて視線を向ける。
あ、私が訊けばいい感じね
ここに座るまで、お互い元気だとか怪我してないかとか、そんな話しかできていなかった。
「梓月はいつから居たの?」
「七月末、もう一カ月な。俺、薩摩藩邸にワープしてきてさ。なんで弥月は新選組にいるんだ?」
「私がワープしたのたぶん道場の位置でね。そこはただの道端だったんだけど、たまたまこの人たちに拾われて、衣食住ゲットした感じなんだよね。
梓月は薩摩藩邸で養ってもらってたの?」
「とりあえず。英語がちょっとできる外国育ちのフリしてさ。でもそろそろガチで働かなきゃヤバい雰囲気になってきたから困ってたとこ」
「あーね。この時代って、食客って実質ニートが許されるらしいんだけど、今物価高で薩摩も家計厳しいんだろうね」
「へえ、それでか。てかさ、鹿児島弁って日本語じゃないからアウェイ感すごくてさ、すっげー居心地悪いの。
んで、新選組に時渡りに詳しい人がいるって聞いたから会いに来たら、まさかの弥月だったってわけ」
「…なんで会いに来て無理矢理侵入するの」
「いや、俺は門からしか入れねぇって言ったよ? でもさ、風間さんがさ、俺らは正面からは入れないって言うからさ…」
「あ…うん、まあ…それはそうかも…」
「やっぱこのカラー染めとくべきだったわ」
「問題はそこじゃない」
周りを全く気にしない兄弟の会話が展開していたが、細かいことを気にしなければ、話の概要はなんとか全員に伝わっていた。
「その風間はどこいったの?」
「分かんねぇ、俺見捨てられたっぽい」
「気の毒すぎるけど、やりそうで草」
「草生やすな。しかも直前まで、俺、神子とか言われて、超リスペクトされてたんだよ? なのにあんなバカみたいな垂直跳びできないからって、置いていくことなくね? 急にオリンピックかよ」
重要な事をそれぞれ語ってはいたのだが。二人とも気を遣わずに会話すること自体が楽しすぎて、細かいことを問い返すよりも話したい気持ちが勝っていた。
そのゆるい空気を感じた斎藤が、「矢代」と指摘する。
「「はい」」
「…弥月の方だ」
「はいはい、私」
「雑談の場ではない。状況の整理だ」
「そうでした。つい」
叱られてもえへへと楽しそうに笑う弥月に、皆が苦笑して。左之助は「久しぶりの邂逅に、まあ無茶な話だとは思うけどな」と助け船を出す。
その全員の温かい眼差しを見て、梓月はホッとした表情で小さく息を吐く。
「弥月はここで働いてるのか?」
「うん」
「池田屋とか終わってんだろ?」
「ストップ。それはポロッとタイムパラドックス的なことやらかしそう」
「あ、ごめん」
ごめんじゃない
未来を知ってるか知らないか論議が、また発生しかねない。みんなが穏やかな表情で見守ってくれているようで、一部の人の目つきが微妙に変わったことに気づくのは無理だろう。もはや、薩摩藩邸でもやらかして来てそうだ。
「私は下働きみたいなもんよ。家事雑用全般のなんでも屋さん。特技は郵便配達」
「料理できないのに、家政婦できるか?」
「…為せば成る。2年もやればね」
「2年?」
ん?
ここにきて初めて、梓月の表情が曇った。
「2年……いるよ?」
「は?」
「…待って。それ聞くの怖い」
半笑いで、咄嗟に耳を塞ぐ。
「弥月……歳、いくつ?」
「…知らない。永遠の17歳」
「おい」
彼に肩を揺すられる。そんなに重要なことじゃないよ、たぶん、きっと。
「弥月君は、こちらに来た時に季節がズレたそうですが、今は19歳のはずですよ。こちらの年齢では二十歳ですね」
「は?」
「詳しい解説ありがとうございます、山南さん…」
「弥月が年上…?」
「あ、そっかあ! 梓月が18なら、今日から梓月は弟だね!」
アハハッと笑うが、梓月はドン引きしていた。そんな顔されても、私のせいじゃないし。
曰く、梓月の過ごした時間感覚としては、江戸時代を含めても3ヶ月しか経っていないらしい。
「梓月君はどうやって来たの?」
唐突に沖田がそう尋ねた。彼にまで軌道修正されたのだと気付いて、弥月はやっべという顔で首を竦める。
「たぶん、これ…」
梓月の懐から出された巾着袋に見覚えはなかったが、中の和紙を広げるとよく見知った色の物が出てきた。
「…私の髪?」
「やっぱそうだよな? 持った瞬間に気づいたらこっちにいた」
弥月は首を傾げながら自分の前髪を摘む。過去未来問わず、今まで何度となく人に触られてきたけれど、目の前で人が消えたことなんてない。
梓月に頭を「はい」と差し出すと、彼はビクッとしながらもおずおずと触った。
「なんもねぇな…」
「だよね」
何かあったら困る
頷いたものの首を傾げる。私の時のワープと状況が似てはいるが、条件は違うようだった。
「てかさ、帰る方法は?」
「…あったら、とっくに帰ってるよねぇ」
「だよなぁ…」
大きな溜息を二人で吐いた。それでもこんなにも心強い。
そのとき、黙っていた土方さんが「梓月」と呼んで、彼が「はいッ」と返事をしながら背筋を正す。
「おまえは薩摩藩邸に戻るのか」
!!
「そ」
「近藤さん! すみません、薩摩藩に囲われてたみたいなんですけど、ここに置いてはもらえませんか?」
今の答えは迷ってはいけない。土方さんに間者に使われる可能性を孕んでいる。それは私の知らないところで、私をダシにされる可能性すらある。
待って。でも、ここに居たら薩摩藩に工作員だったと思われる可能性も…!
「…一緒にここを出た方が良いのではないかな?」
近藤さんが躊躇いがちに言ったことの意味がすぐに分からなかった。
…出る?
「ここに隊士として、兄君と一緒にいるのかい?」
「――ッ!」
「弥月、雑用係でも新選組の隊士なんだ? カッケェな」
「こうなってしまえば潮時だろう」
「待って、近藤さん!」
彼が何を言い出そうとしてるのか理解した。
私が隊士として働いているのを隠そうとしていること……近藤さんは家族に言えない事なのだと察してくれていた。
でも
理屈で言えばその道が最適なのだと思った。
でも
私がここに居たくて、みんなと進み続けてきた。最適を求めたわけじゃない。
縋る思いで近藤さんを見るけれど、彼は私を見ていなかった。
「近藤さん。我々だけで話をしませんか? あまり大勢でする話でもありませんし」
近藤は晴れない表情をしていたが、山南の提案に小さく頷いた。
***
「こちら兄です」
「弥月の兄です。矢代梓月です」
その緑の男と広間に一緒に来るように言われて、梓月と手を繋いで行くと、私の事情を知る人たちが部屋に勢揃いしていた。山南さんまで居る。
「その…梓月君も150年後から来たという事で良いのだろうか?」
近藤がわずかに困惑した表情で問いかけると、梓月は「ハイッ」とカチカチに緊張した声で返事をする。そして小さい声で「この人達、どのくらい怖い?」と訊くので、弥月は笑って「普通にしゃべって大丈夫」と答える。
梓月と皆が同じ空間にいることに、弥月はとてもとても不思議を感じていた。それでも、兄を見ては陽だまりにいるような顔をする彼女へ、みんなが説明を求めて視線を向ける。
あ、私が訊けばいい感じね
ここに座るまで、お互い元気だとか怪我してないかとか、そんな話しかできていなかった。
「梓月はいつから居たの?」
「七月末、もう一カ月な。俺、薩摩藩邸にワープしてきてさ。なんで弥月は新選組にいるんだ?」
「私がワープしたのたぶん道場の位置でね。そこはただの道端だったんだけど、たまたまこの人たちに拾われて、衣食住ゲットした感じなんだよね。
梓月は薩摩藩邸で養ってもらってたの?」
「とりあえず。英語がちょっとできる外国育ちのフリしてさ。でもそろそろガチで働かなきゃヤバい雰囲気になってきたから困ってたとこ」
「あーね。この時代って、食客って実質ニートが許されるらしいんだけど、今物価高で薩摩も家計厳しいんだろうね」
「へえ、それでか。てかさ、鹿児島弁って日本語じゃないからアウェイ感すごくてさ、すっげー居心地悪いの。
んで、新選組に時渡りに詳しい人がいるって聞いたから会いに来たら、まさかの弥月だったってわけ」
「…なんで会いに来て無理矢理侵入するの」
「いや、俺は門からしか入れねぇって言ったよ? でもさ、風間さんがさ、俺らは正面からは入れないって言うからさ…」
「あ…うん、まあ…それはそうかも…」
「やっぱこのカラー染めとくべきだったわ」
「問題はそこじゃない」
周りを全く気にしない兄弟の会話が展開していたが、細かいことを気にしなければ、話の概要はなんとか全員に伝わっていた。
「その風間はどこいったの?」
「分かんねぇ、俺見捨てられたっぽい」
「気の毒すぎるけど、やりそうで草」
「草生やすな。しかも直前まで、俺、神子とか言われて、超リスペクトされてたんだよ? なのにあんなバカみたいな垂直跳びできないからって、置いていくことなくね? 急にオリンピックかよ」
重要な事をそれぞれ語ってはいたのだが。二人とも気を遣わずに会話すること自体が楽しすぎて、細かいことを問い返すよりも話したい気持ちが勝っていた。
そのゆるい空気を感じた斎藤が、「矢代」と指摘する。
「「はい」」
「…弥月の方だ」
「はいはい、私」
「雑談の場ではない。状況の整理だ」
「そうでした。つい」
叱られてもえへへと楽しそうに笑う弥月に、皆が苦笑して。左之助は「久しぶりの邂逅に、まあ無茶な話だとは思うけどな」と助け船を出す。
その全員の温かい眼差しを見て、梓月はホッとした表情で小さく息を吐く。
「弥月はここで働いてるのか?」
「うん」
「池田屋とか終わってんだろ?」
「ストップ。それはポロッとタイムパラドックス的なことやらかしそう」
「あ、ごめん」
ごめんじゃない
未来を知ってるか知らないか論議が、また発生しかねない。みんなが穏やかな表情で見守ってくれているようで、一部の人の目つきが微妙に変わったことに気づくのは無理だろう。もはや、薩摩藩邸でもやらかして来てそうだ。
「私は下働きみたいなもんよ。家事雑用全般のなんでも屋さん。特技は郵便配達」
「料理できないのに、家政婦できるか?」
「…為せば成る。2年もやればね」
「2年?」
ん?
ここにきて初めて、梓月の表情が曇った。
「2年……いるよ?」
「は?」
「…待って。それ聞くの怖い」
半笑いで、咄嗟に耳を塞ぐ。
「弥月……歳、いくつ?」
「…知らない。永遠の17歳」
「おい」
彼に肩を揺すられる。そんなに重要なことじゃないよ、たぶん、きっと。
「弥月君は、こちらに来た時に季節がズレたそうですが、今は19歳のはずですよ。こちらの年齢では二十歳ですね」
「は?」
「詳しい解説ありがとうございます、山南さん…」
「弥月が年上…?」
「あ、そっかあ! 梓月が18なら、今日から梓月は弟だね!」
アハハッと笑うが、梓月はドン引きしていた。そんな顔されても、私のせいじゃないし。
曰く、梓月の過ごした時間感覚としては、江戸時代を含めても3ヶ月しか経っていないらしい。
「梓月君はどうやって来たの?」
唐突に沖田がそう尋ねた。彼にまで軌道修正されたのだと気付いて、弥月はやっべという顔で首を竦める。
「たぶん、これ…」
梓月の懐から出された巾着袋に見覚えはなかったが、中の和紙を広げるとよく見知った色の物が出てきた。
「…私の髪?」
「やっぱそうだよな? 持った瞬間に気づいたらこっちにいた」
弥月は首を傾げながら自分の前髪を摘む。過去未来問わず、今まで何度となく人に触られてきたけれど、目の前で人が消えたことなんてない。
梓月に頭を「はい」と差し出すと、彼はビクッとしながらもおずおずと触った。
「なんもねぇな…」
「だよね」
何かあったら困る
頷いたものの首を傾げる。私の時のワープと状況が似てはいるが、条件は違うようだった。
「てかさ、帰る方法は?」
「…あったら、とっくに帰ってるよねぇ」
「だよなぁ…」
大きな溜息を二人で吐いた。それでもこんなにも心強い。
そのとき、黙っていた土方さんが「梓月」と呼んで、彼が「はいッ」と返事をしながら背筋を正す。
「おまえは薩摩藩邸に戻るのか」
!!
「そ」
「近藤さん! すみません、薩摩藩に囲われてたみたいなんですけど、ここに置いてはもらえませんか?」
今の答えは迷ってはいけない。土方さんに間者に使われる可能性を孕んでいる。それは私の知らないところで、私をダシにされる可能性すらある。
待って。でも、ここに居たら薩摩藩に工作員だったと思われる可能性も…!
「…一緒にここを出た方が良いのではないかな?」
近藤さんが躊躇いがちに言ったことの意味がすぐに分からなかった。
…出る?
「ここに隊士として、兄君と一緒にいるのかい?」
「――ッ!」
「弥月、雑用係でも新選組の隊士なんだ? カッケェな」
「こうなってしまえば潮時だろう」
「待って、近藤さん!」
彼が何を言い出そうとしてるのか理解した。
私が隊士として働いているのを隠そうとしていること……近藤さんは家族に言えない事なのだと察してくれていた。
でも
理屈で言えばその道が最適なのだと思った。
でも
私がここに居たくて、みんなと進み続けてきた。最適を求めたわけじゃない。
縋る思いで近藤さんを見るけれど、彼は私を見ていなかった。
「近藤さん。我々だけで話をしませんか? あまり大勢でする話でもありませんし」
近藤は晴れない表情をしていたが、山南の提案に小さく頷いた。
***