姓は「矢代」で固定
第10話 その先へ
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***
訂正。ホッとしたのは間違いだった。
草津で島田さんと合流して数日後。中山道に魁さんが、東海道に私が向かうことになり、それぞれ三名ずつ応援が追加された。
「あら、弥月さん。今日はなんだか雰囲気が?」
「あはは…雰囲気というか、色が明らかに違うと思いますれば。よく見つけて下さいました」
「その可愛らしいお顔を間違える訳がないじゃない。濃い色もよくお似合いね、素敵だわ」
「ありがとうございます〜」
日中に人探しをしているので、目立たないように染めているのだが。伊東さんは二度見することもなく、笠までかぶっている私に躊躇いなく声をかけた。
マジで目敏い
「進捗はいかがかしら?」
「特に何も。羽織は洛外で質に入れられてるのを一枚回収しましたが。以降、それらしい姿形も影も見当たらずという感じです」
「そう、困ったわねぇ…」
私の方が困ってる
目の前には伊東さん。その隣は彼のお気にりで、私をライバルとでも思っているのか敵視してくる九番組隊士。そして烝さん。
超・気まずい
「参謀。我々は先に宮の宿まで向かいますので、道中を細かに聞き込みしていただいても宜しいでしょうか」
「あら、先に行ってしまわれるの? お二人で大丈夫?」
「我々は捜索に徹します。見つけた場合は合流次第、参謀が説得に入ってください」
「私たちが見つけた場合は?」
「お任せします」
「承りました。お宿は取り決め通りにね。山崎さん、弥月さん、お気をつけて」
伊東はニコッと口元だけで笑う。
一緒が良かったか、別動で良かったかはビミョー…
どう組んでも微妙な関係の人しか来なかった。土方さんからの嫌がらせだ。
「行こう」
烝さんの声かけに「はい」と頷いて早足で歩き出す。
「宮の宿ってどこですか?」
「熱田だ」
「熱田ってどこですか?」
「…名古屋城の近くと言えば分かるか?」
「名古屋?!」
JRないの?
「どれくらいかかります?」
「桑名で問題なく舟渡しに乗れたら五日というところか」
「遠ッ!」
「鈴鹿山も越えるから覚悟してくれ」
「登山!」
「いや、道はある。登山ではないからな」
始めてのガチ遠出なのに、なぜか全く嬉しくない。
何故かというか、なんというか…
「弥月君、今回の装備はどれくらいだ?」
「宿場町周辺での捜索と捕縛だけと思ったので、お金と縄が多めなくらいですね。黒装束は持ってます。着るのそっちが良いですか?」
「いや、街道を行くだけだからこのままでいい。黒装束は逆に目立ってしまう。あと、名古屋城下も捜索の範囲のつもりだ」
私も烝さんも普段着だった。烝さんは町人に、私は二本差しで浪士に見えているはずだ。身分違いで共に行動するならば設定を考えなければ。
「もしかして黒装束の使い時も無いですか?」
「…かもしれない。黒頭巾なら染める手間がないかと考えたんだが……あまり追手は君には向いていないな」
「ホントそれです。京の残留を私にしてほしかった」
「それだと伊東派に偏り過ぎて、俺が動きづらい」
「それは確かに」
烝さん、普通だ。めっちゃ普通
まるでこの前の別れ際には何もなかったようだ。というか、何事もなかったことにするらしい。
そ、か
確かに何事も起こってない。だから、何もなかったのだ。
「あれ? じゃあ、勢力トントンで伊東さん達と分かれる必要なくないですか?」
「…目があると動きにくいだろう」
「別に?」
烝さんは表情だけで真偽を問うてくる。
「好きじゃありませんけど、あの人のことはそこまで苦手でもないです」
「あれだけ猫被っていて?」
「…半ば無意識、ですね。それは」
彼曰く、バリバリ警戒心むき出しに見えるらしい。仕方ないじゃないか、言うなれば、常に蛇と対峙しているような感覚だ。
「それは『苦手』で良いだろう」
「あー…まあ。私の苦手の感覚は、みなさんと方向性が違うかなと思って。
立場さえなければ、伊東さん話上手だし、見てて飽きないし面白いと人だなと思いますもん。私ゆとり以下だから上司は優しくなきゃ嫌だし、師範代であの腰の低さはもはや尊敬でしかない」
なぜか烝さんはそれに「そうか」と素っ気ない返事をした。褒めすぎただろうか。
「九番組の残りは実家も見に行かせるが…できれば先に見つけたい。最終的に伊東派が懐柔するにしても、減刑は副長らの恩赦があってこそという認識はほしい。彼らが隊に戻った後どう触れ回るかで、印象が大きく変わるからな」
「なるほど」
先ほどの伊東さんとの打ち合わせでは、発見しても合流するまで泳がせるのかと思ったが。先に捕縛し、副長代理として帰還の説得を試みるらしい。
それから五日、天気が崩れたりと小さな問題はあったが、二人は予定通りの行程で、東海道最大の宿場町熱田宿へと辿りついた。
「すごーい!!」
言われるがまま一緒に来たので、なぜ熱田宿なのかとは考えもしなかったけれど、理由は着いたらすぐに分かった。ここまでの宿場町よりも圧倒的に人が多い。草津とは比べ物にならない大都会…人と人と人と建物と物流。
木を隠すならなんとやらって事ね
「旅籠屋は200件あると言われてるからな。一人で一軒ずつ訪ねていたら数日かかる」
「すごー…」
「彼らには往来手形もないはずだが、副長は念のため新居関所…この先の江戸までの途中にある関所に、怪しければ止めるよう手紙を出したそうだ。
先程の渡し舟の男が言っていた者が彼らだとすると、早々に山越えに挑んでいないとしたら、この宿場あたりにいるだろう」
「はー…すごい」
阿呆な感想しか出てこないが仕方ない。
自分もかつては脱走しようとしていた身だ。手形がない場合にはどうしたらいいのか、土地勘のない山越えは危険だろうかとこっそり考えていたこともあった。けれど、ちょっとでものんびりしていると、こうして土方さんと監察方に計画的に捕まるのだと理解した。
「とりあえず問屋場押さえて、今日の宿、先に決めに行きます?」
「そうだな。空きは確認しておこう」
二人で脇本陣に泊まる程の名目も予算もない。情報収集としても標的を見かける可能性がある安宿を選んだ。
因みに、丁度お盆の時季にかかるので、私たちは『掛け売りの代金を踏み倒した男達を追いかけている、揚屋の店員と雇われ浪人』という設定だ。盆と年末は絶対に清算してもらう時季らしいが、新八さんは大丈夫だろうか。
宿の雰囲気を確認するついでに、弥月は客引きの下女…飯盛り女に男達の特徴を話してみる。
「…――っていう感じの二人か三人組知りませんか?」
しかし、道々にいる何人か捕まえて数回繰り返してみても「知らんにゃあ」と答えが返ってくる。
「弥月君、なぜ二人なんだ?」
「ふつうに三人かもなんですけど。質に羽織一枚あったから、もしかしたらその人だけ別行動かもなって」
「三人のうちの誰の羽織かは分かっているのか?」
「あー…それが分かったらもう少し絞りやすいですね。屯所に羽織送ったので、土方さんに依頼しましょうか」
「そうしよう」
「お兄さんら、泊まるん? 泊まらんの?」
そろそろ陽も暮れてきた。不満そうにする下女を前に、二人は顔を含めて仕方ないと頷き合った。
この五日で分かった事には、一泊二食付きの安い旅籠に泊まろうとすると、食堂での飯盛り女や按摩の営業、果ては部屋の中にまで土産物の売り込みがやってくる。「要らない」と断るのも一苦労だ。
「お侍さん、キレェなお顔やねぇ。あたしと一緒に一晩夢見ぃひん?」
「すみません。私、不能なもので」
「そこの若旦那。えらくお疲れのようだ! 熱田の足つぼ仙人と言われたオイラに任せれば、明日は羽が生えたように歩けること間違いなしだがや!」
「結構。鍼は俺の専門分野だ」
だから、毎日これの繰り返し
今日の襲撃を一通り追い払い、部屋に布団を敷く。
「明日から分かれて宿を聞き込みですか?」
「そうだな…すぐそこに奉行所があるらしいから、先に依頼しておこう。それから分かれて宿場町全体に通報依頼を入れる。城下は後だな」
「そういえば、この捜索の期限っていつまでですか?」
予想外に『名古屋』は範囲が広かった。期間を延ばしたところで、捜査の手をすり抜けて江戸へ戻ってしまう気がする。
「状況次第だが一ヶ月だな」
「…まあ妥当ですね。ちょっと頭洗いに勝手場借りてきます。正直限界」
「…気をつけて」
階下へ降りて、勝手場の土間で行灯の薄暗い灯の中、五日ぶりに頭を洗う。痒くならないよう梳いては墨を染め足し、油も足して過ごしているが、毎日長距離歩いてこれは結構辛い。
ってか、臭ってたら泣ける
烝さんは湯屋に行けるが、私はそれができない。
弥月はカチカチになった髪を四苦八苦しながら解して、身を隠しての長期出張など二度とするかと心に決めた。
***
訂正。ホッとしたのは間違いだった。
草津で島田さんと合流して数日後。中山道に魁さんが、東海道に私が向かうことになり、それぞれ三名ずつ応援が追加された。
「あら、弥月さん。今日はなんだか雰囲気が?」
「あはは…雰囲気というか、色が明らかに違うと思いますれば。よく見つけて下さいました」
「その可愛らしいお顔を間違える訳がないじゃない。濃い色もよくお似合いね、素敵だわ」
「ありがとうございます〜」
日中に人探しをしているので、目立たないように染めているのだが。伊東さんは二度見することもなく、笠までかぶっている私に躊躇いなく声をかけた。
マジで目敏い
「進捗はいかがかしら?」
「特に何も。羽織は洛外で質に入れられてるのを一枚回収しましたが。以降、それらしい姿形も影も見当たらずという感じです」
「そう、困ったわねぇ…」
私の方が困ってる
目の前には伊東さん。その隣は彼のお気にりで、私をライバルとでも思っているのか敵視してくる九番組隊士。そして烝さん。
超・気まずい
「参謀。我々は先に宮の宿まで向かいますので、道中を細かに聞き込みしていただいても宜しいでしょうか」
「あら、先に行ってしまわれるの? お二人で大丈夫?」
「我々は捜索に徹します。見つけた場合は合流次第、参謀が説得に入ってください」
「私たちが見つけた場合は?」
「お任せします」
「承りました。お宿は取り決め通りにね。山崎さん、弥月さん、お気をつけて」
伊東はニコッと口元だけで笑う。
一緒が良かったか、別動で良かったかはビミョー…
どう組んでも微妙な関係の人しか来なかった。土方さんからの嫌がらせだ。
「行こう」
烝さんの声かけに「はい」と頷いて早足で歩き出す。
「宮の宿ってどこですか?」
「熱田だ」
「熱田ってどこですか?」
「…名古屋城の近くと言えば分かるか?」
「名古屋?!」
JRないの?
「どれくらいかかります?」
「桑名で問題なく舟渡しに乗れたら五日というところか」
「遠ッ!」
「鈴鹿山も越えるから覚悟してくれ」
「登山!」
「いや、道はある。登山ではないからな」
始めてのガチ遠出なのに、なぜか全く嬉しくない。
何故かというか、なんというか…
「弥月君、今回の装備はどれくらいだ?」
「宿場町周辺での捜索と捕縛だけと思ったので、お金と縄が多めなくらいですね。黒装束は持ってます。着るのそっちが良いですか?」
「いや、街道を行くだけだからこのままでいい。黒装束は逆に目立ってしまう。あと、名古屋城下も捜索の範囲のつもりだ」
私も烝さんも普段着だった。烝さんは町人に、私は二本差しで浪士に見えているはずだ。身分違いで共に行動するならば設定を考えなければ。
「もしかして黒装束の使い時も無いですか?」
「…かもしれない。黒頭巾なら染める手間がないかと考えたんだが……あまり追手は君には向いていないな」
「ホントそれです。京の残留を私にしてほしかった」
「それだと伊東派に偏り過ぎて、俺が動きづらい」
「それは確かに」
烝さん、普通だ。めっちゃ普通
まるでこの前の別れ際には何もなかったようだ。というか、何事もなかったことにするらしい。
そ、か
確かに何事も起こってない。だから、何もなかったのだ。
「あれ? じゃあ、勢力トントンで伊東さん達と分かれる必要なくないですか?」
「…目があると動きにくいだろう」
「別に?」
烝さんは表情だけで真偽を問うてくる。
「好きじゃありませんけど、あの人のことはそこまで苦手でもないです」
「あれだけ猫被っていて?」
「…半ば無意識、ですね。それは」
彼曰く、バリバリ警戒心むき出しに見えるらしい。仕方ないじゃないか、言うなれば、常に蛇と対峙しているような感覚だ。
「それは『苦手』で良いだろう」
「あー…まあ。私の苦手の感覚は、みなさんと方向性が違うかなと思って。
立場さえなければ、伊東さん話上手だし、見てて飽きないし面白いと人だなと思いますもん。私ゆとり以下だから上司は優しくなきゃ嫌だし、師範代であの腰の低さはもはや尊敬でしかない」
なぜか烝さんはそれに「そうか」と素っ気ない返事をした。褒めすぎただろうか。
「九番組の残りは実家も見に行かせるが…できれば先に見つけたい。最終的に伊東派が懐柔するにしても、減刑は副長らの恩赦があってこそという認識はほしい。彼らが隊に戻った後どう触れ回るかで、印象が大きく変わるからな」
「なるほど」
先ほどの伊東さんとの打ち合わせでは、発見しても合流するまで泳がせるのかと思ったが。先に捕縛し、副長代理として帰還の説得を試みるらしい。
それから五日、天気が崩れたりと小さな問題はあったが、二人は予定通りの行程で、東海道最大の宿場町熱田宿へと辿りついた。
「すごーい!!」
言われるがまま一緒に来たので、なぜ熱田宿なのかとは考えもしなかったけれど、理由は着いたらすぐに分かった。ここまでの宿場町よりも圧倒的に人が多い。草津とは比べ物にならない大都会…人と人と人と建物と物流。
木を隠すならなんとやらって事ね
「旅籠屋は200件あると言われてるからな。一人で一軒ずつ訪ねていたら数日かかる」
「すごー…」
「彼らには往来手形もないはずだが、副長は念のため新居関所…この先の江戸までの途中にある関所に、怪しければ止めるよう手紙を出したそうだ。
先程の渡し舟の男が言っていた者が彼らだとすると、早々に山越えに挑んでいないとしたら、この宿場あたりにいるだろう」
「はー…すごい」
阿呆な感想しか出てこないが仕方ない。
自分もかつては脱走しようとしていた身だ。手形がない場合にはどうしたらいいのか、土地勘のない山越えは危険だろうかとこっそり考えていたこともあった。けれど、ちょっとでものんびりしていると、こうして土方さんと監察方に計画的に捕まるのだと理解した。
「とりあえず問屋場押さえて、今日の宿、先に決めに行きます?」
「そうだな。空きは確認しておこう」
二人で脇本陣に泊まる程の名目も予算もない。情報収集としても標的を見かける可能性がある安宿を選んだ。
因みに、丁度お盆の時季にかかるので、私たちは『掛け売りの代金を踏み倒した男達を追いかけている、揚屋の店員と雇われ浪人』という設定だ。盆と年末は絶対に清算してもらう時季らしいが、新八さんは大丈夫だろうか。
宿の雰囲気を確認するついでに、弥月は客引きの下女…飯盛り女に男達の特徴を話してみる。
「…――っていう感じの二人か三人組知りませんか?」
しかし、道々にいる何人か捕まえて数回繰り返してみても「知らんにゃあ」と答えが返ってくる。
「弥月君、なぜ二人なんだ?」
「ふつうに三人かもなんですけど。質に羽織一枚あったから、もしかしたらその人だけ別行動かもなって」
「三人のうちの誰の羽織かは分かっているのか?」
「あー…それが分かったらもう少し絞りやすいですね。屯所に羽織送ったので、土方さんに依頼しましょうか」
「そうしよう」
「お兄さんら、泊まるん? 泊まらんの?」
そろそろ陽も暮れてきた。不満そうにする下女を前に、二人は顔を含めて仕方ないと頷き合った。
この五日で分かった事には、一泊二食付きの安い旅籠に泊まろうとすると、食堂での飯盛り女や按摩の営業、果ては部屋の中にまで土産物の売り込みがやってくる。「要らない」と断るのも一苦労だ。
「お侍さん、キレェなお顔やねぇ。あたしと一緒に一晩夢見ぃひん?」
「すみません。私、不能なもので」
「そこの若旦那。えらくお疲れのようだ! 熱田の足つぼ仙人と言われたオイラに任せれば、明日は羽が生えたように歩けること間違いなしだがや!」
「結構。鍼は俺の専門分野だ」
だから、毎日これの繰り返し
今日の襲撃を一通り追い払い、部屋に布団を敷く。
「明日から分かれて宿を聞き込みですか?」
「そうだな…すぐそこに奉行所があるらしいから、先に依頼しておこう。それから分かれて宿場町全体に通報依頼を入れる。城下は後だな」
「そういえば、この捜索の期限っていつまでですか?」
予想外に『名古屋』は範囲が広かった。期間を延ばしたところで、捜査の手をすり抜けて江戸へ戻ってしまう気がする。
「状況次第だが一ヶ月だな」
「…まあ妥当ですね。ちょっと頭洗いに勝手場借りてきます。正直限界」
「…気をつけて」
階下へ降りて、勝手場の土間で行灯の薄暗い灯の中、五日ぶりに頭を洗う。痒くならないよう梳いては墨を染め足し、油も足して過ごしているが、毎日長距離歩いてこれは結構辛い。
ってか、臭ってたら泣ける
烝さんは湯屋に行けるが、私はそれができない。
弥月はカチカチになった髪を四苦八苦しながら解して、身を隠しての長期出張など二度とするかと心に決めた。
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