姓は「矢代」で固定
第10話 その先へ
混沌夢主用・名前のみ変更可能
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***
沖田side
箸が転げたような些末な話題でケラケラ笑っていた弥月の口数が減りだして、しばらく経ったころ。船を漕ぎはじめた彼女に、島田は声をかけた。
「弥月君、大丈夫ですか?」
「ん」
「すみません、小鉄殿。この様子なので、そろそろお暇させていただこうかと」
「ここで寝ても構わねえが…」
小鉄は布団はいくつかあるだろうと、子分に問いかける。
「折角なんですけど、僕、枕変わると寝れないから帰ろうかと思います」
「そうか? まあまた来いよ」
沖田が島田に頷きかける。小鉄が返事をしながら腰を上げたところで、慌てて島田は彼の近くに寄った。
「これを土方副長よりお預かりしています」
「おう。いつ出すのかと思ってたぜ」
「ほら、行くよ。立つ」
「んう」
沖田は先に立ち上がって、弥月の頭上から声をかけたのだが。
彼女の意識はもう半分どこかへ行っていて。揃って帰る雰囲気の中、全く動じずに座ったままだったのを、沖田は腕を引っ張って立ち上がらせた。
「弱いなら飲まなきゃいいのに」
「…」
見ると、彼女の器は全て空になっていた。肴に出された奈良漬も食べきっている。
まあ美味しかったけどさ
酒は控えろと医者は言っていたが、ここは接待の席だ。たまの事なら仕方ないだろう。
ギュッ
「…ちょっと。何してるの」
僕の身体に不意に巻き付いてきたもの。
弥月くんの両腕
「離して」
「…」
その返事はない。
弥月は深くゆっくりと規則正しい呼吸をしている。
立ったまま…
腕で上半身の重みを預けるようにして、弥月は沖田に巻き付いていた。
夏の陽が落ちて気温も少し落ち着いた時間帯に、彼女の体温でそこだけ少し熱さが戻る。
…子猿みたい
その髪を見ながら、西遊記の猿の金色は眼の色だっただろうかと、沖田はとりとめもなく考える。
しかし、ピタリとくっついた二人に気付いた島田は、「弥月くん!?」と裏返った声で慌てて言った。
「どうしたんですか? 気分でも悪いんですか?」
「…」
返事がない。ゆっくりとその背が上下に動く。
「…なんだ、スゲェな。寝てるのかこれ」
「起きて下さい! それ沖田さんですよ!」
それって…
その意味する所は「怒られるから止めておけ」だろうか。まあ確かに、これは邪魔だ。
離れる気配のない、肩口のつむじを見下ろす。島田さんがユサユサと彼女の肩を揺らした。
そうして、ゆらりと弥月君の頭が上がる。その褐色の瞳が、いつもの半分ほどの大きさで、いつもの半分より近い距離で僕を見ていた。
「起きました?!」
島田の声は聞こえていないのか、弥月はぼうっとした顔で、沖田の顔を見る。
とても眠たそうに、焦点の合わない眼が僕を見ていた。口元も力が抜けている。
だらしない顔
「何?」
「…」
そうして見つめ合う時間があまりに長すぎて、このまま意識がハッキリすれば、彼女が五歩ほど飛び退く姿まで想像できた。
「離れ…」
!!
彼女はにこっと笑った。そして再び僕に寄りかかる。犬猫がそうするように、額を僕の胸元にすりつけた。
「おっ、矢代も沖田がお気に入りか」
思いがけないそれと、揶揄する小鉄さんの言葉に、咄嗟に返事に窮する。
けれど、弥月くんは微かに「ん」と肯定の返事をした。
…
ふーん
「弥月ちゃんは、僕のどこが好き?」
「かお」
顔
「アッハッハ!!!こりゃ傑作だ!流石、男前だけあるわ!ハハハハハハ!!!」
小鉄は身体を折って膝を叩いて大笑いする。
ふーーーーーん
「君が面食いだとは知らなかった」
「あ、の、弥月くん…帰りますから、それだと沖田さんが歩けませんから、離れましょう…」
「んぅ」
島田さんは今度こそ無理矢理その両肩を掴んで引き剥がすが、彼女の手は僕の帯を握ったままだった。
この状況で、それだけ即答するって…
何とも言えない気持ちだったが、問答するだけ疲れる気がして、そのまま歩き出した。けれど、なんせ後ろが亀の歩みのような速度で、永遠に引っ張られつづける。
草履を島田さんが履かせて、なんとか中屋敷を後にしたのだが、起きようとする意思が全く感じられない。
「…歩きにくいから、せめてこっちにして」
しばらくして、その手をとりあえず手に繋ぎ変えたものの、よっぽど眠いらしい。歩きながらも寝ようと、すぐに僕にしがみつこうとしてくる。そのたびに島田さんが引き剥がした。
「…島田さん。いっその事、おぶって帰れない? 面倒なんだけど」
「そうですね! 弥月くん、抱えますよ。そしたら寝れますよ!」
「るく」
めんどくさ…
どうしても歩くらしい。
それなのに、フラフラしているし前も見ていないから、やはり手を繋いでいないと危険過ぎだ。
「ハッ! こちらを私が繋いでいれば良いのでは!」
そうすれば、僕にしがみつこうとするのは回避できそうだと。
「…男三人で手を繋いでるのって、絵面的に最悪なんだけど」
「それはまあ…」
自分たちの間にいる、男装の酔っ払いを見る。
これでも女性と知っているから、許されるだろうかと考えたが、やはり見た目の問題だった。
「ふふふふふ」
「…笑い出したんだけど」
「そうですね…」
「気持ち悪い」
「…泣き出すよりはマシと思いましょう」
僕が大仰にため息をつくと、島田さんが恐縮するだけで、当の本人には何も響かない。
これはほんの始まりで、彼女のワガママがこれから加速していくことを、この時の僕たちはまだ知らなかった。
沖田side
箸が転げたような些末な話題でケラケラ笑っていた弥月の口数が減りだして、しばらく経ったころ。船を漕ぎはじめた彼女に、島田は声をかけた。
「弥月君、大丈夫ですか?」
「ん」
「すみません、小鉄殿。この様子なので、そろそろお暇させていただこうかと」
「ここで寝ても構わねえが…」
小鉄は布団はいくつかあるだろうと、子分に問いかける。
「折角なんですけど、僕、枕変わると寝れないから帰ろうかと思います」
「そうか? まあまた来いよ」
沖田が島田に頷きかける。小鉄が返事をしながら腰を上げたところで、慌てて島田は彼の近くに寄った。
「これを土方副長よりお預かりしています」
「おう。いつ出すのかと思ってたぜ」
「ほら、行くよ。立つ」
「んう」
沖田は先に立ち上がって、弥月の頭上から声をかけたのだが。
彼女の意識はもう半分どこかへ行っていて。揃って帰る雰囲気の中、全く動じずに座ったままだったのを、沖田は腕を引っ張って立ち上がらせた。
「弱いなら飲まなきゃいいのに」
「…」
見ると、彼女の器は全て空になっていた。肴に出された奈良漬も食べきっている。
まあ美味しかったけどさ
酒は控えろと医者は言っていたが、ここは接待の席だ。たまの事なら仕方ないだろう。
ギュッ
「…ちょっと。何してるの」
僕の身体に不意に巻き付いてきたもの。
弥月くんの両腕
「離して」
「…」
その返事はない。
弥月は深くゆっくりと規則正しい呼吸をしている。
立ったまま…
腕で上半身の重みを預けるようにして、弥月は沖田に巻き付いていた。
夏の陽が落ちて気温も少し落ち着いた時間帯に、彼女の体温でそこだけ少し熱さが戻る。
…子猿みたい
その髪を見ながら、西遊記の猿の金色は眼の色だっただろうかと、沖田はとりとめもなく考える。
しかし、ピタリとくっついた二人に気付いた島田は、「弥月くん!?」と裏返った声で慌てて言った。
「どうしたんですか? 気分でも悪いんですか?」
「…」
返事がない。ゆっくりとその背が上下に動く。
「…なんだ、スゲェな。寝てるのかこれ」
「起きて下さい! それ沖田さんですよ!」
それって…
その意味する所は「怒られるから止めておけ」だろうか。まあ確かに、これは邪魔だ。
離れる気配のない、肩口のつむじを見下ろす。島田さんがユサユサと彼女の肩を揺らした。
そうして、ゆらりと弥月君の頭が上がる。その褐色の瞳が、いつもの半分ほどの大きさで、いつもの半分より近い距離で僕を見ていた。
「起きました?!」
島田の声は聞こえていないのか、弥月はぼうっとした顔で、沖田の顔を見る。
とても眠たそうに、焦点の合わない眼が僕を見ていた。口元も力が抜けている。
だらしない顔
「何?」
「…」
そうして見つめ合う時間があまりに長すぎて、このまま意識がハッキリすれば、彼女が五歩ほど飛び退く姿まで想像できた。
「離れ…」
!!
彼女はにこっと笑った。そして再び僕に寄りかかる。犬猫がそうするように、額を僕の胸元にすりつけた。
「おっ、矢代も沖田がお気に入りか」
思いがけないそれと、揶揄する小鉄さんの言葉に、咄嗟に返事に窮する。
けれど、弥月くんは微かに「ん」と肯定の返事をした。
…
ふーん
「弥月ちゃんは、僕のどこが好き?」
「かお」
顔
「アッハッハ!!!こりゃ傑作だ!流石、男前だけあるわ!ハハハハハハ!!!」
小鉄は身体を折って膝を叩いて大笑いする。
ふーーーーーん
「君が面食いだとは知らなかった」
「あ、の、弥月くん…帰りますから、それだと沖田さんが歩けませんから、離れましょう…」
「んぅ」
島田さんは今度こそ無理矢理その両肩を掴んで引き剥がすが、彼女の手は僕の帯を握ったままだった。
この状況で、それだけ即答するって…
何とも言えない気持ちだったが、問答するだけ疲れる気がして、そのまま歩き出した。けれど、なんせ後ろが亀の歩みのような速度で、永遠に引っ張られつづける。
草履を島田さんが履かせて、なんとか中屋敷を後にしたのだが、起きようとする意思が全く感じられない。
「…歩きにくいから、せめてこっちにして」
しばらくして、その手をとりあえず手に繋ぎ変えたものの、よっぽど眠いらしい。歩きながらも寝ようと、すぐに僕にしがみつこうとしてくる。そのたびに島田さんが引き剥がした。
「…島田さん。いっその事、おぶって帰れない? 面倒なんだけど」
「そうですね! 弥月くん、抱えますよ。そしたら寝れますよ!」
「るく」
めんどくさ…
どうしても歩くらしい。
それなのに、フラフラしているし前も見ていないから、やはり手を繋いでいないと危険過ぎだ。
「ハッ! こちらを私が繋いでいれば良いのでは!」
そうすれば、僕にしがみつこうとするのは回避できそうだと。
「…男三人で手を繋いでるのって、絵面的に最悪なんだけど」
「それはまあ…」
自分たちの間にいる、男装の酔っ払いを見る。
これでも女性と知っているから、許されるだろうかと考えたが、やはり見た目の問題だった。
「ふふふふふ」
「…笑い出したんだけど」
「そうですね…」
「気持ち悪い」
「…泣き出すよりはマシと思いましょう」
僕が大仰にため息をつくと、島田さんが恐縮するだけで、当の本人には何も響かない。
これはほんの始まりで、彼女のワガママがこれから加速していくことを、この時の僕たちはまだ知らなかった。