姓は「矢代」で固定
第10話 その先へ
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三日後。
「すみません、結局、魁さんにも付き合ってもらうことになって」
「いえ、寧ろ、私に訊いて下さって良かったです。御伴しなかったとあっては、山崎さんに合わせる顔がありません」
件の『情報屋の小鉄さん』に事前に連絡をしてくれたらしく、約束の日はは今日になった。そして、それを教えてくれるとともに島田さんは「一緒に行く」と譲らなかったのだ。
「ねぇ、僕には労いの言葉はないの?」
「…ないです。勝手に着いて来てるんですから」
「まあまあ。初めての場所ですから、一緒に来てくださって心強いです」
なぜか沖田さんもいる。私達が話しているのをたまたま聞いて、今日の行先に興味が湧いたらしい。
「っていうか、沖田さんは何しに行くか知ってるんですか?」
「うん、島田さんに教えてもらったから。『小鉄さん』に面白い話聞きに行くんでしょ。楽しみだね」
他人事だ……事実、沖田さんは他人事なんだけどさ…
不詳三人組に含まれていないのを良い事に、この人は遊びに行くつもりらしい。
そうして夕暮れごろに出発して、半時ほど歩いて到着したここには、大きな武家屋敷の門。
えーっと
「私の記憶が正しければ、ここ、会津藩のお屋敷では?」
「そうです。守護職の御役宅中屋敷です。今の上屋敷よりは小さいですが、元の拠点だけあって立派な門ですね」
どうして
私の予想では、場末の賭場にでも案内されるのだろうと思っていたのだ。そこでネズミ男のような下っ端の諜報員か、肌に綺麗な模様のある小指のないおっちゃんと会うのだろうと。
「なんだ、知らなかったんだ。『小鉄さん』って、会津の関係者だよ」
驚愕する私の横で、のんきに指の逆向けと戦っている沖田さんがそう溢した。
「かっ、関係者、とは…」
「簡単に言うと、口入れ屋の一人という所です。大垣屋殿の名は耳にしたことが?」
「いえ…」
「大垣屋殿は副長と直接やり取りされる事が殆どですからね。大垣屋殿は会津藩中間部屋頭の方で、小鉄殿はその片腕と言われています」
中間とは武家奉公人のことで、武士ではなく「従者」らしい。そして、口入れ屋はあちこちから人を集めてきて、武家奉公人を斡旋する人たちだと。
つまり、リクルートさん? 派遣業者さん?
良い方に考えることにする。だって人身売買屋さんなんて怖い。
「その…小鉄さんはここに住んでるんですか?」
「それは私も知りませんが…指定された場所がここなので…」
えらいことになった
「そんなに警戒しなくても、相手もただの奉公人だから。中屋敷だし、平気平気」
こちとら会津藩お預かりのただの町人で。上司直営の邸宅に住む人に対して、どこから来るんだその自信。
私らは情報をもらいに来た側だ。しかも手土産の一つも持たずに。
弥月は島田の袖をつかむ。
「え? 土方さん、何て言って、私をここに送り出したんですか?」
どうやって約束を取り付けたのか知らないが、会津藩絡みの人なら、島田さんは間違いなく土方さんを仲介したはずだ。
元々、大して気に留めてなかった偽物の案件に、あの人が一枚嚙んでいるとなれば、何か裏があるに違いないと思って、弥月はそう訊ねる。
すると、島田は今までなんとか保ってきた表情を崩し、グッと苦汁を飲まされるような顔になった。
「『そろそろ自分らで行ってこい』と」
「!?」
「それは恐らく、私に対する指示も含んでいますので…」
「何があるの?!」
どうしてここに来るまでに教えてくれなかったのかと問えば。彼は私が逃げたらどうしようと思ったらしい。約束まで取り付けたから、自分独りでも行くしかないからと。
「副長から、『島田は怖い顔してりゃ十二分に戦える。舐められんじゃねぇぞ』と鼓舞してもらいましたので。弥月君は私の後ろを護って頂けると幸いです」
「魁さん戦うの!? なんで?!」
「土方さんから弥月君に応援はないの?」
「……『馬鹿は口を閉じてろ。少しは賢そうに見える』と」
なになになに!?
意味が分からない。今から抗争でも始まるのか。冗談だったのに、知らぬ間に私はカチコミに来たのか。
「とりあえず参りましょうか」
「そうそう。あんまり待たせると、小鉄さん怒っちゃうかもしれないしね」
「待って待って! 心の準備できてないから!」
引き止めようとするけれど、二人とも気にせずスタスタと歩いて、「入って右手の突き当りの家に来いとのことで…」と行ってしまう。
言い出しっぺは…
「…ああ、もう!」
こんなつもりじゃなかったのに、とぶつくさ文句を言いながら、弥月は二人を追いかけた。
***
胡坐をかいて座る沖田の後ろに、弥月は立っている。
四枚の木札が「盆切れ」というの白布の上を滑ってきて、また彼の前にある山が高くなった。
部屋のあちこちで人々が騒めいている中、カランカランと軽快な音がよく通る。
「沖田さん…」
「ん?」
「なんかコツあるんですか…?」
「んー、特には」
「さ、よろしゅおすか。景気よくはっとくれ」
また彼はスッと二枚の札を横向きに出して、「半」と。
沖田さんは今、”壺一”というサイコロ二つの目を当てる遊びで勝ち続けている。
自分たちの周りで『半だ』『丁』と口々に言う男達。進行役が『丁方はねぇか』と声をあげると、『丁』とまた札が出てくる。
ルールは分かったけど…
ゲームの親は丁と半の掛け金が同じ数になるようにするのが仕事。そして、買った側へと金を流す。
これで胴元がどう儲かるのかと思ったら、木札を換金するときにいくらか引かれるらしい。
私は最初に換えた木札が少なかったのもあるが、早々に半分になってしまって、これは向いていないと手を引くことにした。大して面白くもないのに、お金だけ減っていくのは勘弁してほしい。
「イチニの半」
「カーッ!また半か!!今日は運がねぇ」
「にいちゃん、すげぇなあ!」
「どうも」
沖田は隣にいる男に素っ気なく返事をする。
勝ってる理由が全く分かんない…
もはや壺を振ってる親の方が、イカサマをしているのではという視線を彼に向けている。
「今日はこれで最後だ!」
進行役がそう言うと、今日の有り金最後と言って出す者や、また次にといって最後を見守る者。
「じゃあ僕はこれで」
「は!?」
ココココンと出された大量の札。沖田さんは持っていた木札を恐らく全て出した。それは最初に財布から出した資金から、今日の儲けまで全て、
軍資金いくらだっけ!?
私と島田さんの資金は調査の成果さえあれば、後から土方さんにある程度請求できる。
けれど、沖田さんは全て自腹になるはずた。それを彼が分かっているのかどうかを確認していない。最初の札交換のときに彼の両替を見ていなかった。この大量の札が、彼の手元からなくなって問題あるのかどうかすら分からない。
「ちょっ…待って!」
「…気前のええ色男や! さあっ、この男に一泡吹かせたろうって豪傑はおらんか!?」
進行役は一瞬の躊躇いの後、出し渋る客を煽る。
丁半の金額が揃わないと、勝負は始まらない。進行も壺振りも明らかに困っている。
これは成立せず終了かな…
「その勝負、俺がサシで受けましょう」
―――ッ、うわあぁぁヤバい人来たよぉぉ!!!
何がヤバいかって、見た目にもうヤバい。だって指がなくて、顔に斬られた傷跡がいくつもある。後頭部が凹んでるし、襟元からお絵描きが見えている。
いつ頃からか部屋の片隅にいた中年の男。その吹いている煙管の豪奢さを見ても、明らかに胴元の親分だった。
「弥月君…恐らくこの方が小鉄殿です」
「!?」
島田が弥月に耳打ちをした。
ここは『小鉄さん』が指定した屋敷の中の一室。客同士の会話でよく分からない方言が飛び交っているところを見るに、客は会津の関係者と思しき人達ばかりだ。
ようやく真打ち登場ってわけね
小鉄は壺振りから壺を受け取って、親の席に着こうとした。
「待って。それなら僕は賭けない」
ヒュッと誰かが息を呑んで、場が凍りつく。
沖田さん!!?
「…兄さん、漢に二言はねぇだろう」
「客同士のサシなら受けますよ。でも、僕はそっちの人が振るから賭けたんだもの。親が代わるなら話が違うでしょ」
「負けが怖いってか」
「お金はどうでもいいんだけどね、ここまで来て最後に運で負けるのは悔しいじゃない。
僕とそっちの人の勝負、邪魔しないでくれます?」
『そっち』とは先程までの壺振り役のことらしい。
つまり、賭博の趣旨そっちのけで、彼は壺振り役と遊んでいるつもりで。壺振りがサイの目を正確に調整していると判断した上で、丁半を予想していたのだと。
お願いだから、賭場荒らさないで!!!
これが時代劇なら、帰り道に奇襲に合う展開しかない。
沖田さんを殴ってでも不穏な空気の収拾をつけるべきか、島田伍長に視線を送るが、彼は迷いつつも一つ頷いただけだ。つまり、まだ流れのままに様子見をすると。
「…一理あるな。おい、お前座れ」
「えっ」
「早くしろ!」
指名されて、慌ててそこに再び座る壺振り。完全に挙動不審だ。
カランカランと器の中でサイが転がる音がする。壺振りは先ほどまでとは違って緊張した面持ちで、トンと裏替えしに器を置いて「さアッ」と、裏返った掛け声を出した。
客も進行も固唾を飲んで見守っている。
「…兄さんから先でいいぜ」
「そう? じゃあ丁で」
「なら俺が半だな」
何コレ怖い
負けても、減るのは沖田さんのお金だ。しかも、彼の支度金がゼロになる以上の損害はないのに、他人のフリをして逃げたくて仕方ない。
だって、勝ったら小鉄さんから大金を巻き上げることになる。もはや沖田さんに負けてほしいまである。
半来い! 半!!!
***
「さすが一番組組長っつーだけあるな。あそこで言い返してくるとは思わなかった」
「これが宿場の安宿なら無理だろうとは思いますけど、中屋敷のことだから。盆の筋は通してもらえるかなって」
「いや、次はねぇから止めとけ。今日はあんたらが土方の遣いだから聞き入れたが、他のシマじゃあんな勝手は通じねぇぜ?」
「そうなんですか?」
「ああ。サシでって言われたら、それはもう帰ェれってこった。あんたそんな事も知らずにやってたのか」
賭場の閉場に合わせて、小鉄さんに別室へ行くように言われて。しばらくしてから彼は酒器を片手に子分を連れて現れると、前置きもなく、すぐに沖田へ嬉しそうに話しかけた。
「賭け事なんて滅多にしませんからね。一分飛んだところでまあ勉強代かなって」
「いち…あんた、一分銀からあそこまで増やしたのか!?」
出された酒に手をつけない訳にもいかず、弥月は飲む振りをしてちびちび猪口を舐めている。
なにはともあれ、この状況は沖田さんのおかげ?
あの勝負があったおかげで、小鉄さんがご機嫌と思って良さそうだ。あれがなければ、どういう状況で迎え入れられたのか想像がつかない。
「それで、今日はこっちの人達が用事があったんですけど」
「おう、島田だったな、今日は儲かったか?」
「おかげさまで。今日は三人組の押し借りの心当たりについて聞きにきました」
「…賭け方もつまんねぇ男だと思ったが、見た目に寄らず本当に小心者だな。情報は逃げねぇからちっとは話に付き合え」
うわあぁぁ…
魁さんの頬がひくついたのを、私は見逃さなかった。あれは怒りではなく焦りだ。
彼も山崎さんも、”酒も煙草も女も博打もしない”と以前豪語していた。別にしてても軽蔑しないのに、なぜか私に念押ししてきた。
無縁だよねぇ、きっと
当然、私もこの手の人種は無縁ではあるのだけれど。魁さんの場合、土方さんに「戦え」と尻を叩かれて来たせいで、この和やかな雰囲気の中で無駄に気を張っている。
「そっちの小さいのは見てるだけか。金も落としてなかったな。育ちが良さそうだが、俺みたいな奴とは話もしたくねぇってか」
「そんなことは無いんですけど…貧乏性なもので、目減りするのに耐えれませんでした」
「ふん。頭(かしら)は『南蛮のは博打好きの阿呆』と言ってたが、なんかの間違いか?」
「?」
頭…つまり、小鉄さんより上のヤクザの元締めのことだろう。知り合いじゃないし、自分は博打もしないと思って首を傾げると。
「お前ら二人、容保様と会っただろ。頭…大垣屋はそこにいたからな。あんたらの事は情報屋としても知っちゃいるが、頭は前に会ってるぜ」
沖田と顔を見合わせて、弥月はまた首を傾げる。
それは一年半以上も前の話だ。会ったと言われても、あの場にいた会津藩主以外の人なんて覚えちゃいない。自己紹介は一方的で、身分が低いために頭を上げることも憚られた状況だったのだから、顔なんて知るはずがない。
「まあいいか。押し借りしてるかはともかく、やりそうな三人組の話なら出てきたぜ。おい、ロクロー」
「へい!」
立ちっぱなしの子分らしい青年が子気味よく返事をする。
「この前言ってたっつー三人組のこと、こいつらに教えてやれ」
ロクローは「うっす」と言って、その場に立ったまま話し出した。
「オレが知ってるのは、北野あたりの三人っす。大きいの二人と小さいのでつるんどりぁす」
「俺は聞いたことねぇが、上張ってるやつか? また新しいの出てきたか」
「いえっ、土着の時化た破落戸(ごろつき)で、元々うちの賭場でも時々見かけるっす。けど最近、隣のシマでやけに羽振りがえいって噂でっさ」
弥月は小さく手を挙げる。
「その人たちが金に困って、新選組の名を騙って押し借りする可能性はありますか?」
「あー…っと、ありそっすね。どっかの子飼いってわけでもなさそーっすから」
「背の高い二人は、赤毛と、どっしりした男?」
「そっす、そう!」
アタリだ
他の特徴やあだ名、どこの賭場によくいるのか、洛外のどのあたりに住んでいそうかまで、男は教えてくれる。
沖田は空になった猪口に酌を受けて、小鉄に酌を返した。
「小鉄さんって、何でも情報集められるんですか?」
「得意不得意はあるがな。それに頭の方が顔が効く。今回はたまたまだな、ロクロ―が知ってた」
「すごいですね。また困ったら頼りに来てもいいですか?」
沖田さんがヨイショしてる…
この勝手気まま男が、意外と外面が良いことは最近分かってきた。
「構わねぇが、出すもんは出せよ」
「いくらでも。うちの土方にツケといて下さい」
「ハハッ!そりゃいいや! あの天女みたいな顔が歪むなんて、想像するだけで酒が旨くなる」
「ぶっ、天女!」
弥月は思わず吹き出してゲラゲラと笑う。
華に例えられたことはあっても、天女はないだろう。本人が聞いたら嫌そうな顔をするところまで想像できる。
「そっちのも。安くしとくからまた遊びに来い。今度は俺が手づから花札教えてやる」
「そっちのは駄目です。僕の玩具だから」
「は?」
誰が沖田さんのオモチャだ
「沖田ァ、良い趣味してんじゃねぇか」
「叩いたらよく鳴くいい玩具ですよ。僕専用だから」
「ちょっと。なんだって」
「若くて活きが良いのが何よりだな。決まってるんじゃ仕方ねぇ」
「川島なら寄こしますので、なんとかそれで…」
島田がそう言うと、小鉄は「そういや…」と煽りかけた杯を下げる。
「新選組、監察も新しいの入ったろ。情報は誰に流していいんだ?」
「…今までどおりで。弥月君でも構いません」
「…分かった。また面倒なことにならなきゃ良いがなぁ」
そのやり取りを見ながら、監察方は奥が深いなあとぼんやりと思った。
体感的には次の瞬間だった。
パチッと目が開いて、自分が寝ていたのだと知る。私は布団で寝ていた。
そして目の前には人……正確には、人の背中。呼吸している。体温がある。
この着物の色は…
「早くどいて」
「…すみませんっ!」
全てを察した。
何にも構わずに、瞬時に飛びのいて土下座する。
これはアレだ。記憶はないが、きっと帰り道とか、途中で眠った。そして掴むか駄々をこねるか何かした。
ひぃえええぇぇえ…!!!
「本当に申し訳ありませんでした」
土下座だ。とりあえず、今は土下座をしておくしかない。沖田さんに渾身力技の大声で謝ったら、火に油でキレられる。本気で謝罪するなら静かに土下座だ。
今がせめて翌日早朝であることを祈るしかない。ありえないが、翌々日とかなら詰んだ。どこの眠り姫だ。
何が起こったか分からないけれど、結果的に、間違いなく、私が彼を掴んで離さなかったのだろう。だから、彼は私にくっつかれたまま眠るしかなかった。そりゃあキレて当然だ。なぜ沖田さんを選んだのか、私は馬鹿か。
沖田さんが起き上がる気配がして、盛大な溜息が聞こえた。
「おはよう、ございます…」
近くで聞こえた魁さんの恐るおそるな挨拶に、小声で返事をする。沖田さんの許可があるまで、この頭、絶対に上げてはならぬ。
「…昨日のこと、覚えてるの?」
よかった、今は翌日の朝らしい
すご―――く冷ややかな声だったが、殺気は無い…と思う。
「小鉄さんから三人の名前とかを聞いたまでは割とハッキリと。そのあとは、全体的にぼんやりしてます」
「どの程度」
「沖田さんが小鉄さんと仲良く飲んでたなあ、楽しいなぁって感じで。正味の話、どうやって帰ったのか、どういう流れでお開きになったのか全く分かりません」
「…本当に」
「はい、全く」
どうしてこうなったのか。あの後まだまだ飲んだのか、昨日の私。どうしてなの。
「二度と飲まないで」
「承知しております、申し訳ありませんでした」
あんな度数のキツイものを、好きで舐めていたんじゃないけれど、この結果は言い訳できる状況ではない。もし舐めただけでこれなら、人としてヤバい。
沖田さんが立ち上がる衣擦れの音がした。
圧! 圧が!
そのまま踏まれそうな気さえする。
「島田さん」
「はいっ!」
「誰かに…本人にも、言ったら斬るから。二人とも」
「承知しました!」
後でこっそり教えてもらおうと思ったけれど、先に口止めされた。
何したの?! 私、何したの!?
「僕、寝なおすから」
「「おやすみなさいませ!!」」
彼の足音が部屋から遠のいて、ようやく顔を上げると、ここは監察方の部屋だった。先ほど飛びのいた元の位置にある布団は、私のもの。
つまり、ここでくっついてた? 彼の背中に
そこに寝ていた姿を想像して、ようやっと恥ずかしさが襲ってきた。
「ぬおおおぉぉぉおぉんうおぉぉぉ」
枕を投げて、布団に両拳を叩きつける。
兄ならともかく、余所様でこれは駄目だ。ご迷惑甚だしすぎて、もはや沖田さんに次合わせる顔が無い。
「大丈夫です! 小鉄さんとは円満に終わっています!」
「それはよかったけどぉぉぉ…」
「貞操も無事です!」
「その心配はしてないです!!」
大事かもしれないが、この恥ずかしさをどうにかできる情報ではない。
「なんでっ… 引き剝がしてくれなかったんですか!?」
「しました! しましたけど…」
物理的に無理だったのか、何か、口止めに含まれる理由があるらしい。
「死ぬ。死ねる。恥ずか死ぬ」
「死なないでください! 何も心配要りませんから!」
そう本気で止められて。遍歴があることを思い出した。軽々しく口にしたことを、島田さんに謝る。
「ほんとに、私、気にしなくて大丈夫?」
「…私と沖田さんが見なかったことにすれば、無かったことと同じですので」
「…失態の方向性だけ教えてもらっても?」
「……」
曖昧に笑って誤魔化そうとする彼に、絶望しかなくて。弥月は頭を抱えて小さく丸まった。