姓は「矢代」で固定
第9話 診察
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***
二度手間や伝え違いがないよう、斎藤さんと二人で、局長、副長の前に座った。
三人の鬼たちの所属する藩。藩とは別で鬼の里があり、その存続のために彼らは動いていること
鬼は身体能力が高いこと。角が出し入れできること
私は鬼であり、その中でも珍しい特別な力があること
「なるほど…」
「鬼って、鬼なのか……何かの隠語でもなく…」
適宜相槌をうつ近藤さんに対して、土方さんはずっと黙って聴いてくれていた。それはただ単純に、受け入れることに時間がかかっていたらしい。
斎藤さんは予想できていたのか、時折頷いていた。
「私も角が出せたら確信持てるんですけど、その出し方はよく分かりません」
頭上に立てた両手の人差し指をくにゃんと曲げる。
「あんたはそれでも自分を鬼と?」
「だって150年後から来たんですよ? それは鬼界隈でももはや前代未聞らしいです」
「鬼界隈…」
妙なところが気になったらしい。斎藤さんは私の造語を噛み締めている。
「それで? あいつらがお前を狙ってきた理由は?」
「天霧が私の腕試しをしたかったそうです。会津藩にいる鬼はどんなもんかって」
「そうか…なら、雪村も鬼か?」
一度飲み込むと、流石、土方さんは話の理解が早い。
弥月はその質問の答えを持っていたけれど、少しだけ首を傾けて見せる。
「それねぇ…私も知らないんですよ。もしかしたら、そうなのかな?って、今回の件で私が勝手に思ってる程度で」
風間らがハッキリと言ったのなら仕方ないが、私もまだ彼女本人に確認すらしていない。できるなら彼女が了承してから伝えたい。
「千鶴ちゃん、何も知らなそうだったんですよね?」
「ああ」
「じゃあ、後でやんわり確認してきます」
「必要ねえ」
「…?」
土方がハッキリとそう言いきった意味が分からなくて、弥月はまた首を傾げた。
「雪村が鬼だとして、何か変わるのか?」
「変わ…」
…
……逆に、変わらないの?
「変わ…?」
わからない かわらない?
今度は頭上に疑問符を並べた弥月を見て、斎藤はフッを吐く。
「副長の仰る通りだ。あんたも自分が鬼と知って、何か変わったのか?」
「変わっ…」
……
「変わったとは思います」
「…お前な、ここは同調しとくとこだ」
溜息交じりの土方さんのツッコミ。
「だって、驚きはしましたけど、知らないから知ろうと思ったし。この妙な体質の理由が分かって、仲間もいるんだって思ったら、ちょっと安心したし」
「なるほどなぁ。そういう前向きな受け止め方もあるのか…」
近藤は感心した。けれどその横で、土方は腕を組んで不満げな顔をする。
「ならば、なんで黙ってた。あいつらに狙われる可能性がある時点で、お前は連絡はしておくべきだった」
「…だって、私たちのこと信用してなかったら、話しただけで間者かもって疑うでしょう? ねえ、斎藤さん」
弥月が首を斎藤の方に向けると、彼はまた襟巻きを掴んで上へ引き上げる。すると、その元々大きくない声が、くぐもって更に小さくなる。
「俺は、矢代が奴らに脅されているのではと…」
「ね。こんな感じで、斎藤さんが私のこと疑いもしないし。
みんな、千鶴ちゃんのことも大事にしてるから、まあ話してもいっかって思って」
ニィッと笑ってそれぞれの顔を見る。
三人とも私との関係や見方は違うけれど、それぞれに私のことを信頼してくれている。
私も、ね
彼らに同じだけ信頼を置いている。
近藤は弥月へ柔らかに微笑んだ。
「君は自分が鬼だと知っても、志は変わってはいないのだろう?」
「変わ…ってないですね、たぶんそれは」
特殊能力の自覚ができて、やることが大胆になっただけの気がする。
「斎藤さん、私なんか最近変わりました?」
「全くだ」
そんなにスッパリ言われると、それもそれで駄目な奴みたいで辛いのだけれど。
土方さんは「そういうことだ」と。
「本人が知ったところで変わりないなら、俺らがすべき事も変わりない。
今、俺らが雪村を問いただすのは、あいつにとったら責められたも同義だ」
「あ…っ」
思わず感嘆の声を漏らす。私にはその視点がなかった。
「綱道さんが……父親が本当に薩摩に居るとしても、自分がどこに居るか決めるのはあいつ自身だ。
あの三人とは元は池田屋から始まった確執だからな。たまたま雪村が鬼であることが分かっただけで、負い目に感じさせる必要はない」
そっか
目から鱗が落ちた。
自分は全部知らなきゃ気が済まなかったけれど、そうではないのだと。
「雪村が薩摩に行くというのなら、いつか知ることにもなるだろう」
「…斎藤さんは、千鶴ちゃんがそうすると思いますか?」
「…分からぬ。しかし決別したとて、角目立ち刃を向ける間柄にはならないと思いたい」
彼は少しだけ悲しい表情をしたが、ゆったりと微笑んだ。
いつか別れの日が来ることを、これから覚悟していくのだと。
「君もだぞ、弥月君。仮に君が今後新選組を離れるとしても、進んで俺達と敵対するとは誰も思わないさ。市姫のようにな」
「ブッ…近藤さん、例えるにしてもこいつに市姫は奇抜…」
「ん?…お、ンッ、すまない!」
「?」
誰? 市姫とは?
弥月が何をやりとりしたのか全く分からないという顔をすると。近藤さんが説明するかどうしようか困ったという顔になる。
けれど、斎藤さんは淡々とそれに応じた。
「織田信長の義妹で、浅井長政の継室…歴史上の女性のことだ」
「…あー…」
それで、その人は誰? 何をしたの?
と、思ったが。細かいことは後で新八さんにでも聞いてみたらいい。
少なくとも、近藤さんが謝罪した理由は分かった。その女性になぞらえて最上級に褒めてくれたのだろうけれど、この二人の前でそれは間違っている。
っていうか、斎藤さん、やっぱり知ってる?
振り向いて、目が合った。
「ふ…っ」
「え?」
笑われた。斎藤さんに。
「…すまない…ッ」
「いやだから、訳も分からないのに謝られると、逆に気になります…って、まだ笑いますか」
どこにツボがあったのか。急に笑いが止まらなくなったらしい。
彼が説明もできずに忍び笑いをつづける物珍しい光景に、土方さんらと顔を見合わせる。
「えっと…」
「斎藤…もしかして、あれか? 美人の話か?」
土方の問いに、顔を隠して横を向いたまま小さくコクンと頷く彼。
「美人?」
「市姫は、天下一の美人と誉れ高い女性でな。嫁ぎ先が敵方となってしまっても、信長公…義兄への思慕を大事にしたそうだ」
近藤さんは言いたいことが伝わって満足したのか、私が「はあ」と間の抜けた返事をするにも関わらず、嬉しそうに頷く。
え? じゃあ斎藤さんはそこで笑ったの?
「普通に失礼じゃない?」
「故にすまないと…っ!」
斎藤さんはようやく立ち直ったらしいが。
自分らが綺麗どころだからって、それは許さん。
「そりゃ土方さんと比べたら? 斎藤さんと比べたら? 私が天下一だなんて笑えもしましょうけどね?」
「…いくらなんでも誇張と思っただけだ」
「だから、それが…」
言いかけて、止めた。
美人じゃないって言われて、怒ってどうする
「…うん、やっぱいいです」
これで斎藤さんが私を女と気づいてたらドン引きだ。絶対に知らない
「話を戻すが…俺たちが知らないだけで、世の中には鬼がゴロゴロしてるのか?」
「あー…もしかしたら? 屯所内で統計取ってみますか。実は鬼の人、手を上げてー!って」
「…阿呆か」
「少なくとも、女鬼は貴重だから、千鶴ちゃんを連れて行こうとしてるのは間違いないです」
「…そんなこと言ってたな」
土方さんは不愉快そうな顔をする。そういう反応をできる人達だから好きだ。
「む?ということは君も」
「近藤さん、私は鬼の伴侶所望してないので大丈夫です」
今の「む」は絶対に思いついたまま喋ろうとしていた。続く言葉は「君も狙われているのではないか?」だ。それは攻め過ぎギリギリアウト。
「じゃあとりあえず、様子見で?」
「ああ。雪村は放っておいて構わない。ただ雪村自体は幕府に身柄を報告してあるからな、誘拐されるのは具合が悪い。鬼のことは分かり次第報告しろ」
「りょーです」
話してよかった
同族云々よりも、この人たちと一緒にいるだけの理由がここにあるよと、今すぐ千鶴ちゃんに伝えに行きたい気持ちでいっぱいだった。
二度手間や伝え違いがないよう、斎藤さんと二人で、局長、副長の前に座った。
三人の鬼たちの所属する藩。藩とは別で鬼の里があり、その存続のために彼らは動いていること
鬼は身体能力が高いこと。角が出し入れできること
私は鬼であり、その中でも珍しい特別な力があること
「なるほど…」
「鬼って、鬼なのか……何かの隠語でもなく…」
適宜相槌をうつ近藤さんに対して、土方さんはずっと黙って聴いてくれていた。それはただ単純に、受け入れることに時間がかかっていたらしい。
斎藤さんは予想できていたのか、時折頷いていた。
「私も角が出せたら確信持てるんですけど、その出し方はよく分かりません」
頭上に立てた両手の人差し指をくにゃんと曲げる。
「あんたはそれでも自分を鬼と?」
「だって150年後から来たんですよ? それは鬼界隈でももはや前代未聞らしいです」
「鬼界隈…」
妙なところが気になったらしい。斎藤さんは私の造語を噛み締めている。
「それで? あいつらがお前を狙ってきた理由は?」
「天霧が私の腕試しをしたかったそうです。会津藩にいる鬼はどんなもんかって」
「そうか…なら、雪村も鬼か?」
一度飲み込むと、流石、土方さんは話の理解が早い。
弥月はその質問の答えを持っていたけれど、少しだけ首を傾けて見せる。
「それねぇ…私も知らないんですよ。もしかしたら、そうなのかな?って、今回の件で私が勝手に思ってる程度で」
風間らがハッキリと言ったのなら仕方ないが、私もまだ彼女本人に確認すらしていない。できるなら彼女が了承してから伝えたい。
「千鶴ちゃん、何も知らなそうだったんですよね?」
「ああ」
「じゃあ、後でやんわり確認してきます」
「必要ねえ」
「…?」
土方がハッキリとそう言いきった意味が分からなくて、弥月はまた首を傾げた。
「雪村が鬼だとして、何か変わるのか?」
「変わ…」
…
……逆に、変わらないの?
「変わ…?」
わからない かわらない?
今度は頭上に疑問符を並べた弥月を見て、斎藤はフッを吐く。
「副長の仰る通りだ。あんたも自分が鬼と知って、何か変わったのか?」
「変わっ…」
……
「変わったとは思います」
「…お前な、ここは同調しとくとこだ」
溜息交じりの土方さんのツッコミ。
「だって、驚きはしましたけど、知らないから知ろうと思ったし。この妙な体質の理由が分かって、仲間もいるんだって思ったら、ちょっと安心したし」
「なるほどなぁ。そういう前向きな受け止め方もあるのか…」
近藤は感心した。けれどその横で、土方は腕を組んで不満げな顔をする。
「ならば、なんで黙ってた。あいつらに狙われる可能性がある時点で、お前は連絡はしておくべきだった」
「…だって、私たちのこと信用してなかったら、話しただけで間者かもって疑うでしょう? ねえ、斎藤さん」
弥月が首を斎藤の方に向けると、彼はまた襟巻きを掴んで上へ引き上げる。すると、その元々大きくない声が、くぐもって更に小さくなる。
「俺は、矢代が奴らに脅されているのではと…」
「ね。こんな感じで、斎藤さんが私のこと疑いもしないし。
みんな、千鶴ちゃんのことも大事にしてるから、まあ話してもいっかって思って」
ニィッと笑ってそれぞれの顔を見る。
三人とも私との関係や見方は違うけれど、それぞれに私のことを信頼してくれている。
私も、ね
彼らに同じだけ信頼を置いている。
近藤は弥月へ柔らかに微笑んだ。
「君は自分が鬼だと知っても、志は変わってはいないのだろう?」
「変わ…ってないですね、たぶんそれは」
特殊能力の自覚ができて、やることが大胆になっただけの気がする。
「斎藤さん、私なんか最近変わりました?」
「全くだ」
そんなにスッパリ言われると、それもそれで駄目な奴みたいで辛いのだけれど。
土方さんは「そういうことだ」と。
「本人が知ったところで変わりないなら、俺らがすべき事も変わりない。
今、俺らが雪村を問いただすのは、あいつにとったら責められたも同義だ」
「あ…っ」
思わず感嘆の声を漏らす。私にはその視点がなかった。
「綱道さんが……父親が本当に薩摩に居るとしても、自分がどこに居るか決めるのはあいつ自身だ。
あの三人とは元は池田屋から始まった確執だからな。たまたま雪村が鬼であることが分かっただけで、負い目に感じさせる必要はない」
そっか
目から鱗が落ちた。
自分は全部知らなきゃ気が済まなかったけれど、そうではないのだと。
「雪村が薩摩に行くというのなら、いつか知ることにもなるだろう」
「…斎藤さんは、千鶴ちゃんがそうすると思いますか?」
「…分からぬ。しかし決別したとて、角目立ち刃を向ける間柄にはならないと思いたい」
彼は少しだけ悲しい表情をしたが、ゆったりと微笑んだ。
いつか別れの日が来ることを、これから覚悟していくのだと。
「君もだぞ、弥月君。仮に君が今後新選組を離れるとしても、進んで俺達と敵対するとは誰も思わないさ。市姫のようにな」
「ブッ…近藤さん、例えるにしてもこいつに市姫は奇抜…」
「ん?…お、ンッ、すまない!」
「?」
誰? 市姫とは?
弥月が何をやりとりしたのか全く分からないという顔をすると。近藤さんが説明するかどうしようか困ったという顔になる。
けれど、斎藤さんは淡々とそれに応じた。
「織田信長の義妹で、浅井長政の継室…歴史上の女性のことだ」
「…あー…」
それで、その人は誰? 何をしたの?
と、思ったが。細かいことは後で新八さんにでも聞いてみたらいい。
少なくとも、近藤さんが謝罪した理由は分かった。その女性になぞらえて最上級に褒めてくれたのだろうけれど、この二人の前でそれは間違っている。
っていうか、斎藤さん、やっぱり知ってる?
振り向いて、目が合った。
「ふ…っ」
「え?」
笑われた。斎藤さんに。
「…すまない…ッ」
「いやだから、訳も分からないのに謝られると、逆に気になります…って、まだ笑いますか」
どこにツボがあったのか。急に笑いが止まらなくなったらしい。
彼が説明もできずに忍び笑いをつづける物珍しい光景に、土方さんらと顔を見合わせる。
「えっと…」
「斎藤…もしかして、あれか? 美人の話か?」
土方の問いに、顔を隠して横を向いたまま小さくコクンと頷く彼。
「美人?」
「市姫は、天下一の美人と誉れ高い女性でな。嫁ぎ先が敵方となってしまっても、信長公…義兄への思慕を大事にしたそうだ」
近藤さんは言いたいことが伝わって満足したのか、私が「はあ」と間の抜けた返事をするにも関わらず、嬉しそうに頷く。
え? じゃあ斎藤さんはそこで笑ったの?
「普通に失礼じゃない?」
「故にすまないと…っ!」
斎藤さんはようやく立ち直ったらしいが。
自分らが綺麗どころだからって、それは許さん。
「そりゃ土方さんと比べたら? 斎藤さんと比べたら? 私が天下一だなんて笑えもしましょうけどね?」
「…いくらなんでも誇張と思っただけだ」
「だから、それが…」
言いかけて、止めた。
美人じゃないって言われて、怒ってどうする
「…うん、やっぱいいです」
これで斎藤さんが私を女と気づいてたらドン引きだ。絶対に知らない
「話を戻すが…俺たちが知らないだけで、世の中には鬼がゴロゴロしてるのか?」
「あー…もしかしたら? 屯所内で統計取ってみますか。実は鬼の人、手を上げてー!って」
「…阿呆か」
「少なくとも、女鬼は貴重だから、千鶴ちゃんを連れて行こうとしてるのは間違いないです」
「…そんなこと言ってたな」
土方さんは不愉快そうな顔をする。そういう反応をできる人達だから好きだ。
「む?ということは君も」
「近藤さん、私は鬼の伴侶所望してないので大丈夫です」
今の「む」は絶対に思いついたまま喋ろうとしていた。続く言葉は「君も狙われているのではないか?」だ。それは攻め過ぎギリギリアウト。
「じゃあとりあえず、様子見で?」
「ああ。雪村は放っておいて構わない。ただ雪村自体は幕府に身柄を報告してあるからな、誘拐されるのは具合が悪い。鬼のことは分かり次第報告しろ」
「りょーです」
話してよかった
同族云々よりも、この人たちと一緒にいるだけの理由がここにあるよと、今すぐ千鶴ちゃんに伝えに行きたい気持ちでいっぱいだった。