姓は「矢代」で固定
第1話 内に秘めた思い
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元治元年十一月上旬
もみじ狩りといえば、東山。
「ここは敢えて、銀閣寺ではなく永観堂へ行こう」
わざわざ見に行かずとも、日々そこここに紅葉は見えているのだけれど、行ってこそ分かる、あの『もみじの名所』を云われるだけの凄さ。
「というわけで、千鶴ちゃんは確保」
「え?」
唐突に思いついただけだけれど。
彼女にとっては、折角の初めての京の秋だから、押し迫るような圧巻の赤色の景色を見せてあげたい。
「今から永観堂の紅葉を検めに行くから、一緒に出陣できる人を探しています」
「紅葉狩りですか?」
「うん、そういうこと。今日急ぎの用事とかある?」
そういう私は今日は非番。
池田屋事件の後、治療室ができた頃から、千鶴ちゃんの屯所内での見張りは不要になっている。だから、私の最近の主な仕事は、平助の代理で巡察に出ることだったりする。楽な仕事がなくなって、ちょっと残念。
「いいえ、急ぎの用事はありませんけど……私、巡察以外での外出はできなくて…」
「大丈夫、土方さんは何とかする。
なんだかんだ言いながら、千鶴ちゃんも巡察で外出た時にうろうろしてるんだから、誰か幹部の付き添いがあれば問題ないってことでしょ」
「そうなんでしょうか…?」
「…というより、岩城桝屋の件があって思ったんだけど、千鶴ちゃんの外出許可がずっと出ないのって、千鶴ちゃんも新選組の一員と外部には思われてて、一人での外出は危険だからするなって事だと思うんだよね。
ただ、それを説明するのを、土方さんが面倒臭がってるか、し辛いかってだけで」
「え…」
「…うん!この際だから、保護者がいれば遊びに出ても良いか、ちょっと訊いてみよう!」
***
土方side
「豊玉さーん、紅葉狩り行きませんかー?」
シーン
「はいっ、華麗なる無視を頂きました!
だがしかし、他人のフリをするだけ時間の無駄で、余計に騒ぎ立てられることを何故予想できなかったのかを甚だ疑問に思いながら、もう一度お呼び致したいと思います! では、皆さんご一緒にっ!ほうっぎょっくさ―――」
「うぅっるせええぇ!!!」
土方はバンッと障子を開けて、そこに坐していた弥月の頭を、持っていた冊子でパコ――ンと叩(はた)く。
「てめぇと違って忙しいんだって何度言や分かる!? てめぇの耳は節穴か!?」
「まぁまぁ、そんなに怒鳴っちゃ千鶴ちゃんが怯えちゃいますって」
「誰だ!俺に怒鳴らせてんのは、ア゛ァ!?」
「それは私ですけど……でも、嘘は駄目ですよ? 今、そんなに忙しくないでしょう。
寧ろ、江戸で集まった新入隊士が増える前の、最後の余裕がある頃かなあと思いますれば、お声かけしてるんですよ」
「……」
間違いではない矢代の指摘に、チッと内心舌打ちをしつつ、その金色の頭から視線をずらすと。矢代から少し離れて座っていた雪村は、眉尻を下げて、怯えるような緊張した面持ちで、俺の手元を見ていた。
…これで殴ったからか?
たかが紙束。矢代はこの通りピンシャンしているから全く問題ないのだが、女を怯えさせるには十分だったかもしれない。
「土方さんの憂慮事項は、そのまま監察の仕事量に直結しますから、私が現状把握してない訳ないじゃないですか。放っといたら烝さんが忙殺されちゃう」
「…おう、ならてめぇには巡察に加えて、捜査も命じてやるよ。ちょっと長州まで行って来い」
「そんなアンパン買いに行かせるノリで戦場に送らないでください」
なんだ、あんぱんって
訳の分からない言葉を使うなと、誰のために何度も言っているのか……さっぱり理解できていないらしいこの馬鹿に、盛大な溜息が出る。
「てめぇ、長州が戦場って分かってんなら、少なくとも暇じゃねぇのも分かってんだろうが」
「勿論、分かってます。でも、会津公から仕事の依頼も無くて、比較的ヒマでしょって話じゃないですか」
「…言われた仕事が無けりゃ、年中頭に花咲いてるような奴と一緒にすんな」
「やだなぁ。見に行くのは紅葉ですから安心して下さい」
「そういう話じゃ」
「まあまあ、トシ。弥月君の言う事も、あながち外れてはいないんだろう?」
「…近藤さん」
なんで矢代と口論してると大概現れるんだ、この人は…
形勢が悪くなったのを察して、クッと喉を詰まらせる。
近藤さんはほぼ十割、矢代の肩を持つから、俺はそれに逆らえない。
「今年中には伊藤先生らが着くことになっているからな。
彼らが着いた後は、本当に忙しくなるだろうから、ゆっくりできるのは今しかないんじゃないか?」
「そりゃあ、そうかもしれねぇが…」
「俺がいない間、組の留守を守ってくれて、トシには感謝しているんだ。屯所のことは俺に任せて、少しは休憩をとってくれ」
「近藤さん…」
あんたの気持ちは嬉しいが……こいつらに同伴したって、休憩になりやしねぇ…!!!
「土方さん。顔に出てます」
「…なら、俺を休ませろ」
「気分転換ですよ。はい、じゃあ面子も揃ったことですし行きましょ~」
「お、おい、ちょっと待て。お前ら二人とか…?」
「いえいえ。どうぞあちらに、非番の斎藤さんもお呼びしております」
矢代が手を差し出した方向を見ると、廊下の突き当りで直立した斎藤がペコリと頭を下げた。
矢代の面倒…は、あいつに任せとけば何とかなるか…
この面子なら収集がつかない事態にはならないだろうと……収集がつかない事態にはならないことを心底願って、俺は盛大な溜息を吐いた。
***