姓は「矢代」で固定
第8話 二条城警護
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***
弥月side
「話したかったんです、彼らと」
応援を呼ばなかったから怪我をしたわけではない……そんな反論を、頭の片隅で思いながら、烝さんの怒りを受け入れた。
「すみません。これ…も最初の挨拶程度の一撃だけで……話し合いに応じてはくれそうで、色々聞きたいことがあって…応援、呼ばなかったんです。
沖田さんがすぐ来てくれて、結局、話らしい話もできなかったんですけど…」
「…敵が本気なら、次の手はもう無かっただろう」
「…すみません。怪我程度なら……情報が欲しいと思ってしまいました」
監察方として、最優先事項は”新選組の秘密を洩らさない”こと。
次は”生きて帰る”こと。
その次はない。少しの危険を冒してでも、情報が優先かどうかは、その場の状況で考えるしかない。
あの時、判断が間違っていたとは、あまり思えないんだけど…
「…? 烝さん?」
彼へ渡していた私の両手に、烝さんは頭を垂れた。
「頼む」
「何ですか…?」
「頼むから…無茶をしないでくれ…」
……
「すみません…」
彼はただ首を横に振る。そして、ほんのわずかだけ手に力が入った。
謝罪を受け入れてもらえない。けれど、彼は私に切に願っていて。
出来事はもう起こった後で……どうして良いか分からない。
「…無茶だったと、今なら思います…次はすぐに人を呼びます」
「それは…」
烝は言葉を切った。
「…この場の方便か?」
「!」
「それができないなら…君を…監察方には置いておけない」
サァッと血の気が引く。
見放された
そう思ったけれど、彼は私の手を放さない。
「誰か…の、そばに、居てくれた方が……よっぽどましだ」
それは、あまりに奥底から苦しんでいる声だった。怪我をしている私より、烝さんの方が傷ついている。
私の取り繕う言葉を疑うほどに、彼は私のことを知っていた。私が嘘つきであることを知っていて、監察方にいることを望んでくれていた。
私が女だと知ったとき、彼は私が怪我をすることを嫌った。不死身だと言ったら、自分が見ていないところでも生きていてくれるならと呆れた。
ずっと嫌なことに、目を瞑って…気に病んでいたのだと
「…ごめんなさい」
今度は反応がなかった。烝さんは顔を上げてくれないけれど、私からの言葉を求めている。
彼に嘘を吐いた分だけの、正当な理由を
「…あの人たち、鬼…なんです。私と同じ……だから、あの人たちは…新選組にじゃなくて、私個人に用があって来ていたから…」
言外に、応援を呼べない理由があったと伝える。そして、今後も彼らと話し合いをするのだと。
「…君を…」
そこで烝さんはまた言葉を切った。
そして、苦しむ声が続いた。
「連れて行くつもりで、か?」
「!? なんで知って…」
「行かないでくれ」
グッと手を握られる。はずみで少し捻った傷が傷んで、弥月は顔を歪めた。
「風間が言っていた。雪村君は、俺らには過ぎたものだから、自分たちが連れ帰ると」
「千鶴ちゃんを!?」
「鬼の問題だと……君も…そうなんだろう」
「…」
不知火は私を妻に、風間は千鶴ちゃんを…ということか
なんて勝手なんだ
「鬼…は、女性が少ないそうです」
「…!」
ようやく烝さんは顔を上げた。彼は縋りつくような表情をしていた。
「過ぎたものというのはよく分かりませんけれど、女というだけで、伴侶として望まれるみたいです」
「…ーーーッ」
「行きませんよ。私は望んでません」
「俺が…っ」
烝はまた言葉を切り、何かを言いあぐねて、再び弥月の手に乞い願う。
……?
さきほどの姿と何か違いを感じた。指先に微かに彼の吐息がかかる。
俺が…?
そして、フッと頭を掠めた言葉を、まさかと打ち消す。
「…今日はあくまで、会津に味方をしている私の実力を確認しにきただけみたいです。同族意識が向こうにはあるようですけれど、敵同士とも認識しあっていますから、次は気を付けます」
「……」
「烝さん、私は新選組から逃げません。ここにいます。私が望んでここに居るんです」
「…隣に」
「?」
「声の…届くところに居てくれ」
さっきは『監察方に置いておけない』と言ったのに
弥月が返事に困ると、手を握ったまま烝は視線を上げる。
不安げに揺れる菫色の瞳を見て、 弥月は心の距離の話だと分かった。少しだけ口の端を上げる。
「はい。困ったら呼びます」
「困らなくても…困る前に…話してくれ」
それは、いつでも…いつも呼んでほしいと。私の親しい人でありたいと望まれていた。
「烝さん」
彼が顔を上げるのを待った。
気恥ずかしくて、こんなことを言うのはドキドキして胸が苦しい。
ゆっくりと上がる、哀しげな瞳をつかまえる。
こんなに言葉を重ねているのに。誰よりも私を知っているのに。烝さんが傷つかなくていいのに
「誰よりも信頼してます」
「!」
「だから、そ…」
え…
不意に近づく身体。
グッと肩を抱き寄せられる。
……
彼の肩越しに目を瞬かせる。ドックンと自分の鼓動が大きく鳴った。
咄嗟に烝さんが泣いているのかと思った。けれど、なんとはなしに違うのだと分かった。
「あ、の」
困惑したまま問いかけたが、返事がなかった。
そのとき、彼が腕に力を入れると、グッと背中が反り返って。思わず痛みに悲鳴をあげる。
「たっ!」
「!?」
さっきの…
「すっ、すまない!」
「ごめんなさい……ちょっと背中見てもらってもいいですか…」
「はッ!?」
「殴られて飛んでったときに、ぶつけたの忘れてて…」
「ーーっ、なぜ早く言わない!」
「忘れてたんです…」
甚平の裾を捲くるために、紐を外そうとすると。慌てて烝さんが後ろを向く。
その頬も耳も赤らんでいたことを横目に、私も彼に背中を向けた。
怪我をしたところよりも、彼に触れた肩が熱かった。
弥月side
「話したかったんです、彼らと」
応援を呼ばなかったから怪我をしたわけではない……そんな反論を、頭の片隅で思いながら、烝さんの怒りを受け入れた。
「すみません。これ…も最初の挨拶程度の一撃だけで……話し合いに応じてはくれそうで、色々聞きたいことがあって…応援、呼ばなかったんです。
沖田さんがすぐ来てくれて、結局、話らしい話もできなかったんですけど…」
「…敵が本気なら、次の手はもう無かっただろう」
「…すみません。怪我程度なら……情報が欲しいと思ってしまいました」
監察方として、最優先事項は”新選組の秘密を洩らさない”こと。
次は”生きて帰る”こと。
その次はない。少しの危険を冒してでも、情報が優先かどうかは、その場の状況で考えるしかない。
あの時、判断が間違っていたとは、あまり思えないんだけど…
「…? 烝さん?」
彼へ渡していた私の両手に、烝さんは頭を垂れた。
「頼む」
「何ですか…?」
「頼むから…無茶をしないでくれ…」
……
「すみません…」
彼はただ首を横に振る。そして、ほんのわずかだけ手に力が入った。
謝罪を受け入れてもらえない。けれど、彼は私に切に願っていて。
出来事はもう起こった後で……どうして良いか分からない。
「…無茶だったと、今なら思います…次はすぐに人を呼びます」
「それは…」
烝は言葉を切った。
「…この場の方便か?」
「!」
「それができないなら…君を…監察方には置いておけない」
サァッと血の気が引く。
見放された
そう思ったけれど、彼は私の手を放さない。
「誰か…の、そばに、居てくれた方が……よっぽどましだ」
それは、あまりに奥底から苦しんでいる声だった。怪我をしている私より、烝さんの方が傷ついている。
私の取り繕う言葉を疑うほどに、彼は私のことを知っていた。私が嘘つきであることを知っていて、監察方にいることを望んでくれていた。
私が女だと知ったとき、彼は私が怪我をすることを嫌った。不死身だと言ったら、自分が見ていないところでも生きていてくれるならと呆れた。
ずっと嫌なことに、目を瞑って…気に病んでいたのだと
「…ごめんなさい」
今度は反応がなかった。烝さんは顔を上げてくれないけれど、私からの言葉を求めている。
彼に嘘を吐いた分だけの、正当な理由を
「…あの人たち、鬼…なんです。私と同じ……だから、あの人たちは…新選組にじゃなくて、私個人に用があって来ていたから…」
言外に、応援を呼べない理由があったと伝える。そして、今後も彼らと話し合いをするのだと。
「…君を…」
そこで烝さんはまた言葉を切った。
そして、苦しむ声が続いた。
「連れて行くつもりで、か?」
「!? なんで知って…」
「行かないでくれ」
グッと手を握られる。はずみで少し捻った傷が傷んで、弥月は顔を歪めた。
「風間が言っていた。雪村君は、俺らには過ぎたものだから、自分たちが連れ帰ると」
「千鶴ちゃんを!?」
「鬼の問題だと……君も…そうなんだろう」
「…」
不知火は私を妻に、風間は千鶴ちゃんを…ということか
なんて勝手なんだ
「鬼…は、女性が少ないそうです」
「…!」
ようやく烝さんは顔を上げた。彼は縋りつくような表情をしていた。
「過ぎたものというのはよく分かりませんけれど、女というだけで、伴侶として望まれるみたいです」
「…ーーーッ」
「行きませんよ。私は望んでません」
「俺が…っ」
烝はまた言葉を切り、何かを言いあぐねて、再び弥月の手に乞い願う。
……?
さきほどの姿と何か違いを感じた。指先に微かに彼の吐息がかかる。
俺が…?
そして、フッと頭を掠めた言葉を、まさかと打ち消す。
「…今日はあくまで、会津に味方をしている私の実力を確認しにきただけみたいです。同族意識が向こうにはあるようですけれど、敵同士とも認識しあっていますから、次は気を付けます」
「……」
「烝さん、私は新選組から逃げません。ここにいます。私が望んでここに居るんです」
「…隣に」
「?」
「声の…届くところに居てくれ」
さっきは『監察方に置いておけない』と言ったのに
弥月が返事に困ると、手を握ったまま烝は視線を上げる。
不安げに揺れる菫色の瞳を見て、 弥月は心の距離の話だと分かった。少しだけ口の端を上げる。
「はい。困ったら呼びます」
「困らなくても…困る前に…話してくれ」
それは、いつでも…いつも呼んでほしいと。私の親しい人でありたいと望まれていた。
「烝さん」
彼が顔を上げるのを待った。
気恥ずかしくて、こんなことを言うのはドキドキして胸が苦しい。
ゆっくりと上がる、哀しげな瞳をつかまえる。
こんなに言葉を重ねているのに。誰よりも私を知っているのに。烝さんが傷つかなくていいのに
「誰よりも信頼してます」
「!」
「だから、そ…」
え…
不意に近づく身体。
グッと肩を抱き寄せられる。
……
彼の肩越しに目を瞬かせる。ドックンと自分の鼓動が大きく鳴った。
咄嗟に烝さんが泣いているのかと思った。けれど、なんとはなしに違うのだと分かった。
「あ、の」
困惑したまま問いかけたが、返事がなかった。
そのとき、彼が腕に力を入れると、グッと背中が反り返って。思わず痛みに悲鳴をあげる。
「たっ!」
「!?」
さっきの…
「すっ、すまない!」
「ごめんなさい……ちょっと背中見てもらってもいいですか…」
「はッ!?」
「殴られて飛んでったときに、ぶつけたの忘れてて…」
「ーーっ、なぜ早く言わない!」
「忘れてたんです…」
甚平の裾を捲くるために、紐を外そうとすると。慌てて烝さんが後ろを向く。
その頬も耳も赤らんでいたことを横目に、私も彼に背中を向けた。
怪我をしたところよりも、彼に触れた肩が熱かった。