姓は「矢代」で固定
第8話 二条城警護
混沌夢主用・名前のみ変更可能
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
山崎side
「烝さん?」
そこにいたのは、神妙な顔をした弥月君と沖田さん。
片付いた室内と、落ち着いている二人の様子に、力が抜けて膝から崩れ落ちる。
「えっ!? 大丈夫ですか!?」
「…すまない。俺は何もない……怪我人がいると聞いていたから、大事ではなかったのだと…力が抜けただけだ」
「え?あ!すみません。大丈夫です!」
コクコクと頷く弥月君。
「っていうか、めっちゃ早くないですか? さっき伝令出したばっかりなんですけど」
「それとは入れ違いになった。こちらにも禁門の変のときにいた男達がきて、小競り合いになったんだ」
「そっちにも…?!」
「怪我人と、応援が要るってこと?」
沖田さんが硬い声で返す。
「いえ、彼らはすぐに退きましたので、怪我人はいません。
…ただ、雪村君の調子が優れなっかったので、十番組とともに連れて戻ってきました」
「千鶴ちゃんが?」
「あぁ。それに関して、君と少し話がしたいのだけれど…」
ちらりと沖田さんを見る。
「…僕に、どっか行けってこと?」
「…お察しください」
幹部の沖田さんには、後程、事の子細が伝わるとは思うが。それ以上に、今からの話は彼女個人に関わる話となりそうだった。
いきなり緊張しだした空気の中で、弥月は首を左右に巡らして、渋い顔をした後、沖田の方へと顔を向ける。
「…沖田さん、すみません。報告はまたします」
「…」
「千鶴ちゃん、ちょっと様子見てきてあげてください」
沖田はそれに返事をせず、じっと弥月を見た後わずかに首だけ振って、部屋を後にした。
終始鋭い眼をしていた彼が消えたことで、少し気が休まる。土間から上がって、弥月君と膝を突き合わせた。
「…そういえば、ここにいた病人はどうした?」
空になった三つの布団。今しがたまでここに居た乱れ様だった。
「治療するときに沖田さんが追い払いました」
「誰が怪我をしたんだ?」
「…」
半笑いで首を傾げた彼女。
烝は目を見開き、腰を上げる。
「ーーッ、怪我は!!?」
「大丈夫です…」
「どこだ!?」
「そこそこ。掴むと痛いから、ちょっと待ってください」
掴んだ手に怪我は見当たらなかったが、彼女が袖を捲くると現れた包帯。中に添木が入っているのだろう、腕が倍の太さだった。
「な、んだこれは!?」
「大丈夫ですって…たぶん、ヒビくらいは入ったかもだけど」
「…っ!」
ヘラヘラと笑う彼女。
「―――っ」
笑っている場合じゃない
大丈夫じゃない
叫びそうになって胸が膨らむ。ぐっと歯を食いしばって押し止めた。
大丈夫じゃない
何度言っても伝わらない。大怪我をして帰ってきては、その一言で周りを落ち着かせようとする。
出先の負傷でならまだしも。屯所にいたはずの彼女一人が怪我をしたということは、かの男達相手に、無茶な応戦をしたということだ。
これはもう駄目だ
この人は言わなきゃ伝わらない
「なぜ分からないんだ」
「…すみません」
「分かっていないなら謝るな」
「…」
「確かに俺は死ぬなとは言ったが、死ななければ良いと思ってるのか」
「いえ…」
「怪我をするなとも言ったはずだ」
「はい…」
分かっていない筈がない。それでも、この人にはどうしてか伝わらない。
「君に捨て身をされても、少しも嬉しくない。誰も感謝しない」
「はい…」
「どうしてこうなった」
「…不意打ちで…避け切れなくて…」
「君が狙われたということか。応援は」
「……」
きゅっと口を結んだ弥月君。顔を顰めて「何故」と返す。
「…話をしたかったんです、彼らと」
そうだろうとは思っていた。
鬼
彼らが…彼女が繰り返したそれに、何か深い事情があるのだと。
副長の剣すら歯牙にもかけない男から、当前のことのように放たれた言葉。
『これは鬼の問題だ』
『千鶴はお前達には過ぎたもの。だから我らが連れ帰る』
それは新選組…人間が介在する話ではないのだと云った。
その真意が恐ろしい
***