姓は「矢代」で固定
第8話 二条城警護
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慶応元年五月下旬
山崎side
ガタッ
「こんにちはー、林さんにお届け物でーす」
「おー、ありがとなー」
ここは監察方の借家である。俺は新入隊士のことは島田君らに任せて、外回りをしている途中で。林がここに居るようだったから、情報共有をしているところだった。
弥月君は土方さんから急用だと言われて、書付を届けにきたらしい。お互い手を挙げて、挨拶する。
「烝さん、偶然」
「あぁ」
「…自分、出てくるわ。あと山崎さんよろしゅう頼んます」
「承知した。気を付けて」
林から渡された書付に、山崎はサッと目を通して「心当たりがあるのか…」と感心した声を出す。
「どうしたんですか?って、聞いてもいいですか?」
「…構わない。将軍が十六日に江戸城を出たらしい。それに関して膳所(ぜぜ)藩の同行を探れとの命令だ」
「膳所藩って、琵琶湖のとこでしたっけ?」
「そうだ。あそこも佐幕派と討幕派で荒れているからな。この件に島田君らも出すべきか…」
最後は独り言で、監察方の半分をそちらに流すか考える。
島田君よりは尾関伍長と川島の方が、この件では適任な気がするが……下二名をまだ野放しにしていいかの判断がつかない。
組み直すか……いや、直したところで…伍長との関係ができないことには……川島単独で動かすと、伍長の心証が悪いか…
新しい編成で監察方の人手は増えたが、心身を信頼し合い、仕事を任せられる人員はまだ限られていた。
「烝さん、お昼食べました?」
「…」
「はい、捕まえましたー…って、驚きすぎです」
「…逃げないから、腕は…離してくれないか…」
「あ、利き手は嫌でした? すみません」
「いや…」
そうではなくて
急にピタリとくっついて来るものだから、不覚にも驚いて身体が跳ねてしまった。
「時間ありますか?」
「あぁ」
「じゃあ、久しぶりの強制ご飯ですね。出かけましょう!」
手を引いてニコニコとする弥月を見て、配置換えの思案はうっかり中途半端で放り出された。けれど、山崎は自ずからそれに気づいて、弥月の背後で情けない顔をする。
声の届くところに居てほしいとは思うけれど、自分がこれでは、やはり監察方に呼ぶにはあまりに私情が過ぎた。
***
「烝さんって、好きな人いますか?」
「ングッ…ゲホッ……何を藪から棒に…!」
啜ろうとした蕎麦が、気管に滑り込みかけた。
弥月君が突拍子もないのはいつもの事だけれど、いきなりその話題は心臓に悪い。
「烝さんって、花街とかあんまり行ってないじゃないですか。だから、想う人がいるのかなって推測です」
「あんまりじゃない。俺は行かない」
これは強調しておく。
彼女が俺をどう評価してるのか…は、考えないことにしていたが、『そういう男』だと間違われていたくはない。
「す……相手以外に興味はない」
口に出せなくて、少しだけ胸がキュッとなる。
「もしかして、男の人が好きですか?」
「…どうしてそうなる」
「ああいえ、違うんだったらいいんです」
何故、その相手本人と、こんなむず痒いやり取りを行わなければいけないのか…
これが世間一般の男女なら恋の駆け引きなのだろうけれど、弥月君のことだから世間話でしかないのだ。
「私、恋人作ろうかなと思って」
ブフォッ!
「ゲホッ…ゴホッ……」
「…さっきから大丈夫ですか? 烝さん」
は?
「ェ゛ホッ…ん゛っ、なんだって?」
「ん。聞き直されると、なんか恥ずかしいんですけど…」
言っている事の意味が全く分からない。しかも、本当に恥ずかしそうな顔をするから、こっちは気が気じゃない。
「私、恋人作ろうと思って。男避けに」
恋人!!?
「こ…」
…
…男避け?
……女の子が好きな、弥月君の男避けの恋人?
「…君の恋人というのは、男なのか? 女なのか?」
「え。そこ?」
「すまない。情報量が多くて困るんだが…つまり、仮の、名目上の恋人を作ろうということか? 何故? というか、誰かに何か言われたのか?」
俺は箸をおいて、真面目に話をする姿勢に入ったのだが。
弥月君は雑談程度のことと思っているのだろう。咀嚼する口を手で隠しながら、話を続ける。
「それがですねー…」
***