姓は「矢代」で固定
第7話 無軌道な優しさ
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***
しっかりと根回しをしての組分けだったため、組長や幹部達からそれほど文句は出なかったらしい。加えて、帰郷が気分転換になったのか、久しぶりに正面から見た土方さんは、カラリと晴れた顔をしていた。
「監察方でいいか? 一番組が良いか? 元総長付きにするか?」
「は、い…?」
な、なんで訊かれるの…!? 元総長付きって所属名は何?
今まで偉い人を巻き込み、土方さんを騙くらかして、好きな場所に置いてきた身ではあるが……そっちから選ばせてくれるなんて聞いたことがない。
驚きのあまり目を白黒させる弥月に、土方は面白いという顔をする。
「一番組の伍長させてやってもいいぞ?」
「う、え゛、あ……ヤ、ですよ…」
「あちこちから仲良くやってたって聞いてるからな。
それと、八十八が伍長を拒否しやがったから、あいつは三番組にやった。おまえ、蟻通よりは上だろ?」
「仲良くはやってましたけど、そこの伍長はちょっと……新人入るたびにピリピリする、今一番面倒くさい組では…」
「よく分かってるじゃねえか。総司に丁度いい指導なんてできるわけねぇからな。
まあ、鼻っ柱高いので固めたから、コテンパンにされて丁度いいくらいかもしれねぇが」
「えぇ…それ、私より強い横柄な新人ってことですよね」
「やってみなきゃ分かんねぇだろ? 負けたら伍長交代だ」
「いや、そんな微妙な立場より、監察方がいいです」
「…」
何故か黙る、土方さん。
「…監察方でも、いいんですよね?」
「俺は構わねぇが、今度は山崎と喧嘩したのか?」
「いえ?」
なんで?
「監察方も大幅に増やすことにしたからな。伍長に島田と誰を置くかって話したら、あいつ、尾関って言ってな。
まあ立場で言えば順当で、堅い山崎らしい人選だが……またなんか歯に挟まった顔してたぞ」
尾関さんは、以前新八さんらと共に近藤さんの専横についての建白書を出した一人。浪士組の頃からいる真率な人で、口が堅く、清廉潔白。伍長の冠に見劣りしない実力で、どの隊士からも信頼は厚い。
つまり、私より古株で有望株を、片腕に選んだということ
そして、監察方に私の名前はなかった
「…私、愛想つかされて放り出されたってことですか」
昨日の斎藤さんとの試合……もはや、模範試合とは呼べない立ち合いのことを思い出す。負けるのは仕方ないにしても、やはり斎藤さんから大目玉をくらった。
弥月のあまりに悲壮な声に、土方は一瞬だけ憐れむような表情をする。
「…いや、そこまでじゃねえ。お前が監察方を希望するなら、島田の下に付けるって話だった。川島は尾関の方だけどな」
監察方は他の組と違って、これで本配属になる。そのため、伍長以外の人選や配置も、山崎に相談した上で決定している。
土方はそのときの山崎の様子を思い出していた。
俺はこいつが一番組だろうが監察だろうが、欲しいやつが好きに持ってきゃいいと思ってたんだが…
あまりに山崎の口から名前が上がらないもんだから、「矢代は要らないのか?」と訊いてみたら、見たことない凄い顔して黙っちまって。ボソボソと先のようなことを言う。
矢代の調子はなんら変わりないから、どうやら変わったのは彼奴等の方のようだ。
総司のこともあるしな…
おかしなのは山崎だけじゃなかった。
事前に近藤さんに送っておいた、新入隊士を含めた組分け予定。昨日、各要員に最終確認をした。
総司が組員に気を遣うことはないと、一番組は組長と伍長候補で、三人まとめて呼んだ。
それなのに、八十八は一番組の伍長は分不相応だから異動を希望するなどと、勝手なことを言いだして。代わりに誰が適当かと問えば、これまたどうしてそう思うのか、屯所移転とともに一番組に異動してきた『矢代ぞい』と。
『総司、お前はいいのか?』
少なくとも剣術のみで判断するなら彼ではない……曲芸順ならとは思うが。ひきつづき実力順かどうかも含めて、一番組の組長としての意向を聞く。
『…どっちでも』
『どっちでもって、お前な。自分とこのことだろ』
…
……
どっちでも…?
その返事に違和感を抱いた。想像しうるのは「やだ」「いいんじゃないですか」、若しくは「誰でもいいです」。
そもそも矢代を一番組から外してくれと口々に言われると思っていたのだが、驚いたことに、誰もその要望が無いらしい。
どっちでも…
限りなく「どうでもいい」に近いのだが、何かが違う。それが何か分からない。
『矢代は…』
……
『監察方に戻そうと思ってたんだが』
…ほぉ…
総司が無関心を決め込んでいる。
だが、眉頭がわずかに跳ねたのを俺は見逃さなかった。
気になって仕方ない時の顔だ
『あいつ、一番組に要るか?』
『…本人に訊いたら良いんじゃないですか。どうせ人の言う事なんて聞かないんですから』
つまり、自分としては一番組に居ても良いと。自分としては「要る」と。
その結果、伍長かどうかは「どっちでもいい」か
『…山崎は欲しいって言ってきそうだが、お前は特に希望はねぇんだな?』
『…どっちでも』
欲しいのか
なんつー分かりやすい顔してんだ
どうやら組下と一緒に呼んだのは間違いだったようだ。いつもの仕返しに揶揄うこともできなかった。
二人してそんな様子だから、一応、矢代弥月本人の希望を聞くことにしたのだ。
「あの山崎が私情挟むなんて、何やったんだ?」
「ええ…何もしてないんですけど…」
「ふん。丁度いいから、一番組にしとけ。たまには真面目に上目指してこい」
「うえぇぇぇ……クセ強強一番組の伍長とかムリぃ…八十八さんいないとか、もっと無理ィィぃぃ…!」
癖が強いことは言及したいが、下にいる気はないらしい
「蟻通らも、お前に言われたかねぇと思うがな。
総司に程よく新人を追い込ませつつ、辞めちまう前に止めるのがミソだな」
「なんかもっと具体案下さい…」
「ヤバかったら早めに言ってこい。くたばる前に、斎藤とか落ち着いてる組に異動させる」
「私を他所にやって下さい…」
総司が欲しがってるからな
近藤さん以外の何にもあまり執着しないあいつ。
俺がいない間にどうなってるのか、しばらく観察するためにもう少しそこに据え置いてやることにした。
しっかりと根回しをしての組分けだったため、組長や幹部達からそれほど文句は出なかったらしい。加えて、帰郷が気分転換になったのか、久しぶりに正面から見た土方さんは、カラリと晴れた顔をしていた。
「監察方でいいか? 一番組が良いか? 元総長付きにするか?」
「は、い…?」
な、なんで訊かれるの…!? 元総長付きって所属名は何?
今まで偉い人を巻き込み、土方さんを騙くらかして、好きな場所に置いてきた身ではあるが……そっちから選ばせてくれるなんて聞いたことがない。
驚きのあまり目を白黒させる弥月に、土方は面白いという顔をする。
「一番組の伍長させてやってもいいぞ?」
「う、え゛、あ……ヤ、ですよ…」
「あちこちから仲良くやってたって聞いてるからな。
それと、八十八が伍長を拒否しやがったから、あいつは三番組にやった。おまえ、蟻通よりは上だろ?」
「仲良くはやってましたけど、そこの伍長はちょっと……新人入るたびにピリピリする、今一番面倒くさい組では…」
「よく分かってるじゃねえか。総司に丁度いい指導なんてできるわけねぇからな。
まあ、鼻っ柱高いので固めたから、コテンパンにされて丁度いいくらいかもしれねぇが」
「えぇ…それ、私より強い横柄な新人ってことですよね」
「やってみなきゃ分かんねぇだろ? 負けたら伍長交代だ」
「いや、そんな微妙な立場より、監察方がいいです」
「…」
何故か黙る、土方さん。
「…監察方でも、いいんですよね?」
「俺は構わねぇが、今度は山崎と喧嘩したのか?」
「いえ?」
なんで?
「監察方も大幅に増やすことにしたからな。伍長に島田と誰を置くかって話したら、あいつ、尾関って言ってな。
まあ立場で言えば順当で、堅い山崎らしい人選だが……またなんか歯に挟まった顔してたぞ」
尾関さんは、以前新八さんらと共に近藤さんの専横についての建白書を出した一人。浪士組の頃からいる真率な人で、口が堅く、清廉潔白。伍長の冠に見劣りしない実力で、どの隊士からも信頼は厚い。
つまり、私より古株で有望株を、片腕に選んだということ
そして、監察方に私の名前はなかった
「…私、愛想つかされて放り出されたってことですか」
昨日の斎藤さんとの試合……もはや、模範試合とは呼べない立ち合いのことを思い出す。負けるのは仕方ないにしても、やはり斎藤さんから大目玉をくらった。
弥月のあまりに悲壮な声に、土方は一瞬だけ憐れむような表情をする。
「…いや、そこまでじゃねえ。お前が監察方を希望するなら、島田の下に付けるって話だった。川島は尾関の方だけどな」
監察方は他の組と違って、これで本配属になる。そのため、伍長以外の人選や配置も、山崎に相談した上で決定している。
土方はそのときの山崎の様子を思い出していた。
俺はこいつが一番組だろうが監察だろうが、欲しいやつが好きに持ってきゃいいと思ってたんだが…
あまりに山崎の口から名前が上がらないもんだから、「矢代は要らないのか?」と訊いてみたら、見たことない凄い顔して黙っちまって。ボソボソと先のようなことを言う。
矢代の調子はなんら変わりないから、どうやら変わったのは彼奴等の方のようだ。
総司のこともあるしな…
おかしなのは山崎だけじゃなかった。
事前に近藤さんに送っておいた、新入隊士を含めた組分け予定。昨日、各要員に最終確認をした。
総司が組員に気を遣うことはないと、一番組は組長と伍長候補で、三人まとめて呼んだ。
それなのに、八十八は一番組の伍長は分不相応だから異動を希望するなどと、勝手なことを言いだして。代わりに誰が適当かと問えば、これまたどうしてそう思うのか、屯所移転とともに一番組に異動してきた『矢代ぞい』と。
『総司、お前はいいのか?』
少なくとも剣術のみで判断するなら彼ではない……曲芸順ならとは思うが。ひきつづき実力順かどうかも含めて、一番組の組長としての意向を聞く。
『…どっちでも』
『どっちでもって、お前な。自分とこのことだろ』
…
……
どっちでも…?
その返事に違和感を抱いた。想像しうるのは「やだ」「いいんじゃないですか」、若しくは「誰でもいいです」。
そもそも矢代を一番組から外してくれと口々に言われると思っていたのだが、驚いたことに、誰もその要望が無いらしい。
どっちでも…
限りなく「どうでもいい」に近いのだが、何かが違う。それが何か分からない。
『矢代は…』
……
『監察方に戻そうと思ってたんだが』
…ほぉ…
総司が無関心を決め込んでいる。
だが、眉頭がわずかに跳ねたのを俺は見逃さなかった。
気になって仕方ない時の顔だ
『あいつ、一番組に要るか?』
『…本人に訊いたら良いんじゃないですか。どうせ人の言う事なんて聞かないんですから』
つまり、自分としては一番組に居ても良いと。自分としては「要る」と。
その結果、伍長かどうかは「どっちでもいい」か
『…山崎は欲しいって言ってきそうだが、お前は特に希望はねぇんだな?』
『…どっちでも』
欲しいのか
なんつー分かりやすい顔してんだ
どうやら組下と一緒に呼んだのは間違いだったようだ。いつもの仕返しに揶揄うこともできなかった。
二人してそんな様子だから、一応、矢代弥月本人の希望を聞くことにしたのだ。
「あの山崎が私情挟むなんて、何やったんだ?」
「ええ…何もしてないんですけど…」
「ふん。丁度いいから、一番組にしとけ。たまには真面目に上目指してこい」
「うえぇぇぇ……クセ強強一番組の伍長とかムリぃ…八十八さんいないとか、もっと無理ィィぃぃ…!」
癖が強いことは言及したいが、下にいる気はないらしい
「蟻通らも、お前に言われたかねぇと思うがな。
総司に程よく新人を追い込ませつつ、辞めちまう前に止めるのがミソだな」
「なんかもっと具体案下さい…」
「ヤバかったら早めに言ってこい。くたばる前に、斎藤とか落ち着いてる組に異動させる」
「私を他所にやって下さい…」
総司が欲しがってるからな
近藤さん以外の何にもあまり執着しないあいつ。
俺がいない間にどうなってるのか、しばらく観察するためにもう少しそこに据え置いてやることにした。