姓は「矢代」で固定
第7話 無軌道な優しさ
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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***
翌日、昼過ぎに貼り出された、組分け名簿。
旧体制から特に変わったのは、行軍編成ではなくなり、一から十の通し番号に戻ったこと。平隊士の人数が増え、各組の伍長が二人になっていること。監察方が再び設置されたこと。そして伊東さんが参謀になったこと。
山崎はそれを見上げて、眉毛を寄せる。
あの人の名前がない
百人以上ある名前の列記に、うっかり書き忘れられた人がいてもおかしくはないけれど。
現在所属している一番組にもなければ、諸士調兼監察方にもない、【矢代弥月】の名前。
人垣の後ろに立っていた俺の横に、島田くんが来て「おや」と言う。彼自身のことは、監察方の伍長に指名したと伝えてあった。
「監察は名前を飛ばされてる人もいますし、それでしょうか?」
隊士向けに出す名簿に、林の名前がないのはいつものことだ。池田屋事件後は屯所に出入りしない、伊東参謀ですら知らない監察方。
だが…
「…そこにいるのに?」
少し向こうで、沖田さんとともに名簿を見上げて、キョロキョロとしている弥月君。自分の名前がないのは、彼女も想定外のことらしい。沖田さんに何か話しかけて、首を傾げている。
「一番組でもありませんね」
「そうだな…」
確かに彼女の名前はない。
けれども、なぜか一番組は伍長の名前が一人分しかないから、その枠か。
一方で、監察方も伍長が二人いるけれど、平隊士の人数は極端に少ない。
どっちだ…
「あ、烝さん!魁さん!」
振り返って俺に気付いた弥月君。沖田さんを伴っていたのでペコリと会釈する。
「私、どこか知ってますか?」
「いや…」
「ほらね、やっぱり忘れられてるんだって」
「こんなにバリバリ存在感発揮してるのに?」
その意味するところは、こちらをチラチラと見ている新入隊士に向けてだろう。
「鬼籍付きじゃない?」
なるほど…山南さんのところか…
「でも、それこそ烝さんの下に付けてくれたら済む話な気がしません?」
「それもそうだね。じゃあ、貼り出したら君がその大きい声で文句垂れてきそうな所」
揃って再び名簿を見上げる。
「七…」
「七、かな」
「七か九」
「五もまぁ癖が…」
小さい声で各々に呟く。
七番谷組、九番鈴木三木三郎組、五番武田組
「烝さん…」
うっ…
「…分かった。そのあたりなら俺が回収する」
「不用品扱いでも回収してくれるならもういい」
「ちょっと。不用品なんて言ってないでしょ」
「言ったのは烝さん」
「言ってない!」
ぶうたれた顔で見てくるが、仕方ないじゃないか。そこに配属されてたら「回収」が適当だろう。
「あれ? でも山崎君、昨日土方さんに呼ばれたでしょ? 要るって言わなかったってことじゃないの?」
ん゛んッ
「…伍長に指名しなかっただけです」
「あー…まあ、尾関さんと比べるなら納得。僕でもそうする」
「それ、どういう意味ですか?」
「分かってて聞きたいなんて物好きだね」
「…もういいです。組み分けのこと、土方さんに聞いてきます」
クツクツと笑う沖田さんと、半ばとばっちりの俺を、弥月は一睨みしてから踵を返す。
「付いてこないでください!」
「自意識過剰。たまたま僕は近藤さんに用事があるだけだよ」
「――っ、じゃあ横歩いてください、気になるから!」
…?
違和感があった。
一番組に行ってから、かなり打ち解けたらしい、弥月君と沖田さん。他の隊士たちとともに、稽古や巡察前後になごやかに共に歩く姿を幾度か見かけていた。
そうとはいえ…
…
…前?
何が違和感なのかと思えば、後追いしているのが沖田さんの方なのだ。「間合いの差に居ないで!」と嫌がる弥月君の左後ろにぴたりとついて歩く彼。
「随分、仲良くなったようですね」
「…そうだな」
「強敵ですね」
「…?」
意味が分からず島田くんを見ると、ふふっと彼は向こうに視線をやったまま笑った。
「角と飛車のような人の目を惹く者同士ですから、最初は魅力的でしょうけれど。まだ軍配はこちらに」
「将棋か?」
「我々はと金です」
「…それは言い得て妙だ」
自陣で王を護るのではなく敵の懐に入りこんで力を使う、そんな意味だ。
巡察中でない隊士は、部屋移動を夕刻までに終わらせるよう通達があり、山崎と島田も掲示をあとにした。
***
翌日、昼過ぎに貼り出された、組分け名簿。
旧体制から特に変わったのは、行軍編成ではなくなり、一から十の通し番号に戻ったこと。平隊士の人数が増え、各組の伍長が二人になっていること。監察方が再び設置されたこと。そして伊東さんが参謀になったこと。
山崎はそれを見上げて、眉毛を寄せる。
あの人の名前がない
百人以上ある名前の列記に、うっかり書き忘れられた人がいてもおかしくはないけれど。
現在所属している一番組にもなければ、諸士調兼監察方にもない、【矢代弥月】の名前。
人垣の後ろに立っていた俺の横に、島田くんが来て「おや」と言う。彼自身のことは、監察方の伍長に指名したと伝えてあった。
「監察は名前を飛ばされてる人もいますし、それでしょうか?」
隊士向けに出す名簿に、林の名前がないのはいつものことだ。池田屋事件後は屯所に出入りしない、伊東参謀ですら知らない監察方。
だが…
「…そこにいるのに?」
少し向こうで、沖田さんとともに名簿を見上げて、キョロキョロとしている弥月君。自分の名前がないのは、彼女も想定外のことらしい。沖田さんに何か話しかけて、首を傾げている。
「一番組でもありませんね」
「そうだな…」
確かに彼女の名前はない。
けれども、なぜか一番組は伍長の名前が一人分しかないから、その枠か。
一方で、監察方も伍長が二人いるけれど、平隊士の人数は極端に少ない。
どっちだ…
「あ、烝さん!魁さん!」
振り返って俺に気付いた弥月君。沖田さんを伴っていたのでペコリと会釈する。
「私、どこか知ってますか?」
「いや…」
「ほらね、やっぱり忘れられてるんだって」
「こんなにバリバリ存在感発揮してるのに?」
その意味するところは、こちらをチラチラと見ている新入隊士に向けてだろう。
「鬼籍付きじゃない?」
なるほど…山南さんのところか…
「でも、それこそ烝さんの下に付けてくれたら済む話な気がしません?」
「それもそうだね。じゃあ、貼り出したら君がその大きい声で文句垂れてきそうな所」
揃って再び名簿を見上げる。
「七…」
「七、かな」
「七か九」
「五もまぁ癖が…」
小さい声で各々に呟く。
七番谷組、九番鈴木三木三郎組、五番武田組
「烝さん…」
うっ…
「…分かった。そのあたりなら俺が回収する」
「不用品扱いでも回収してくれるならもういい」
「ちょっと。不用品なんて言ってないでしょ」
「言ったのは烝さん」
「言ってない!」
ぶうたれた顔で見てくるが、仕方ないじゃないか。そこに配属されてたら「回収」が適当だろう。
「あれ? でも山崎君、昨日土方さんに呼ばれたでしょ? 要るって言わなかったってことじゃないの?」
ん゛んッ
「…伍長に指名しなかっただけです」
「あー…まあ、尾関さんと比べるなら納得。僕でもそうする」
「それ、どういう意味ですか?」
「分かってて聞きたいなんて物好きだね」
「…もういいです。組み分けのこと、土方さんに聞いてきます」
クツクツと笑う沖田さんと、半ばとばっちりの俺を、弥月は一睨みしてから踵を返す。
「付いてこないでください!」
「自意識過剰。たまたま僕は近藤さんに用事があるだけだよ」
「――っ、じゃあ横歩いてください、気になるから!」
…?
違和感があった。
一番組に行ってから、かなり打ち解けたらしい、弥月君と沖田さん。他の隊士たちとともに、稽古や巡察前後になごやかに共に歩く姿を幾度か見かけていた。
そうとはいえ…
…
…前?
何が違和感なのかと思えば、後追いしているのが沖田さんの方なのだ。「間合いの差に居ないで!」と嫌がる弥月君の左後ろにぴたりとついて歩く彼。
「随分、仲良くなったようですね」
「…そうだな」
「強敵ですね」
「…?」
意味が分からず島田くんを見ると、ふふっと彼は向こうに視線をやったまま笑った。
「角と飛車のような人の目を惹く者同士ですから、最初は魅力的でしょうけれど。まだ軍配はこちらに」
「将棋か?」
「我々はと金です」
「…それは言い得て妙だ」
自陣で王を護るのではなく敵の懐に入りこんで力を使う、そんな意味だ。
巡察中でない隊士は、部屋移動を夕刻までに終わらせるよう通達があり、山崎と島田も掲示をあとにした。
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