姓は「矢代」で固定
第7話 無軌道な優しさ
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***
沖田side
一番組は個々の能力が高い。
臂力(ひりょく)は人並みでも、高い敏速性や動体視力、自分の身体や刀を思うままに扱える器用さなど……新八に言わせれば、「才ある一芸に秀でた」隊士の集まりだった。
だからこそ、隊士が増えて山南や土方から命じられていたのは、組織集団としての自覚。
『時代の剣豪として名を上げたいなら、仲間とともに次の戦に出て、新選組の名を高めなさい。今日の己が強さを誇りたいだけなら、江戸で竹刀を振っていなさい』
文学師範などと名乗りそれに連なる人達はともかく、少なくとも、一番組の面々には意味のある訓育だった。
そうして毎日繰り返される囲みの練習。今は囲む側は三人で、斬られる側は弥月一人。
行灯に照らされる影が回転して、脚を下から上へ振り上げると、蹴られた敵の手から刀が落ちる。チィッ…と蟻通が舌打ちをした。
「おー…いつもより、はしこいのー…」
八十八さんが感心しきった様子で言う。
そう。普段よりすばしこい。
今朝、真っ暗な中から出かけて、帰ってきてからずっと上の空だっから、最初の斬られ役を弥月君に命じたのに。迫る三本の刀を巧妙に避け、流しているのだ。
しかも、余裕すらある…
カンッ
「!?」
は!? 今の見えてないよね!?
跳んで着地した先を狙われて、背に突きが入ったのだが。身体をズラして振り返り、刀を滑らせて追撃を防いだ。
いや、影の動きか…?
そうだとしても、その方向と距離は正確ではない。
「…弥月君そのままで。他交代」
「は?」
「だって余裕あるでしょ。一撃もまともに当たってないじゃない」
「見てた? ねえ、ちゃんと見てました? 当たってましたよ、ここ、ここ、ここも!」
腕とか腰とかを指さすが、あんなの当たった内に入らない。
勿論、真剣だったら切れているが今は刃引き。加えて、彼女は先日の甲冑屋で小手をもらったと言い、そこを犠牲にする練習をしたいらしいが……一番組で何を目指しているのやら…
「てゆーか、私にも斬る側させて下さいよ!」
「煩い。斬られる側は、致命傷までは斬られる役だよ」
「…ヴッ、ヤラれたー…失血死」
バタッ
「…なぶり殺すよ」
「死体斬りは士道に反します」
「早く立って」
弥月はブツブツと文句を言いながら立ち上がる。
そうして再び三対一を始めたのだが。自分が相対してみて、やはりと思った。
見えてないものを避けてる
この一ツ月で、彼女の間合い、左右の得意・不得意や、臂力、足捌きや重心移動、その他技量や能力は全て把握したつもりだ。木刀なら問題ないのに、余る長刀を使っている故の悪い癖も把握している。
けど…そういう話じゃないよね、これ…
身の軽さも、勘の良さも幾度となく見てきたが。
普段の実力以上
小手で重さが出て、今日は動きが悪くなると思ったが意外とそうでもない。
そのとき、弥月は突然にバッと沖田を振り返って、一息で目の前まで飛んでくる。
ガンッ
「駄目か」
「…やったね」
僕がただ見ているだけなのに気付いて、一転攻勢に出る気になったらしい。つまり、二人相手程度なら、本当に余裕があるのだ。
…そういえば、前もあったな
思い出したくもないが、野試合をしたとき。あの日もやたらに人間離れした動きをしていた。
体調か、心持ちか
囲んで三人同時に突くと、一番受けやすい位置にあるもの目掛けて、身体を捻りながら輪の外に飛び出していく。囲み直して素早く突きを繰り返すと、どれかは当たるが、掠めた程度の手ごたえ。
弥月は囲みから出ては、ニヤリと笑って沖田を見る。
―――っと、鬱陶しいなぁッ!
弥月としては、避けれた…命を繋いだ喜びを得ながら、沖田の動きを警戒していただけなのだが。見る方にとっては先程の攻めが相成って、間違いなく挑発の様相であった。
誘われるまま斬り合い混ざるうちに、僕の邪魔にならないようにか、いつの間にか離れている味方。
ビュッ
「わあ!組長!?」
「何、勝手に休憩してるの」
「やだ言うねぇ!思い出な顔しとったさけ遠慮してしもたやぁ」
「…」
言われて気づく。自分が楽しんでいたことに。
「…言い訳はいいよ。一緒に斬られたくなかったら、とっとと仕留める」
「おー」
八十八のやる気があるのかないのか分からない掛け声。弥月は滝のような汗をかきながらフフッと笑う。
「余裕だね」
「とんでもない。でも楽しい」
「斬られて楽しいなんて、とんだ嗜好――――」
「ほあッ!!」
ドタンッ
振り向きざまに一閃薙いだのを避けられた。が、弥月君は足が滑ったらしく、後ろ向きに転んだ。容赦なくそこに三本の刀が突き付けられる、
「…わざと?」
「いえ、転んだのは本当です」
「回避を諦めたってことね」
「ええ、正直限界」
仰向けに大の字に転がる。それを見て「さすがになぁ」と誰かが笑った。
「…分かった。休憩してていいから。そこは邪魔」
「はーい」
返事をしながら這って行き、水を飲み、隅の方で転がる弥月君。
スー
スー
「…嘘」
「マジか」
まさか、そのまま寝るとは誰も思っていなかった。
沖田side
一番組は個々の能力が高い。
臂力(ひりょく)は人並みでも、高い敏速性や動体視力、自分の身体や刀を思うままに扱える器用さなど……新八に言わせれば、「才ある一芸に秀でた」隊士の集まりだった。
だからこそ、隊士が増えて山南や土方から命じられていたのは、組織集団としての自覚。
『時代の剣豪として名を上げたいなら、仲間とともに次の戦に出て、新選組の名を高めなさい。今日の己が強さを誇りたいだけなら、江戸で竹刀を振っていなさい』
文学師範などと名乗りそれに連なる人達はともかく、少なくとも、一番組の面々には意味のある訓育だった。
そうして毎日繰り返される囲みの練習。今は囲む側は三人で、斬られる側は弥月一人。
行灯に照らされる影が回転して、脚を下から上へ振り上げると、蹴られた敵の手から刀が落ちる。チィッ…と蟻通が舌打ちをした。
「おー…いつもより、はしこいのー…」
八十八さんが感心しきった様子で言う。
そう。普段よりすばしこい。
今朝、真っ暗な中から出かけて、帰ってきてからずっと上の空だっから、最初の斬られ役を弥月君に命じたのに。迫る三本の刀を巧妙に避け、流しているのだ。
しかも、余裕すらある…
カンッ
「!?」
は!? 今の見えてないよね!?
跳んで着地した先を狙われて、背に突きが入ったのだが。身体をズラして振り返り、刀を滑らせて追撃を防いだ。
いや、影の動きか…?
そうだとしても、その方向と距離は正確ではない。
「…弥月君そのままで。他交代」
「は?」
「だって余裕あるでしょ。一撃もまともに当たってないじゃない」
「見てた? ねえ、ちゃんと見てました? 当たってましたよ、ここ、ここ、ここも!」
腕とか腰とかを指さすが、あんなの当たった内に入らない。
勿論、真剣だったら切れているが今は刃引き。加えて、彼女は先日の甲冑屋で小手をもらったと言い、そこを犠牲にする練習をしたいらしいが……一番組で何を目指しているのやら…
「てゆーか、私にも斬る側させて下さいよ!」
「煩い。斬られる側は、致命傷までは斬られる役だよ」
「…ヴッ、ヤラれたー…失血死」
バタッ
「…なぶり殺すよ」
「死体斬りは士道に反します」
「早く立って」
弥月はブツブツと文句を言いながら立ち上がる。
そうして再び三対一を始めたのだが。自分が相対してみて、やはりと思った。
見えてないものを避けてる
この一ツ月で、彼女の間合い、左右の得意・不得意や、臂力、足捌きや重心移動、その他技量や能力は全て把握したつもりだ。木刀なら問題ないのに、余る長刀を使っている故の悪い癖も把握している。
けど…そういう話じゃないよね、これ…
身の軽さも、勘の良さも幾度となく見てきたが。
普段の実力以上
小手で重さが出て、今日は動きが悪くなると思ったが意外とそうでもない。
そのとき、弥月は突然にバッと沖田を振り返って、一息で目の前まで飛んでくる。
ガンッ
「駄目か」
「…やったね」
僕がただ見ているだけなのに気付いて、一転攻勢に出る気になったらしい。つまり、二人相手程度なら、本当に余裕があるのだ。
…そういえば、前もあったな
思い出したくもないが、野試合をしたとき。あの日もやたらに人間離れした動きをしていた。
体調か、心持ちか
囲んで三人同時に突くと、一番受けやすい位置にあるもの目掛けて、身体を捻りながら輪の外に飛び出していく。囲み直して素早く突きを繰り返すと、どれかは当たるが、掠めた程度の手ごたえ。
弥月は囲みから出ては、ニヤリと笑って沖田を見る。
―――っと、鬱陶しいなぁッ!
弥月としては、避けれた…命を繋いだ喜びを得ながら、沖田の動きを警戒していただけなのだが。見る方にとっては先程の攻めが相成って、間違いなく挑発の様相であった。
誘われるまま斬り合い混ざるうちに、僕の邪魔にならないようにか、いつの間にか離れている味方。
ビュッ
「わあ!組長!?」
「何、勝手に休憩してるの」
「やだ言うねぇ!思い出な顔しとったさけ遠慮してしもたやぁ」
「…」
言われて気づく。自分が楽しんでいたことに。
「…言い訳はいいよ。一緒に斬られたくなかったら、とっとと仕留める」
「おー」
八十八のやる気があるのかないのか分からない掛け声。弥月は滝のような汗をかきながらフフッと笑う。
「余裕だね」
「とんでもない。でも楽しい」
「斬られて楽しいなんて、とんだ嗜好――――」
「ほあッ!!」
ドタンッ
振り向きざまに一閃薙いだのを避けられた。が、弥月君は足が滑ったらしく、後ろ向きに転んだ。容赦なくそこに三本の刀が突き付けられる、
「…わざと?」
「いえ、転んだのは本当です」
「回避を諦めたってことね」
「ええ、正直限界」
仰向けに大の字に転がる。それを見て「さすがになぁ」と誰かが笑った。
「…分かった。休憩してていいから。そこは邪魔」
「はーい」
返事をしながら這って行き、水を飲み、隅の方で転がる弥月君。
スー
スー
「…嘘」
「マジか」
まさか、そのまま寝るとは誰も思っていなかった。