姓は「矢代」で固定
第1話 内に秘めた思い
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***
沖田side
澄んだ声だった。
「あなた方と共に生きます」
驚いた表情をしたのは、僕だけじゃなくて……土方さんも、近藤さんも。…どうしてか山南さんは少しだけ眉を顰めていた。
「…そうか」
少しの間があって、近藤さんは息を吐くようにそう言った。その口元は穏やかに弧を描いていたけれど、決して嬉しさだけの表情ではなく、哀しさを孕んだ眼をしていて。
そんな近藤さんへ、弥月君は今度は静かに、人好きのする微笑みを向けた。
…空気が、変わった
一度は死を選んだ彼女がそう言った事に、どれだけの意味があるのか。近藤さんや山南さんの表情からも、その宣言が意味する複雑さを感じる。
そして、再び部屋に沈黙が落ちるが、それを破ったのは土方さんだった。
「…おう、そうか。じゃあ今後とも死ぬ気で働け」
「それはヤダ。生きる気しかない」
いつもどおりの弥月君の反応に、得意の三白眼で睨む土方さんの視線を、彼女は今度はニヤリと笑って受け止めて。
「うむ。是が非でも、生きぬいてくれ」
弥月君は近藤さんへ視線を翻して「はい!」と元気な返事をして、また土方さんへ「イーッ」と歯をむき出して威嚇した。
「…言ってろ」
諦めたようにボソリと溢した土方さんの言葉を聞いて、彼女は可笑しそう独りで笑う。
その時、ジッと僕が彼女を観察していたのに気付いたのか、僕を振り向いた近藤さんと眼が合う。
すると、近藤さんが大きな息を吐いて穏やかに微笑むから、釣られるように、僕はゆっくりと呼吸をする。すると、知らずうちに入っていたらしい、肩の力が抜けた。
そうして、弥月を囲む空気は穏やかに流れていこうとしたが、次に口を開いた山南の表情は曇っていて。
「あなたは…一体、どういう心境の変化でしょうか?」
山南さんのそれは、怒っているようにも取れる、厳しさを感じる言葉だった。
…まあ、そりゃあそうだよね。一カ月間、何があったか言わないし、何考えてるか全然分かんないんだから…
山南さんの声で、先程より明らかに空気が張りつめていたが。それには気付いていないのか、弥月君は「うーん」と、軽い調子で首を捻る。
「んー……離れて分かる、親のありがたみ的な? お父さんは山南さんで、お母さんは烝さんと、斎藤さんかな」
…
……は?
時が止まったかのようだった。
最初は彼女が言った言葉の意味を、誰も理解できていなかったのだが。
それぞれに自分の中で噛み砕いて、なんとなくその真意が伝わってくると、あまりの例えに……あんまりな人選に、笑うべきなのか、咎めるべきなのかが分からなかった。
百歩譲って、母親役にはじめ君や山崎君を据え置いたのは良いとして、父親役に山南さんを選ぶなんて、もの好き過ぎる。
「…私は貴方にそのような事を訊いたつもりはありません」
「あははっ、家族みたいに思ってるって話ですよ。お父さん」
山南さんは頭を抱えたそうな動作をしながらも、笑いを堪えるような表情をして……長年一緒にいる僕でも見たことがないような様で、弥月君と会話を続ける。
「…私はこんな大きい出来の悪い子を持った覚えはありませんよ」
「小さい子なら覚えがあるんですか? 山南さんもイケメンですもんね。浮名の一つ二つあったんじゃないですか」
「そういった話はしていません」
思いがけず集まった視線に、山南はそれ以上の言及を避けるべくピシャリと言い放った。
それに弥月は笑顔を張り付けたまま、小声で「はーい」と返事する。
…それ以上は、僕でも訊けないかな
山南さんのそういう過去について、詳しく知っている人はいないはずだ。聞いても悉(ことごと)くはぐらかされるだろうが、そもそも、普通の神経の持ち主は、彼に冗談交じりでそんなこと訊けない。訊いてはいけない気がする。
怖いもの知らずとは、まさしく彼女の事を言うのだろうと思う。
気を取り直したらしい山南さんは、ゴホンと咳払いをすると、さっきまでと比べて幾分か緩やかな調子で尋ねる。
「その…新選組を親元に例えるのはいったいどういう了見かとお尋ねしましょうか」
「…あ、お父さんは嫌でした? なら、おじい」
「お爺さんにされるぐらいでしたら、お父さんにしておいて下さい」
「おばあさ」
「お父さんで構いません」
「じゃあ近藤さん、お爺さんでもいいですか?」
「んあぁ、構わんよ」
えぇ…なにその会話……まだ続けるの…
二人の役柄が決まったからか、満足気な顔をした弥月君は、今度は土方さんへ笑顔を向ける。
「土方さん何が良いですか?」
「俺を混ぜるな」
役柄で残ってるのは、お婆さんか
「番犬ポチですね。おっけー」
「ぶっ」
「斬られてぇのか、コラ」
沖田は思わず吹き出してしまったため、弥月の視線が自分に向いていたので、そのついでに訊いてみる。
「ねえ…君、いつもそんな感じなの?」
「勿論です」
勿論って何。山南さん相手に、勿論それって、普通できない
なにより、土方さんが彼女に良いように振り回されているのが、予想外で面白い。
肩を震わせて笑う沖田に、弥月は首を傾げつつ、「こんな感じですよね?」と山南へ確認する。
すると、山南は「日常茶飯事ですね。まだマシな方です」と言い、近藤も頷いており、状況に違和感を持ったのは自分だけだということを沖田は理解した。
なるほどね、これか
ここのところ、不思議に思っていたことがある。
ずっと山南さんは弥月君の知識に探りを入れて、手駒に加えたいから、傍に置いているだけかと思っていた。けれど、それにしては彼女を思いやっていることに気付き……それは、あくまで女の子だからかと思いきや、普段は危険な任務に向かわせたり、地面に放っておいたりと、随分と雑に扱う。
それでも、山南さんが彼女を気に入っていることは間違いなくて。
今まで弥月君がいる所に近寄らなかったから、どうして“あの”山南さんがここまで弥月君を気に入っているのか理解できなかったけれど…
ただ単純に、弥月君は『普通』が可笑しい
「は―ぁ、分かった、もういいや。後、難しい話しかしないんでしょ、土方さん」
「ん? あ、あぁ…?」
「じゃあ僕興味ないし。お好きにしてください」
スックと僕が立ちあがって部屋を出て行く時に、ボケラッとした阿呆面でこっちを見上げる弥月君を横目にしても、僕の中ではただ可笑しさしか込みあげてくるだけだった。
沖田side
澄んだ声だった。
「あなた方と共に生きます」
驚いた表情をしたのは、僕だけじゃなくて……土方さんも、近藤さんも。…どうしてか山南さんは少しだけ眉を顰めていた。
「…そうか」
少しの間があって、近藤さんは息を吐くようにそう言った。その口元は穏やかに弧を描いていたけれど、決して嬉しさだけの表情ではなく、哀しさを孕んだ眼をしていて。
そんな近藤さんへ、弥月君は今度は静かに、人好きのする微笑みを向けた。
…空気が、変わった
一度は死を選んだ彼女がそう言った事に、どれだけの意味があるのか。近藤さんや山南さんの表情からも、その宣言が意味する複雑さを感じる。
そして、再び部屋に沈黙が落ちるが、それを破ったのは土方さんだった。
「…おう、そうか。じゃあ今後とも死ぬ気で働け」
「それはヤダ。生きる気しかない」
いつもどおりの弥月君の反応に、得意の三白眼で睨む土方さんの視線を、彼女は今度はニヤリと笑って受け止めて。
「うむ。是が非でも、生きぬいてくれ」
弥月君は近藤さんへ視線を翻して「はい!」と元気な返事をして、また土方さんへ「イーッ」と歯をむき出して威嚇した。
「…言ってろ」
諦めたようにボソリと溢した土方さんの言葉を聞いて、彼女は可笑しそう独りで笑う。
その時、ジッと僕が彼女を観察していたのに気付いたのか、僕を振り向いた近藤さんと眼が合う。
すると、近藤さんが大きな息を吐いて穏やかに微笑むから、釣られるように、僕はゆっくりと呼吸をする。すると、知らずうちに入っていたらしい、肩の力が抜けた。
そうして、弥月を囲む空気は穏やかに流れていこうとしたが、次に口を開いた山南の表情は曇っていて。
「あなたは…一体、どういう心境の変化でしょうか?」
山南さんのそれは、怒っているようにも取れる、厳しさを感じる言葉だった。
…まあ、そりゃあそうだよね。一カ月間、何があったか言わないし、何考えてるか全然分かんないんだから…
山南さんの声で、先程より明らかに空気が張りつめていたが。それには気付いていないのか、弥月君は「うーん」と、軽い調子で首を捻る。
「んー……離れて分かる、親のありがたみ的な? お父さんは山南さんで、お母さんは烝さんと、斎藤さんかな」
…
……は?
時が止まったかのようだった。
最初は彼女が言った言葉の意味を、誰も理解できていなかったのだが。
それぞれに自分の中で噛み砕いて、なんとなくその真意が伝わってくると、あまりの例えに……あんまりな人選に、笑うべきなのか、咎めるべきなのかが分からなかった。
百歩譲って、母親役にはじめ君や山崎君を据え置いたのは良いとして、父親役に山南さんを選ぶなんて、もの好き過ぎる。
「…私は貴方にそのような事を訊いたつもりはありません」
「あははっ、家族みたいに思ってるって話ですよ。お父さん」
山南さんは頭を抱えたそうな動作をしながらも、笑いを堪えるような表情をして……長年一緒にいる僕でも見たことがないような様で、弥月君と会話を続ける。
「…私はこんな大きい出来の悪い子を持った覚えはありませんよ」
「小さい子なら覚えがあるんですか? 山南さんもイケメンですもんね。浮名の一つ二つあったんじゃないですか」
「そういった話はしていません」
思いがけず集まった視線に、山南はそれ以上の言及を避けるべくピシャリと言い放った。
それに弥月は笑顔を張り付けたまま、小声で「はーい」と返事する。
…それ以上は、僕でも訊けないかな
山南さんのそういう過去について、詳しく知っている人はいないはずだ。聞いても悉(ことごと)くはぐらかされるだろうが、そもそも、普通の神経の持ち主は、彼に冗談交じりでそんなこと訊けない。訊いてはいけない気がする。
怖いもの知らずとは、まさしく彼女の事を言うのだろうと思う。
気を取り直したらしい山南さんは、ゴホンと咳払いをすると、さっきまでと比べて幾分か緩やかな調子で尋ねる。
「その…新選組を親元に例えるのはいったいどういう了見かとお尋ねしましょうか」
「…あ、お父さんは嫌でした? なら、おじい」
「お爺さんにされるぐらいでしたら、お父さんにしておいて下さい」
「おばあさ」
「お父さんで構いません」
「じゃあ近藤さん、お爺さんでもいいですか?」
「んあぁ、構わんよ」
えぇ…なにその会話……まだ続けるの…
二人の役柄が決まったからか、満足気な顔をした弥月君は、今度は土方さんへ笑顔を向ける。
「土方さん何が良いですか?」
「俺を混ぜるな」
役柄で残ってるのは、お婆さんか
「番犬ポチですね。おっけー」
「ぶっ」
「斬られてぇのか、コラ」
沖田は思わず吹き出してしまったため、弥月の視線が自分に向いていたので、そのついでに訊いてみる。
「ねえ…君、いつもそんな感じなの?」
「勿論です」
勿論って何。山南さん相手に、勿論それって、普通できない
なにより、土方さんが彼女に良いように振り回されているのが、予想外で面白い。
肩を震わせて笑う沖田に、弥月は首を傾げつつ、「こんな感じですよね?」と山南へ確認する。
すると、山南は「日常茶飯事ですね。まだマシな方です」と言い、近藤も頷いており、状況に違和感を持ったのは自分だけだということを沖田は理解した。
なるほどね、これか
ここのところ、不思議に思っていたことがある。
ずっと山南さんは弥月君の知識に探りを入れて、手駒に加えたいから、傍に置いているだけかと思っていた。けれど、それにしては彼女を思いやっていることに気付き……それは、あくまで女の子だからかと思いきや、普段は危険な任務に向かわせたり、地面に放っておいたりと、随分と雑に扱う。
それでも、山南さんが彼女を気に入っていることは間違いなくて。
今まで弥月君がいる所に近寄らなかったから、どうして“あの”山南さんがここまで弥月君を気に入っているのか理解できなかったけれど…
ただ単純に、弥月君は『普通』が可笑しい
「は―ぁ、分かった、もういいや。後、難しい話しかしないんでしょ、土方さん」
「ん? あ、あぁ…?」
「じゃあ僕興味ないし。お好きにしてください」
スックと僕が立ちあがって部屋を出て行く時に、ボケラッとした阿呆面でこっちを見上げる弥月君を横目にしても、僕の中ではただ可笑しさしか込みあげてくるだけだった。