姓は「矢代」で固定
第6話 命の重さ
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夕方ごろになってのそのそと起きてきた一番組の面々。沖田が一足先に起きて、近藤からの指示を受けて聞いたのは、夜の巡察は続行ということだった。
「頭痛い…」
弥月はむくりと起き上がって、目を閉じたまま頭を垂れる。
まだ頭痛がする。寝たら治ると思っていたそれは、これだけ寝ても変わらず続いていて。
どう考えても、煙の吸いすぎ
一旦布団に膝を立てて座って、痛みに耐えていると、隣で布団を畳んでいた沖田から声がかかる。
「休めば?」
「沖田さんが優しすぎて、最近怖い」
「…ちょっと表出ようか」
私のは半分冗談だし、彼のも冗談だと思ったのに。
沖田さんに、猫の子のように襟首掴まれて引っ張られるから、「え、え、え」と部屋のみんなに助けを求める。
けれど、誰一人それに応じてくれることはなく。八十八さんに合掌されて見送られた。
***
沖田side
コホッ
「沖田さんも肺やられました?」
「…なんで」
「咳してるから、煙吸いすぎたのかなって」
「ああ…」
どう話を切り出そうかと、無言のまま歩いていて、うっかり出てしまった咳。
目聡く見つかったのかと思ったが、そうでもないらしい。
山南さんと近藤さんから請け負ったこの子。
機転が利くし、小回りが効くが、いつもちょっと変というか……何をさせても普通じゃない。
一番組で剣の稽古をつけているけれど、感覚が良すぎて、勘に頼りすぎる。
型は一通り収めているようで、竹刀や木刀を握らせると「型なし」ということもない。けれど、刃引きした刀剣での実践稽古となると、急に全てが「勘」になる。戦いには「定石」があるというのに、全てをかなぐり捨ててくる。
個人技一本なんだよねぇ…
そういう意味では、一番組で正解なのだけれど。
さっきの火事場でも。荷物を母子に預けた後は、老女を僕に任せて再び新地の方へ向かっていった。それはまだ分かるのだけれど、なぜ当たり前のように屋根の上を走っていくのか。
理由付けをしたいわけじゃない。経緯が「監察だから」で終わってしまう。ただ、それは普通じゃないのだと、本人が分かっていないことが問題だ。
山南さんの悪趣味も、ほんとに大概
沖田は半ば辟易しながら彼女を見るが、やっぱり見目だけはまともだと思った。ただ、今は表情が醜女(ぶす)だ。
…本当に体調悪そうかな
人気の少ない勝手場で、沖田は壁にもたれかかって腕を組む。
「…頭。痛いのは今日だけ?」
「んーまあ、二三日続くかもしれないですけど、高いところにいたので煙を吸い過ぎただけと思います」
それを聞いて納得した。ややこしい事態ではなくて、沖田は内心ホッとする。
「治す方法があるの?」
「うーん…様子見るしかないかと。高圧酸素とかないし」
「なにそれ」
「これ、たぶん一酸化炭素中毒なんですよね。一酸化炭素ってヘモグロビンよりも酸素取り込んじゃうから、脳に酸素足りなくて細胞が死にかけたみたいな」
「…ふーん。死ぬの?」
「生還。息吸ってたらそのうち治ります」
「良かったね」
小難しいことを半分は聞き流す。
馬鹿だけど、勉強はしてきた類の人間なのだろう。恐らく、山南さんの推しはここだ。
だから、ふと、聞いてみようと思った。
「…咳、止める方法ってないの?」
「ん? 無いこともないですけど、咳の原因によるかなあと。咳ってあくまで病気の副産物なので」
「ふーん」
「風邪ですか?」
「うん」
「じゃあ、ご飯食べて温かくして寝ましょう。石田散薬よりは万能薬です」
「分かった」
「…やっぱり素直すぎて怖いです」
不気味なものを見た顔で、大げさに身を引く弥月君。慣れ過ぎたのか、これでも親しくなろうとしているのか、無礼に拍車がかかっている。
冷たくジィッとと見つめると、愛想笑いをしてくる。僕に効かないのなんて分かりきってるだろうに。
「それで、部屋から出した理由って何ですか?」
「…」
……
「…いや、解決したからいい」
「?」
壁に預けていた背を離して、部屋に戻ることにする。後ろをトコトコと付いてくる弥月君。
「…君がいてもいなくても、隊務に支障ないから、そういう時は休んだらいいよ」
「…また、そういう言い方…」
苛ついた声を聞きとって、僕から離れるだろうと思ったのだけれど、彼女は後ろをきちんと付いてきて。
少しの間の後に返ってきたのは、歯にものが挟まったような小さな声。
「…もし……今、基本ないので大丈夫です」
「?」
沖田が立ち止まって振り返ると、弥月は彼を追い越した。今度はその流れる金髪を見て歩く。
意味が分からなくて問い返そうとしたのだが、なぜか急に、不機嫌な風にドスドスと足音を立てて、前に進んでいく弥月君。僕が普通に歩いて追いつけないのだから、彼女にとっては早歩きだ。
「犬も猫も馬も実家にいます」
…?
…
…!
「…そっか」
「そうです!」
気まずいというか、気恥ずかしいというか、決まりが悪いというか。
これがどうやら自分だけではないのを察して、一応、彼女にもそういう気持ちはあるのだと、沖田は妙な安心をした。