姓は「矢代」で固定
第6話 命の重さ
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***
弥月side
千鶴ちゃんは八木家で一通りのことは教えてもらったらしい。あの後、問題なく屯所に帰ってきたのだけれど、夜になってお腹が痛くなってきたという彼女。訊くと「大丈夫」と言うわりには、ずっと布団の中で小さく丸まって、眠れもしないようだった。
だから、烝さんに助けを求めた。
「その箱、薬が入ってるんですか?」
小荷駄雑具方の部屋から出てきた彼は、治療室には置いてない箱を手に持っていて。
「いや、鍼や灸だ。内臓系ならこっちの方がいい」
「なるほど、鍼灸。その発想はなかった」
「薬より即効性があるからな。それにどちらかと言うなら、俺は薬学よりもこちらが専門だ」
少し得意げな顔をした烝さん。
話を聞くに、腰や手足に処置をする予定らしい。
「あ、じゃあちょっと待ってください。ここに寄り道するので…その間に、勝手場で石温めてるのでこの袋に包んで来てもらってもいいですか?」
「構わないが…?」
「ありがとうございます。やけど気を付けてくださいね」
それから間もなく戻ってきた山崎は、半眼になって弥月を見る。
「…【それ】は本当に必要か?」
「どっちでもいい。けど、ある方がいいと思ったので用意しました。彼女への配慮です」
「…俺としては、もう少し慎重を期してほしいんだが」
「まあまあまあまあ。言うてる間に病人のとこに行きましょう」
不満げな顔をしたままの彼の袖をひっぱって、目的地へと向かう。
途中「理由は分かりますでしょ?」と振り返ると、烝さんが口を『へ』の形にしたまま首を縦にも横にも振るから、なにそれと思って笑ってしまった。
「千鶴ちゃん、あ。寝たままで良いんだけど。入っていい? 烝さんもいるよ」
小さく「はい」という返事が聞こえて「お邪魔します」と返す。
「とりあえず温かい石と、布多めにもってきたよー」
あー…顔色悪いな…
相当我慢しているのだろう。のそりと起き上がった千鶴は、表情を作る余裕はないのに、「ありがとうございます」と言って視線を上げた。
「…え?」
「大丈夫。よく見知った私です」
「雪村君への配慮だそうだ」
「今から烝さんに鍼灸をしてもらうつもりなので、男ばっかりじゃ不安だろうなって思って、見た目だけでも女になってみました」
金髪スッピンのままだが、潜入捜査をしているときに使っている着物を着てきた。これで一年以上前に会ったななしと気づかれたら、まあその時はその時だ。
「…え?」
「…ほら、やはりこうなるじゃないか」
「いいんですって。これでこの場には男と女が一人半ずつになったし、気持ちの問題なんですから」
「その数え方はないだろう…」
烝さんが呆れた顔で見てくる。
「細かいことは置いといて。というわけで、千鶴ちゃん、これに着替えて」
「え、あ、はい…?」
「私の仕事着で申し訳ないけど、甚平。腰あたりに処置するらしいから、夜着とか着物よりこっち着てね。衝立立てるから、ではどうぞー」
千鶴の部屋に常備してあるそれを、私たちの間に立てる。
「わたしってば配慮の塊。超優しいと思いません?」
弥月はわざとらしく鼻をを膨らませて、まだ渋い顔をしている山崎を見る。
「立て板に水のごとく、拒否する隙も与えないのは、優しいのかどうか定かではないな」
「…ねぇ、烝さん。さっきからちょっと厳しくないですか?」
「…君が屯所内でそんな恰好しているからだ」
「いいじゃん。どうせ誰も気付かないんだし」
「……減る」
「何が?」
「……」
「…希少性?」
「…まあ、そんなところだ」
「それってありがたいんですか?」
「……」
そうだろう。全くもってこの希少性はありがたくない。☆5の確定演出するにはあまりに見た目の無課金が過ぎる。
「ん? ということは、女装しているのを隊士に見られるのは問題ないのでは? 潜入捜査用の変装だから、街の皆さまにバレるのはマズいですけど、屯所内で気を遣う必要ないのでは…?」
「減る」
「なにが???」
二人がやいのやいの言っている間に、着替えが終わったらしい。「あのー…」という小さな声がした。
そうして、烝さんだけが衝立の向こうで千鶴ちゃんの施術をしている。私は外側でもっぱら話相手だ。
「江戸で集まってる隊士が来たら、人数が倍になるって話なんだよね。これ、ご飯の支度どうすんのと思ってるわけよ」
「大きいお台所なので、もう少し人手をいただけるなら、今まで通りで大丈夫とは思いますよ?」
「でもそれさ、週替わりで一々素人に指導しながら作るの、非合理的だと思うんだよね」
「つまり、勘定方のように非戦闘員の隊士を募集するということか?」
「そうそう。えっと、下女さんだっけ?」
「恐らく…女性を雇うのは望ましくないと言われるだろうな…」
「あー…」
「料理人なら或いは、とは思うが……雪村君はやりづらくならないか? その道の専門家が口出しするようになると…」
「わたしは、まあ…」
「じゃあ、料理ができる下男さんを見つけたい……素性明らかで、出しゃばらず、千鶴ちゃんに悪さしない下男…」
「条件が厳しいな」
うーんと三人で首を捻る。
「雪村君、熱くはないか?」
「はい。暖かくて気持ちがいいです」
今はお灸をしているらしい。ホンモノを見たことがないから、私もしてほしい。
それから、弥月は茶を淹れてくると言って、席をはずした。
「…寝られるようなら、寝ていいからな」
最初は緊張で身体が強張っていたが、いつの間にかうとうとしはじめた千鶴に気づいて、山崎は声をかける。すると、ふにゃふにゃした声で「ありがとうございます」と返事があって、山崎はふっと笑った。
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弥月side
千鶴ちゃんは八木家で一通りのことは教えてもらったらしい。あの後、問題なく屯所に帰ってきたのだけれど、夜になってお腹が痛くなってきたという彼女。訊くと「大丈夫」と言うわりには、ずっと布団の中で小さく丸まって、眠れもしないようだった。
だから、烝さんに助けを求めた。
「その箱、薬が入ってるんですか?」
小荷駄雑具方の部屋から出てきた彼は、治療室には置いてない箱を手に持っていて。
「いや、鍼や灸だ。内臓系ならこっちの方がいい」
「なるほど、鍼灸。その発想はなかった」
「薬より即効性があるからな。それにどちらかと言うなら、俺は薬学よりもこちらが専門だ」
少し得意げな顔をした烝さん。
話を聞くに、腰や手足に処置をする予定らしい。
「あ、じゃあちょっと待ってください。ここに寄り道するので…その間に、勝手場で石温めてるのでこの袋に包んで来てもらってもいいですか?」
「構わないが…?」
「ありがとうございます。やけど気を付けてくださいね」
それから間もなく戻ってきた山崎は、半眼になって弥月を見る。
「…【それ】は本当に必要か?」
「どっちでもいい。けど、ある方がいいと思ったので用意しました。彼女への配慮です」
「…俺としては、もう少し慎重を期してほしいんだが」
「まあまあまあまあ。言うてる間に病人のとこに行きましょう」
不満げな顔をしたままの彼の袖をひっぱって、目的地へと向かう。
途中「理由は分かりますでしょ?」と振り返ると、烝さんが口を『へ』の形にしたまま首を縦にも横にも振るから、なにそれと思って笑ってしまった。
「千鶴ちゃん、あ。寝たままで良いんだけど。入っていい? 烝さんもいるよ」
小さく「はい」という返事が聞こえて「お邪魔します」と返す。
「とりあえず温かい石と、布多めにもってきたよー」
あー…顔色悪いな…
相当我慢しているのだろう。のそりと起き上がった千鶴は、表情を作る余裕はないのに、「ありがとうございます」と言って視線を上げた。
「…え?」
「大丈夫。よく見知った私です」
「雪村君への配慮だそうだ」
「今から烝さんに鍼灸をしてもらうつもりなので、男ばっかりじゃ不安だろうなって思って、見た目だけでも女になってみました」
金髪スッピンのままだが、潜入捜査をしているときに使っている着物を着てきた。これで一年以上前に会ったななしと気づかれたら、まあその時はその時だ。
「…え?」
「…ほら、やはりこうなるじゃないか」
「いいんですって。これでこの場には男と女が一人半ずつになったし、気持ちの問題なんですから」
「その数え方はないだろう…」
烝さんが呆れた顔で見てくる。
「細かいことは置いといて。というわけで、千鶴ちゃん、これに着替えて」
「え、あ、はい…?」
「私の仕事着で申し訳ないけど、甚平。腰あたりに処置するらしいから、夜着とか着物よりこっち着てね。衝立立てるから、ではどうぞー」
千鶴の部屋に常備してあるそれを、私たちの間に立てる。
「わたしってば配慮の塊。超優しいと思いません?」
弥月はわざとらしく鼻をを膨らませて、まだ渋い顔をしている山崎を見る。
「立て板に水のごとく、拒否する隙も与えないのは、優しいのかどうか定かではないな」
「…ねぇ、烝さん。さっきからちょっと厳しくないですか?」
「…君が屯所内でそんな恰好しているからだ」
「いいじゃん。どうせ誰も気付かないんだし」
「……減る」
「何が?」
「……」
「…希少性?」
「…まあ、そんなところだ」
「それってありがたいんですか?」
「……」
そうだろう。全くもってこの希少性はありがたくない。☆5の確定演出するにはあまりに見た目の無課金が過ぎる。
「ん? ということは、女装しているのを隊士に見られるのは問題ないのでは? 潜入捜査用の変装だから、街の皆さまにバレるのはマズいですけど、屯所内で気を遣う必要ないのでは…?」
「減る」
「なにが???」
二人がやいのやいの言っている間に、着替えが終わったらしい。「あのー…」という小さな声がした。
そうして、烝さんだけが衝立の向こうで千鶴ちゃんの施術をしている。私は外側でもっぱら話相手だ。
「江戸で集まってる隊士が来たら、人数が倍になるって話なんだよね。これ、ご飯の支度どうすんのと思ってるわけよ」
「大きいお台所なので、もう少し人手をいただけるなら、今まで通りで大丈夫とは思いますよ?」
「でもそれさ、週替わりで一々素人に指導しながら作るの、非合理的だと思うんだよね」
「つまり、勘定方のように非戦闘員の隊士を募集するということか?」
「そうそう。えっと、下女さんだっけ?」
「恐らく…女性を雇うのは望ましくないと言われるだろうな…」
「あー…」
「料理人なら或いは、とは思うが……雪村君はやりづらくならないか? その道の専門家が口出しするようになると…」
「わたしは、まあ…」
「じゃあ、料理ができる下男さんを見つけたい……素性明らかで、出しゃばらず、千鶴ちゃんに悪さしない下男…」
「条件が厳しいな」
うーんと三人で首を捻る。
「雪村君、熱くはないか?」
「はい。暖かくて気持ちがいいです」
今はお灸をしているらしい。ホンモノを見たことがないから、私もしてほしい。
それから、弥月は茶を淹れてくると言って、席をはずした。
「…寝られるようなら、寝ていいからな」
最初は緊張で身体が強張っていたが、いつの間にかうとうとしはじめた千鶴に気づいて、山崎は声をかける。すると、ふにゃふにゃした声で「ありがとうございます」と返事があって、山崎はふっと笑った。
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