第1話 内に秘めた思い

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元治元年十月二十七日




 弥月side



 なんだか前川邸の門の方が騒がしいと思って、八木邸から壬生寺に行こうとしていた足をそちらへ向ける。そうして角からヒョイと顔を覗かせると、飴色の着物を着た、身幅の広い人物の背が見えた。



  …!



 弥月が期待に胸を膨らませて、近寄っていくと、笠を脱ぎながら振り返ったその男と視線が合って、お互いに目を輝かせる。


弥月君!」

「近藤さん!」


 バッと弥月が命一杯に腕を広げて駆け寄ると、近藤は幼い子どもにするように、少し屈んで同じように手を広げる。


「お帰りなさい!」

「君こそ…! トシのと一緒に書き付けが入ってたときには、目を疑って…本当に無事で良かった! 怪我はもう大丈夫なのか?」

「はい! 完全復活です!」

「そうか、元気ならなによりだ……――っ!!」

「えっ!? わあ、泣かないでください!」

「すまんっ、嬉しくてな…!」


 門の前で抱擁しあう彼らを見た門番達が微笑む一方で。前川邸内からフラリと現れた土方は、些か冷たい目で彼らを見た。


「もういいだろ、他の目がある。詳しい話は中でしてくれ」

「なんですか土方さん、妬いてるんですか? 仕方ないので、ここ、一瞬ならお譲りします」

「おお、トシ。今帰ったぞ」


 退くのは不本意だという顔をした弥月が、ススス…と近藤から離れると、彼女にしたのと同じように、混同は振り向きざまに土方へ腕を広げてみせる。
 すると、土方はなんとも言えない、困るような焦るような…一体どうしようかとしばしの間逡巡した後、くしゃり顔を綻ばせて苦笑いをしながら、ガシガシと首の後ろを掻いた。


「…いや、近藤さん。そういうのは勘弁してくれ」

「ハハッ、そうか」


 近藤の肩越しにニヨニヨと含み笑っていた弥月を土方は見つけて、ずかずかと回り込んでげんこつを飛ばした。


「いったい! 脳細胞死んだ!」

「おう、馬鹿は死ななきゃ治んねえらしいから、丁度いいじゃねえか! 今度こそ死んで治してこい!」

「そんなこと言ったら、近藤さん泣いちゃうんだからね!」

「――っと何、邪魔だなあ…近藤さん、おかえりなさい。変わりないですか?」


 拳を握った土方と、それを避ける弥月がぎゃあぎゃあと揉めはじめた傍ら、ニコニコと笑顔を咲かせた沖田が現れる。


「おお、総司も出迎えか! 俺は変わりないぞ。総司は咳は良くなったか?」


 近藤は何気なく、自分より背の高い沖田の頭をポンポンと撫でる。すると、少し驚いた表情をした沖田は、目を細めてはにかむように笑った。


「全快ですよ。懐かしいですね、近藤さんにこうされるの」

「ん? ああ、すまんすまん。さっきの弥月君が昔の総司を思い出させたから…つい、な」

「フフッ、小生意気なクソガキだったからですか?」

「いいや、人見知りしていただけだったんだろう? 今でこそ俺よりも大きいが、当時はこんくらいで、小さくて可愛かったぞ」

「あははっ、僕もこんなに大きくなるとは思ってませんでした!」

「本当に、総司は筍みたいににょきにょきと大きくなったからなぁ……俺もトシもそりゃあ驚いたさ。
 最初に州斎先生が総司の才能に気が付いたときは、まだ総司は――…」


 うんうんと感慨深げに、昔話を嬉しそうに続ける近藤を、沖田も嬉しそうに見る。


「ハアッ、ハアッ……近藤さん、昔話も後にしてくれ。報告しておきたいことがある」


 屯所外へともつれ込んでいた弥月との攻防戦で、息を切らす頃に用事を思い出した土方が戻って来る。弥月もその後ろを、ややつまらなさそうな顔で付いて来ていた。


「うむ、そうしよう。俺からの話もあるが……弥月君の話も聞きたいからな。一緒に来てくれるかな?」


 近藤は土方に目で了承を得てから問うたので、弥月は了解の返事をし、彼らに混じって局長の部屋へ向かった。



 そうして、山南も交えて近藤の部屋に集まった彼らが、腰を落ち着けようとした瞬間に、弥月はすかさず言葉を発した。


「先に申し上げますと、誰が私を助けてくださったのかは教えられません」


 弥月は誰に何と聞かれようが、絶対に口を割らないと明言していた。
 当然、そんなことを言えば、土方などは訝しむわけで…『近藤さんになら素直に話すかもしれない』と、やや期待していた自分が甘かったのだと、土方は知る。


「知られると、お前とってに都合が悪いからか?」

「そうじゃないですけど、それなりの事情があります。吊るされようが、炙られようが、絶対に言いませんから」


 土方の睨みに臆すことなく…その睨みを受け止めることもなく、つーんと、弥月は土方からそっぽを向く。


「チッ…」

「まあまあ、トシ。無事に帰ってきてくれただけで良しとしようじゃないか」


 その近藤の言葉を聴いて、弥月はチラリと土方へ視線を戻した。



  近藤さんが帰ってきたら、きちんと言おうと思っていた



「…何度も言いますけど、私は仕事としてここで働きますが、その…尊王だとか勤王だとかには全く興味ないので。知識として現状を頭には入れますけど、口出しはしませんよ」



 その理由は嘘。だけど、本当に口出しをするつもりはない。

 彼らの命を見捨てるわけじゃない。
 たとえ共に敗走の道を辿るのだとしても……そこには彼らの忠と義、誇りと信念がある。
 彼らの選択が敗退の道を進むものだとしても、彼らの道が間違っているとは思えなかった。



  彼らが見ている景色を、同じ心で見てみたい



 弥月の口元には知らず、挑戦的な笑みを浮かんでいた。



  どこまで行けるかじゃない



  どこまでも



「あなた方と共に生きます」




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