姓は「矢代」で固定
第5話 変若水
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元治二年二月二十五日
「え゛、絶対嫌ですよ」
弥月は眉間に、未だかつてない程の深いシワを刻んで、山南の提案を即座に拒否した。
山南はそんな彼女の顔を無表情のままで、しばらく見た後に、「そうですか」と一つ頷く。
「お願いを引き受けていただけないならば、命令とするだけですけれど。どちらがお好みですか?」
そう言ってニコリと微笑む山南を見て、弥月は頬をひきつらせながら口をへの字にする。
「…だって、べつに、沖田さん一人で十分じゃないですか。ていうか、そもそもそういう話だったじゃないですか…そんなの詐欺だ!」
「…そこまでの説明は不要と思っていました。
あなたは私を誰と思っているのです。私が仮に狂気に身を落としたとして、その時、すでに変若水の効果は得られています。
つまり、私本来の力に加えて、変若水の力によって人ならざる力を得ています。沖田君一人で速やかに処理できなかった場合、その援護に入るのはあなたしかいません」
「ご最もなりに、絶対いやです!」
「おや、まだグウの音以上のものが出ますね」
まるで逆毛を立てた猫のような顔で威嚇する弥月と、野生の動物を手懐けようとする表情の山南。
そんな二人を見ながら、壁に寄り掛かかった沖田は、ため息混じりの呆れた声を出した。
「…ねえ、そのやりとり決着つくの?…と言うより、僕一人で十分だから、余計なことしないで欲しいんだけど」
「ほら!沖田さんもそう言ってる!」
「…狂人となった私がどのような行動にでるか、私にも分かりません。
万一の場合…などを、考えたくない気持ちは分かりますが。正直なところ万ではなく、二分の一くらいと私は考えています。
失敗した際に最悪の事態、例えば、騒ぎになり、変若水の存在が他の隊士に露呈するようなことがあってはいけません。どのような場合も滞りなく、粛々と対処しなければなりません」
山南は険しい表情で、二人に「分かりますね」と同意を強制した。
沖田は肩を竦めて承諾を示して、再び弥月の方へ視線をやる。沖田としては、彼女が嫌でも何でも、最悪、実際にはできなくても良いから、とりあえずこの場限りとして、収めてほしいところだったのだが。
「分かってますけど、イヤです!」
ブンブンと弥月が首を激しく振ると、山南は「…子どもではないのですから」と終に呆れた顔をする。そして、フゥと溜め息をこぼしはしたが、眉尻を下げたまま、彼女に淡い笑みを向ける。
「それでも、あなたはやる時はできる御人だと信じていますので、諒されずとも、お任せしましたからね」
山南の左手が持ち上がり、ポンと弥月の頭に乗る。
彼女はなんとも言えない表情で唇を食んでうつ向いた。
「…買いかぶりですよ」
山南は彼女を背にして、沖田を見やる。
「こちらをお預けしますね 」
「…はい、預かりました」
山南は傍に立て掛けていた、自身の刀を沖田に手渡した。
沖田は一歩踏み出せば、山南が間合いに入る位置に立つ。弥月はそれより後ろに下がり、戸を背に立った。
「準備はよろしいですか」
「いつでもどうぞ」
弥月の返事はなかったが、彼女も硬い表情ではっきりと一つ頷いた。
ガラスの瓶の蓋が、ポンと軽い音を立てた。
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