姓は「矢代」で固定
第4話 欠けているもの
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南雲side
あんたが消えたその日、雪村の里が潰れたよ
だから、何度、あんたが悪魔だったと考えたか分からない
東の里の騒動の、原因や首謀者が分かってからも、どこにもあんたに繋がる手がかりはなくて……来る春にその唄を探した
もう僕の記憶にだけしかいない、少女が誰だったのか…何だったのかを知りたくて
里の子とは異質な空気をまとっていて、最初は声をかけることも躊躇った。けれど、すぐに仲良くなって、母様の琴の音に合わせて、一緒に童歌を歌った。夜は彼女が泣いて泣いて眠れなかったから、三人で手をつないで眠った。
少ししどけない、少し頼りない、少し年上の女の子。
「忘れててごめんなさい」
僕だって、はっきりとそうだと言える訳じゃない。時が経ち過ぎて、目の前にいる女が彼女だなんて思えなかった。
彼女だと思おうとすると、決して弥月のせいではないのに、数々の恨み言が口を吐いて出そうになる。
彼女が話す経緯を反芻すると、彼女もまた波乱の生を歩んでいる。そして新選組の一員ならば、戦に行って酷い目にあって、いつかどこかで野垂れ死ぬだろう。
それだけで、もう良いじゃないか
彼女は泣きそうな顔で……それなのに、幸福そうに僕に微笑んだ。
「あなたにもう一度会えて良かった」
ストンと胸に何かが落ちた。
彼女は哀しい顔で、でも、僕を真っ直ぐに見て、穏やかに笑っていた。
「あの時、助けてくれてありがとう」
ありがとう
ありがとう
全てを失ってから、それを誰かに言われたことがあっただろうか
「南雲さん、私、今すっごく握手したい気持ちだから、触って良いですか?」
「―――っ、触るな!」
刀を置いて、近寄ってくる彼女は何を考えているのか。
つい先日、殺されそうになった相手を前にして。先程まで張りつめさせていた警戒心はどこへやったのか。
簪を一本引き抜いて、彼女へ向ける。
「触ったら殺す」
「そっか…ごめんなさい」
悲しい顔をした弥月を見て、ひどく悪い事をした気持ちになった。
「…用は済んだ。帰る」
「え、あ、待って。できれば土佐のこと何ぞ、少し漏らして頂けると…」
この女…
待てと言われて、素直に脚を止めてしまった自分を呪った。
「…京にはいない。バラバラに東へ散ってる」
「! ありがとう!」
この神経の図太さ、そうそう死なないな
そう思って、少しだけ可笑しな気持ちになっる。
「あんたが『弥月』であろうとなかろうと、千鶴のことは変わらない。僕の存在は知られるな」
「…分かった。でも、もし必要になったら、私と昔知り合ってたことは話しても良いですか?」
……
今の千鶴が何を考えているのかは全く分からないが……今の僕を知らなければ、計画に問題はないはずだ。
「…好きにしろ」
「やった! ありがとう!」
……
屈託のない笑顔を向けられることも、堕ちた僕の人生にはなかったものだと気付かされる。
直視できない、自分にはない輝きがそこにあった。
大嫌いだ
後ろ手に戸を閉めて、ぐっと拳を握る。
なのに、どうして…
みんな不幸になればいい。僕だけが苦しむなんて不公平だ……ずっとそう思っていた。
けれど、僕の望むように不幸になれば、弥月はきっと笑いかけてくれなくなる……それを受け入れられない自分に、僕は気づかないふりをした。