姓は「矢代」で固定
第3話 暗示
混沌夢主用・名前のみ変更可能
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***
ほどもなく、隊士全員が山南総長に呼ばれ、斎藤以外は山南の部屋に集まった。
斎藤は「これの処置をしたら行く」と、永倉らに伝言を頼んで、弥月と共にいた。
しかし、弥月は心ここにあらずで、斎藤が自分の腕や脚にクルクルと包帯を巻くのをボーっと見ていた。
鬼って、死なないのかなぁ…
そんな事はないのだろう。首の斬れた私を見て、千姫は『もうダメかと思った』らしいから。ならば、私が特別死なないだけだろうか。
…にしても、誰が鬼だったんだろ
父か、母か、祖母か、祖父か、その前か。今は誰にも聞けないから、考えても意味はないのだけれど。
冗談抜きで、死なないのは私だけかもしれないし…
元々周期的に体調というか、運動能力が常人のそれではなくなる。ただ、今まではそれだけだったから、ホルモンバランスの問題かと思っていた。
けれど、こっちに来てから、髪も爪も伸びないし、月経も来ない。怪我をしても、思ったより早く治っている。極めつけは、死なない。
そもそも、前例のない過去への時渡りをした。
それら全てが警告だったのかもしれない。
それらをおかしいとは思っていたが、人間じゃないと本気で思った事はなかった。
死なないなんて
気持ち悪い
「…弥月、本当に大丈夫か?」
いつの間にか瞑っていた目を開く。そして、心配する斎藤さんを見て、自分がかなり辛い表情をしているのだと気づいた。
小刻みに頭を上下に振って、「大丈夫です」と答える。恐らく、怪我の方は独りでに治っていくだろう。
泣きたいような気持ちなのに、泣けるほどに悲しくはなかった。
鬼って何なんだろう
角が生えて、髪が白くなって
人間じゃない力があって
斎藤さん
斎藤さん
それって変だよね
「斎藤さんは…例えば、私が人間じゃなかったらどうします?」
「…今でも、十二分に普通ではないと思っているが。人間でないなら、あんたは何なんだ」
何なんだろう
「…鬼、だそうですよ。そのうち角が生えるのかもしれません」
「……」
こんな突拍子もない質問に、真剣に答えてくれるらしい。目線を下げて、ずいぶんと長い時間、神妙な顔で考えていてくれたが。
やっと来た彼の返事に、私の目が点になる。
「その髪は綺麗だと、俺は前に言わなかったか」
……
「…いえ、中身の話です」
「中身?」
なるほど。確かに、突拍子もなさすぎるし、情報もなさすぎる。けれど、見た目の話だと思ったなら、なんでそんなに長考してたんだ。
「ほら、おとぎ話の鬼です」
「それなら問題ない。あんたがする事は大抵珍妙だが、それを恐ろしいとは思ったことがない故な」
珍妙…
「…斎藤さん。もしかして、怒ってます?」
「……」
「そ、か…すみません…」
やけに暴言が捗々(はかばか)しいと思ったら、無表情で怒っているらしい。
「…あんたを心配しているだけだ。だが、矢代は、俺が何に腹を立てていると思う」
え、難問
「…怪我したこと?」
「怪我をする可能性があるところへ、一人で行ったことだ」
あ、やばい。叱られる
「…はい、すみません」
「あの時は俺たちもまだ近くに居たのだから、あの場を俺たちに任せて、あんたは山崎を連れて行くべきだった。
だから、山崎の判断も悪い。普段、監察は一人で動くしかない状況が多い故に、そう考えてしまうのかもしれんが、矢代が巡察を手伝うように、俺たちもあんたたちの仕事を手伝うことくらいする。
敵方を追うなど危険だと分かっているのだから、複数で行動するのが当然だろう。あんたは仲間をなんだと思っている」
「…はい、すみません…」
叱っているときの斎藤さんは、わりと饒舌だ。怒っているときは、わりと静か。
「…弥月、俺たちをなんだと思っている」
「…仲間、です」
「そうだ。誰に何を言われたか知らんが、あんたが矢代弥月であることは何も変わりない」
…!
「俺たちは人間より、鬼を歓迎するような集団だろう」
…――っ!
彼は、私が鬼…だったら何だ、そんな事どうでも良い、と。
「ついでに、私が死なない気持ち悪い奴でも良いですか…?」
「…それは副長が喜ばれそうだな…」
「…―っ、本当に…」
じわりと涙が出た。
私は、自分が何か別のものになったのかと……自分自身が怖かったのだと知った。
おとぎ話の鬼以上に、私は気持ちの悪い存在かもしれない。
けれど、私が何を言ったって、彼はきっと同じことを言ってくれるだろう。
あんたは 矢代弥月 だと
目頭から零れてしまう前に、その雫を拭う。
「私、鬼なんですって。鬼副長さしおいて」
「…悪口を言いたかっただけなのか?」
弥月は両手の指を一本立てて、額に付けてニッと笑う。
「いやいや、マジですって。気合い入れたら、角出るのかもしれません。で、鬼強くなっちゃうのかも!」
「…なら、角が出るほど気合いを出して、怪我をせずに帰って来てくれ」
「あははっ! ホントそれですよね!」
ケラケラと笑うと、さっきまで一人で深刻に考えていたのが、馬鹿みたいで。
話の意図が読めない斎藤は、元気になって悪口を言う弥月に、しばらく呆れるような目をしていたが。
それでも、気落ちしていた弥月が、多少復活したらしいことにホッとして、あまり深く追求しないでおいた。
ほどもなく、隊士全員が山南総長に呼ばれ、斎藤以外は山南の部屋に集まった。
斎藤は「これの処置をしたら行く」と、永倉らに伝言を頼んで、弥月と共にいた。
しかし、弥月は心ここにあらずで、斎藤が自分の腕や脚にクルクルと包帯を巻くのをボーっと見ていた。
鬼って、死なないのかなぁ…
そんな事はないのだろう。首の斬れた私を見て、千姫は『もうダメかと思った』らしいから。ならば、私が特別死なないだけだろうか。
…にしても、誰が鬼だったんだろ
父か、母か、祖母か、祖父か、その前か。今は誰にも聞けないから、考えても意味はないのだけれど。
冗談抜きで、死なないのは私だけかもしれないし…
元々周期的に体調というか、運動能力が常人のそれではなくなる。ただ、今まではそれだけだったから、ホルモンバランスの問題かと思っていた。
けれど、こっちに来てから、髪も爪も伸びないし、月経も来ない。怪我をしても、思ったより早く治っている。極めつけは、死なない。
そもそも、前例のない過去への時渡りをした。
それら全てが警告だったのかもしれない。
それらをおかしいとは思っていたが、人間じゃないと本気で思った事はなかった。
死なないなんて
気持ち悪い
「…弥月、本当に大丈夫か?」
いつの間にか瞑っていた目を開く。そして、心配する斎藤さんを見て、自分がかなり辛い表情をしているのだと気づいた。
小刻みに頭を上下に振って、「大丈夫です」と答える。恐らく、怪我の方は独りでに治っていくだろう。
泣きたいような気持ちなのに、泣けるほどに悲しくはなかった。
鬼って何なんだろう
角が生えて、髪が白くなって
人間じゃない力があって
斎藤さん
斎藤さん
それって変だよね
「斎藤さんは…例えば、私が人間じゃなかったらどうします?」
「…今でも、十二分に普通ではないと思っているが。人間でないなら、あんたは何なんだ」
何なんだろう
「…鬼、だそうですよ。そのうち角が生えるのかもしれません」
「……」
こんな突拍子もない質問に、真剣に答えてくれるらしい。目線を下げて、ずいぶんと長い時間、神妙な顔で考えていてくれたが。
やっと来た彼の返事に、私の目が点になる。
「その髪は綺麗だと、俺は前に言わなかったか」
……
「…いえ、中身の話です」
「中身?」
なるほど。確かに、突拍子もなさすぎるし、情報もなさすぎる。けれど、見た目の話だと思ったなら、なんでそんなに長考してたんだ。
「ほら、おとぎ話の鬼です」
「それなら問題ない。あんたがする事は大抵珍妙だが、それを恐ろしいとは思ったことがない故な」
珍妙…
「…斎藤さん。もしかして、怒ってます?」
「……」
「そ、か…すみません…」
やけに暴言が捗々(はかばか)しいと思ったら、無表情で怒っているらしい。
「…あんたを心配しているだけだ。だが、矢代は、俺が何に腹を立てていると思う」
え、難問
「…怪我したこと?」
「怪我をする可能性があるところへ、一人で行ったことだ」
あ、やばい。叱られる
「…はい、すみません」
「あの時は俺たちもまだ近くに居たのだから、あの場を俺たちに任せて、あんたは山崎を連れて行くべきだった。
だから、山崎の判断も悪い。普段、監察は一人で動くしかない状況が多い故に、そう考えてしまうのかもしれんが、矢代が巡察を手伝うように、俺たちもあんたたちの仕事を手伝うことくらいする。
敵方を追うなど危険だと分かっているのだから、複数で行動するのが当然だろう。あんたは仲間をなんだと思っている」
「…はい、すみません…」
叱っているときの斎藤さんは、わりと饒舌だ。怒っているときは、わりと静か。
「…弥月、俺たちをなんだと思っている」
「…仲間、です」
「そうだ。誰に何を言われたか知らんが、あんたが矢代弥月であることは何も変わりない」
…!
「俺たちは人間より、鬼を歓迎するような集団だろう」
…――っ!
彼は、私が鬼…だったら何だ、そんな事どうでも良い、と。
「ついでに、私が死なない気持ち悪い奴でも良いですか…?」
「…それは副長が喜ばれそうだな…」
「…―っ、本当に…」
じわりと涙が出た。
私は、自分が何か別のものになったのかと……自分自身が怖かったのだと知った。
おとぎ話の鬼以上に、私は気持ちの悪い存在かもしれない。
けれど、私が何を言ったって、彼はきっと同じことを言ってくれるだろう。
あんたは 矢代弥月 だと
目頭から零れてしまう前に、その雫を拭う。
「私、鬼なんですって。鬼副長さしおいて」
「…悪口を言いたかっただけなのか?」
弥月は両手の指を一本立てて、額に付けてニッと笑う。
「いやいや、マジですって。気合い入れたら、角出るのかもしれません。で、鬼強くなっちゃうのかも!」
「…なら、角が出るほど気合いを出して、怪我をせずに帰って来てくれ」
「あははっ! ホントそれですよね!」
ケラケラと笑うと、さっきまで一人で深刻に考えていたのが、馬鹿みたいで。
話の意図が読めない斎藤は、元気になって悪口を言う弥月に、しばらく呆れるような目をしていたが。
それでも、気落ちしていた弥月が、多少復活したらしいことにホッとして、あまり深く追求しないでおいた。