姓は「矢代」で固定
第3話 暗示
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***
元監察の二人は、探索と集合を何度も繰り返し、まとめた情報を時々屯所に持ち帰って、潜伏先の当たりをつけては、隊士を集めて御用検めに何度も入った。
後から到着した斎藤や井ノ上達も、宿の帳簿の確認や、聞き込みに奔走し、虱潰しに大坂の街を一件一件調べて歩いた。
それでも成果はなく、大坂に着いてから十日が経つ。
昨日のこと。
谷弟さんと私で、成果の無い報告書を毎日壬生へ出した結果、土方さんから人員と期限の変更の御達しが、左之さんの手によって届いた。
『小荷駄雑具方』をこちらに増員するが、期限を一先ず月末まで伸ばすらしい。
雨の中、橋の上を走っていた弥月は、偶然鉢合わせた原田達と、情報交換をするために立ち止まった。
その弥月は、蓑(みの)は着ているものの、被っている黒頭巾をびしょぬれにしていて。笠を差した原田は呆れた顔をする。
「監察は傘差したり、笠かぶったりはしないのか?」
「…しますよ、してましたけどね。さっき屋根の上に居る時に、町方に不審者と間違われて、逃げる時にひっかけて笠落として、拾いに行くとか、それどころじゃなくて、今です」
「…逃げなくても、新選組だって説明すれば良かったんじゃないか?」
「…なるほど。思いつかなかった」
誰かに見つかるのは、普段から想定された事故で。日頃の行動がアレだから、“見つかれば逃げる”が定石すぎて、釈明しようだなんて考えもしなかった。
原田さんは溜息交じりに寄って来て、傘の内に入れようとしてくれるので、「濡れますから」と断る。
「今日の雨だったら、たぶん土佐も動きはしないだろ。屯所戻って、着替えて来い」
「そうですね…でも、雨だからこそ、どこかで雨露凌いでるのは間違いないんですよね…」
弥月は来た道を振り返るが、そこに何がある訳ではない。
谷弟さんの掴んだ情報によると、土佐の過激派浪士たちが火付けを予定していたのは一月十五日…日付はとうに過ぎている。
再度それが決起されることに備えて、大坂屯所に隊士は三十人近くいる。
「…あ、そういえば、新八さんを知りません?」
「新八? 壬生の屯所にいるだろ」
後続の斎藤さんとも、井上さんとも来なかった新八さんは、原田さんにも付いて来なかった。
「新八がどうかしたのか?」
「土方さんね、新八さんは暇だから、私に貸してくれるって言ったんですよ。だけどいつまで待っても来ないんですよね~」
きっと土方さん、私がお願いしたことも忘れてる……良いけどさ、別に…
検めを強化してからの成果としては、一件…商家にあった武器弾薬を押収した。しかし、今回の火付けに関わる人物を見つけることはできていない。
厳戒態勢を敷いてはいるが、弥月の実感としては正直なところ、その火付けを企てた土佐浪士達は、大坂にはもう居ないのではないかと思う。
月末まで何もなければ、成果もあまりなく、帰還することになりそうだ。
まあ、決めるの私じゃなくなったから、全然気が楽だし構わないんだけどね
永倉が来なくとも、原田とともにやってきた、弥月にとって驚くべき増員があった。
昨日、彼と眼が合った瞬間、私の開いた口が塞がらなかった。
『……』
『弥月君ですか』
大坂屯所に帰った時、丁度、谷弟さんから現状の説明を受けていた彼は、私を振り返って、その眼鏡を押し上げた。
『…さんなんさん、だ』
『ご苦労様です。何か変わりはありますか』
『…山南さんが、ここにいる…変わりがあります』
『それは報告する必要はありませんが…』
『五日後が予定日なんです。けど、何もつかめなくて…』
『書付にあったことは把握しています。五日後のことはまた後で決めるとして、とりあえず、今現在の隊士の動きからまずは……何を泣いているのですか』
『うっ…だって、指示……やだ…重い…っうううう――…』
思わずへたり込んでしまうほどに、山南さんの顔を見て、緊張が緩んだ。
大坂での初日の夜。
弟の万太郎さんを介したとはいえ、土方さんの大目玉をくらった谷組長は、恥ずかしさと悔しさからか、嫌がらせ半ば、ここにいる隊士の指揮権全てを私に委ねたのだ。
烝さんが助けてくれたし、三日後に到着した井ノ上さんが、谷組長に喝を入れてくれたが…それでもかなり居心地が悪かった。
だから、山南さんが来て、彼が指示を出してくれるおかげで、私は昨日から監察の仕事に集中できて、かなり動きやすくなったのである。
「とりあえず人手は足りてんだから、ゆっくり着替えて来い」
「はーい」
弥月の知らないところで、谷組長の弥月への当たりの強さは伝わっていたらしく。弥月は土方への文句を言っていても、増員に関して全く不満はないのだと、原田も分かっていた。
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元監察の二人は、探索と集合を何度も繰り返し、まとめた情報を時々屯所に持ち帰って、潜伏先の当たりをつけては、隊士を集めて御用検めに何度も入った。
後から到着した斎藤や井ノ上達も、宿の帳簿の確認や、聞き込みに奔走し、虱潰しに大坂の街を一件一件調べて歩いた。
それでも成果はなく、大坂に着いてから十日が経つ。
昨日のこと。
谷弟さんと私で、成果の無い報告書を毎日壬生へ出した結果、土方さんから人員と期限の変更の御達しが、左之さんの手によって届いた。
『小荷駄雑具方』をこちらに増員するが、期限を一先ず月末まで伸ばすらしい。
雨の中、橋の上を走っていた弥月は、偶然鉢合わせた原田達と、情報交換をするために立ち止まった。
その弥月は、蓑(みの)は着ているものの、被っている黒頭巾をびしょぬれにしていて。笠を差した原田は呆れた顔をする。
「監察は傘差したり、笠かぶったりはしないのか?」
「…しますよ、してましたけどね。さっき屋根の上に居る時に、町方に不審者と間違われて、逃げる時にひっかけて笠落として、拾いに行くとか、それどころじゃなくて、今です」
「…逃げなくても、新選組だって説明すれば良かったんじゃないか?」
「…なるほど。思いつかなかった」
誰かに見つかるのは、普段から想定された事故で。日頃の行動がアレだから、“見つかれば逃げる”が定石すぎて、釈明しようだなんて考えもしなかった。
原田さんは溜息交じりに寄って来て、傘の内に入れようとしてくれるので、「濡れますから」と断る。
「今日の雨だったら、たぶん土佐も動きはしないだろ。屯所戻って、着替えて来い」
「そうですね…でも、雨だからこそ、どこかで雨露凌いでるのは間違いないんですよね…」
弥月は来た道を振り返るが、そこに何がある訳ではない。
谷弟さんの掴んだ情報によると、土佐の過激派浪士たちが火付けを予定していたのは一月十五日…日付はとうに過ぎている。
再度それが決起されることに備えて、大坂屯所に隊士は三十人近くいる。
「…あ、そういえば、新八さんを知りません?」
「新八? 壬生の屯所にいるだろ」
後続の斎藤さんとも、井上さんとも来なかった新八さんは、原田さんにも付いて来なかった。
「新八がどうかしたのか?」
「土方さんね、新八さんは暇だから、私に貸してくれるって言ったんですよ。だけどいつまで待っても来ないんですよね~」
きっと土方さん、私がお願いしたことも忘れてる……良いけどさ、別に…
検めを強化してからの成果としては、一件…商家にあった武器弾薬を押収した。しかし、今回の火付けに関わる人物を見つけることはできていない。
厳戒態勢を敷いてはいるが、弥月の実感としては正直なところ、その火付けを企てた土佐浪士達は、大坂にはもう居ないのではないかと思う。
月末まで何もなければ、成果もあまりなく、帰還することになりそうだ。
まあ、決めるの私じゃなくなったから、全然気が楽だし構わないんだけどね
永倉が来なくとも、原田とともにやってきた、弥月にとって驚くべき増員があった。
昨日、彼と眼が合った瞬間、私の開いた口が塞がらなかった。
『……』
『弥月君ですか』
大坂屯所に帰った時、丁度、谷弟さんから現状の説明を受けていた彼は、私を振り返って、その眼鏡を押し上げた。
『…さんなんさん、だ』
『ご苦労様です。何か変わりはありますか』
『…山南さんが、ここにいる…変わりがあります』
『それは報告する必要はありませんが…』
『五日後が予定日なんです。けど、何もつかめなくて…』
『書付にあったことは把握しています。五日後のことはまた後で決めるとして、とりあえず、今現在の隊士の動きからまずは……何を泣いているのですか』
『うっ…だって、指示……やだ…重い…っうううう――…』
思わずへたり込んでしまうほどに、山南さんの顔を見て、緊張が緩んだ。
大坂での初日の夜。
弟の万太郎さんを介したとはいえ、土方さんの大目玉をくらった谷組長は、恥ずかしさと悔しさからか、嫌がらせ半ば、ここにいる隊士の指揮権全てを私に委ねたのだ。
烝さんが助けてくれたし、三日後に到着した井ノ上さんが、谷組長に喝を入れてくれたが…それでもかなり居心地が悪かった。
だから、山南さんが来て、彼が指示を出してくれるおかげで、私は昨日から監察の仕事に集中できて、かなり動きやすくなったのである。
「とりあえず人手は足りてんだから、ゆっくり着替えて来い」
「はーい」
弥月の知らないところで、谷組長の弥月への当たりの強さは伝わっていたらしく。弥月は土方への文句を言っていても、増員に関して全く不満はないのだと、原田も分かっていた。
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