姓は「矢代」で固定
第2話 誰知らず点された火
混沌夢主用・名前のみ変更可能
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***
出立前に、山南さんに声をかけるついでに、献血を申し出た。
浅くて太い静脈を…と、前腕に一寸ほどの筋を入れる。傷みに表情が歪みそうになるのを無言で堪えて、彼が合図を出すのを待つ。
「…はい、結構ですよ。すみません、痛いでしょう…ありがとうございました」
「いえ、大丈夫です」
斬った所をグッと押さえて、血が止まるのを待つ。
「ここまでして頂いているのに、研究の詳細を知りたいとは思いませんか?」
「…不老不死なんですよね。万能薬じゃなくて」
「そうです。しかし、貴女にはもっと詳細を知る権利があると、私は思うのですが」
知る義務がある
そう言われている気がした。
けれど、不老不死の薬などできないのだから、そこまで知らなくても良いだろう。
フルフルと横に首をふると、山南さんはフッと鼻で笑った。
「『できない』と思っているのでしょう?」
「…」
それは私が言ってはいけない言葉だ。未来から来た私がそう言うことは、彼の生きがいを絶つこと同義だから。
「私が絶対にできもしないものに時間を割いていると思っているのでしたら、甘く見られたものだとお伝えしておきますよ」
「…できるんですか」
「貴女のおかげで、確実に完成に近づいてはいます」
「そうなんですか…」
ありえない
近付いてはいても、完成はしない
そう、心の中で頭から否定したが、ふと、弥月は彼の言葉が引っかかった。
“近付いている”と言える理由は?
その未完成の薬は、現状で何かができるというのか。
「…興味が湧きましたか?」
可笑しそうに問う山南さんに、弥月はニコリと微笑んで「まさか」と応える。
「山南さんなら、たとえ不老不死の薬はできなくても、石田散薬より数万倍はマシな薬ができるに違いない!って、期待してますよ」
「それはそれは……斎藤君以外にも効く薬ができれば良いのですが…」
クスクスと笑う山南さんの頬が、以前より少しこけている事に、私は気付いていて、知らないふりをし続けている。
食事の時間以外は、一日に一刻程、稽古をつけてもらう名目で、彼を外に連れだすのがやっとで。残りは日の当たらない研究室で、彼が籠りがちなのを変えられないでいた。
「…私、今からちょっと除痘してくるので、七日ほど屯所開けますね。骨粗鬆症になるので、日光浴びに毎日ちゃんと外に出て下さいよ」
「おや、除痘ですか」
山南は「たしかこの辺に本に…」と言いながら、横積みしてある冊子を探る。
「あれも眉唾なのかと思っていたのですが、貴方がその危険を侵すということは、信頼できる効果があるということなんですね」
弥月は少し考えた後、一度だけ深く頷く。
「まあ、危険は承知の上で、です。ガチの痘瘡に罹るより、死亡率は幾分マシなはずなので」
「なるほど。先生や他の患者さんに、ご迷惑をおかけしないように気を付けてくださいね」
「大丈夫ですよ。病気になるので、大人しくしてます」
さすがにその状態であっちこっちに顔出して、無茶しようなんて思わない。
そう思って答えたが、山南さんは「それもありますが」と心配するような表情で、本を探す手を止める。
「除痘は蘭学の派生ですからね。新選組に恨み辛みのある者が、出入りしていないとも限らない。屯所外で体調を崩すならば、猶更気を付けなさいという事です」
「は、はぁい…」
しまった、フラグ立てた
へへへと空笑いしながら、変装していこうか心底悩んだが。
変装維持の手間と、万一バレた時の心証の悪さを考えると、大人しく何も起こさず、危険に注意して過ごそうと。何か起こった場合は穏便に、平和的解決を目指していく方が、幾分過ごしやすいのではないかという結論に至った。
***
出立前に、山南さんに声をかけるついでに、献血を申し出た。
浅くて太い静脈を…と、前腕に一寸ほどの筋を入れる。傷みに表情が歪みそうになるのを無言で堪えて、彼が合図を出すのを待つ。
「…はい、結構ですよ。すみません、痛いでしょう…ありがとうございました」
「いえ、大丈夫です」
斬った所をグッと押さえて、血が止まるのを待つ。
「ここまでして頂いているのに、研究の詳細を知りたいとは思いませんか?」
「…不老不死なんですよね。万能薬じゃなくて」
「そうです。しかし、貴女にはもっと詳細を知る権利があると、私は思うのですが」
知る義務がある
そう言われている気がした。
けれど、不老不死の薬などできないのだから、そこまで知らなくても良いだろう。
フルフルと横に首をふると、山南さんはフッと鼻で笑った。
「『できない』と思っているのでしょう?」
「…」
それは私が言ってはいけない言葉だ。未来から来た私がそう言うことは、彼の生きがいを絶つこと同義だから。
「私が絶対にできもしないものに時間を割いていると思っているのでしたら、甘く見られたものだとお伝えしておきますよ」
「…できるんですか」
「貴女のおかげで、確実に完成に近づいてはいます」
「そうなんですか…」
ありえない
近付いてはいても、完成はしない
そう、心の中で頭から否定したが、ふと、弥月は彼の言葉が引っかかった。
“近付いている”と言える理由は?
その未完成の薬は、現状で何かができるというのか。
「…興味が湧きましたか?」
可笑しそうに問う山南さんに、弥月はニコリと微笑んで「まさか」と応える。
「山南さんなら、たとえ不老不死の薬はできなくても、石田散薬より数万倍はマシな薬ができるに違いない!って、期待してますよ」
「それはそれは……斎藤君以外にも効く薬ができれば良いのですが…」
クスクスと笑う山南さんの頬が、以前より少しこけている事に、私は気付いていて、知らないふりをし続けている。
食事の時間以外は、一日に一刻程、稽古をつけてもらう名目で、彼を外に連れだすのがやっとで。残りは日の当たらない研究室で、彼が籠りがちなのを変えられないでいた。
「…私、今からちょっと除痘してくるので、七日ほど屯所開けますね。骨粗鬆症になるので、日光浴びに毎日ちゃんと外に出て下さいよ」
「おや、除痘ですか」
山南は「たしかこの辺に本に…」と言いながら、横積みしてある冊子を探る。
「あれも眉唾なのかと思っていたのですが、貴方がその危険を侵すということは、信頼できる効果があるということなんですね」
弥月は少し考えた後、一度だけ深く頷く。
「まあ、危険は承知の上で、です。ガチの痘瘡に罹るより、死亡率は幾分マシなはずなので」
「なるほど。先生や他の患者さんに、ご迷惑をおかけしないように気を付けてくださいね」
「大丈夫ですよ。病気になるので、大人しくしてます」
さすがにその状態であっちこっちに顔出して、無茶しようなんて思わない。
そう思って答えたが、山南さんは「それもありますが」と心配するような表情で、本を探す手を止める。
「除痘は蘭学の派生ですからね。新選組に恨み辛みのある者が、出入りしていないとも限らない。屯所外で体調を崩すならば、猶更気を付けなさいという事です」
「は、はぁい…」
しまった、フラグ立てた
へへへと空笑いしながら、変装していこうか心底悩んだが。
変装維持の手間と、万一バレた時の心証の悪さを考えると、大人しく何も起こさず、危険に注意して過ごそうと。何か起こった場合は穏便に、平和的解決を目指していく方が、幾分過ごしやすいのではないかという結論に至った。
***