姓は「矢代」で固定
第10話 その先へ
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***
男は私の顔を見るなり、察して慌てて逃げ出した。
そこを後ろをとっていた烝さんが転ばせて、私がアキレス腱を狙って斬る。男が痛み悲鳴を上げるのを無視して、用意していた縄で素早く腕を引きあげる。
完了
「あ…っ!」
は…!!!?
伊東さんの不穏な声にすぐさま振り向くと、彼とその組下が連れていたはずの男が走りだしていた。
追いかけたいが、私はこの手をまだ離せない。まだ縛りきっていない。
「烝さん!」
私が叫ぶ前に、彼も気づいて走り出していた。
***
「それで、一人という事なんですね…」
魁さんが渋い顔で、合点がいったと頷いた。
「すまない…追いつけなかった」
「それは烝さんの責任じゃありませんって」
「俺が縛って、弥月君の手が空いていれば…」
「私も瞬発力はありますけど持久力は自信ないから、そんな想像しても分かりませんって…!」
飛脚を出してから四日後、奉行所から名古屋宿の方でそれらしい人を見つけたという情報を受けて、行けば大当たり。
一人ずつバラケた隙に順番に声をかけて、捕縛していくことになったのだが。二人目を私と烝さんが武力で押さえた後に、一人目を”きちんと縛っていなかった事件”が起こった。
そして翌日。土方さんから連絡をもらったらしい、中山道を捜索していた隊士達と宮宿で合流した。今、伊東さんと他三名は監察方・川島の監視の元、これまでの逃走経路や残りの二人が行きそうな場所について尋問している。
「斬らなかったときの捕手術とか基本中の基本なのに、ちゃんとしてない方がおかしいんですよ」
多少なりとも斬った後と、全く斬らなかった時では、逃げる危険性が大きく違うのは言わずもがな。伊東参謀はそれでも後者を選んだ。
その場合に早縄をかけるときは二人以上で制圧・監視し、手を動かせば首が締まる仕様にするのが鉄則なのに、そのどちらも中途半端だったのだ。後々考えてみれば、あの二人が捕縛を練習しているのは想像すらつかないのだから、できると勝手に思っていたのが間違いだった。
「申し訳ない、私も道中で独り者を確認しておけば…」
落ち込んでいる山崎をなんとか島田が慰める。
確かに逃げた方角が彼らの道中ではあったのだが、それは無理がある。時間的にも夜の間に行き違いになった可能性が高い。
「とりあえず、役立たずの伊東さんらに連れて帰ってもらって…というか、もう九番組の責任で持って帰ってもらって。私たちは中山道行きますか」
私が縛った縄を解かず、反対端さえちゃんと持っていれば、連れ帰るくらいはできるはず。九番組が三人も御供してたら問題ないと思いたいけれど、二十四時間見張りが必要だと教えてあげなきゃダメだろうか。「美容に悪いから夜はきちんと寝ましょう」とか言いそうだ。
捕まえた者は屯所に送り返し、残った人員でしばらく捜索を続ける旨は、土方さん宛てにまた文を出した。東海道組には副長からの返信が一度も来ないが、伊東さんを送り返せば、私の怒りはお察しだろう。
「一応、各宿場の木戸番にも依頼はかけてきたので、どこかで掛かると良いのですが…」
「こうなると、高札を立てるほどでもないのが悔やまれるな…」
三人揃って溜息を吐いた。捕まえたのが三分の一と三分の二では成果が違い過ぎた。
「勝手知ったる私と川島が先行しますので、二人は後から来てもらう形で良いでしょうか?」
「そうしよう。宮宿の奉行所の方に直接礼をしておきたい。最終は垂井宿で待っていてくれ」
「分かりました」
また知らない土地名が出てきたが、要は関ケ原の方に北上する美濃街道の終点が垂井宿で、江戸から東海道で西へ向かう行路のひとつらしい。中山道と合流するので、舟渡しに乗れない馬で上京するときに使うそうだ。
「つまりそこからまた東に向かう可能性が高いってことですね…」
「最初に副長が関所宛てに留め置き依頼を出したのは、福島関所だそうだ」
「どこですか、それ…」
追いかけっこも、こうなってくると徒労感が酷い。福島県ではないことを願いたい。
***
男は私の顔を見るなり、察して慌てて逃げ出した。
そこを後ろをとっていた烝さんが転ばせて、私がアキレス腱を狙って斬る。男が痛み悲鳴を上げるのを無視して、用意していた縄で素早く腕を引きあげる。
完了
「あ…っ!」
は…!!!?
伊東さんの不穏な声にすぐさま振り向くと、彼とその組下が連れていたはずの男が走りだしていた。
追いかけたいが、私はこの手をまだ離せない。まだ縛りきっていない。
「烝さん!」
私が叫ぶ前に、彼も気づいて走り出していた。
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「それで、一人という事なんですね…」
魁さんが渋い顔で、合点がいったと頷いた。
「すまない…追いつけなかった」
「それは烝さんの責任じゃありませんって」
「俺が縛って、弥月君の手が空いていれば…」
「私も瞬発力はありますけど持久力は自信ないから、そんな想像しても分かりませんって…!」
飛脚を出してから四日後、奉行所から名古屋宿の方でそれらしい人を見つけたという情報を受けて、行けば大当たり。
一人ずつバラケた隙に順番に声をかけて、捕縛していくことになったのだが。二人目を私と烝さんが武力で押さえた後に、一人目を”きちんと縛っていなかった事件”が起こった。
そして翌日。土方さんから連絡をもらったらしい、中山道を捜索していた隊士達と宮宿で合流した。今、伊東さんと他三名は監察方・川島の監視の元、これまでの逃走経路や残りの二人が行きそうな場所について尋問している。
「斬らなかったときの捕手術とか基本中の基本なのに、ちゃんとしてない方がおかしいんですよ」
多少なりとも斬った後と、全く斬らなかった時では、逃げる危険性が大きく違うのは言わずもがな。伊東参謀はそれでも後者を選んだ。
その場合に早縄をかけるときは二人以上で制圧・監視し、手を動かせば首が締まる仕様にするのが鉄則なのに、そのどちらも中途半端だったのだ。後々考えてみれば、あの二人が捕縛を練習しているのは想像すらつかないのだから、できると勝手に思っていたのが間違いだった。
「申し訳ない、私も道中で独り者を確認しておけば…」
落ち込んでいる山崎をなんとか島田が慰める。
確かに逃げた方角が彼らの道中ではあったのだが、それは無理がある。時間的にも夜の間に行き違いになった可能性が高い。
「とりあえず、役立たずの伊東さんらに連れて帰ってもらって…というか、もう九番組の責任で持って帰ってもらって。私たちは中山道行きますか」
私が縛った縄を解かず、反対端さえちゃんと持っていれば、連れ帰るくらいはできるはず。九番組が三人も御供してたら問題ないと思いたいけれど、二十四時間見張りが必要だと教えてあげなきゃダメだろうか。「美容に悪いから夜はきちんと寝ましょう」とか言いそうだ。
捕まえた者は屯所に送り返し、残った人員でしばらく捜索を続ける旨は、土方さん宛てにまた文を出した。東海道組には副長からの返信が一度も来ないが、伊東さんを送り返せば、私の怒りはお察しだろう。
「一応、各宿場の木戸番にも依頼はかけてきたので、どこかで掛かると良いのですが…」
「こうなると、高札を立てるほどでもないのが悔やまれるな…」
三人揃って溜息を吐いた。捕まえたのが三分の一と三分の二では成果が違い過ぎた。
「勝手知ったる私と川島が先行しますので、二人は後から来てもらう形で良いでしょうか?」
「そうしよう。宮宿の奉行所の方に直接礼をしておきたい。最終は垂井宿で待っていてくれ」
「分かりました」
また知らない土地名が出てきたが、要は関ケ原の方に北上する美濃街道の終点が垂井宿で、江戸から東海道で西へ向かう行路のひとつらしい。中山道と合流するので、舟渡しに乗れない馬で上京するときに使うそうだ。
「つまりそこからまた東に向かう可能性が高いってことですね…」
「最初に副長が関所宛てに留め置き依頼を出したのは、福島関所だそうだ」
「どこですか、それ…」
追いかけっこも、こうなってくると徒労感が酷い。福島県ではないことを願いたい。
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