姓は「矢代」で固定
第八話 届かない距離
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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***
山崎side
壬生寺の一角。とある墓石に寄りかかる様に、膝を抱えてうずくまる人影があった。
近づくにつれてハッキリと見える、灯りもない夜闇にわずかに淡く浮かぶのは弥月君の髪。珍しく解いたままにしてあるそれは、俯く彼女の顔を覆い隠していた。
…もしかしたら、逃げるかもと思っていたのだけどな
「弥月君」
寝ているような気配ではなかった。だから、ゆっくりと近づいて、ただ立ち止まる。すると、彼女は徐に膝から顔を上げて、目の前に立つ俺を見上げた。
「どうかしました? 烝さん」
「…それは、俺が君に問いに来たのだけどな」
「私ですか? どうもしませんけど……それ、何ですか?」
山崎は行灯とは別に、手に小さな盆を持っていた。下からではそこに乗っている物が見えない彼女は、不思議そうに見上げる。
「ちょっとな……君に覇気がないから食事していないのでは、と心配されている。夕餉は食べたか」
「あぁ、千鶴ちゃんに聞いたんですね。大丈夫、いつも通り元気ですから。烝さんこそ、ちゃんと食べてますか?」
「…俺は食べている。俺は、君が夕餉を食べたか訊いているんだが」
「…食べましたよ」
嘘、か
君は都合の悪い質問をされることを予想できているとき、まっすぐに相手の目を見て、はっきりと、ゆっくりと答える。それは大嘘らしい。
「…怒らないから、正直に教えてくれないか。腹が空いてはいないか」
「…」
一瞬、弥月君は苦しむような表情をして、その長い睫毛を伏せる。
山崎は矢代の横に腰を下ろして、静かに返答を待った。
***
弥月side
「怒らないから、正直に答えてくれないか? 腹が空いてはいないか」
彼は全て分かっていて、受け入れて、訊いているのだと感じた。
いつも、そうだ
「おなか……空いてますね。たぶん、空いてます」
弥月は考えるように自分の腹に手を置き、今、それに気づいて納得したかのように、何度か頷いて肯定する。
すると、山崎さんが膝をついたときに足元においた盆に、ふと気付いて、少しだけ顔を顰めた。
…おにぎりか。持ってきてもらったのは、ありがたいけど……
山崎が何かを言おうとする前に、「けど」と否定の言葉を口にする。
「食べたいと思えないんです。食欲がないのもそうなんですけど……美味しいはずなのに、ちっとも美味しくないんです」
もし全く食べなければ、きっとまた倒れてしまうから、必ず何かを口にするけれど。味があるのはどれも最初の一口だけで、二口目に箸はのびない。
「味があるか考えないと、味が分からなくて、なんで食べてるか分からなくて……食べなきゃいけないから食べてるのって、何か違う気がして…」
義務感で食べているんだと思うと、気分がさらに悪くなった。
あぁ、駄目だ。こんな言い方じゃ、余計に心配をさせるだけだ
心配をかけたいわけじゃない。心配してくれるのは嬉しいけれど、迷惑をかけるのも、手を煩わせるのも、私の本意じゃない。
笑え
未来からきた私にとって、全ては取るに足らないことだ。
彼らに恩を返せないどころか、怪我を負わせても、平気で立っていられる恥知らずならば。
笑え
「私、食べるより好きな事なんてないんですけどねぇ。めっちゃ困ります」
***
山崎side
壬生寺の一角。とある墓石に寄りかかる様に、膝を抱えてうずくまる人影があった。
近づくにつれてハッキリと見える、灯りもない夜闇にわずかに淡く浮かぶのは弥月君の髪。珍しく解いたままにしてあるそれは、俯く彼女の顔を覆い隠していた。
…もしかしたら、逃げるかもと思っていたのだけどな
「弥月君」
寝ているような気配ではなかった。だから、ゆっくりと近づいて、ただ立ち止まる。すると、彼女は徐に膝から顔を上げて、目の前に立つ俺を見上げた。
「どうかしました? 烝さん」
「…それは、俺が君に問いに来たのだけどな」
「私ですか? どうもしませんけど……それ、何ですか?」
山崎は行灯とは別に、手に小さな盆を持っていた。下からではそこに乗っている物が見えない彼女は、不思議そうに見上げる。
「ちょっとな……君に覇気がないから食事していないのでは、と心配されている。夕餉は食べたか」
「あぁ、千鶴ちゃんに聞いたんですね。大丈夫、いつも通り元気ですから。烝さんこそ、ちゃんと食べてますか?」
「…俺は食べている。俺は、君が夕餉を食べたか訊いているんだが」
「…食べましたよ」
嘘、か
君は都合の悪い質問をされることを予想できているとき、まっすぐに相手の目を見て、はっきりと、ゆっくりと答える。それは大嘘らしい。
「…怒らないから、正直に教えてくれないか。腹が空いてはいないか」
「…」
一瞬、弥月君は苦しむような表情をして、その長い睫毛を伏せる。
山崎は矢代の横に腰を下ろして、静かに返答を待った。
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弥月side
「怒らないから、正直に答えてくれないか? 腹が空いてはいないか」
彼は全て分かっていて、受け入れて、訊いているのだと感じた。
いつも、そうだ
「おなか……空いてますね。たぶん、空いてます」
弥月は考えるように自分の腹に手を置き、今、それに気づいて納得したかのように、何度か頷いて肯定する。
すると、山崎さんが膝をついたときに足元においた盆に、ふと気付いて、少しだけ顔を顰めた。
…おにぎりか。持ってきてもらったのは、ありがたいけど……
山崎が何かを言おうとする前に、「けど」と否定の言葉を口にする。
「食べたいと思えないんです。食欲がないのもそうなんですけど……美味しいはずなのに、ちっとも美味しくないんです」
もし全く食べなければ、きっとまた倒れてしまうから、必ず何かを口にするけれど。味があるのはどれも最初の一口だけで、二口目に箸はのびない。
「味があるか考えないと、味が分からなくて、なんで食べてるか分からなくて……食べなきゃいけないから食べてるのって、何か違う気がして…」
義務感で食べているんだと思うと、気分がさらに悪くなった。
あぁ、駄目だ。こんな言い方じゃ、余計に心配をさせるだけだ
心配をかけたいわけじゃない。心配してくれるのは嬉しいけれど、迷惑をかけるのも、手を煩わせるのも、私の本意じゃない。
笑え
未来からきた私にとって、全ては取るに足らないことだ。
彼らに恩を返せないどころか、怪我を負わせても、平気で立っていられる恥知らずならば。
笑え
「私、食べるより好きな事なんてないんですけどねぇ。めっちゃ困ります」
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