姓は「矢代」で固定
第八話 届かない距離
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***
藤堂side
「あぁぁもう!クソッ!!」
「また居なかったのか」
ドスドスと足音を立てながら部屋に帰ってきた藤堂を、原田は布団を敷きながら、不憫そうな目でみる。
「監察のとこは見てきたのか?」
「行ったよ!厠から道場から、山南さんのとこ、八木さん家まで、全部見てきたっての!!マジでどこに消えたんだよ、あいつ!」
「…それ、屯所内にいるのか?」
藤堂は自分の分の布団を投げながら、「知らねぇ!」と叫んだ。
ここ数日、藤堂が昼間に千鶴の部屋を何度か訪れてみても、見張りのはずの弥月が何故かいつも不在である。どうしてか、夜にも自室に帰ってこないから、全く弥月に会えない。
門番曰く、夜間に出入りすることがあっても寺に行ってるだけらしいから、屯所内にいるとは思われるのだが。
「…あいつらしくないな」
原田がポツリと溢したのに、藤堂は「ん゛」と頷く。しかし、それが自分のせいだと分かっていたから、不満はあっても、非難する気にはなれなかった。
オレは弥月を信じてやらなかった。
剣豪である山南さん自身の気持ちを考えると、やりきれない思いがあって……仲間としての悲しみも募った。そして、どうしてよいか分からない行き場のない焦りが生まれた。
その焦りの代わりに、怒りを弥月へ向けることで、今の自分に何もできないことはないのだと……使命感で心満たされようとしていたのだと思う。
『…避けられる……というよりも、怯えられている、のだと思われる…』
ここのところ道場に全く顔をみせない弥月を、稽古に誘ったらしいはじめ君が落ち込んだように言っていた。
はじめ君でソレなのだから、当然、弥月を直接詰問したオレは、避けられまくっている。この狭い屯所内で会わないのは、絶対に鉢合わせしないよう、弥月が逃げているからに決まっている。
「どうすりゃ良ぃんだよ…」
枕に顔を埋めて、そう呟く。
一度だけ、千鶴の部屋の近くを歩いているところを遠目に見たことはあるが、次の瞬間には姿をくらまされた。弥月が新選組に入隊してから上達した技術は、剣術や柔術よりも、そういう逃走や隠遁の技じゃねえかと思う。
以前、敵前逃亡したあいつは、自分の命を護るために脱走しようとした過去がある。けど、その時もオレらを騙そうとしたり、裏切ったりしようとしていたわけじゃなかった。
そんな弥月が、ただ謝るためだけに、責を科されるためだけに、ここに帰ってきたのに……どうして信じられなかったのか。
オレが、弱いからだ
「…そうだよ、山南さんが怪我したの……弥月のせいなんじゃねぇの……あいつを責めたって仕方ねぇの、分かってんだよ…」
それだけを除けば、オレは間違ったことは言っていないと思っている。言い方は少し悪かったが、弥月に質問したことは、全部がオレの本心だった。
でも…
「信じなきゃ…信じてもらえねぇんだって……俺が言ったんじゃん…」
オレが『仲間だろ』って質問したら、泣きそうに微笑んだあいつが……差し出したオレの手を、力強く握った弥月が、いつか俺達を見捨てる日を、オレが誰よりも一番怖がっていた。
オレに全く畏(かしこ)まらないあいつは、友達みたいなもんだと思っていたから。
『矢代が一人で抱えてるものを、俺達とは永遠に共有できないことが、ただ歯痒い』
『矢代がどれだけ献身的に働こうとも、このままでは永遠にあいつは独りだ』
はじめ君の言葉は、グサリと心に刺さった。
オレが「仲間だ」云々と並べている事が、まるで上辺だけの関係を取り繕っているような気になったから。
“悩みを打ち明けられること”が仲間の条件ではないからと、弥月が悩んでいることに見て見ぬふりをしてきた事が、正しかったのかと……彼を友達みたいなものだと思っているオレとの矛盾を感じた。
「…わっかんねぇよ……だって、そこまで仲良くねえもん…」
原田は寝仕度を終えて、自分も布団に入る。
そして藤堂のその独り言が、自分に話しかけているのでないとは分かっていたが、ここ数日の彼が同じような事ばかり言うので、見兼ねてそれに応えた。
「仲良しこよしでやってる訳じゃねぇんだから、俺はそれでも良いと思うぜ。抱えてるものを知りたいってのは、斎藤の私情というか、我が儘みたいなもんだろ」
「…じゃあ左之さんは、弥月が独りぼっちでも良いってのかよ」
「独りになるのと、独りにすんのは別だろ。
弥月が話さないって決めて、自らそうなるんなら、仕方ないと言うかな……あいつはちゃんと分かってて、そんくらいの覚悟できる奴だろ」
「そうかもしんねぇけどよ…」
そうじゃない
そんな割り切った仲間でいたいわけじゃない
「……弥月、独りになりたい奴に見えねぇじゃんか…絶対違うじゃん…」
だから嫌だ。あいつが皆と笑っているのを見るとホッとする
たとえこれから先、弥月が新選組にいなくなっても、オレは友達でいたいと思うから
「じゃあ、やっぱりお前の出番じゃねえか」
なぜか左之さんが可笑しそうに言ったので、振り返って顔を見る。
「得意だろ、そういうの。怖い顔して追いかけるから、逃げちまうんだって。いつも通りにすれば良いんだよ」
「…捕まんねぇのに?」
「そこはまあ頑張りどころなんじゃないか?」
「なんだよ、結局なんの案もなしかよ……左之さんは弥月に会ったのか?」
「まあな。大坂から帰ってきたあの日の内に」
「はぁ?ずりぃって…!」
藤堂は起き上がって食いつくが、抗議を向けられた原田は、「ずるいってなぁ…」と苦い顔をする。そして寝返りをうってから、藤堂へ向かって柔らかに応えた。
「でも、たぶん俺じゃないからよ」
「何が?」
「色々な」
「…?」
「まっ、お前もちゃんと謝れよって話だ。もう、火消すぞ」
真っ暗になった中で目を瞑る。
何か…なんとかして明日こそ捕まえねぇと…
***
藤堂side
「あぁぁもう!クソッ!!」
「また居なかったのか」
ドスドスと足音を立てながら部屋に帰ってきた藤堂を、原田は布団を敷きながら、不憫そうな目でみる。
「監察のとこは見てきたのか?」
「行ったよ!厠から道場から、山南さんのとこ、八木さん家まで、全部見てきたっての!!マジでどこに消えたんだよ、あいつ!」
「…それ、屯所内にいるのか?」
藤堂は自分の分の布団を投げながら、「知らねぇ!」と叫んだ。
ここ数日、藤堂が昼間に千鶴の部屋を何度か訪れてみても、見張りのはずの弥月が何故かいつも不在である。どうしてか、夜にも自室に帰ってこないから、全く弥月に会えない。
門番曰く、夜間に出入りすることがあっても寺に行ってるだけらしいから、屯所内にいるとは思われるのだが。
「…あいつらしくないな」
原田がポツリと溢したのに、藤堂は「ん゛」と頷く。しかし、それが自分のせいだと分かっていたから、不満はあっても、非難する気にはなれなかった。
オレは弥月を信じてやらなかった。
剣豪である山南さん自身の気持ちを考えると、やりきれない思いがあって……仲間としての悲しみも募った。そして、どうしてよいか分からない行き場のない焦りが生まれた。
その焦りの代わりに、怒りを弥月へ向けることで、今の自分に何もできないことはないのだと……使命感で心満たされようとしていたのだと思う。
『…避けられる……というよりも、怯えられている、のだと思われる…』
ここのところ道場に全く顔をみせない弥月を、稽古に誘ったらしいはじめ君が落ち込んだように言っていた。
はじめ君でソレなのだから、当然、弥月を直接詰問したオレは、避けられまくっている。この狭い屯所内で会わないのは、絶対に鉢合わせしないよう、弥月が逃げているからに決まっている。
「どうすりゃ良ぃんだよ…」
枕に顔を埋めて、そう呟く。
一度だけ、千鶴の部屋の近くを歩いているところを遠目に見たことはあるが、次の瞬間には姿をくらまされた。弥月が新選組に入隊してから上達した技術は、剣術や柔術よりも、そういう逃走や隠遁の技じゃねえかと思う。
以前、敵前逃亡したあいつは、自分の命を護るために脱走しようとした過去がある。けど、その時もオレらを騙そうとしたり、裏切ったりしようとしていたわけじゃなかった。
そんな弥月が、ただ謝るためだけに、責を科されるためだけに、ここに帰ってきたのに……どうして信じられなかったのか。
オレが、弱いからだ
「…そうだよ、山南さんが怪我したの……弥月のせいなんじゃねぇの……あいつを責めたって仕方ねぇの、分かってんだよ…」
それだけを除けば、オレは間違ったことは言っていないと思っている。言い方は少し悪かったが、弥月に質問したことは、全部がオレの本心だった。
でも…
「信じなきゃ…信じてもらえねぇんだって……俺が言ったんじゃん…」
オレが『仲間だろ』って質問したら、泣きそうに微笑んだあいつが……差し出したオレの手を、力強く握った弥月が、いつか俺達を見捨てる日を、オレが誰よりも一番怖がっていた。
オレに全く畏(かしこ)まらないあいつは、友達みたいなもんだと思っていたから。
『矢代が一人で抱えてるものを、俺達とは永遠に共有できないことが、ただ歯痒い』
『矢代がどれだけ献身的に働こうとも、このままでは永遠にあいつは独りだ』
はじめ君の言葉は、グサリと心に刺さった。
オレが「仲間だ」云々と並べている事が、まるで上辺だけの関係を取り繕っているような気になったから。
“悩みを打ち明けられること”が仲間の条件ではないからと、弥月が悩んでいることに見て見ぬふりをしてきた事が、正しかったのかと……彼を友達みたいなものだと思っているオレとの矛盾を感じた。
「…わっかんねぇよ……だって、そこまで仲良くねえもん…」
原田は寝仕度を終えて、自分も布団に入る。
そして藤堂のその独り言が、自分に話しかけているのでないとは分かっていたが、ここ数日の彼が同じような事ばかり言うので、見兼ねてそれに応えた。
「仲良しこよしでやってる訳じゃねぇんだから、俺はそれでも良いと思うぜ。抱えてるものを知りたいってのは、斎藤の私情というか、我が儘みたいなもんだろ」
「…じゃあ左之さんは、弥月が独りぼっちでも良いってのかよ」
「独りになるのと、独りにすんのは別だろ。
弥月が話さないって決めて、自らそうなるんなら、仕方ないと言うかな……あいつはちゃんと分かってて、そんくらいの覚悟できる奴だろ」
「そうかもしんねぇけどよ…」
そうじゃない
そんな割り切った仲間でいたいわけじゃない
「……弥月、独りになりたい奴に見えねぇじゃんか…絶対違うじゃん…」
だから嫌だ。あいつが皆と笑っているのを見るとホッとする
たとえこれから先、弥月が新選組にいなくなっても、オレは友達でいたいと思うから
「じゃあ、やっぱりお前の出番じゃねえか」
なぜか左之さんが可笑しそうに言ったので、振り返って顔を見る。
「得意だろ、そういうの。怖い顔して追いかけるから、逃げちまうんだって。いつも通りにすれば良いんだよ」
「…捕まんねぇのに?」
「そこはまあ頑張りどころなんじゃないか?」
「なんだよ、結局なんの案もなしかよ……左之さんは弥月に会ったのか?」
「まあな。大坂から帰ってきたあの日の内に」
「はぁ?ずりぃって…!」
藤堂は起き上がって食いつくが、抗議を向けられた原田は、「ずるいってなぁ…」と苦い顔をする。そして寝返りをうってから、藤堂へ向かって柔らかに応えた。
「でも、たぶん俺じゃないからよ」
「何が?」
「色々な」
「…?」
「まっ、お前もちゃんと謝れよって話だ。もう、火消すぞ」
真っ暗になった中で目を瞑る。
何か…なんとかして明日こそ捕まえねぇと…
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