姓は「矢代」で固定
第八話 届かない距離
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文久三年一月十六日
弥月side
「おはよう、千鶴ちゃん。今日からまた私が担当だから、鬱陶しかったら早めに教えてね。昨日の今日のアレなので、いつもと別の方向性で、さらに三割増しで鬱陶しいと思うから」
「…おはようございます、弥月さん」
「ん。とりあえず準備できたら顔洗いに行こっか」
次の朝、出張前のころと変わらずに過ごした。
朝起きて布団を畳み、井戸で顔を洗う。今朝は素振りはそこそこにして、旅荷をほどいて下着を洗濯した。そして朝五ツ頃には千鶴ちゃんの見張りを烝さんと交代し、彼女と一緒に朝餉ができるのを待つ。
身体を動かして、今必要なことだけをしていれば、余計な事を考えずに済む。それが本当に『余計な事』なのかを考えるのも億劫だと……私の心はそれから遠ざかろうと努めていた。
身支度を終えた千鶴ちゃんと、部屋の角で座って待つ。
「…大丈夫ですか?」
「…大丈夫、ちょっと眠いだけ」
「…そうですか」
千鶴ちゃんへはいつもと変わらない風に接するようにしているけれど、明らかに私の口数は少ないと思う。チラチラと視線をくれる彼女は気を遣って、色々考えてくれているのだろうけれど、今はあまり触れないでほしかった。人と話すことに酷く疲れてしまう。
けれど目を閉じても眠れるわけじゃなく、今日これからのことを考えてしまって、落ち着かない気持ちと、吐き気のよう気分の悪さがあった。
…斎藤さんかな
しばらくして、人の気配がしたので顔を上げる。
「…朝餉の仕度が整った」
いつもなら私が動くのだが、千鶴ちゃんが弾かれたように立ち上がって障子を開ける。
「おはようございます、斎藤さん」
「おはよう」
…手ぶら?
平助のときは兎も角、声をかけてくれるのが斎藤さんの時は、いつもなら膳を二つ運んでくれるはずなのに、彼の手は空で、弥月は首を傾げる。
「…ん、じゃまあ、取りにいきましょうかね」
そういう日もあるか、と弥月が立ち上がると、
「矢代が大坂へ行っている間から、雪村は俺達と共に食事をしている故、今朝もそちらに準備しているが…」
「…なるほど」
一応、昨日のあの場に千鶴ちゃんがいたことには気付いていた。それが夕餉の時間であったことも。
「なんでかな、とは若干思ってたんですけど……鬼の居ぬ間にってやつですね。でも、土方さん帰って来てますけど、大丈夫ですか?」
「大事ない。昨日の内に許可は下りている」
「へぇ……だってさ、千鶴ちゃん。行っといで」
「え、あの…弥月さんは?」
「ん? 私はその辺の隊士つかまえて、一緒するから大丈夫。元々はそんな感じだしね」
「そうですか…」
「うん、じゃあまた後でね」
斎藤へ「四半時したら戻ります」と言って、弥月は彼らに背を向ける。残念そうな千鶴の声にも、何か言いたげな斎藤の視線にも、弥月は気付かないふりをした。
***