姓は「矢代」で固定
第八話 届かない距離
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***
千鶴side
その言葉の意味を知っていても、聴き慣れないそれは当たり前のように使われたから、私はすぐには理解できなかった。
予知
流れからして、きっと“余地”じゃなくて“予知”……どちらにしても合点はいかないけれど…
皆さんが緊迫した様子でやり取りする「知っていた」「知らなかった」の言い争いについては、てっきり弥月さんが間者かもしれないと疑われているからだとか、監察方の情報収集で元々“何か”を知っていたに違いない、という話かと思っていたのだけれど。
予知
山南さから飛び出した、その単語。
なんだったんだろう…
予知とは“予め知っている”事だ。私の感覚として、その単語は『経験』に基づくものではなく、神様の啓示だとか『なにかすごいもの』のおかげで知り得た時に使うものだと思うのだけれど。
…実は弥月さんは、易者さんとかなのかな……もしも『実は祈祷師です』とか言われても、全然驚きはしないのだけど……
寧ろ、常日頃から“何か”憑いていても不思議じゃないくらい、彼は不思議な人だと思う。
「おい、お前…」
……
「…はい」
…しまった
きっと皆さん私がいることなど忘れてしまっていた、或は、気に留めていなかったのだろうと思う。
けれど今、土方さんや斎藤さんが怒ったような、そして近藤さんが困った様な顔をしていることから、恐らく、さっきの会話は私が聴いてはいけなかったのだろう。しかし、間違いなく、私は全部聞いてしまった。
…でも……でも、何が…!?
この状況は、半月ほど前に、この部屋で彼らと問答したことを思い出させる。何かを詮議される直前の緊張感。
それを踏まえて、今さっき起こった事を思い返してみても、私が何を聞いたらいけなかったのか、ハッキリと分からなかった。前の時も分かっていなくて、迂闊に起こった事実を喋ってしまった結果、監禁という事態に陥ってしまった。
これ以上、何か咎められたら…!
現在で軟禁なのだから、次は監禁くらいは間違いない。
突如襲った危機感に、ぶわっと全身から汗が噴き出る。
「……」
「……」
声をかけた土方も、かけられた千鶴も、両者黙って相手の出方を窺っていた。しかし間もなく、土方は渋い顔をしたまま、溜息交じりに口を開く。
「ハァ……面倒だ。何を理解したか話せ」
何を理解したか…
弥月さんが現れて以降、起こったことで……私が知っていても問題ないはずのことは…
「…弥月さんは、山南さんが怪我をしてしまったことに、とても責任を感じていました」
「他には」
「…弥月さんが……」
痛々しいほど彼も深く傷ついていたのに、誰も彼を庇おうとはしなかった。
きっと私と同じで、彼にも間者の疑いがあるから。
「…皆さんに信用されていないことが分かりました」
その時、千鶴は自分が向かい合っていた土方だけではなく、その場の全員が思いを巡らすように、自分から視線を背けたのに気付く。
…本人も居ないのに、そんなに気まずそうな顔をするくらいなら…あんな追い詰めるような方法じゃなくて……もっとちゃんと話し合えば良いのに…
千鶴は彼らを不器用な人達だと思った。それは弥月のことも含めて。
「…他には」
他…
「他に何か思わなかったか」
聞いていないはずがないから、それを答えるまで、土方さんが納得するまで、この問答は続くに違いない。
私が新しく知ったことなど殆どなかったけれど、“聞かれたら不味い”ことを、私が“どう認識しているか”ということが、問題となるのだろう。
他に、何かあった…?
私が「他に」何か気にかかったことを挙げるとすれば、「予知」という言葉に関することくらいだった。
それは“聞かれたら不味い”ことなのかな…
「……弥月さんは……易者さんか、祈祷師さんなのかもしれないと思いました」
…え?
私は珍しいものを見たのだと思う。それは、驚いて目を瞠るというか、間の抜けたというか、鳩が豆鉄砲を食らったような土方さんの顔。
それを観て、キョトンとしたのは千鶴も同じで。
なんとも言えない表情に変わっていく土方よりも先に、小刻みに肩を震わせて「フッ」と息を溢したのは沖田だった。
「ククッ…それじゃ…っ、彼、ただの当たらない占い師じゃない…!」
…?
…あ、本当だ
私の答えの順番を変えると……彼は易者で、今回、山南さんの怪我を予知できなくて、常日頃から信用されてない……らしい。
「…分かった。もう良いから、部屋に戻ってろ。源さんはそいつの見張りを、山崎に頼んで来てもらってもいいか」
「あいよ。じゃあ雪村君、行こうか」
「あ…はい…」
???
え、つまり、祈祷師さんが正解ってこと?
土方が何に納得したのかは、千鶴には分からなかったが、ひとまず、すぐに殺される事態にはならないのだろう様子に、ホッと胸を撫で下ろした。
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千鶴side
その言葉の意味を知っていても、聴き慣れないそれは当たり前のように使われたから、私はすぐには理解できなかった。
予知
流れからして、きっと“余地”じゃなくて“予知”……どちらにしても合点はいかないけれど…
皆さんが緊迫した様子でやり取りする「知っていた」「知らなかった」の言い争いについては、てっきり弥月さんが間者かもしれないと疑われているからだとか、監察方の情報収集で元々“何か”を知っていたに違いない、という話かと思っていたのだけれど。
予知
山南さから飛び出した、その単語。
なんだったんだろう…
予知とは“予め知っている”事だ。私の感覚として、その単語は『経験』に基づくものではなく、神様の啓示だとか『なにかすごいもの』のおかげで知り得た時に使うものだと思うのだけれど。
…実は弥月さんは、易者さんとかなのかな……もしも『実は祈祷師です』とか言われても、全然驚きはしないのだけど……
寧ろ、常日頃から“何か”憑いていても不思議じゃないくらい、彼は不思議な人だと思う。
「おい、お前…」
……
「…はい」
…しまった
きっと皆さん私がいることなど忘れてしまっていた、或は、気に留めていなかったのだろうと思う。
けれど今、土方さんや斎藤さんが怒ったような、そして近藤さんが困った様な顔をしていることから、恐らく、さっきの会話は私が聴いてはいけなかったのだろう。しかし、間違いなく、私は全部聞いてしまった。
…でも……でも、何が…!?
この状況は、半月ほど前に、この部屋で彼らと問答したことを思い出させる。何かを詮議される直前の緊張感。
それを踏まえて、今さっき起こった事を思い返してみても、私が何を聞いたらいけなかったのか、ハッキリと分からなかった。前の時も分かっていなくて、迂闊に起こった事実を喋ってしまった結果、監禁という事態に陥ってしまった。
これ以上、何か咎められたら…!
現在で軟禁なのだから、次は監禁くらいは間違いない。
突如襲った危機感に、ぶわっと全身から汗が噴き出る。
「……」
「……」
声をかけた土方も、かけられた千鶴も、両者黙って相手の出方を窺っていた。しかし間もなく、土方は渋い顔をしたまま、溜息交じりに口を開く。
「ハァ……面倒だ。何を理解したか話せ」
何を理解したか…
弥月さんが現れて以降、起こったことで……私が知っていても問題ないはずのことは…
「…弥月さんは、山南さんが怪我をしてしまったことに、とても責任を感じていました」
「他には」
「…弥月さんが……」
痛々しいほど彼も深く傷ついていたのに、誰も彼を庇おうとはしなかった。
きっと私と同じで、彼にも間者の疑いがあるから。
「…皆さんに信用されていないことが分かりました」
その時、千鶴は自分が向かい合っていた土方だけではなく、その場の全員が思いを巡らすように、自分から視線を背けたのに気付く。
…本人も居ないのに、そんなに気まずそうな顔をするくらいなら…あんな追い詰めるような方法じゃなくて……もっとちゃんと話し合えば良いのに…
千鶴は彼らを不器用な人達だと思った。それは弥月のことも含めて。
「…他には」
他…
「他に何か思わなかったか」
聞いていないはずがないから、それを答えるまで、土方さんが納得するまで、この問答は続くに違いない。
私が新しく知ったことなど殆どなかったけれど、“聞かれたら不味い”ことを、私が“どう認識しているか”ということが、問題となるのだろう。
他に、何かあった…?
私が「他に」何か気にかかったことを挙げるとすれば、「予知」という言葉に関することくらいだった。
それは“聞かれたら不味い”ことなのかな…
「……弥月さんは……易者さんか、祈祷師さんなのかもしれないと思いました」
…え?
私は珍しいものを見たのだと思う。それは、驚いて目を瞠るというか、間の抜けたというか、鳩が豆鉄砲を食らったような土方さんの顔。
それを観て、キョトンとしたのは千鶴も同じで。
なんとも言えない表情に変わっていく土方よりも先に、小刻みに肩を震わせて「フッ」と息を溢したのは沖田だった。
「ククッ…それじゃ…っ、彼、ただの当たらない占い師じゃない…!」
…?
…あ、本当だ
私の答えの順番を変えると……彼は易者で、今回、山南さんの怪我を予知できなくて、常日頃から信用されてない……らしい。
「…分かった。もう良いから、部屋に戻ってろ。源さんはそいつの見張りを、山崎に頼んで来てもらってもいいか」
「あいよ。じゃあ雪村君、行こうか」
「あ…はい…」
???
え、つまり、祈祷師さんが正解ってこと?
土方が何に納得したのかは、千鶴には分からなかったが、ひとまず、すぐに殺される事態にはならないのだろう様子に、ホッと胸を撫で下ろした。
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