姓は「矢代」で固定
第八話 届かない距離
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***
沖田side
後から考えれば、受け入れがたい事態に、冷静さを失い、判断力に欠けていたんだと思う。
“誰が”と言ったら、その場の全員だ。
いつまでも空気を読めない千鶴ちゃん
言っても仕方ないことを喚く平助
それを止めないどころか、安直に従うみんな
自分が全部悪いみたいな顔して、弁解しようともしない弥月君
みんな不幸を誰かのせいにしなければ、気が済まなかった。
そして、それを見ているだけの自分は、なるべくして、そういう役割だったに違いない。
…なんて思ったのは随分後のことだけどね
***
「…ぃから来たってんなら……知らなかったのかよ…」
平助の言葉は小さくて、反対側に居た僕には最初が僅かに聞き取れなかった。けれど、弥月君が『知っていた』ことを、誰かが期待してしまうことは容易だった。
芹沢さんの時にも、彼は何かを『知っていた』から。
「弥月さ、いつも『何もしたくねぇ』って言うけどさ……今回も知ってて見ないふりしたとかねぇよな…?」
僕が杯を傾けた向うに見えた弥月君は、謝罪の言葉を述べた後、跪いて床に顔を伏せたまま動かない。
そして、彼女が問いについて是とも非とも答えないことが、平助の神経を逆撫でしていることは明らかだった。
…山南さんが大怪我することを知っていて、弥月君がそれを見ないふりをした…?
「弥月……なんで黙ってんだよ…」
「おい…まじで、そうなのか…?」
「…弥月…?」
平助の問いに、またも彼は答えなかった。けれど、小さくなったその身はカタカタと震えている。
猜疑心に駆られた皆から、彼を攻めようとする雰囲気が部屋に充満する。
…
……
……らしくない、よねぇ?
近藤さんが『彼の言葉に耳を傾けてみなさい』なんて言うから、色眼鏡なく、ただ彼の立場に立って考えてみようとしたのだが。どういうわけか、いつも彼に心酔しているような皆が今日は疑っているなんて云う、いつもとは逆の立場になってしまっていた。
まあ『らしくない』って言うのは、心の広い僕のことじゃなくて。
彼の言う『未来の事』に関して、彼の嘘と誤魔化しは何度も見てきた。彼があっけらかんと「知らない」と一言いえば、それを誰もが信じたふりをした。
…だから逆に、「知らない」って言わないから、「知ってる」ってことなの?
そう判断されてしまうのに気付かないほど、馬鹿じゃないと思うのだけれど。
そして、その事態をただ傍観したと言うならば、態々こうして皆を怒らせて、自分の命を危険に晒す必要がどこにあるのか。
今日も「知らなかった」と言えば、多少の責は問われるとして、こんなにも咎められることは無かっただろうに。
今にも斬りかからんとする一触即発の雰囲気に、沖田には疑問が残るばかりだった。
「――っなぁ!なんとか言えよ、弥月!?俺ら仲間だよな!?」
…そろそろ応えないと、さすがに不味いと思うんだけど
平助達はまだ兎も角、僕の左隣から徐々に、ものすごい殺気が発せられている。
なにそれ。師弟関係みたいな仲じゃなかったの?
手に持ったままだった杯を膳の上に戻して、チラリと横目で確認すると。横に置いていた刀に、彼の手は既に掛かっていた。
あぁ、もう、仕方ないなぁ…
しびれを切らして、最初に飛び出そうとしたのは平助で、それを止めたのは横にいた新八さん。偶然、僕ははじめ君の右側にいたから、その柄を掴んで抜くのを阻んだ。
左之さんは最悪の事態に巻き込まれないよう、千鶴ちゃんを遠ざけていて。土方さんは……どうする気だったのか、腰を浮かせている。
「…総司、この手をどけろ」
「今は辞めときなって…ねぇ、土方さん」
この状態まで来たはじめ君を今すぐ止められるのは、土方さんだけだろうと思い、そう投げる。
「あぁ、今回のことに矢代に責はねぇ……全員退け」
それで、ようやく腰を下ろしてくれたはじめ君に、ふぅと息を吐く。
なんで僕があの子を庇わなきゃいけないのさ。逆でしょ、逆
「俺と山南さんは矢代達とは別行動をしていて、偶然に賊に居合わせた。そいつらとの斬り合いの最中にこいつが現れた……だから寧ろ、今より悪い状況を回避できたのは、賊の噂を聞いて機転を利かせて動いた、こいつと山崎のおかげだ」
そうして、ようやっと行われた土方さんの説明に、平助が納得しきれずに「――んだよ、それ…」と吐き捨てながらも腰を下ろした後、近藤さんは「矢代君」と声をかけた。
「君はできる限りのことをしてくれたんだな?」
……
近藤さんのそれは、すごく控え目な問い……というよりも、確認だった。
そしてそれは、既に起こった後の事実如何ではなく、今の彼女が仲間であるか…ただそれだけを確認しているのだと、僕は気付いた。
それに答えるのにも随分と時間が掛かったが、彼女が床に着いた手に、何かを耐えるように力を込めたのに、僕はその決心を見た。
わかった
「――ぅしわけ、ありません…力及ばず…」
「―――っ、ぃい加減にしろよ弥月!!知ってたのかって、俺達は聞きてえんだ!」
分かってしまった
彼女はその瞬間、間違いなく『仲間』だった
彼女が謝罪の言葉しか述べないのは、『できる限りのことをした』、『しようとした』けれど、取返しのつかない事態が起こったことを悔いていて……それを謝罪することしかできないのだと。
言い訳などする余地もなく、ただ悔いているのだと。それも、自分の死をもって償う覚悟で謝罪したいのだと。
実際にそれを『知っていた』か『知らなかった』かは、彼女にとって関係がないことだったのだ。
だから平助の問いには答えられなかった。
…なんて言うか、さぁ……
恐らく近藤さんも同じ答えに辿り着いたのだろう。怒気はないが、土方さんさながらに、眉間に深い皺を刻んでいた。
潔すぎだし、言葉足らずにも程があるでしょ…
いつもは五月蝿いほどに無駄に喋るくせに、どうして言い訳の一つもしないなんて……そういう決断になったのか。
左之さんに掴み上げられる彼の姿にホトホト呆れた。
「弥月君」
その声と同時に開けられた戸。
あ、はい。解決、解決
近藤さんがどうにかするかと思ったが、山南さんが現れるなら、彼のこの意固地なまでの潔さはなんとかなって万事解決だろう。
沖田は徳利に残っていた酒を、杯に注いで口に運んだ。
***
そして沖田の予想通り、そちらの問題は一旦は解決……というより、保留に向かったのだが、次の問題が既に生じていた。
沖田side
後から考えれば、受け入れがたい事態に、冷静さを失い、判断力に欠けていたんだと思う。
“誰が”と言ったら、その場の全員だ。
いつまでも空気を読めない千鶴ちゃん
言っても仕方ないことを喚く平助
それを止めないどころか、安直に従うみんな
自分が全部悪いみたいな顔して、弁解しようともしない弥月君
みんな不幸を誰かのせいにしなければ、気が済まなかった。
そして、それを見ているだけの自分は、なるべくして、そういう役割だったに違いない。
…なんて思ったのは随分後のことだけどね
***
「…ぃから来たってんなら……知らなかったのかよ…」
平助の言葉は小さくて、反対側に居た僕には最初が僅かに聞き取れなかった。けれど、弥月君が『知っていた』ことを、誰かが期待してしまうことは容易だった。
芹沢さんの時にも、彼は何かを『知っていた』から。
「弥月さ、いつも『何もしたくねぇ』って言うけどさ……今回も知ってて見ないふりしたとかねぇよな…?」
僕が杯を傾けた向うに見えた弥月君は、謝罪の言葉を述べた後、跪いて床に顔を伏せたまま動かない。
そして、彼女が問いについて是とも非とも答えないことが、平助の神経を逆撫でしていることは明らかだった。
…山南さんが大怪我することを知っていて、弥月君がそれを見ないふりをした…?
「弥月……なんで黙ってんだよ…」
「おい…まじで、そうなのか…?」
「…弥月…?」
平助の問いに、またも彼は答えなかった。けれど、小さくなったその身はカタカタと震えている。
猜疑心に駆られた皆から、彼を攻めようとする雰囲気が部屋に充満する。
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……
……らしくない、よねぇ?
近藤さんが『彼の言葉に耳を傾けてみなさい』なんて言うから、色眼鏡なく、ただ彼の立場に立って考えてみようとしたのだが。どういうわけか、いつも彼に心酔しているような皆が今日は疑っているなんて云う、いつもとは逆の立場になってしまっていた。
まあ『らしくない』って言うのは、心の広い僕のことじゃなくて。
彼の言う『未来の事』に関して、彼の嘘と誤魔化しは何度も見てきた。彼があっけらかんと「知らない」と一言いえば、それを誰もが信じたふりをした。
…だから逆に、「知らない」って言わないから、「知ってる」ってことなの?
そう判断されてしまうのに気付かないほど、馬鹿じゃないと思うのだけれど。
そして、その事態をただ傍観したと言うならば、態々こうして皆を怒らせて、自分の命を危険に晒す必要がどこにあるのか。
今日も「知らなかった」と言えば、多少の責は問われるとして、こんなにも咎められることは無かっただろうに。
今にも斬りかからんとする一触即発の雰囲気に、沖田には疑問が残るばかりだった。
「――っなぁ!なんとか言えよ、弥月!?俺ら仲間だよな!?」
…そろそろ応えないと、さすがに不味いと思うんだけど
平助達はまだ兎も角、僕の左隣から徐々に、ものすごい殺気が発せられている。
なにそれ。師弟関係みたいな仲じゃなかったの?
手に持ったままだった杯を膳の上に戻して、チラリと横目で確認すると。横に置いていた刀に、彼の手は既に掛かっていた。
あぁ、もう、仕方ないなぁ…
しびれを切らして、最初に飛び出そうとしたのは平助で、それを止めたのは横にいた新八さん。偶然、僕ははじめ君の右側にいたから、その柄を掴んで抜くのを阻んだ。
左之さんは最悪の事態に巻き込まれないよう、千鶴ちゃんを遠ざけていて。土方さんは……どうする気だったのか、腰を浮かせている。
「…総司、この手をどけろ」
「今は辞めときなって…ねぇ、土方さん」
この状態まで来たはじめ君を今すぐ止められるのは、土方さんだけだろうと思い、そう投げる。
「あぁ、今回のことに矢代に責はねぇ……全員退け」
それで、ようやく腰を下ろしてくれたはじめ君に、ふぅと息を吐く。
なんで僕があの子を庇わなきゃいけないのさ。逆でしょ、逆
「俺と山南さんは矢代達とは別行動をしていて、偶然に賊に居合わせた。そいつらとの斬り合いの最中にこいつが現れた……だから寧ろ、今より悪い状況を回避できたのは、賊の噂を聞いて機転を利かせて動いた、こいつと山崎のおかげだ」
そうして、ようやっと行われた土方さんの説明に、平助が納得しきれずに「――んだよ、それ…」と吐き捨てながらも腰を下ろした後、近藤さんは「矢代君」と声をかけた。
「君はできる限りのことをしてくれたんだな?」
……
近藤さんのそれは、すごく控え目な問い……というよりも、確認だった。
そしてそれは、既に起こった後の事実如何ではなく、今の彼女が仲間であるか…ただそれだけを確認しているのだと、僕は気付いた。
それに答えるのにも随分と時間が掛かったが、彼女が床に着いた手に、何かを耐えるように力を込めたのに、僕はその決心を見た。
わかった
「――ぅしわけ、ありません…力及ばず…」
「―――っ、ぃい加減にしろよ弥月!!知ってたのかって、俺達は聞きてえんだ!」
分かってしまった
彼女はその瞬間、間違いなく『仲間』だった
彼女が謝罪の言葉しか述べないのは、『できる限りのことをした』、『しようとした』けれど、取返しのつかない事態が起こったことを悔いていて……それを謝罪することしかできないのだと。
言い訳などする余地もなく、ただ悔いているのだと。それも、自分の死をもって償う覚悟で謝罪したいのだと。
実際にそれを『知っていた』か『知らなかった』かは、彼女にとって関係がないことだったのだ。
だから平助の問いには答えられなかった。
…なんて言うか、さぁ……
恐らく近藤さんも同じ答えに辿り着いたのだろう。怒気はないが、土方さんさながらに、眉間に深い皺を刻んでいた。
潔すぎだし、言葉足らずにも程があるでしょ…
いつもは五月蝿いほどに無駄に喋るくせに、どうして言い訳の一つもしないなんて……そういう決断になったのか。
左之さんに掴み上げられる彼の姿にホトホト呆れた。
「弥月君」
その声と同時に開けられた戸。
あ、はい。解決、解決
近藤さんがどうにかするかと思ったが、山南さんが現れるなら、彼のこの意固地なまでの潔さはなんとかなって万事解決だろう。
沖田は徳利に残っていた酒を、杯に注いで口に運んだ。
***
そして沖田の予想通り、そちらの問題は一旦は解決……というより、保留に向かったのだが、次の問題が既に生じていた。