姓は「矢代」で固定
第八話 届かない距離
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***
山南side
受傷してから十日が経ったが、痛みは少しも退くことなく、私を四六時中苛(さいな)む。蘭方医には鎮痛薬として阿芙蓉を勧められたが、警護に同行するためにその使用を避けたため、数日まともに眠ることすらできていなかった。
唯一の救いは、討幕派の動きが殆どなかったことですね
新選組の体裁のために無理を押して参加したが、有事の際に何もできなかったとあっては元も子もない。負傷した自分が同行したのは、賭けであった。
荷から処方された薬包を取り出す。
何かと世話を焼こうとする土方君や弥月君に、身の回りのことは自分ですると伝えて手伝いを断ったため、すごく時間はかかるものの、片手で何かすることは少しずつ慣れてきていた。
「これで眠れると良いのですが…」
ふと、人の気配がして、向かいの部屋の近藤局長ではない誰かがそこにいた。
「…お入りなさい」
わずかに躊躇うような間があったが、すぐに音も無く戸は開けられる。そして、予想通りの人物がそこに正座していた。
「…まだ言い足りませんか」
言いつけ通りに身綺麗にはしたようだが、先ほどと何ら変わらず陰気な空気を纏う彼女に、思わずそう言ってしまった。
決して責める気はなかったのだが、畏縮したような彼女の表情の変化を、山南は見逃さなかった。
「…それとも本当に知っていたのですか」
それには直ぐにブンブンと弥月は横に首を振る。どちらに対する答えも『否』なのだろう。
「貴女の卑屈な謝罪は聴き飽きましたが、それ以外に言いたい事があるなら伺いましょう」
すぐに言葉が出て来ないことから鑑みるに、恐らく謝罪以外無いのだろう。
それでも何か言わなければと焦った弥月が口を開くのを、山南は何も言わず待っていた。
「―――っ、ただ…ただただ、貴方を護れなかったことが申し訳なくて……大丈夫だろうって簡単に考えていて…」
ここ数日で何度同じような事を彼女は言ったか。
しかし、それを受け入れることも拒否することも無く、応えなかった自分が悪いとは分かっていた。
けれど、警護の任を完了するまで、彼女の憂慮を取り除くほどの余裕は、正直なところ私にもなかったのだ。
「…それは私にも言えることです。土方君と二人なら、大抵のことには対処できると鷹を括っていました。敵の中には実力者がいることがあるにも関わらず、そして敵に数で圧されることは至極ありえることだと知り得て尚…」
あの状況で、彼女が飛び込んできたことは、奇跡的だと私は思った。
そして、私の刀が折れたことは、最悪の不運だとしか言いようがない。それに動揺して、敵の斬撃を受けたことは、私の未熟さ故だ。
それなのに自責の念に追い詰められているのが、この人と土方君だった。
ただ…
「君に今回の件で一つ、お尋ねしたいことがありました」
訊くべきではないのだと分かっていたから、今まで訊かなかった。
「もし、貴女が今回のことを全て知っていたなら、事が起こる前に、私に伝えましたか?」
知っている事を……私たちの利になること、不利になることを……君は必ず話しますか
弥月が答えに詰まった一瞬の間に、山南は全てを察する。
「す」
「謝罪は結構」
突き放す言葉が口を突いて出た。
泣かせたい訳じゃない。優しく慰める言葉を、今の私は持たないから
「…貴女のその正直さを私は好いていますよ」
そして、今の私が優しい言葉をかけると、彼女は余計に自分を責める。
傷ついた私たちの間には、心の整理のための時間が必要だった。
「きちんと身形は整えなさい。治るまでの間、君には左腕の代わりをしてもらわなければいけないのですから」
山南は「分かりましたね?」と弥月に念を押して、戸を閉めるように命じる。
弥月は「はい」とだけ返事をして、すぐにその場を立ち去った。
***
山南side
受傷してから十日が経ったが、痛みは少しも退くことなく、私を四六時中苛(さいな)む。蘭方医には鎮痛薬として阿芙蓉を勧められたが、警護に同行するためにその使用を避けたため、数日まともに眠ることすらできていなかった。
唯一の救いは、討幕派の動きが殆どなかったことですね
新選組の体裁のために無理を押して参加したが、有事の際に何もできなかったとあっては元も子もない。負傷した自分が同行したのは、賭けであった。
荷から処方された薬包を取り出す。
何かと世話を焼こうとする土方君や弥月君に、身の回りのことは自分ですると伝えて手伝いを断ったため、すごく時間はかかるものの、片手で何かすることは少しずつ慣れてきていた。
「これで眠れると良いのですが…」
ふと、人の気配がして、向かいの部屋の近藤局長ではない誰かがそこにいた。
「…お入りなさい」
わずかに躊躇うような間があったが、すぐに音も無く戸は開けられる。そして、予想通りの人物がそこに正座していた。
「…まだ言い足りませんか」
言いつけ通りに身綺麗にはしたようだが、先ほどと何ら変わらず陰気な空気を纏う彼女に、思わずそう言ってしまった。
決して責める気はなかったのだが、畏縮したような彼女の表情の変化を、山南は見逃さなかった。
「…それとも本当に知っていたのですか」
それには直ぐにブンブンと弥月は横に首を振る。どちらに対する答えも『否』なのだろう。
「貴女の卑屈な謝罪は聴き飽きましたが、それ以外に言いたい事があるなら伺いましょう」
すぐに言葉が出て来ないことから鑑みるに、恐らく謝罪以外無いのだろう。
それでも何か言わなければと焦った弥月が口を開くのを、山南は何も言わず待っていた。
「―――っ、ただ…ただただ、貴方を護れなかったことが申し訳なくて……大丈夫だろうって簡単に考えていて…」
ここ数日で何度同じような事を彼女は言ったか。
しかし、それを受け入れることも拒否することも無く、応えなかった自分が悪いとは分かっていた。
けれど、警護の任を完了するまで、彼女の憂慮を取り除くほどの余裕は、正直なところ私にもなかったのだ。
「…それは私にも言えることです。土方君と二人なら、大抵のことには対処できると鷹を括っていました。敵の中には実力者がいることがあるにも関わらず、そして敵に数で圧されることは至極ありえることだと知り得て尚…」
あの状況で、彼女が飛び込んできたことは、奇跡的だと私は思った。
そして、私の刀が折れたことは、最悪の不運だとしか言いようがない。それに動揺して、敵の斬撃を受けたことは、私の未熟さ故だ。
それなのに自責の念に追い詰められているのが、この人と土方君だった。
ただ…
「君に今回の件で一つ、お尋ねしたいことがありました」
訊くべきではないのだと分かっていたから、今まで訊かなかった。
「もし、貴女が今回のことを全て知っていたなら、事が起こる前に、私に伝えましたか?」
知っている事を……私たちの利になること、不利になることを……君は必ず話しますか
弥月が答えに詰まった一瞬の間に、山南は全てを察する。
「す」
「謝罪は結構」
突き放す言葉が口を突いて出た。
泣かせたい訳じゃない。優しく慰める言葉を、今の私は持たないから
「…貴女のその正直さを私は好いていますよ」
そして、今の私が優しい言葉をかけると、彼女は余計に自分を責める。
傷ついた私たちの間には、心の整理のための時間が必要だった。
「きちんと身形は整えなさい。治るまでの間、君には左腕の代わりをしてもらわなければいけないのですから」
山南は「分かりましたね?」と弥月に念を押して、戸を閉めるように命じる。
弥月は「はい」とだけ返事をして、すぐにその場を立ち去った。
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