姓は「矢代」で固定
第八話 届かない距離
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***
山南side
大坂まで行こうと思えば、その日に着くこともできなくはないが、私たちの目的は行程の安全確認でもある。決してゆっくりと出来るわけではないが、急いで下坂する必要もない。
そういう訳で、弥月君に女装を命じ、自分も身分を偽って、ゆったりとした雰囲気で旅路を進んでいる。
「やー、外で食べるごはんって、なんでこんなに美味しいんでしょうね! 山南さんはおにぎりの具は何が好きですか?」
「私は塩むすびとお漬物が良いですねぇ」
出立一日目はまだ伏見辺りをうろうろとしていた。そして天気が良かったので、今朝屯所で握ったおむすびを、河原で二人並んで食べる。
「確かに塩もいいですね~お米の美味しさが引き立つ感じ! でも私は梅干しとおかかが一緒に入ってるのが1番かな~あとは、昆布と高菜漬けとか!」
「二つ一緒にですか?」
「はい! お得感あって好きなんですけど……お母さんが作ったおにぎりに梅干しと卵焼きといか天が同居してた時には、さすがに目を疑いましたね」
「それは凄いですね…」
そんな穏やかな行楽気分で一日目を過ごした。
そうして暗くなって今は夜。宿で彼女と夕餉を済ませたところである。
「それでは改めて今回の任務について簡単に説明しますが……まぁ、旅は続きますし、夜は長いですから、膝を崩して構いません」
「はーい」
…と言われて、私の前でその格好をできる人が、隊内にどれだけいるのでしょうね
きっと彼女は私が許可するまでもなく、十二分に寛ぐ気であったのだろう。弥月君は今まで尻に敷いていた座布団を枕に、食休みの姿勢になる。
「…やはり、少しの間だけ姿勢を正してもらっても良いでしょうか。どうにも話の緊張感に欠けます」
「はーい」
弥月君はいそいそと座布団を元に戻して、その上にちょこんと正座する。
なんといいますか、ねぇ…
先ほど“二人で一室”と決めたときにも感じた、なんとも言えない気持ちを再び感じるが、言及しても不毛なのは目に見えているので、敢えてそこに触れないことにする。
恐らく今後、数日間……彼女と一緒にいる間は、それに苛まれ続けるのだろう。
そういえば以前、山崎君が“風呂屋の中も尾行するか否か”を訊いてことがありましたが……きっと同じような気持だったのでしょうね
山南は一番長く一緒に行動している彼の苦労を偲びながら、一旦胸の内にそれをしまった。
「まず、今回の任務についてどれだけ聞いていますか?」
「えっと…将軍様が江戸から京都へ船で出てくるので、大坂港から京都まで護衛するってことくらいでしょうか…」
「概ねにはそうです。その行程をさらに細かく分けると三つ」
山南は指を三本立てて、指折りそれを示した。大坂港から大阪城の陸路、大坂城から伏見の淀川水路、伏見から二条城の陸路。
昨年の将軍上洛は陸路であったが、今回は家茂公より先んじた将軍後見職である一橋慶喜公も、水路で上京したことを鑑みるに、恐らく前回の帰東に並々ならぬ苦悩があったと推察される。
「たしかに水路の方が手は出しにくいですね」
「とは言え、どこで家茂公が狙われるかは分かりませんからね。できれば河川敷も含め、道程全域を警戒したいところですが、そこまですると経費もかさみますし現実的ではありません。 それに諸藩の力関係を保つために、警護人員は決まっています」
「へえ……参勤交代の大名行列みたいに、人手使ってぞろぞろ行きゃあ良いんだと思ってました」
「ぞろぞろは行きますけれど、一橋公が無駄を嫌うお方のようですから、幕府の権威を朝廷に示し、かつ手薄にはならない程度の護衛しか調整しなかったようですね」
「一橋公って誰ですか?」
「一橋慶喜。水戸徳川家の将軍後見職の方ですよ……どうかしましたか?」
一瞬、弥月は眉根を寄せて険しい表情をしたが、山南の問いに「いえ、続けて下さい」と答える。
「警護は薩摩や桑名以外にも様々な藩からも出動していますので、会津の面子を潰してはいけませんから、我々新選組としては半端な隊士は使えません。そして会津藩士には大坂の土地勘がある者は少ないですから、容保公は我々の中から大坂に詳しい精鋭を配備するよう令を出したのです」
「なるほどー……でもそれって、土地勘云々言ってますけど、本当は会津が出せる人員が少ないから体裁のために新選組も呼んだのか、新選組の実力を認めてか、どっちなんでしょうね」
…相変わらず、勘が良いというか
「…そこを詮索する必要はありませんよ。私たちはただ、幕府に名を売る絶好の機会を頂いたことを、公に感謝すれば良いのです」
「なるほどー…」
情勢というものをよく分かっていないと言うわりに、鋭いというか、嫌な所を突いてくる。
沖田君のように悪気があって言っているわけではなく、ただ現状把握を正確にしておきたいだけなんでしょう…
…その口を自主的に閉じるのが困難な分、より一層質が悪いですね…
政情や新選組の立場について、ずっと“我関せず”といった風な様子だった彼女も、監察に就くようになってから、それらに興味や理解を示すようになってきた。
元々それなりの思考力を持ってはいる人だから、基本的な知識不足を補填すれば概ね理解するし、このまま精進してくれるようならば、監察として今後の更なる活躍も期待できる。
ただ不思議なことは、情勢を理解するならば、彼女は決して攘夷派思想ではないと思われるのだ。
攘夷を否定しない上に、最初の頃から全く変わらず、『隊士として仕事をする』という姿勢を崩さない。
彼女ほどの自我、そして決断力があれば、そろそろ進言や離隊を希望してもおかしくはないのだが。
土方君に『弥月君の思考は単純』と言ったころが懐かしいですね…
あの頃の弥月君は、隊内で上手く立ち回るためだけの情報を取捨選択していた。隊士として仕事はするが、何をしていても傍観者のようだった。
けれど、幾度も泣きながらここに踏みとどまって、我々の期待を背負って、今は心をここに置いている。それが彼女の思考をどんどん複雑にさせているのは明らかだった。
「山南さん、説明おわりですか?」
「概要は以上ですね。あなたには監察として動いてもらいますが、我々の実動は実のところ会津から指示待ちになるので、その場にならないと分からないというのが大きいです。
なので、あとは日程の話と……それと先に少しお聞きしたいのですが、一橋慶喜公をご存じでしたか?」
「知らないですよ。知らないから誰なのか訊いたんじゃないですか」
それはもっともな答えなのだけれど、明らかに先ほどの表情は、何か思い当たる節があった顔であった。
…しかし、これは絶対言わない顔ですね
「それもそうですね。では、日程の話を…」
こういう時があるから、土方君や沖田君に信頼されないのだけれど。
頑として言わないと決めた……恐らく未来に関わっているのだろう……それを、吐かされるくらいなら自ら死にそうな人なので、深く訊かないことは幹部の暗黙の了解となっているのだった。
布団は弥月が率先して敷いたのだが、さも当然のように真横に並べられて、やはり山南は何とも言えない気持ちになった。
闇夜にぼんやりと見える、彼女の寝顔を見る。
…確かに、これは一見の価値ありですね
化粧をして大人っぽくなった彼女と丸一日顔を合わせていても、未だそう思う。粗雑な男達に交じって楽しそうにしている元気な姿とは、いつもの矢代弥月とはまるで別人だと。
しかし、彼女の剣士としての肢体と、その所作の鋭さは、普通の女性にはない、磨かれ洗練された美しさを感じさせるものであった。
それは本来、情報収集に徹するならば、目立つため良策ではなかったが、すれ違う男達が振り返るほどの雰囲気のある女性を連れて歩くのは、男として決して悪い気分ではない。
…とは言っても、彼女の本性はアレですから、なんとも残念な気持ちでもありますが
勿論、私はどちらの弥月君も好ましいと思っている。
今日一日ずっとニコニコしてはいたが、彼女が本当にすごく楽しい時に出す声や、ニカッと歯をむき出しにして笑う顔を、今日は一度も見ていない。ずっと『はんなり』としていて。
だからあの屈託ない感じが無いと、やはり弥月君ではないような気がして、物足りなささえ感じている。
沖田君は『ちゃんと見ていない』と言っていましたが、きっと見たところで、結局気付かなかったでしょうね
半月ほど前の騒ぎの後、事実確認をしに来た沖田とそのような会話をした事を思い出す。
いざという時、我々から解き放たれるための、あなたの“切り札”は本来取っとくべきなのですけれど…
弥月は自身が女性であることは“弱み”だと認識している。そして沖田と試合をする理由に“士道二背ク間敷事”を指摘されたと話したが……それは沖田一人の判定である。
その事実を逆手にとれば、除隊させることも可能となる。それが彼女の“切り札”なのだけれど……ただそれが“公然の事実”になった後では、通すことが困難な意見になるのだ。
…かと言って、変に庇うと土方君が不審に思うでしょうし……それならば先手を打って、女装が得意と称したほうが良いかと思ったんですが……予想外に出来が良すぎて、逆効果かもしれませんね…
…あとは、なんとか雪村君のそばには置けましたが、これ以上は黙っている以外、手の打ちようがありませんね……
それに、弥月君がその扱いを望まないだろう。
……
「…ほんとうに、手がかかる方ですね」
手のかかる子ほど可愛いとは、よく言ったものだ。
そんな彼女を愛おしく思っているのは、私だけではないのだろうけれど。
山南side
大坂まで行こうと思えば、その日に着くこともできなくはないが、私たちの目的は行程の安全確認でもある。決してゆっくりと出来るわけではないが、急いで下坂する必要もない。
そういう訳で、弥月君に女装を命じ、自分も身分を偽って、ゆったりとした雰囲気で旅路を進んでいる。
「やー、外で食べるごはんって、なんでこんなに美味しいんでしょうね! 山南さんはおにぎりの具は何が好きですか?」
「私は塩むすびとお漬物が良いですねぇ」
出立一日目はまだ伏見辺りをうろうろとしていた。そして天気が良かったので、今朝屯所で握ったおむすびを、河原で二人並んで食べる。
「確かに塩もいいですね~お米の美味しさが引き立つ感じ! でも私は梅干しとおかかが一緒に入ってるのが1番かな~あとは、昆布と高菜漬けとか!」
「二つ一緒にですか?」
「はい! お得感あって好きなんですけど……お母さんが作ったおにぎりに梅干しと卵焼きといか天が同居してた時には、さすがに目を疑いましたね」
「それは凄いですね…」
そんな穏やかな行楽気分で一日目を過ごした。
そうして暗くなって今は夜。宿で彼女と夕餉を済ませたところである。
「それでは改めて今回の任務について簡単に説明しますが……まぁ、旅は続きますし、夜は長いですから、膝を崩して構いません」
「はーい」
…と言われて、私の前でその格好をできる人が、隊内にどれだけいるのでしょうね
きっと彼女は私が許可するまでもなく、十二分に寛ぐ気であったのだろう。弥月君は今まで尻に敷いていた座布団を枕に、食休みの姿勢になる。
「…やはり、少しの間だけ姿勢を正してもらっても良いでしょうか。どうにも話の緊張感に欠けます」
「はーい」
弥月君はいそいそと座布団を元に戻して、その上にちょこんと正座する。
なんといいますか、ねぇ…
先ほど“二人で一室”と決めたときにも感じた、なんとも言えない気持ちを再び感じるが、言及しても不毛なのは目に見えているので、敢えてそこに触れないことにする。
恐らく今後、数日間……彼女と一緒にいる間は、それに苛まれ続けるのだろう。
そういえば以前、山崎君が“風呂屋の中も尾行するか否か”を訊いてことがありましたが……きっと同じような気持だったのでしょうね
山南は一番長く一緒に行動している彼の苦労を偲びながら、一旦胸の内にそれをしまった。
「まず、今回の任務についてどれだけ聞いていますか?」
「えっと…将軍様が江戸から京都へ船で出てくるので、大坂港から京都まで護衛するってことくらいでしょうか…」
「概ねにはそうです。その行程をさらに細かく分けると三つ」
山南は指を三本立てて、指折りそれを示した。大坂港から大阪城の陸路、大坂城から伏見の淀川水路、伏見から二条城の陸路。
昨年の将軍上洛は陸路であったが、今回は家茂公より先んじた将軍後見職である一橋慶喜公も、水路で上京したことを鑑みるに、恐らく前回の帰東に並々ならぬ苦悩があったと推察される。
「たしかに水路の方が手は出しにくいですね」
「とは言え、どこで家茂公が狙われるかは分かりませんからね。できれば河川敷も含め、道程全域を警戒したいところですが、そこまですると経費もかさみますし現実的ではありません。 それに諸藩の力関係を保つために、警護人員は決まっています」
「へえ……参勤交代の大名行列みたいに、人手使ってぞろぞろ行きゃあ良いんだと思ってました」
「ぞろぞろは行きますけれど、一橋公が無駄を嫌うお方のようですから、幕府の権威を朝廷に示し、かつ手薄にはならない程度の護衛しか調整しなかったようですね」
「一橋公って誰ですか?」
「一橋慶喜。水戸徳川家の将軍後見職の方ですよ……どうかしましたか?」
一瞬、弥月は眉根を寄せて険しい表情をしたが、山南の問いに「いえ、続けて下さい」と答える。
「警護は薩摩や桑名以外にも様々な藩からも出動していますので、会津の面子を潰してはいけませんから、我々新選組としては半端な隊士は使えません。そして会津藩士には大坂の土地勘がある者は少ないですから、容保公は我々の中から大坂に詳しい精鋭を配備するよう令を出したのです」
「なるほどー……でもそれって、土地勘云々言ってますけど、本当は会津が出せる人員が少ないから体裁のために新選組も呼んだのか、新選組の実力を認めてか、どっちなんでしょうね」
…相変わらず、勘が良いというか
「…そこを詮索する必要はありませんよ。私たちはただ、幕府に名を売る絶好の機会を頂いたことを、公に感謝すれば良いのです」
「なるほどー…」
情勢というものをよく分かっていないと言うわりに、鋭いというか、嫌な所を突いてくる。
沖田君のように悪気があって言っているわけではなく、ただ現状把握を正確にしておきたいだけなんでしょう…
…その口を自主的に閉じるのが困難な分、より一層質が悪いですね…
政情や新選組の立場について、ずっと“我関せず”といった風な様子だった彼女も、監察に就くようになってから、それらに興味や理解を示すようになってきた。
元々それなりの思考力を持ってはいる人だから、基本的な知識不足を補填すれば概ね理解するし、このまま精進してくれるようならば、監察として今後の更なる活躍も期待できる。
ただ不思議なことは、情勢を理解するならば、彼女は決して攘夷派思想ではないと思われるのだ。
攘夷を否定しない上に、最初の頃から全く変わらず、『隊士として仕事をする』という姿勢を崩さない。
彼女ほどの自我、そして決断力があれば、そろそろ進言や離隊を希望してもおかしくはないのだが。
土方君に『弥月君の思考は単純』と言ったころが懐かしいですね…
あの頃の弥月君は、隊内で上手く立ち回るためだけの情報を取捨選択していた。隊士として仕事はするが、何をしていても傍観者のようだった。
けれど、幾度も泣きながらここに踏みとどまって、我々の期待を背負って、今は心をここに置いている。それが彼女の思考をどんどん複雑にさせているのは明らかだった。
「山南さん、説明おわりですか?」
「概要は以上ですね。あなたには監察として動いてもらいますが、我々の実動は実のところ会津から指示待ちになるので、その場にならないと分からないというのが大きいです。
なので、あとは日程の話と……それと先に少しお聞きしたいのですが、一橋慶喜公をご存じでしたか?」
「知らないですよ。知らないから誰なのか訊いたんじゃないですか」
それはもっともな答えなのだけれど、明らかに先ほどの表情は、何か思い当たる節があった顔であった。
…しかし、これは絶対言わない顔ですね
「それもそうですね。では、日程の話を…」
こういう時があるから、土方君や沖田君に信頼されないのだけれど。
頑として言わないと決めた……恐らく未来に関わっているのだろう……それを、吐かされるくらいなら自ら死にそうな人なので、深く訊かないことは幹部の暗黙の了解となっているのだった。
布団は弥月が率先して敷いたのだが、さも当然のように真横に並べられて、やはり山南は何とも言えない気持ちになった。
闇夜にぼんやりと見える、彼女の寝顔を見る。
…確かに、これは一見の価値ありですね
化粧をして大人っぽくなった彼女と丸一日顔を合わせていても、未だそう思う。粗雑な男達に交じって楽しそうにしている元気な姿とは、いつもの矢代弥月とはまるで別人だと。
しかし、彼女の剣士としての肢体と、その所作の鋭さは、普通の女性にはない、磨かれ洗練された美しさを感じさせるものであった。
それは本来、情報収集に徹するならば、目立つため良策ではなかったが、すれ違う男達が振り返るほどの雰囲気のある女性を連れて歩くのは、男として決して悪い気分ではない。
…とは言っても、彼女の本性はアレですから、なんとも残念な気持ちでもありますが
勿論、私はどちらの弥月君も好ましいと思っている。
今日一日ずっとニコニコしてはいたが、彼女が本当にすごく楽しい時に出す声や、ニカッと歯をむき出しにして笑う顔を、今日は一度も見ていない。ずっと『はんなり』としていて。
だからあの屈託ない感じが無いと、やはり弥月君ではないような気がして、物足りなささえ感じている。
沖田君は『ちゃんと見ていない』と言っていましたが、きっと見たところで、結局気付かなかったでしょうね
半月ほど前の騒ぎの後、事実確認をしに来た沖田とそのような会話をした事を思い出す。
いざという時、我々から解き放たれるための、あなたの“切り札”は本来取っとくべきなのですけれど…
弥月は自身が女性であることは“弱み”だと認識している。そして沖田と試合をする理由に“士道二背ク間敷事”を指摘されたと話したが……それは沖田一人の判定である。
その事実を逆手にとれば、除隊させることも可能となる。それが彼女の“切り札”なのだけれど……ただそれが“公然の事実”になった後では、通すことが困難な意見になるのだ。
…かと言って、変に庇うと土方君が不審に思うでしょうし……それならば先手を打って、女装が得意と称したほうが良いかと思ったんですが……予想外に出来が良すぎて、逆効果かもしれませんね…
…あとは、なんとか雪村君のそばには置けましたが、これ以上は黙っている以外、手の打ちようがありませんね……
それに、弥月君がその扱いを望まないだろう。
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「…ほんとうに、手がかかる方ですね」
手のかかる子ほど可愛いとは、よく言ったものだ。
そんな彼女を愛おしく思っているのは、私だけではないのだろうけれど。