姓は「矢代」で固定
第七話 あなたの瞳に映るもの
混沌夢主用・名前のみ変更可能
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***
驚いたような容保公の表情。それが怒りに変わるか、呆れに変わるか。将又、私の自論に興味を示すか。
近藤さん達がいる前で、自分勝手に巻き込むようで申し訳なくはあるが。少なくとも、死んでいった彼らのために、私はここで命を張ることに躊躇いはなかった。
「――貴様っ、無礼にもほどがあ」
「よい、止めろ」
パシッと両手で扇を閉じた彼は、無表情に私を見ていた。
「ぬしの発言一つで、ぬしの身だけでなく、新選組の立場が悪くなるとは考えなんだか?」
「考えないわけないです。ですけど、近藤局長率いる新選組は手放すべき存在ではないと、公が少しだけ冷静になってお考えになれば、容易に分かることでしょうから。
ならば今、私一人が首を落とされる方に賭けたまでです」
「ふむ……儂がここで全員は殺さぬだろうという前提ありきの、危うい賭けだの。それでぬしは何を得るというのか?」
「何も。…ただ、末席とはいえ死んでいった臣下、殺した敵の名誉を蔑ろにする公には、ついていけない者がいるとお伝えしたい」
そんな上役、後ろから刺されて死ねばいい
「――っく、ははっ!」
公は笑う。
笑うところなんか無い筈だ。
怒りのままに、訝しむように眉根を寄せる。
容保公は皆に刀から手を放すよう指示をして、トンと扇を膝の横に立てた。
「近藤! ぬしは本当に配下に恵まれるようだ。上に助言をくれる者は貴重であるからな、大事にすると良い。土方といい、山南といい、ぬしの組下は頼れる男ばかりだ」
「恐れ入ります」
「そう怖い顔をするな、矢代弥月。美人が台無しだぞ」
「……」
「怒るな、悪かったと思っている。本当に失礼したな、矢代。近藤も沖田もすまなかった……冗談だ。」
「存じ上げております」
……は?
は?
容保公は……いや、近藤さんは何と言った? 冗談だと、存じ上げていた、だと…?
先ほどまでのねっとりとした話し方とはうって代わり、扇を放り出した容保公は、快活な口調で爽やかな笑みを見せた。
「今日は矢代が土方の代わりなのだろう? 近藤と共に並ぶぬしの気概が"本物"かどうか試したくてな。近藤にも一芝居うってもらったのよ。
物怖じせぬ性格と狡猾さでは土方に劣らぬが、あの男よりは忍耐と、ここが少し足りないようだ」
容保公はトントンと自分の頭を指差した。
「……」
「矢代、聞こえておるか?」
…駄目だ、状況についていけない……なんなんだ、この人
屯所内の隊士たちも個性が強い人ばかりだが、この人も大概だ。なんだこれ、江戸時代は日本中こんなんか。
「矢代、さっきまでの無表情が崩れているぞ。土方にも同じように小姓にならぬかと問いを立てたが、あれは儂が種明かししてすらも、終始シレッとした顔をしていた。
ぬしは『短気は損気』と、あれを見倣うべきではあるな」
「はぁ…」
土方さん、同じこと言われたんだ…
内心同じようにブチ切れていたのだろうが、そこは流石土方さんとしか言いようがない。ちょっと尊敬します。
…ってか、なんだ? じゃあ私は正義感振りかざしただけの、恥ずかしい奴ですか?
「して、それを少し触ってみたいのだが構わぬか?」
「それ?」
「その髪だ」
「…ああ、はい。構いません」
もう言う通りにします、偉い人
近づくために立ち上がろうとしたのだが、容保公が「動くと皆が不安がるからそこにいろ」と。確かに先ほどの件で、まだ気色ばんでる家臣が殆どて、私の動きはこの場の全員に注視されていた。
近藤さんもそわそわとこっちを見ていたけれど、大丈夫です。もう危ない事はしません。
「では、失礼して」
「あ…」
結い紐もとられて、パサリと肩に落ちてきた髪。ちょっと待て、これ誰が後で結ぶんだ。
さすが。遠慮ないなぁ、この人
「…思ったより、普通なのだな」
「そうですね、ただの髪です」
「ふむ」
パラパラ落としてみたり、クルクル回してみたり、指で鋤いてみたり。害はないのでされるがままになっておく。
横からジッと至近距離で見られているが、私は人形。さっき解脱した。
「……って!」
「おお、すまぬな。思わず」
頭皮に痛みが走ったので、見れば公が私の髪を一本摘まんでいて。
「いやいや、ワザとですよね!? 普通に痛いですから!」
「ははっ!そうか、すまない!」
こちとら痛い目にあって怒っているというのに。何が可笑しいのか、公は愉しそうに笑っている。
「容姿は抜きにしても、ぬしの臆面ない所が気に入っているのだが、本当に側仕えはせぬか?」
「……ご冗談を。家臣さん達が困ってますよ」
その提案は取りようによっちゃ魅力的ではあるが、公の顔には「面白いから」と書いてあった。365日、珍獣扱いされるのは御免だ。
「ははっ、またフラれてしまったわ」
そういうと弥月の髪を離して、彼は元いた座布団の上に座った。
「そうそう、そもそも今日の呼び立ては新選組の処遇の変更だったか。矢代のことも含めて、ぬしらの活躍は会津にも届いておるからな。教えてやれ」
容保公が家臣の一人へ指示をだすと、帳簿を開いた男が「新選組局長、大御番頭取。副長、大御番頭。副長助勤、大御番組。以下、大御番並とする」と述べた。
「はっ、ありがたき幸せ!」
近藤に倣ってまた深々と頭を下げるが、いまいち大御番がどの程度かよく分からないし、自分が役職にそこまで興味がないことに気付いた。
でも昇進ならお祝いしなきゃだよね~、給料増えるかなぁ…
考えることを放棄した弥月は、何の甘味を食べるかばかりに頭を巡らせていた。
***
驚いたような容保公の表情。それが怒りに変わるか、呆れに変わるか。将又、私の自論に興味を示すか。
近藤さん達がいる前で、自分勝手に巻き込むようで申し訳なくはあるが。少なくとも、死んでいった彼らのために、私はここで命を張ることに躊躇いはなかった。
「――貴様っ、無礼にもほどがあ」
「よい、止めろ」
パシッと両手で扇を閉じた彼は、無表情に私を見ていた。
「ぬしの発言一つで、ぬしの身だけでなく、新選組の立場が悪くなるとは考えなんだか?」
「考えないわけないです。ですけど、近藤局長率いる新選組は手放すべき存在ではないと、公が少しだけ冷静になってお考えになれば、容易に分かることでしょうから。
ならば今、私一人が首を落とされる方に賭けたまでです」
「ふむ……儂がここで全員は殺さぬだろうという前提ありきの、危うい賭けだの。それでぬしは何を得るというのか?」
「何も。…ただ、末席とはいえ死んでいった臣下、殺した敵の名誉を蔑ろにする公には、ついていけない者がいるとお伝えしたい」
そんな上役、後ろから刺されて死ねばいい
「――っく、ははっ!」
公は笑う。
笑うところなんか無い筈だ。
怒りのままに、訝しむように眉根を寄せる。
容保公は皆に刀から手を放すよう指示をして、トンと扇を膝の横に立てた。
「近藤! ぬしは本当に配下に恵まれるようだ。上に助言をくれる者は貴重であるからな、大事にすると良い。土方といい、山南といい、ぬしの組下は頼れる男ばかりだ」
「恐れ入ります」
「そう怖い顔をするな、矢代弥月。美人が台無しだぞ」
「……」
「怒るな、悪かったと思っている。本当に失礼したな、矢代。近藤も沖田もすまなかった……冗談だ。」
「存じ上げております」
……は?
は?
容保公は……いや、近藤さんは何と言った? 冗談だと、存じ上げていた、だと…?
先ほどまでのねっとりとした話し方とはうって代わり、扇を放り出した容保公は、快活な口調で爽やかな笑みを見せた。
「今日は矢代が土方の代わりなのだろう? 近藤と共に並ぶぬしの気概が"本物"かどうか試したくてな。近藤にも一芝居うってもらったのよ。
物怖じせぬ性格と狡猾さでは土方に劣らぬが、あの男よりは忍耐と、ここが少し足りないようだ」
容保公はトントンと自分の頭を指差した。
「……」
「矢代、聞こえておるか?」
…駄目だ、状況についていけない……なんなんだ、この人
屯所内の隊士たちも個性が強い人ばかりだが、この人も大概だ。なんだこれ、江戸時代は日本中こんなんか。
「矢代、さっきまでの無表情が崩れているぞ。土方にも同じように小姓にならぬかと問いを立てたが、あれは儂が種明かししてすらも、終始シレッとした顔をしていた。
ぬしは『短気は損気』と、あれを見倣うべきではあるな」
「はぁ…」
土方さん、同じこと言われたんだ…
内心同じようにブチ切れていたのだろうが、そこは流石土方さんとしか言いようがない。ちょっと尊敬します。
…ってか、なんだ? じゃあ私は正義感振りかざしただけの、恥ずかしい奴ですか?
「して、それを少し触ってみたいのだが構わぬか?」
「それ?」
「その髪だ」
「…ああ、はい。構いません」
もう言う通りにします、偉い人
近づくために立ち上がろうとしたのだが、容保公が「動くと皆が不安がるからそこにいろ」と。確かに先ほどの件で、まだ気色ばんでる家臣が殆どて、私の動きはこの場の全員に注視されていた。
近藤さんもそわそわとこっちを見ていたけれど、大丈夫です。もう危ない事はしません。
「では、失礼して」
「あ…」
結い紐もとられて、パサリと肩に落ちてきた髪。ちょっと待て、これ誰が後で結ぶんだ。
さすが。遠慮ないなぁ、この人
「…思ったより、普通なのだな」
「そうですね、ただの髪です」
「ふむ」
パラパラ落としてみたり、クルクル回してみたり、指で鋤いてみたり。害はないのでされるがままになっておく。
横からジッと至近距離で見られているが、私は人形。さっき解脱した。
「……って!」
「おお、すまぬな。思わず」
頭皮に痛みが走ったので、見れば公が私の髪を一本摘まんでいて。
「いやいや、ワザとですよね!? 普通に痛いですから!」
「ははっ!そうか、すまない!」
こちとら痛い目にあって怒っているというのに。何が可笑しいのか、公は愉しそうに笑っている。
「容姿は抜きにしても、ぬしの臆面ない所が気に入っているのだが、本当に側仕えはせぬか?」
「……ご冗談を。家臣さん達が困ってますよ」
その提案は取りようによっちゃ魅力的ではあるが、公の顔には「面白いから」と書いてあった。365日、珍獣扱いされるのは御免だ。
「ははっ、またフラれてしまったわ」
そういうと弥月の髪を離して、彼は元いた座布団の上に座った。
「そうそう、そもそも今日の呼び立ては新選組の処遇の変更だったか。矢代のことも含めて、ぬしらの活躍は会津にも届いておるからな。教えてやれ」
容保公が家臣の一人へ指示をだすと、帳簿を開いた男が「新選組局長、大御番頭取。副長、大御番頭。副長助勤、大御番組。以下、大御番並とする」と述べた。
「はっ、ありがたき幸せ!」
近藤に倣ってまた深々と頭を下げるが、いまいち大御番がどの程度かよく分からないし、自分が役職にそこまで興味がないことに気付いた。
でも昇進ならお祝いしなきゃだよね~、給料増えるかなぁ…
考えることを放棄した弥月は、何の甘味を食べるかばかりに頭を巡らせていた。
***