姓は「矢代」で固定
第六話 新たな出会い
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***
彼女の存在は間違いなく自分にとって、このむさ苦しい男所帯の目の保養として最高なのだが。
当面の問題は、
「彼女が慰みものにならないようにするには、私はいったいどうしたら良いのか」
私からすれば、まだ可愛さ10割で、色気のある歳でもなかったのだが。
この世界の結婚年齢を考えると、すごく守備範囲が広いと考えるのが妥当。30歳前の面々にだってロリコンとか、そういう発想はないのだろう。そうでなくとも彼女は普通に可愛いし、キープしたい優良物件だ。キャッチ&リリースなんて勿体ない。
それに元々男所帯のこんな集団だ。狩猟系男子が多いに決まっている。
もしくは可愛さプライスレスで、自分の女は自分で育てたい派の農耕系男子が、早々に目も手も付け始めるかもしれない。
最悪、みんなで回しちゃったり…
「あ゛あ゛ぁぁぁそんなの駄目!!女も犯されたいなんてのは男の妄想!!! イケメンだからって許されないこともあるぞごるあぁぁ!!!」
「…矢代」
「――っ斎藤さん!あの子どうなりました!?」
ギッと宙へ闘いを挑んだその矢先、聞こえた声に慌てて、障子を自ら勢いよく開け払うと。いつもにまして仏頂面な斎藤さんがいた。
「それに関して、副長があんたを呼んで来いとのことだ」
「私?」
「行けば分かる」
そう言うや否や、すぐに踵を返した彼の背を見ながら、「なんかやっぱ機嫌悪い?」と首を傾げてみるが。
なんとなく訊き返せなくて、じっと上目づかいに視線を送りながらも、無言のまま彼の後ろをトコトコと付いていくのだった。
「連れてきました」
「失礼します、矢代です」
斎藤が静かに障子を開けて入っていくのとは別に、弥月は部屋には入らず廊下の板間で正座する。視線は室内へ巡らすことなく、少し先の畳に据えた。
「え…」
小さな動揺の声が聞こえた。昨日いくらか聞き知った声だから、誰が「え」と言ったのか確認するまでもない。
クドいようだが、金髪の人が現れたら、江戸時代の日本人はまず驚くのだ。
「不本意だが、手の空いてるお前に頼みたいことができた」
「なんなりと」
土方さんの高圧的な物言いに、いつもより低めの声で抑揚なく応える。「御意」とか言ったら、平助あたりの失笑を取れたかもしれない。
そのいつもと違う弥月の様子に少し戸惑ったのか、土方はひとつ咳払いしてから続ける。
「…こいつの見張りを昼間はお前に任せる。夜間は幹部や監察方と交代だ」
「承知致しました」
そこでスッと顔を上げ、部屋の中央に視線を向けると。
恐らく私が現れてからずっとそうしているのだろう、ポカンと口を開けた驚き顔のままの雪村千鶴ちゃん。私がじっと彼女を見つめると、動揺してか彼女の大きな瞳は不安そうに揺れだす。
けれど、弥月が柔かな笑みを浮かべると、彼女はまた少し間の抜けたような気の緩んだ顔をした。
「矢代弥月と言います。よろしく」
土方は少し話があるからと、広間に弥月だけを残して、後は解散する。捕らわれの彼女は斎藤に連れられて、朝の部屋に戻された。
「矢代、さっきの態度はどういうつもりだ」
何か嫌なものでも見たかのように土方が言うのを、弥月は全く気にする様子なく、両の掌を広げて上へ向けて、何も意図はないと示しながら答える。
「どうもこうも、体裁とったらいけませんでした? 烝さんとか斎藤さんを見習ったから、めっちゃできる部下っぽかったでしょ? 自分でもカッケーって思いました」
「…悪かねぇ。だけどな、調子狂うから客人の時以外にはいらねぇよ。面倒くせぇから普通にしてろ」
「了解っす」
本当は彼女に、私がななしと同一人物だとバレないために、急遽考えた案だったのだが。まあ、あれだけ彼女の目の前で馬鹿騒ぎした後に取り繕ったって、いまいち効果があったのかは不明だ。
「それと、仕事の方もだがな。お前自分の立場分かってんのか? 安請け合いしたのは、自分には疑われる要素がないとでも言いてぇのか」
「んじゃあ、頼まないでください」
請けない方が良いなら、最初からあんなところに呼びたてるな。そして命じるな。
好都合だと思ったから請けたのもあるが、なにより命じられたから請けたのだ。大勢の幹部の前で命じられるのだから、半ば強制といっても過言ではないだろう。
それに自分から申し出たわけじゃないのだから、一々咎められる謂れは無い。
そう思い、半眼になって土方さんを見る。
一応、変だとは思った。
間者疑いの私を、おそらく同じ理由で捕えられている人物と、接触する機会の多い配置にするなんて。
…どうせ私と彼女を一纏めにしておいたら、監視もしやすいし、なにより私の尻尾が掴めるかもしれないとか思っただけなんだろうけどさ…
「そもそも、何であの子、監禁なんですか。納得のいく説明を所望します。可愛いからっすか、可愛いからですよね、気持ちは分かりますけど、誘拐も監禁も犯罪ですからね。これ日本の常識」
「うるせぇ。まだアレの処遇は真偽の最中だ」
「じゃあ彼女が何の罪で捕まってて、それが冤罪だと晴れるためには、何がどうなれば良いんですか。何の要素があれば、土方さんは納得できるんですか」
捲し立てるように言うと、ジロリと紫の瞳がこちらを向く。それを真正面から弥月は受け止めて、一歩も退く気はない意を示した。
「…やけにあの女の肩を持つじゃねぇか」
「だって彼女の罪状を知りませんもん。私には彼女が素直そうな良い子にしか見えないです。
それでも見張りはできますけどね……罪が重くなりそうな動きを見つけるのは簡単ですけど、その逆は私には全く想像がつきませんから」
「てめぇはあの女が逃げないように見張るだけで良い」
「嫌です」
土方の眉間の皺がさらに深くなり、醸し出す気が鋭くなったが、弥月は決して視線を逸らさなかった。
「経験者として、監禁される側の気持ちを無視する気はさらさらありません。
見張りをするならば、彼女の人としての権利を守るために、知る必要があると思いますれば。彼女の罪状を、冗談や好奇心ではなく、真面目にお伺いしているつもりです」
土方は苦々しい顔をして舌打ち交じりに、弥月から視線を逸らす。
自分が普通の平隊士よりも弥月の権利を蔑ろにしがちであることは、仕方ないと言いつつも、後暗くも感じていて。それを直接に本人から指摘されたようで、居心地の悪さがあった。
だが弥月は逃がさないとでも言うように、「少なくとも!」と声を張る。そして一呼吸を置いて、彼がこちらへ視線を戻したのを見た。
私たちの間の空気は張っていて、弥月は『伝わる』と確信して再び口を開く。
“副長”ではなく、“土方さん”に届くように
「私が監禁されているとき、みんなは私を一人の人間として扱ってくれました」
納戸に閉じ込められていた一ッ月の間、理不尽な状況に色々な思いはあったが、誰に怒りをぶつける気にもならなかったのは、彼らの優しさがあったからだ。
組織の方針として『監禁せざるを得ない』と、私を閉じ込めることを肯定したが、一人一人は『なんとかしてやりたい』と思ってくれていた。彼らと話す度に、彼らが部屋を去る度にいつも伝わってきた。
だから私は、状況を打開できる時がいつか訪れるだろうと、ぼんやりと感じていた。
そして一番に私を疑っていたはずの土方さんが、その時を運んでくれた。
心身ともに倒れかけた私に、彼が責任を背負って、手を差し伸べてくれた。
非道だけど、非情じゃない
「私はただの見張りです。ですが、報告すべき監視を行うためにも、彼女の罪状を教えて下さい」
私が何を見たのか、何を疑われているのか教えて下さい
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彼女の存在は間違いなく自分にとって、このむさ苦しい男所帯の目の保養として最高なのだが。
当面の問題は、
「彼女が慰みものにならないようにするには、私はいったいどうしたら良いのか」
私からすれば、まだ可愛さ10割で、色気のある歳でもなかったのだが。
この世界の結婚年齢を考えると、すごく守備範囲が広いと考えるのが妥当。30歳前の面々にだってロリコンとか、そういう発想はないのだろう。そうでなくとも彼女は普通に可愛いし、キープしたい優良物件だ。キャッチ&リリースなんて勿体ない。
それに元々男所帯のこんな集団だ。狩猟系男子が多いに決まっている。
もしくは可愛さプライスレスで、自分の女は自分で育てたい派の農耕系男子が、早々に目も手も付け始めるかもしれない。
最悪、みんなで回しちゃったり…
「あ゛あ゛ぁぁぁそんなの駄目!!女も犯されたいなんてのは男の妄想!!! イケメンだからって許されないこともあるぞごるあぁぁ!!!」
「…矢代」
「――っ斎藤さん!あの子どうなりました!?」
ギッと宙へ闘いを挑んだその矢先、聞こえた声に慌てて、障子を自ら勢いよく開け払うと。いつもにまして仏頂面な斎藤さんがいた。
「それに関して、副長があんたを呼んで来いとのことだ」
「私?」
「行けば分かる」
そう言うや否や、すぐに踵を返した彼の背を見ながら、「なんかやっぱ機嫌悪い?」と首を傾げてみるが。
なんとなく訊き返せなくて、じっと上目づかいに視線を送りながらも、無言のまま彼の後ろをトコトコと付いていくのだった。
「連れてきました」
「失礼します、矢代です」
斎藤が静かに障子を開けて入っていくのとは別に、弥月は部屋には入らず廊下の板間で正座する。視線は室内へ巡らすことなく、少し先の畳に据えた。
「え…」
小さな動揺の声が聞こえた。昨日いくらか聞き知った声だから、誰が「え」と言ったのか確認するまでもない。
クドいようだが、金髪の人が現れたら、江戸時代の日本人はまず驚くのだ。
「不本意だが、手の空いてるお前に頼みたいことができた」
「なんなりと」
土方さんの高圧的な物言いに、いつもより低めの声で抑揚なく応える。「御意」とか言ったら、平助あたりの失笑を取れたかもしれない。
そのいつもと違う弥月の様子に少し戸惑ったのか、土方はひとつ咳払いしてから続ける。
「…こいつの見張りを昼間はお前に任せる。夜間は幹部や監察方と交代だ」
「承知致しました」
そこでスッと顔を上げ、部屋の中央に視線を向けると。
恐らく私が現れてからずっとそうしているのだろう、ポカンと口を開けた驚き顔のままの雪村千鶴ちゃん。私がじっと彼女を見つめると、動揺してか彼女の大きな瞳は不安そうに揺れだす。
けれど、弥月が柔かな笑みを浮かべると、彼女はまた少し間の抜けたような気の緩んだ顔をした。
「矢代弥月と言います。よろしく」
土方は少し話があるからと、広間に弥月だけを残して、後は解散する。捕らわれの彼女は斎藤に連れられて、朝の部屋に戻された。
「矢代、さっきの態度はどういうつもりだ」
何か嫌なものでも見たかのように土方が言うのを、弥月は全く気にする様子なく、両の掌を広げて上へ向けて、何も意図はないと示しながら答える。
「どうもこうも、体裁とったらいけませんでした? 烝さんとか斎藤さんを見習ったから、めっちゃできる部下っぽかったでしょ? 自分でもカッケーって思いました」
「…悪かねぇ。だけどな、調子狂うから客人の時以外にはいらねぇよ。面倒くせぇから普通にしてろ」
「了解っす」
本当は彼女に、私がななしと同一人物だとバレないために、急遽考えた案だったのだが。まあ、あれだけ彼女の目の前で馬鹿騒ぎした後に取り繕ったって、いまいち効果があったのかは不明だ。
「それと、仕事の方もだがな。お前自分の立場分かってんのか? 安請け合いしたのは、自分には疑われる要素がないとでも言いてぇのか」
「んじゃあ、頼まないでください」
請けない方が良いなら、最初からあんなところに呼びたてるな。そして命じるな。
好都合だと思ったから請けたのもあるが、なにより命じられたから請けたのだ。大勢の幹部の前で命じられるのだから、半ば強制といっても過言ではないだろう。
それに自分から申し出たわけじゃないのだから、一々咎められる謂れは無い。
そう思い、半眼になって土方さんを見る。
一応、変だとは思った。
間者疑いの私を、おそらく同じ理由で捕えられている人物と、接触する機会の多い配置にするなんて。
…どうせ私と彼女を一纏めにしておいたら、監視もしやすいし、なにより私の尻尾が掴めるかもしれないとか思っただけなんだろうけどさ…
「そもそも、何であの子、監禁なんですか。納得のいく説明を所望します。可愛いからっすか、可愛いからですよね、気持ちは分かりますけど、誘拐も監禁も犯罪ですからね。これ日本の常識」
「うるせぇ。まだアレの処遇は真偽の最中だ」
「じゃあ彼女が何の罪で捕まってて、それが冤罪だと晴れるためには、何がどうなれば良いんですか。何の要素があれば、土方さんは納得できるんですか」
捲し立てるように言うと、ジロリと紫の瞳がこちらを向く。それを真正面から弥月は受け止めて、一歩も退く気はない意を示した。
「…やけにあの女の肩を持つじゃねぇか」
「だって彼女の罪状を知りませんもん。私には彼女が素直そうな良い子にしか見えないです。
それでも見張りはできますけどね……罪が重くなりそうな動きを見つけるのは簡単ですけど、その逆は私には全く想像がつきませんから」
「てめぇはあの女が逃げないように見張るだけで良い」
「嫌です」
土方の眉間の皺がさらに深くなり、醸し出す気が鋭くなったが、弥月は決して視線を逸らさなかった。
「経験者として、監禁される側の気持ちを無視する気はさらさらありません。
見張りをするならば、彼女の人としての権利を守るために、知る必要があると思いますれば。彼女の罪状を、冗談や好奇心ではなく、真面目にお伺いしているつもりです」
土方は苦々しい顔をして舌打ち交じりに、弥月から視線を逸らす。
自分が普通の平隊士よりも弥月の権利を蔑ろにしがちであることは、仕方ないと言いつつも、後暗くも感じていて。それを直接に本人から指摘されたようで、居心地の悪さがあった。
だが弥月は逃がさないとでも言うように、「少なくとも!」と声を張る。そして一呼吸を置いて、彼がこちらへ視線を戻したのを見た。
私たちの間の空気は張っていて、弥月は『伝わる』と確信して再び口を開く。
“副長”ではなく、“土方さん”に届くように
「私が監禁されているとき、みんなは私を一人の人間として扱ってくれました」
納戸に閉じ込められていた一ッ月の間、理不尽な状況に色々な思いはあったが、誰に怒りをぶつける気にもならなかったのは、彼らの優しさがあったからだ。
組織の方針として『監禁せざるを得ない』と、私を閉じ込めることを肯定したが、一人一人は『なんとかしてやりたい』と思ってくれていた。彼らと話す度に、彼らが部屋を去る度にいつも伝わってきた。
だから私は、状況を打開できる時がいつか訪れるだろうと、ぼんやりと感じていた。
そして一番に私を疑っていたはずの土方さんが、その時を運んでくれた。
心身ともに倒れかけた私に、彼が責任を背負って、手を差し伸べてくれた。
非道だけど、非情じゃない
「私はただの見張りです。ですが、報告すべき監視を行うためにも、彼女の罪状を教えて下さい」
私が何を見たのか、何を疑われているのか教えて下さい
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