姓は「矢代」で固定
第六話 新たな出会い
混沌夢主用・名前のみ変更可能
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***
「あれ? これ…?」
弥月が屯所に帰って来て、随分してから買った物なんかを片づけていると、読本の間から出てきた一枚の紙。
くしゃくしゃになった紙のしわをのばし、見事な達筆に目を凝らして、じっと文字を辿る。
「千鶴へ 元気に…して…いるか 京の都も…そろそろ冬を迎え…ようとしているよ」
……
サアッと血の気が引いた。
間違いなく、これは夕方に出会った雪村千鶴ちゃん宛の手紙。いつ私の手元に紛れ込んだのかと考えれば、当然、ぶつかって本を散らかしたのを集めた時だろうことは明白だった。
「…外出許可もらおう」
もう夜も更けているが、彼女がこれを探しに出かける、若しくはもう探しているかもしれない。今すぐ届けた方が良いだろう。
そう思って納戸から出て、山南さんの部屋へ足を向けたのだが。
そこへたどり着く前にスパンッとどこかの部屋の障子が開く音と、ドタドタと忙しなく廊下を走る複数人の足音が聞こえる。
…何?
足音ばかりで話し声がしないことが気になって、そちらの角から顔を覗かせると、そこでバッタリと鉢合わせたのは沖田さんだった。
目が合ったまま、三数える間があった。
「……お疲れ様でぇす」
かける言葉が思いつかなくて、とりあえず顎で会釈。
彼は無機質な眼というか、冷めた眼というか…をしていたのだが、それでもどこか楽しそうな様子をしていて。また無視されるだろうという予想に反して、そのまま私をじっと見る。
「また聞き耳?」
「いーえ、今来たところ。騒がしいですけど、何かありました?」
「うん、あったね。聞きたい?」
「いや、遠慮しときます。丁重にお断りします」
フルフルと小刻みに首を振って、弥月は拒否する。
見下げる視線とともに「なんだ、つまらない」とか言われたけど、間違いなく正解の答えだったと思う。絶対、何か面倒なことに巻き込まされそうな瞬間だった。
「ま、君がこんな時間になんでウロウロしてるかは知らないけど、もし今晩外に出たら殺しちゃうからね」
「…どういう事ですか」
「そのままの意味だよ。君が一番に」
「沖田君、無駄口を叩いている暇はありませんよ」
音もなく、彼の背後の闇から現れたのは、隊服を身に纏った山南さんだった。
「斎藤君の方は仕度ができて、君を待っています」
沖田は肩をすくめて「はいはい」と返事をしてから、視線だけを僅かに弥月へ残しながら、フッと笑って立ち去る。
その意味深な微笑みに弥月は訝しむも、「弥月君」と呼ばれて、山南の方へと向き直った。
「あなたはこんな時間に何をしているのですか」
「あ…っと、今日出かけた時に、落とし物を間違って拾ってしまってたので、今から届けようかと思ったんですけど……山南さん、大丈夫ですか?」
彼が厳しい表情をしているから、委縮しそうになってしまう。
だがふと気づいて、トトトッと駆け寄って、少し下から窺うように近くで彼を見た。表情に陰があるせいとは別に、薄闇にもわかるほどに顔色が悪い。
「…何ともありませんよ。弥月君、今晩は部屋で大人しくしておいでなさい」
山南はニコリと笑ってみせたのだが、それはいつもの弥月に有無を言わさぬ強いものではなく、消せない不安の影を残していた。
普段は無い揺れる山南の瞳に連鎖されるように、弥月は不安を煽られる。
「何か……私に手伝えることはありませんか…?」
弥月のその言葉に、山南はわずかに瞠目したのだが、少し迷った風な動きをした後に、困ったように顔を歪める。そして口の端をあげて、ポンと彼女の頭の上に手を置いた。
「大丈夫です。少し騒がしいかもしれませんが、貴女は何もしないのが最善です。…もしもの時に、身の危険だけには気を付けなさい」
方向的に自室でないとすれば、おそらく蔵へ向かうのであろう山南の背を見送ってから、弥月はふぅと息を一つ吐いた。
「…ご機嫌な沖田さんと、何か困ったっぽい山南さん…か」
沖田さんは殺気はムンムンなのに、超ゴキゲンだった。
だからか、じっと見られている時の、背をぞわぞわと這い上がる気持ち悪さが半端じゃなくて……きっと今から誰かを殺りに行くのだろうと想像がつく。
そして、こんな時間に羽織を着ていた山南さん。
さっきの足音の数と、斎藤さんが仕度済みという話から、幹部総出で何か事に当たるのだろう。
それは間違いなく、芹沢さんを暗殺した時のような計画的なものではなく、緊急事態。
「…従った方が得策か」
弥月は広間の方へ少しだけ鋭い視線をやって、前髪をかき上げる。
まさか彼女もこんな時間に、失くした手紙を探しに出てはいないだろう、と。
***
「あれ? これ…?」
弥月が屯所に帰って来て、随分してから買った物なんかを片づけていると、読本の間から出てきた一枚の紙。
くしゃくしゃになった紙のしわをのばし、見事な達筆に目を凝らして、じっと文字を辿る。
「千鶴へ 元気に…して…いるか 京の都も…そろそろ冬を迎え…ようとしているよ」
……
サアッと血の気が引いた。
間違いなく、これは夕方に出会った雪村千鶴ちゃん宛の手紙。いつ私の手元に紛れ込んだのかと考えれば、当然、ぶつかって本を散らかしたのを集めた時だろうことは明白だった。
「…外出許可もらおう」
もう夜も更けているが、彼女がこれを探しに出かける、若しくはもう探しているかもしれない。今すぐ届けた方が良いだろう。
そう思って納戸から出て、山南さんの部屋へ足を向けたのだが。
そこへたどり着く前にスパンッとどこかの部屋の障子が開く音と、ドタドタと忙しなく廊下を走る複数人の足音が聞こえる。
…何?
足音ばかりで話し声がしないことが気になって、そちらの角から顔を覗かせると、そこでバッタリと鉢合わせたのは沖田さんだった。
目が合ったまま、三数える間があった。
「……お疲れ様でぇす」
かける言葉が思いつかなくて、とりあえず顎で会釈。
彼は無機質な眼というか、冷めた眼というか…をしていたのだが、それでもどこか楽しそうな様子をしていて。また無視されるだろうという予想に反して、そのまま私をじっと見る。
「また聞き耳?」
「いーえ、今来たところ。騒がしいですけど、何かありました?」
「うん、あったね。聞きたい?」
「いや、遠慮しときます。丁重にお断りします」
フルフルと小刻みに首を振って、弥月は拒否する。
見下げる視線とともに「なんだ、つまらない」とか言われたけど、間違いなく正解の答えだったと思う。絶対、何か面倒なことに巻き込まされそうな瞬間だった。
「ま、君がこんな時間になんでウロウロしてるかは知らないけど、もし今晩外に出たら殺しちゃうからね」
「…どういう事ですか」
「そのままの意味だよ。君が一番に」
「沖田君、無駄口を叩いている暇はありませんよ」
音もなく、彼の背後の闇から現れたのは、隊服を身に纏った山南さんだった。
「斎藤君の方は仕度ができて、君を待っています」
沖田は肩をすくめて「はいはい」と返事をしてから、視線だけを僅かに弥月へ残しながら、フッと笑って立ち去る。
その意味深な微笑みに弥月は訝しむも、「弥月君」と呼ばれて、山南の方へと向き直った。
「あなたはこんな時間に何をしているのですか」
「あ…っと、今日出かけた時に、落とし物を間違って拾ってしまってたので、今から届けようかと思ったんですけど……山南さん、大丈夫ですか?」
彼が厳しい表情をしているから、委縮しそうになってしまう。
だがふと気づいて、トトトッと駆け寄って、少し下から窺うように近くで彼を見た。表情に陰があるせいとは別に、薄闇にもわかるほどに顔色が悪い。
「…何ともありませんよ。弥月君、今晩は部屋で大人しくしておいでなさい」
山南はニコリと笑ってみせたのだが、それはいつもの弥月に有無を言わさぬ強いものではなく、消せない不安の影を残していた。
普段は無い揺れる山南の瞳に連鎖されるように、弥月は不安を煽られる。
「何か……私に手伝えることはありませんか…?」
弥月のその言葉に、山南はわずかに瞠目したのだが、少し迷った風な動きをした後に、困ったように顔を歪める。そして口の端をあげて、ポンと彼女の頭の上に手を置いた。
「大丈夫です。少し騒がしいかもしれませんが、貴女は何もしないのが最善です。…もしもの時に、身の危険だけには気を付けなさい」
方向的に自室でないとすれば、おそらく蔵へ向かうのであろう山南の背を見送ってから、弥月はふぅと息を一つ吐いた。
「…ご機嫌な沖田さんと、何か困ったっぽい山南さん…か」
沖田さんは殺気はムンムンなのに、超ゴキゲンだった。
だからか、じっと見られている時の、背をぞわぞわと這い上がる気持ち悪さが半端じゃなくて……きっと今から誰かを殺りに行くのだろうと想像がつく。
そして、こんな時間に羽織を着ていた山南さん。
さっきの足音の数と、斎藤さんが仕度済みという話から、幹部総出で何か事に当たるのだろう。
それは間違いなく、芹沢さんを暗殺した時のような計画的なものではなく、緊急事態。
「…従った方が得策か」
弥月は広間の方へ少しだけ鋭い視線をやって、前髪をかき上げる。
まさか彼女もこんな時間に、失くした手紙を探しに出てはいないだろう、と。
***