姓は「矢代」で固定
第六話 新たな出会い
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文久三年十二月十六日
沖田さんとの試合の後、案の定、過集中でオーバーワークした私は倒れていたのだが。大人しくしていれば大体半日くらいで復活するのも、無茶した時のいつものことだ。なぜか月の物は来ないが。
だから、今日はもう何事もなかったかのように、朝から稽古に参加していた。
何事もなかったかの様なのは私だけでは無くて……問題の彼と半日ぶりに会ったわけだが、特に何か変わった反応を得られることはなかった。チラリと視線を交わして、それだけ。
いつも通りっちゃ、いつも通りで、それはそれで良かったのだが……なんとなく溜息を吐きたくなる。
コミュニケーション力低すぎない?
自分も『好き勝手』という点では大概だとは思うが、流石にあれだけの騒ぎを起こした後に、挨拶の一つも無しとは。ひねくれ者で負けず嫌いな彼らしいといえば、らしいのだが…
…男同士の喧嘩ってのは、もっとこう……J〇MP的さわやかさが必要じゃない? 握手して検討称えあうとか……想像できないけど
まあ、約束は守ってくれているし、目が合った時に嫌な顔をされたりはしなかったから、また後で声をかけようと決めておく。
そうして、監察方業務に入る前の頃と同じように、弥月は原田隊の稽古に参加していた。
何はともあれ、一件落着
「矢代、ちょっと来い」
背に聞いたその声に、ボソリと「うわ」と呟く。やっぱり来ました、生活指導。鬼の土方副長、お説教の時間。
土方の部屋に座した弥月が、ぽかんとした表情で、書き物を続ける彼を見ること十数える間。
今、墨買ってこいって言った…よね?
この部屋に入った時に気付いたことには、また机の配置が変わっていたから、土方さんは凝り性なのだろうかとか、私が無防備な背中を指摘したからだろうかとか……向かい合ったまま色々考えていた。
もちろん、これからクドクドと続くであろう説教を、適度に聞き流すために。
けれど意外にも彼から言われたことは、『総長補佐』の仕事らしい、墨を買ってくるという『おつかい』。それが私の聞き間違いでなければ、本気なのだろうかと繰り返し疑うが。
個数やら店の指定やら、おつかいに関すること以外を何も言われないともなれば、じわじわと込み上げてきた期待に、胸が高鳴る。
「私が一人でですか?」
「そうだ」
「じゃあ、それは私が一人で、外をプラプラしても良いってことですよね」
「…墨買って来いつったんだ。てめえの単独での外出は、命じた時のみ許可する」
土方さんは「上への書状用に、安くない墨を買って来い」なんて指示を出すけれども、もはやそれどころではない。
理由はあまりよく分からないが、とりあえず外出許可が出た。誰にも遠慮せずに、任務以外で外に行ける。
頬が独りでにつり上がる。弥月は眼をきゅっと瞑り、歓喜にうちふるえた。この日が来るのをずっと、ずっと待っていた。溢れたす喜びを抑えられない。
弥月はグッと両拳を握り、スゥと息を吸う。
彼女の正面にいた土方は、ギョッとした顔で咄嗟に耳を塞ごうとするが、右手に筆を持っていたため右耳を塞ぎそこねて顔を顰めた。
「―――やったあぁぁぁ!!!」
―――この時、屯所中の隊士が空を見上げていた――――
ずいずいっと土方に近寄った弥月は、キラキラした笑顔を彼に向ける。すると、最高に迷惑そうな顔をされたが気にしない。
「え、え、え!? ホンマにほんまにエエんですか!? しかもその墨買ってくるお遣いも全然急ぎやないって事で、ついでにちょっとくらいなら、その辺フラフラしとっても多少は構わんって事ですよね!? うっそ、やったらちょっとそこまで走って行ってきまゥゲッホゴホッゴホッ!」
「…むせるか」
土方は耳から手を離して、咳き込む彼に呆れ顔を向ける。
「確認しておくが、外出許可は俺か近藤さん、山南さんが許可した時のみだ。
それから、てめぇは無駄に目立つ。くれぐれも新選組の名を汚すようなことはするなよ」
「おーけーおーけー! 任せてください!!
もはやその墨汁くれたら、今すぐ完璧に変装して、誰にもバレずに出かけますとも!」
「…烏賊墨なんぞ塗ったら臭いだろ」
「いえっさー、もちろん分かってますよ! 一回ケッチって試してみましたからね! なので今日はこのまま出かけます、しーゆーあげん!!」
「…待て、やっぱり誰か連れていけ」
スックと立ち上がった弥月に不安を感じて、土方は思わずそう言うが、
「やっだなぁ! 男も武士も、二言無し、待った無しに決まってるじゃないですか!!」
すでに廊下に出でて、障子から首だけを出してそう言った弥月は、それすらも言い終わらぬ内に、障子も閉めきらずにバタバタと走っていった。
「……早まったか」
そう独り言ちた土方のことなど、知っていたとしても知らぬふりをした弥月だろうが。意外にもバタバタと鳴らされる大きな足音は、すぐこちらへ戻ってきた。
「土方さん、お金は!? お駄賃つけてね!」
「…河合にいくらか声かけていけ」
***