姓は「矢代」で固定
第五話 正しさの証明
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***
弥月side
うおおぉぉぉ、死ぬかと思ったあぁぁぁ! ありがとう丞さん!!!
裾が捲れてるどうだのと気にすることもなく、人通りの少なそうな道を全力で駆けながら、弥月は内心叫び声をあげていた。
そして、逃げ切れた安堵感からか、変な形に緩んだ頬がなかなか元に戻らず、黒布の下でへらへらと笑っていた。その女が走りゆく光景は、さながら気狂いのようでもある。
やっばい、マジで笑う。人間、がちでヤバいときは笑えるんだ
“もしものための脱走セット”が、こんなに早く役に立つとは思わなかった。
恐らく、沖田さんにななしが誰だったかは気付かれていない。烝さん曰く『一般人』らしいが......なんだ『一般人』て。それ以外は何。
様子を見に来てくれた烝さんに、腰を抜かしてしまっていた妊婦の彼女を勢い託すことになってしまった。しかし、彼女は沖田さんに『不審者』認定されたらしいななしと関わってしまっている。烝さんと、魁さんが現場にいるとはいえ、ちょっとばかり心配だ。
「…ちょっくら適当に着替えて戻りますか」
弥月として彼女に会う訳にはいかないが、最悪の場合には止めに入る必要がある。
それと、監察方としての仕事......事後処理が残っている。捕縛者は隊士達が自ら引きずって帰ってくれるから、主に死体発生時の片づけだ。
ここ数日で顔見知りになった店に預けていた風呂敷を返してもらい、人がいない建物の陰で黒衣に着替える。そして髪の毛を手ぬぐいをぐるぐる巻きにして隠し、ついでに口元まで布を巻きつけて、完全防御使用。これはこれで昼間だと逆に目立つが、中身が見えないのだから恥じることはない。
脱いだ着物をまとめて背負って、弥月は再び現場へ戻るべく駆けだした。
「…にしても…」
なんて勘の良い男なんだ、沖田総司。そんな無意識に私を狙えるくらい、私に恨みがあるのか。
「……ん、恨み?」
よくよく考えてみれば、あの人は私に恨みがあるのか。
恨み…? え、あれ……んー? そもそもいつから嫌われてた?
お互い常に険悪な雰囲気ではあるけれど、特に恨みといった恨みはない。たぶん。……まあ、漬物石の重さも、締め上げられた縄の痛みも、絶対に忘れないけども。
弥月は四ッ月前から順に思い出そうと試みる。
たしか、広間で最初に声をかけてきたのが、沖田さんで……なんか腹立つこと言われたから、言い返して……で、なんか『殺せばいい』的な事とか言われて、ありえねーって思ったんだよね…
あのとき、私を殺すか、殺さないかの二択で、真っ先に『殺す』に傾いていた彼を、「敵だ」と私は認識した。それは間違いないし、今も続いていると思われる。
んー……あと、自分の思い通りにならないなら「斬る」って脅すとこ、心底嫌いだと思ったんだよね……いや、今でもその考え方、有り得ないけど。あの人ないわー
「ん…? でも私、何か嫌われるようなことしたっけ?」
最初の詮議の時はしおらしくしていたし、大人しく監禁生活も送っていたと思うのだが。これといって問題が発生したのは、初めて文武館へ行ったときからのような…
いや、まあ、こんな感じで心当たりがないほど、他人の気持ちに無頓着すぎるし、『存在が嫌い』って言われたら、どうしようもないと言いますか……もはや、それはそれですいませんって感じなんだけども。
弥月は走りながら、腕を組んで首を捻る。
…ってことは、私からつっけんどんにしてたから、駄目だったのか? ……いやいや、どう考えても非人道的な事ばっかり言う、彼の方が悪いでしょ
だけれど、「沖田さんは録なことをしない」と思って、顔を見るだけで警戒心丸出しなのはこちらも同じ。それが彼を不快にさせているのかもしれない。
…うん。警戒心は要るけど、こっちがピリピリしてたら、そりゃ向こうもピリピリするよね
彼はその鋭敏さで、私の不穏な動きを感じとっているのだろう。そして、いつ私が新選組に仇をなすのかと、その瞬間を見逃さないように、私に牽制することを欠かさない。
“仲間のフリ”をしているであろう矢代弥月に、自分だけは騙されないと、ハッキリと敵視していた。
「別に、新選組をどうにかしようとかは思ってないんだけどなー…」
そこだけは勘違いされている気がする。場合によっては逃げる気満々ではあるけれども、あくまで自分は間者ではないのだ。新選組を害するつもりはない。
「うーん…」
人に嫌われるというのは、仕方ない時もあるけれど、あまり好い気持ちはしない。
出会ってからずっとこんな感じで、今更な気もするが……彼との距離の取り方が分からない。このままで良いのだろうか。
…
……
「……ま、なるようにしか成らないか」
彼が仲間だと認めない限り、この関係はどうにもならない気がするし、どうにも相性が悪いとしか思えない。ついでに言うなら、下手に動いて、私から『喧嘩を売った』なんて状況にしたくはない。
うどん屋の近くまで戻ると、隊列が来る前と変わらず、建物の陰に潜んでいた島田を見つけて、弥月は後ろから近づく。
人の気配に気づいたらしい島田がバッと振り返った時に、いつもは見せないような厳しい表情をしていて、弥月は怯んだ。
島田さんが私を見て訝しげな顔をしたから、私もたたらを踏みながら頭に疑問符を浮かべた。けれど、その理由にすぐに気付いて、慌てて襟巻をはずし、顔を露わにする。
「矢代です、戻りました!」
「弥月君でしたか、ご無事で! 山崎君が沖田さんを追ったのに、君だけ帰って来ないので、いったいどうなったかと…」
「私の方は問題なくです。その、彼女は…?」
「大丈夫です、山崎君が付いてます」
島田が大きく一つ頷いたため、ほっと弥月は胸を撫で下ろした。
「こっちの状況の方は?」
「抵抗の方もそれほどではなく、斬り込みはほぼ終わりですね。中から逃げた者はいません。あとは副長から帰還の宣言があれば、予定通り我々は事後処理の方へ」
「了解です」
あんまり死体無かったらいいなー…なんて、初めてのあまり綺麗じゃない仕事に、いささか嫌悪感を抱きつつも。
斬り殺す方とどっちが良いかなんて、考えても仕方のないことをわずかに頭の片隅で思いながら、弥月は土方の帰還宣言を聞いていた。
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弥月side
うおおぉぉぉ、死ぬかと思ったあぁぁぁ! ありがとう丞さん!!!
裾が捲れてるどうだのと気にすることもなく、人通りの少なそうな道を全力で駆けながら、弥月は内心叫び声をあげていた。
そして、逃げ切れた安堵感からか、変な形に緩んだ頬がなかなか元に戻らず、黒布の下でへらへらと笑っていた。その女が走りゆく光景は、さながら気狂いのようでもある。
やっばい、マジで笑う。人間、がちでヤバいときは笑えるんだ
“もしものための脱走セット”が、こんなに早く役に立つとは思わなかった。
恐らく、沖田さんにななしが誰だったかは気付かれていない。烝さん曰く『一般人』らしいが......なんだ『一般人』て。それ以外は何。
様子を見に来てくれた烝さんに、腰を抜かしてしまっていた妊婦の彼女を勢い託すことになってしまった。しかし、彼女は沖田さんに『不審者』認定されたらしいななしと関わってしまっている。烝さんと、魁さんが現場にいるとはいえ、ちょっとばかり心配だ。
「…ちょっくら適当に着替えて戻りますか」
弥月として彼女に会う訳にはいかないが、最悪の場合には止めに入る必要がある。
それと、監察方としての仕事......事後処理が残っている。捕縛者は隊士達が自ら引きずって帰ってくれるから、主に死体発生時の片づけだ。
ここ数日で顔見知りになった店に預けていた風呂敷を返してもらい、人がいない建物の陰で黒衣に着替える。そして髪の毛を手ぬぐいをぐるぐる巻きにして隠し、ついでに口元まで布を巻きつけて、完全防御使用。これはこれで昼間だと逆に目立つが、中身が見えないのだから恥じることはない。
脱いだ着物をまとめて背負って、弥月は再び現場へ戻るべく駆けだした。
「…にしても…」
なんて勘の良い男なんだ、沖田総司。そんな無意識に私を狙えるくらい、私に恨みがあるのか。
「……ん、恨み?」
よくよく考えてみれば、あの人は私に恨みがあるのか。
恨み…? え、あれ……んー? そもそもいつから嫌われてた?
お互い常に険悪な雰囲気ではあるけれど、特に恨みといった恨みはない。たぶん。……まあ、漬物石の重さも、締め上げられた縄の痛みも、絶対に忘れないけども。
弥月は四ッ月前から順に思い出そうと試みる。
たしか、広間で最初に声をかけてきたのが、沖田さんで……なんか腹立つこと言われたから、言い返して……で、なんか『殺せばいい』的な事とか言われて、ありえねーって思ったんだよね…
あのとき、私を殺すか、殺さないかの二択で、真っ先に『殺す』に傾いていた彼を、「敵だ」と私は認識した。それは間違いないし、今も続いていると思われる。
んー……あと、自分の思い通りにならないなら「斬る」って脅すとこ、心底嫌いだと思ったんだよね……いや、今でもその考え方、有り得ないけど。あの人ないわー
「ん…? でも私、何か嫌われるようなことしたっけ?」
最初の詮議の時はしおらしくしていたし、大人しく監禁生活も送っていたと思うのだが。これといって問題が発生したのは、初めて文武館へ行ったときからのような…
いや、まあ、こんな感じで心当たりがないほど、他人の気持ちに無頓着すぎるし、『存在が嫌い』って言われたら、どうしようもないと言いますか……もはや、それはそれですいませんって感じなんだけども。
弥月は走りながら、腕を組んで首を捻る。
…ってことは、私からつっけんどんにしてたから、駄目だったのか? ……いやいや、どう考えても非人道的な事ばっかり言う、彼の方が悪いでしょ
だけれど、「沖田さんは録なことをしない」と思って、顔を見るだけで警戒心丸出しなのはこちらも同じ。それが彼を不快にさせているのかもしれない。
…うん。警戒心は要るけど、こっちがピリピリしてたら、そりゃ向こうもピリピリするよね
彼はその鋭敏さで、私の不穏な動きを感じとっているのだろう。そして、いつ私が新選組に仇をなすのかと、その瞬間を見逃さないように、私に牽制することを欠かさない。
“仲間のフリ”をしているであろう矢代弥月に、自分だけは騙されないと、ハッキリと敵視していた。
「別に、新選組をどうにかしようとかは思ってないんだけどなー…」
そこだけは勘違いされている気がする。場合によっては逃げる気満々ではあるけれども、あくまで自分は間者ではないのだ。新選組を害するつもりはない。
「うーん…」
人に嫌われるというのは、仕方ない時もあるけれど、あまり好い気持ちはしない。
出会ってからずっとこんな感じで、今更な気もするが……彼との距離の取り方が分からない。このままで良いのだろうか。
…
……
「……ま、なるようにしか成らないか」
彼が仲間だと認めない限り、この関係はどうにもならない気がするし、どうにも相性が悪いとしか思えない。ついでに言うなら、下手に動いて、私から『喧嘩を売った』なんて状況にしたくはない。
うどん屋の近くまで戻ると、隊列が来る前と変わらず、建物の陰に潜んでいた島田を見つけて、弥月は後ろから近づく。
人の気配に気づいたらしい島田がバッと振り返った時に、いつもは見せないような厳しい表情をしていて、弥月は怯んだ。
島田さんが私を見て訝しげな顔をしたから、私もたたらを踏みながら頭に疑問符を浮かべた。けれど、その理由にすぐに気付いて、慌てて襟巻をはずし、顔を露わにする。
「矢代です、戻りました!」
「弥月君でしたか、ご無事で! 山崎君が沖田さんを追ったのに、君だけ帰って来ないので、いったいどうなったかと…」
「私の方は問題なくです。その、彼女は…?」
「大丈夫です、山崎君が付いてます」
島田が大きく一つ頷いたため、ほっと弥月は胸を撫で下ろした。
「こっちの状況の方は?」
「抵抗の方もそれほどではなく、斬り込みはほぼ終わりですね。中から逃げた者はいません。あとは副長から帰還の宣言があれば、予定通り我々は事後処理の方へ」
「了解です」
あんまり死体無かったらいいなー…なんて、初めてのあまり綺麗じゃない仕事に、いささか嫌悪感を抱きつつも。
斬り殺す方とどっちが良いかなんて、考えても仕方のないことをわずかに頭の片隅で思いながら、弥月は土方の帰還宣言を聞いていた。
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