姓は「矢代」で固定
第二話 はじめてのお仕事
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***
斎藤side・続
他所で呼び止められている間に、山崎と矢代が戻っていたことを門番に教えてもらった。そうして再び山南さんの所へ向かおうとしたところで、丁度報告が済んだらしい二人に廊下で出くわした。
山崎に支えられる彼の顔色は優れないものの、斎藤はそのヘラリと笑う明るい顔にホッとする。
「―っただいま戻りました」
「…無事で」
俺を見つけた時、わずかに言葉に詰まった事には気付かないふりをした。
「アハハ、なんとか。お陰様で死なずに済んだみたいです。これから熱出てきたら、ちょっとヤバいっぽいんですけど」
「傷自体の全治は、二十日というところですね。今から数針縫います」
「…任務に関しては、何か指示があったのか」
「あ、はい。土方さんが居ないので、それまで過失ってことで、とりあえず三日間謹慎処分になりました。その後のことは土方さんも交えて、また決め直すそうです」
「…大人しくしていろ」
「やだなあ、そうしてますよー。だって痛いもん」
当然と言いたげにパタパタと手を振る矢代だったが、山崎にも「そうしてくれ」と言われて、「信用無いなぁ」と笑っていた。
二人は処置道具がある監察部屋に行く途中らしく、斎藤は山崎の反対側に付いて歩く。
何故、矢代が監察まがいのことをしているのか……先ほどの山南さんの話からも理解はしていたが、よく山崎が受け入れたものだと思っていた。それを山崎に問う。
「これに向いていないとは思わなかったのか」
「……思いましたよ、思いましたけどね、この方が『監察?いいですよ』と、ものすごく気軽に引き受けたんです。全く考え無しだとは思いませんでしたけどね、もう少しは時間を置いてから応えると思ってましたよ。
ですけど、そもそも以前、総長と副長には『向いてない』とお伝えしてあったんです。それをわざわざ、今更掘り返して言うってことは、そういうことじゃないですか」
「…そうだな。矢代が自ら引き受けたなら、俺達が口を出す領分ではない。指南役として、できる限りのことを教えるだけだ」
とても長い溜息を吐いた山崎に、深く頷きその姿勢を支持する。
山崎も自分の行動を思い返して、何度か浅く頷いていて、それから俺に問い返した。
「斎藤さんの所では、どんな様子だったんですか」
「竹光で何とかなる程度の相手ならば、実戦でも問題なかったが……注意散漫すぎて、まだ一人で任務を任せられる状態ではない。
集中力は無い事もないが、巡察中の目移りは群を抜いて酷かった。まさか潜伏操査など……これほどに間違った采配があるものかと、副長達も疲労が溜まっていらっしゃるのではないかと…」
「そうでしたか、やはり斎藤さんも指導には苦労を…」
「…さっきから、向いて無い、向いて無いって……やる気出した人に失礼とか思わないんですか、お二人さん」
「「事実だ」」
両側から言われて、矢代はぐうの音も出ないという顔になる。
辛うじて口を尖らせながら、「…私に対する愚痴を、私の前で言う必要ないじゃないですか…」と小声で反論していたが、左右の俺達は気にしてやらなかった。
それから、潜伏中の事を山崎の愚痴を交えながら聞いていたのだが、監察部屋の前で、ピタリと止まった彼らに合せて足を止める。すると、山崎は障子に手を掛ける前に、俺を見る。
「斎藤さんはここで…」
「…や、山崎さん、衝立あるし、別に…」
「いや、そういう訳には…」
「大丈夫ですから、腹ですし…!」
「お腹と言え…!」
ヒソヒソと話されるのだが、当然、真横にいれば聞こえるわけで
「了解した…俺は遠慮しよう。」
と、頷いたところ、山崎は安心したような顔になる。
一方で肝心の矢代が、「いえ、あの、まだ話も途中ですし」と申し訳なさそうに言うので、やはりおかしな状況が出来上がっていることに気付いた。
任務失敗に関しては、山崎の落ち込みを、矢代が慰めるという……どう考えても逆だと思われるが……奇妙な関係ができあがっていても、まあそれは気性の問題かと思っていた。
だが、何ゆえ山崎の方が、徹底して隠したがる…?
少なくとも、先ほどまでは山崎も矢代の行動を、不審に思っているのは明らかだった。
……
「…それは後でで構わぬ。それより、手当ならば水が必要だろう。持って来よう」
「あ、ありがとうございます」
一先ず踵を返した俺だったが、そそくさと部屋に入る二人に、どうにも違和感は拭えない。
そんなに酷い痕なのか…?
体幹にあるという火傷の傷。腕や脚には見当たらないのだが……折檻(せっかん)を受けていたのだろうか。あの髪色のせいか何かで。
それとも…敲(たた)き…か? (※刑罰の一種)
『生活がひっくり返されたことがある』と話し、過去を隠すことを認めると、ほっとした表情になった彼。
可能性としては、どちらもあり得ることだった。
…詮索不要、か…
それに関しては山崎が把握しているようであるし、行動自体は不審であろうと、『矢代弥月』の存在を疑う必要はないのだろう。
そう自分を納得させながらも、どこか寂しさを感じながら、斎藤は桶に入れた水を運んだ。
桶を部屋に入れた後は、そこを去ろうと思ったのだが…
「い゛――――――――――――――っ!! 痛いっ!痛い!沁みる! 死ぬ! 死ぬから!! 死ぬとき、死ねば、死のう!!」
「…割と、余裕ですね」
「――っぎゃあああぁぁぁ!!! 死ぬわ馬鹿ああぁぁぁ!!!」
ドタンバタンと暴れる音がする。悶えているのか、畳を激しく叩く音が何度もして。
あまりの騒がしさのため、幹部どころか平隊士まで何事かと覗きに来る始末で、俺はそれを追い払うことに徹することになる。
「い゛い゛ぃぃぃ―――だだだっだっだっ!!だっだ!! 烝さん、痛いから!痛いから!ぬ゛あ゛ああぁぁだいっ!!!」
「はいはい」
「ぐぎぃぅぅううう!! おにぃ、烝さんの鬼っ!! 鬼の子分は鬼っ!!――ぅああ゛っでだだだだだ!!!」
「…はいはい、少し大人しくしなさい」
声が止んだ。
ただ、畳をバシバシと叩く音だけがしていた。
何が起こったのかと、尋常ではないくらいに気にはなったが、俺は覗こうとする輩を追い払う役目だと、自分に言い聞かせていた。
斎藤side・続
他所で呼び止められている間に、山崎と矢代が戻っていたことを門番に教えてもらった。そうして再び山南さんの所へ向かおうとしたところで、丁度報告が済んだらしい二人に廊下で出くわした。
山崎に支えられる彼の顔色は優れないものの、斎藤はそのヘラリと笑う明るい顔にホッとする。
「―っただいま戻りました」
「…無事で」
俺を見つけた時、わずかに言葉に詰まった事には気付かないふりをした。
「アハハ、なんとか。お陰様で死なずに済んだみたいです。これから熱出てきたら、ちょっとヤバいっぽいんですけど」
「傷自体の全治は、二十日というところですね。今から数針縫います」
「…任務に関しては、何か指示があったのか」
「あ、はい。土方さんが居ないので、それまで過失ってことで、とりあえず三日間謹慎処分になりました。その後のことは土方さんも交えて、また決め直すそうです」
「…大人しくしていろ」
「やだなあ、そうしてますよー。だって痛いもん」
当然と言いたげにパタパタと手を振る矢代だったが、山崎にも「そうしてくれ」と言われて、「信用無いなぁ」と笑っていた。
二人は処置道具がある監察部屋に行く途中らしく、斎藤は山崎の反対側に付いて歩く。
何故、矢代が監察まがいのことをしているのか……先ほどの山南さんの話からも理解はしていたが、よく山崎が受け入れたものだと思っていた。それを山崎に問う。
「これに向いていないとは思わなかったのか」
「……思いましたよ、思いましたけどね、この方が『監察?いいですよ』と、ものすごく気軽に引き受けたんです。全く考え無しだとは思いませんでしたけどね、もう少しは時間を置いてから応えると思ってましたよ。
ですけど、そもそも以前、総長と副長には『向いてない』とお伝えしてあったんです。それをわざわざ、今更掘り返して言うってことは、そういうことじゃないですか」
「…そうだな。矢代が自ら引き受けたなら、俺達が口を出す領分ではない。指南役として、できる限りのことを教えるだけだ」
とても長い溜息を吐いた山崎に、深く頷きその姿勢を支持する。
山崎も自分の行動を思い返して、何度か浅く頷いていて、それから俺に問い返した。
「斎藤さんの所では、どんな様子だったんですか」
「竹光で何とかなる程度の相手ならば、実戦でも問題なかったが……注意散漫すぎて、まだ一人で任務を任せられる状態ではない。
集中力は無い事もないが、巡察中の目移りは群を抜いて酷かった。まさか潜伏操査など……これほどに間違った采配があるものかと、副長達も疲労が溜まっていらっしゃるのではないかと…」
「そうでしたか、やはり斎藤さんも指導には苦労を…」
「…さっきから、向いて無い、向いて無いって……やる気出した人に失礼とか思わないんですか、お二人さん」
「「事実だ」」
両側から言われて、矢代はぐうの音も出ないという顔になる。
辛うじて口を尖らせながら、「…私に対する愚痴を、私の前で言う必要ないじゃないですか…」と小声で反論していたが、左右の俺達は気にしてやらなかった。
それから、潜伏中の事を山崎の愚痴を交えながら聞いていたのだが、監察部屋の前で、ピタリと止まった彼らに合せて足を止める。すると、山崎は障子に手を掛ける前に、俺を見る。
「斎藤さんはここで…」
「…や、山崎さん、衝立あるし、別に…」
「いや、そういう訳には…」
「大丈夫ですから、腹ですし…!」
「お腹と言え…!」
ヒソヒソと話されるのだが、当然、真横にいれば聞こえるわけで
「了解した…俺は遠慮しよう。」
と、頷いたところ、山崎は安心したような顔になる。
一方で肝心の矢代が、「いえ、あの、まだ話も途中ですし」と申し訳なさそうに言うので、やはりおかしな状況が出来上がっていることに気付いた。
任務失敗に関しては、山崎の落ち込みを、矢代が慰めるという……どう考えても逆だと思われるが……奇妙な関係ができあがっていても、まあそれは気性の問題かと思っていた。
だが、何ゆえ山崎の方が、徹底して隠したがる…?
少なくとも、先ほどまでは山崎も矢代の行動を、不審に思っているのは明らかだった。
……
「…それは後でで構わぬ。それより、手当ならば水が必要だろう。持って来よう」
「あ、ありがとうございます」
一先ず踵を返した俺だったが、そそくさと部屋に入る二人に、どうにも違和感は拭えない。
そんなに酷い痕なのか…?
体幹にあるという火傷の傷。腕や脚には見当たらないのだが……折檻(せっかん)を受けていたのだろうか。あの髪色のせいか何かで。
それとも…敲(たた)き…か? (※刑罰の一種)
『生活がひっくり返されたことがある』と話し、過去を隠すことを認めると、ほっとした表情になった彼。
可能性としては、どちらもあり得ることだった。
…詮索不要、か…
それに関しては山崎が把握しているようであるし、行動自体は不審であろうと、『矢代弥月』の存在を疑う必要はないのだろう。
そう自分を納得させながらも、どこか寂しさを感じながら、斎藤は桶に入れた水を運んだ。
桶を部屋に入れた後は、そこを去ろうと思ったのだが…
「い゛――――――――――――――っ!! 痛いっ!痛い!沁みる! 死ぬ! 死ぬから!! 死ぬとき、死ねば、死のう!!」
「…割と、余裕ですね」
「――っぎゃあああぁぁぁ!!! 死ぬわ馬鹿ああぁぁぁ!!!」
ドタンバタンと暴れる音がする。悶えているのか、畳を激しく叩く音が何度もして。
あまりの騒がしさのため、幹部どころか平隊士まで何事かと覗きに来る始末で、俺はそれを追い払うことに徹することになる。
「い゛い゛ぃぃぃ―――だだだっだっだっ!!だっだ!! 烝さん、痛いから!痛いから!ぬ゛あ゛ああぁぁだいっ!!!」
「はいはい」
「ぐぎぃぅぅううう!! おにぃ、烝さんの鬼っ!! 鬼の子分は鬼っ!!――ぅああ゛っでだだだだだ!!!」
「…はいはい、少し大人しくしなさい」
声が止んだ。
ただ、畳をバシバシと叩く音だけがしていた。
何が起こったのかと、尋常ではないくらいに気にはなったが、俺は覗こうとする輩を追い払う役目だと、自分に言い聞かせていた。