姓は「矢代」で固定
第二話 はじめてのお仕事
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***
「そうですか、それは残念です。山崎君の今回の任務失敗および過失については、科料か処分か、土方君と相談することにしましょう。
それで、矢代君の怪我は如何ほど?」
「はい。短筒で一発、右脇腹を負傷。圧迫により止血済みですが、この後縫合はした方が良いかと。
臓器に欠損はないと思われますが、一部抉(えぐ)られているため、全治二十日いったところでしょうか」
「分かりました。では、矢代君。」
「…はい」
「君に三日間の謹慎処分を命じます。それまでには土方君が帰ってくるでしょう」
それに弥月は返事をし、重く頷く。
とりあえず土方さんが帰るまでの猶予が与えられた。とはいえ、監禁されるだろうが。
…逃げる隙あるかな。謹慎どこでするんだろう……裏の蔵だったら、そのまま一生出れなそうで嫌だなぁ…
あそこが拷問部屋なことは周知の事実。幹部以外出入り禁止だ。
そこから聞こえた叫び声を聞き知っていた時は、弥月も他人事とは思えず震えあがった。
「五日後から斉藤君の組の隊務に復帰なさい」
あの蔵、時々変な音す…
…ん……?
「……はい?」
「五日後では不満ですか? ならば謹慎は二日で、三日後から隊務にし」
「ちょ、え!? そうじゃなくってですね!!」
あわあわと手を広げて振ると、山南さんはニッコリと笑みを深くして言った。
「斉藤君の組が嫌ですか? ならば、沖田君の組なんかどうでしょう?」
「――っ!!?」
何をすっとぼけてますの!? しかも何気に配置、酷い方に変えましたよね! え、なんで今度は放置プレイ!?
そのいつもより凄みのある笑顔に恐怖を感じつつ、どう返事をするべきかに頭を働かせる。
正直な所、山南さんが怒っているのか、怒っていないのかすら分からない。瞠目している私を、目を細めて見ているだけの、彼の意図が全く掴めない。
横にいる山崎さんだって困惑した顔で、山南さんと私に視線を往復させるだけで。
弥月はごくりと唾を飲み込む。
この前の“脱走騒ぎ”の時は、みんなに庇ってもらい、私は何もしなくても言われたとおりに動けば良かった。
だけど、今の山南さんは、私が与えられた選択肢を使ってどう動くのかを試している……のだと思う。その選択肢も、導くべき答えもハッキリとは分からないのだけれど。
選択肢が欲しいと言ったのは自分だ
自分で考えろ
自分で決めろ
上っ面な言葉じゃなくて、どう考えたとか、どう思っているかとかを話せば、みんな私の声に耳を傾けてくれる。
関わろうとしないのは、私だけ
最初から彼らは、私がこの世界にいることを認めてくれている。
弥月は腹を決めた。
何が何だか分からないが……分からないからこそ、これしか手がない。
すぅっと、息を大きく吸った。張った横腹が痛いが、両腕を広げて大きく掲げる。
バンッ
「ごめんなさい! 気付かない方が悪いなんて、ちょっとでも思ったのが烏滸がましい極みでございました!!
騙していた私が悪ぅございます!!このどうしようもない、救いようのない小人めが監禁された結果、閑居して不善をなしてしまったんです。平身低頭、心から謝罪させていただきます、大っっっ変申し訳ございませんでした!!
だから後が怖いから放置しないでください!!もはや今すぐ詰(なじ)ってくださいいぃぃ!!!」
頭をこすり付けるどころか、腕からでこから畳に音を立てて打ち付けた。謝罪はディープインパクト。
その打ち鳴らされた大きな音に、弥月を見ていた二人は眉を顰めたのだが。それが本人に見えるはずもなく、彼女は平伏し続けた。
最近、高まりつつある謝罪の能力。
与えられた選択肢を使えなくたって、問題を交わしていけるかどうかは、私の力量次第。
一瞬、『答えを与えられると思うな』という空耳が聞こえたが、今考えた結果がこれだ。もっと精進します、すいません。
山南はそのまま固まったように動かない弥月を見ながら、丸眼鏡を指で押し上げる。その切れ長の目が笑っていないことを山崎だけが見ていた。
「…鶏鳴狗盗(けいめいくとう)という言葉があります。人を欺いたり物を盗んだりする卑しいもののことです」
やっほい、お説教のお時間
心に染み入る山南さんのお声。毛の生えた心臓のはずが、痛い。
はい、すみません。卑しい人間なんです。がちでお恥ずかしい出自ですみません。自分では直ったつもりなんですけど、盛大に発揮しちゃっててすみません。
やっぱ三ツ子の魂は百までっすね。いやー…昔の人は偉かった…
「また、そのような者でも何かの役には立つということです」
…
……?
「……ん?」
えっと、話が見えないのは私だけ…?
すっごい卑しい者って言われて、嘘吐きは泥棒の始まりだからって反省しろよって言われてて…そういや泥棒って、ほぼほぼ打ち首だっけ…
…じゃなくって……馬鹿と鋏は使いようって話か? え、なに、どういうこと?
「今後も君のその才を役に立ててもらいたいと思うのですが、いかがでしょうか?」
「…総長…それは……っ?」
額を畳にこすり付けたまま首を傾げた弥月。その驚きと疑問を代弁したのは、彼女の横に坐している山崎で。
「敵を欺くには、まず味方からと言いますからね。
…そうですね、そうしたら山崎君にも黙っていて貰うしかないのですが…」
山南は「いかがでしょうか?」と、今度は山崎に微笑みかけた。
「………それはこの三人以外誰にも、ということでしょうか」
「あぁ、君は面白いことを思いつきますね。それでは君の提案を採用しましょう」
「なっ…!」
「これで皆を謀ろうとした私達二人は連帯責任ですね?
さて、矢代君。賢い君はこの提案、如何様に思いますか?」
「是非参加します」
「良い返事ですね」
思わず勢いで乗っかったが、悪い話では無い。
その意図や如何にとも思うが、ハッキリと彼は私を『まだ使える』と言ったのだ。
しかも『男として』使う気なのだから、今までと待遇は変わらないと考えて良いのではないか。今、彼に下手に逆らうより、安全に逃げる機会を窺った方が良いだろう。
今後、逃走するにしても『女』として隠れる効果は、ほぼ無くなったが、髪を染めることで容易に目立たなくなるという手段を得たのは収穫だ。
「勿論、これは総長命令の『極秘任務』となります。局長の命があった場合には開示しますが、それ以外の命は認められません。宜しいですね」
「了解です!」
ピッと元気よく敬礼した弥月は、先ほどまでの沈鬱な面持ちなど微塵も感じられないほどに、晴れ晴れとした表情をしていた。
そして悪戯を企てた子どものように、にやりと二人は笑う。
あぁ、どうしてこうなるのか、本気だろうか、え、あなた方本気ですか……と思っただけの山崎の思いが、彼らに汲み取られることはなかった。
「そうですか、それは残念です。山崎君の今回の任務失敗および過失については、科料か処分か、土方君と相談することにしましょう。
それで、矢代君の怪我は如何ほど?」
「はい。短筒で一発、右脇腹を負傷。圧迫により止血済みですが、この後縫合はした方が良いかと。
臓器に欠損はないと思われますが、一部抉(えぐ)られているため、全治二十日いったところでしょうか」
「分かりました。では、矢代君。」
「…はい」
「君に三日間の謹慎処分を命じます。それまでには土方君が帰ってくるでしょう」
それに弥月は返事をし、重く頷く。
とりあえず土方さんが帰るまでの猶予が与えられた。とはいえ、監禁されるだろうが。
…逃げる隙あるかな。謹慎どこでするんだろう……裏の蔵だったら、そのまま一生出れなそうで嫌だなぁ…
あそこが拷問部屋なことは周知の事実。幹部以外出入り禁止だ。
そこから聞こえた叫び声を聞き知っていた時は、弥月も他人事とは思えず震えあがった。
「五日後から斉藤君の組の隊務に復帰なさい」
あの蔵、時々変な音す…
…ん……?
「……はい?」
「五日後では不満ですか? ならば謹慎は二日で、三日後から隊務にし」
「ちょ、え!? そうじゃなくってですね!!」
あわあわと手を広げて振ると、山南さんはニッコリと笑みを深くして言った。
「斉藤君の組が嫌ですか? ならば、沖田君の組なんかどうでしょう?」
「――っ!!?」
何をすっとぼけてますの!? しかも何気に配置、酷い方に変えましたよね! え、なんで今度は放置プレイ!?
そのいつもより凄みのある笑顔に恐怖を感じつつ、どう返事をするべきかに頭を働かせる。
正直な所、山南さんが怒っているのか、怒っていないのかすら分からない。瞠目している私を、目を細めて見ているだけの、彼の意図が全く掴めない。
横にいる山崎さんだって困惑した顔で、山南さんと私に視線を往復させるだけで。
弥月はごくりと唾を飲み込む。
この前の“脱走騒ぎ”の時は、みんなに庇ってもらい、私は何もしなくても言われたとおりに動けば良かった。
だけど、今の山南さんは、私が与えられた選択肢を使ってどう動くのかを試している……のだと思う。その選択肢も、導くべき答えもハッキリとは分からないのだけれど。
選択肢が欲しいと言ったのは自分だ
自分で考えろ
自分で決めろ
上っ面な言葉じゃなくて、どう考えたとか、どう思っているかとかを話せば、みんな私の声に耳を傾けてくれる。
関わろうとしないのは、私だけ
最初から彼らは、私がこの世界にいることを認めてくれている。
弥月は腹を決めた。
何が何だか分からないが……分からないからこそ、これしか手がない。
すぅっと、息を大きく吸った。張った横腹が痛いが、両腕を広げて大きく掲げる。
バンッ
「ごめんなさい! 気付かない方が悪いなんて、ちょっとでも思ったのが烏滸がましい極みでございました!!
騙していた私が悪ぅございます!!このどうしようもない、救いようのない小人めが監禁された結果、閑居して不善をなしてしまったんです。平身低頭、心から謝罪させていただきます、大っっっ変申し訳ございませんでした!!
だから後が怖いから放置しないでください!!もはや今すぐ詰(なじ)ってくださいいぃぃ!!!」
頭をこすり付けるどころか、腕からでこから畳に音を立てて打ち付けた。謝罪はディープインパクト。
その打ち鳴らされた大きな音に、弥月を見ていた二人は眉を顰めたのだが。それが本人に見えるはずもなく、彼女は平伏し続けた。
最近、高まりつつある謝罪の能力。
与えられた選択肢を使えなくたって、問題を交わしていけるかどうかは、私の力量次第。
一瞬、『答えを与えられると思うな』という空耳が聞こえたが、今考えた結果がこれだ。もっと精進します、すいません。
山南はそのまま固まったように動かない弥月を見ながら、丸眼鏡を指で押し上げる。その切れ長の目が笑っていないことを山崎だけが見ていた。
「…鶏鳴狗盗(けいめいくとう)という言葉があります。人を欺いたり物を盗んだりする卑しいもののことです」
やっほい、お説教のお時間
心に染み入る山南さんのお声。毛の生えた心臓のはずが、痛い。
はい、すみません。卑しい人間なんです。がちでお恥ずかしい出自ですみません。自分では直ったつもりなんですけど、盛大に発揮しちゃっててすみません。
やっぱ三ツ子の魂は百までっすね。いやー…昔の人は偉かった…
「また、そのような者でも何かの役には立つということです」
…
……?
「……ん?」
えっと、話が見えないのは私だけ…?
すっごい卑しい者って言われて、嘘吐きは泥棒の始まりだからって反省しろよって言われてて…そういや泥棒って、ほぼほぼ打ち首だっけ…
…じゃなくって……馬鹿と鋏は使いようって話か? え、なに、どういうこと?
「今後も君のその才を役に立ててもらいたいと思うのですが、いかがでしょうか?」
「…総長…それは……っ?」
額を畳にこすり付けたまま首を傾げた弥月。その驚きと疑問を代弁したのは、彼女の横に坐している山崎で。
「敵を欺くには、まず味方からと言いますからね。
…そうですね、そうしたら山崎君にも黙っていて貰うしかないのですが…」
山南は「いかがでしょうか?」と、今度は山崎に微笑みかけた。
「………それはこの三人以外誰にも、ということでしょうか」
「あぁ、君は面白いことを思いつきますね。それでは君の提案を採用しましょう」
「なっ…!」
「これで皆を謀ろうとした私達二人は連帯責任ですね?
さて、矢代君。賢い君はこの提案、如何様に思いますか?」
「是非参加します」
「良い返事ですね」
思わず勢いで乗っかったが、悪い話では無い。
その意図や如何にとも思うが、ハッキリと彼は私を『まだ使える』と言ったのだ。
しかも『男として』使う気なのだから、今までと待遇は変わらないと考えて良いのではないか。今、彼に下手に逆らうより、安全に逃げる機会を窺った方が良いだろう。
今後、逃走するにしても『女』として隠れる効果は、ほぼ無くなったが、髪を染めることで容易に目立たなくなるという手段を得たのは収穫だ。
「勿論、これは総長命令の『極秘任務』となります。局長の命があった場合には開示しますが、それ以外の命は認められません。宜しいですね」
「了解です!」
ピッと元気よく敬礼した弥月は、先ほどまでの沈鬱な面持ちなど微塵も感じられないほどに、晴れ晴れとした表情をしていた。
そして悪戯を企てた子どものように、にやりと二人は笑う。
あぁ、どうしてこうなるのか、本気だろうか、え、あなた方本気ですか……と思っただけの山崎の思いが、彼らに汲み取られることはなかった。